スイートホームダイアリー

ゆりすみれ

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38【双子Diary】報告会

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 双子の兄はベッドにうつ伏せになってサッカー雑誌をぱらぱらとめくり、双子の弟は片割れのデスクの前に座って兄の課題テキストの進捗を適当に確認している。夕食のあと、双子は特に約束をしたわけでもないのに、なんとなく海斗の部屋に集合した。母親の腹の中からずっと二人一緒だったのだ、他人にはわからないようなところでやはり通じ合っている。

 部活バカの海斗がちゃんと勉強をしているのか気になってチェックしていた眞空は、兄のテキストがとても綺麗なまま保存されている事実を目の当たりにして、その予想を裏切らないサボり具合に静かに肩を落とした。一応受験生なんだからさ……と、軽く説教でもしてやろうかと思ったが、今夜はそんな話をしに来たわけじゃないとぐっと飲み込む。

「ねぇ海斗」
「眞空には言っとくけど……」

 それまで何もしゃべっていなかったのに、話を切り出すタイミングだけが綺麗に重なった。双子は顔を見合わせて笑い、じゃあアレやるかと互いに目配せする。

「せーの」
「せーの」

「おれ、冬夜と両想いになったから!」
「オレ、亜楼と絶交中だから」

 眞空の言葉を聞いた瞬間、海斗はうつ伏せの体勢から器用にがばっと飛び起きた。一気に興奮してしまったようで、好奇に任せた質問を眞空に容赦なく浴びせる。

「まじで! やったじゃねぇか! 何? とうとうコクったの!? いつ! どうやって! なんて言ったの!」

「ちょ……、そんなに一気に訊かれても答えらんないって」

 照れ隠しに苦笑しながらもまんざらではなさそうな眞空を確認して、海斗は兄として弟の成功を感慨深く喜んだ。あの気弱でいつも他人を優先するようなお人好しの弟が自分の力で恋を実らせたのだ、こんなにめでたいことはない。

「そっかー、よかったな! つーかおまえらなんてどうせ最初っから両想いだったんだろ? 少なくとも冬夜はこの家の敷居またいだときから、おまえのことしか見てなかったぞ」

「そうなの!?」

「気づいてなかったのかよ……鈍感」

「冬夜にも言われたよ、鈍いって」

 まさか海斗にも指摘されるとは思わず、眞空がまた苦笑する。

「時間掛かったけどさ……ちゃんと冬夜に気持ち伝えられてよかった。おれにもこういうことできるんだって、正直自分でも驚いた」

「眞空がそうやって自分に自信持って動けたの、すげぇうれしいし、誇らしいって思う。……ほんと、よかったな」

 学校の階段で、二人してどうしようもないなと弱った少し前の昼休みを思い出し、海斗が心を揺らした。眞空がうまくいったのは心の底からうれしいが、未だどうしようもない気持ちの渦の中から抜け出せていない自分が、情けなくて、少し苦しい。

「っていうか、今亜楼と絶交中って言った? なんなの、それ。どういうこと?」

「そ、絶交してる。……一方的にだけど」

 あっさりとそう告げる海斗は、それでも後ろめたい気持ちがあるのか、視線を眞空から手元の雑誌に戻した。

「何? 開き直り? ついこの間はあんなに泣きじゃくってたくせに……ねぇなんでそうなるの?」

「だから! ……好き、って、言われたから……」

 海斗の口唇がもごもごと、その単語を口にするのも申し訳ないとでもいうように弱気に動く。

「それ理由なの? 好きって言われたなら両想いで、めでたしめでたしなんじゃないの?」

「バカ。あれはぜってぇ魔がさした的なことだ。次に亜楼とまともにしゃべったらぜってぇ訂正される。だから家の中でもだいたい無視してるし、もう夜にあいつの部屋に行くのもやめた」

「屁理屈っぽいよ、それ……。亜楼が可哀想」

「考えてもみろ……魔がさしてうっかり口滑らしただけってわかってるけど、ガチで訂正された日にはまじでヘコむだろ……それされたら、さすがのオレでも立ち直れる気しねぇからさ」

「……」

「……心のどっかで、期待してるオレがいるんだ」

 海斗はまだ雑誌から顔を上げられずに、覇気のない声で続ける。

「まちがいじゃなかったら、いいなって……。そんなこと、あるわけ、ねぇのに……」

 自分で言っていて哀しくなってしまったのか、海斗の言葉が詰まり始めた。まだあの人を兄の心から追い出せていないのに、追い出せたところで好きになってもらえる保証なんてないのに、そんなことあるわけない。

「それで、いつまで絶交するの? この先一生亜楼と口利かないつもり?」

「それは……」

 いつになく卑屈になっている海斗を、眞空は少しきつめの視線で見た。言い方も思わず強くなる。

「どうして魔がさしたって決めつけんの? 亜楼の本心だったかもしれないじゃん」

「本心なわけねぇんだよ……だって、あいつは……」

 好きな人、いるから。

 なんでも話せる片割れにも、惨めすぎて海斗は言えなかった。そのことを考えると、喉の奥の方が詰まる感じがして、ただ息が苦しい。

「あいつは……、何?」

「なんでもない。……そのうち普通に話すからいいよ。……でも今は、亜楼と話したくない」

 頑なな海斗に負けて、眞空も口調を元に戻した。

「でもさ、ちゃんと話さないと、本当のこと一生わかんないまま終わっちゃうよ」

 ちゃんと口に出さないと。あのときバスルームで想いを口に出せていなかったらいつまでも冬夜とわかり合えなかったかもしれないと思うと、海斗の背中を押す言葉にも自然と熱がこもる。少しの勇気が世界を変えることは本当にあるのだと身をもって知った眞空は、兄たちにすれ違いをしてほしくなくて、お節介でも海斗を説得したくなる。

「絶交なんてネガティブなこと、海斗らしくないんじゃない? そういうのって長引けば長引くほど、元に戻りづらくなるしさ」

「……」

 元に戻る、か。戻る先が、海斗にはもうよくわからなかった。好きと言われたことを訂正されて、兄弟に戻るのだろうか。こんなにも募らせてしまった想いを抱えたまま、何に戻るのだろうか。

「ほら、亜楼ってあぁ見えて構ってほしがりなとこもあるし、今頃淋しがってるかもよ?」

 眞空の精一杯のやさしさが、海斗には今は少し痛い。

「……んなわけねぇよ。うるさいのが来なくなって、今頃清々してんだろ」

 兄に散々迷惑を掛けていた自覚はさすがにあって、海斗が小さくつぶやいた。今まで突っ走り過ぎた。そういう性格だからと自分を納得させてきたが、いよいよ迷いが出る。

「オレ、ちょっと頭冷やすから……」

 少しだけ弱音を吐いたあと、海斗は鬱々とした気持ちを振り払うように明るく顔を上げた。今は大事な片割れの勇気を盛大に褒めてやるときだ。

「はいオレの話は終わり! 眞空の話聞かせろよ。なぁ、どういう流れでそういう風になったわけ!?」

 幸せのお裾分けでもしてもらおうかと、海斗は眞空に笑いかけた。いつも通りに、見えるように。
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