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48【堂園家Diary】運命のチャイム
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そしてその数日後、眞空が言うところの『人生ってうまくいかねぇ』ような出来事が、兄二人も弟二人も収まるべきところになんとか収まったばかりの平穏な堂園家を襲うことになる。
例の休日ルールに則って、今日も今日とて五人揃っての朝食を楽しんでいるときだった。今日は五人とも午前中は用事がないということでいつもよりずいぶんと遅めの団欒になり、ほとんど昼食にも近いその時間に、運命のチャイムはなんの前触れもなく突然鳴り響いた。
チャイムを聞いた息子四人はすかさずじゃんけんをし、誰が出るかを決める。これもまた恒例ルールのようなもので、堂園家の見慣れた光景だった。
じゃんけんで負けた冬夜は食べかけのトーストをコトリと皿に置くと、渋々リビングの隅にあるインターホンのモニターに向かった。
「……はい」
冬夜がモニター越しに返事をする。モニターには、知らない女性が映っていた。
「……あの、……と申します」
相手の声が小さいのか、聞き慣れない言葉だったからか、よく聞こえなかった。何かの営業だろうかと思い、冬夜はとりあえず玄関に向かう。
玄関の扉を開けて門の前を確認すると、そこには四十代くらいの女性が申し訳なさそうにひっそりと立っていた。肩につくくらいの軽やかなミディアムボブのその女性は、とろみのある薄いベージュのシャツにチョコレート色のロングスカート、小さめの白いショルダーバッグを肩に掛けている。ぱっと見ただけで、品の良さそうな綺麗な人だという印象を受ける。
女は玄関から少しだけ顔を出した冬夜を確認すると、突然顔色を変え、冬夜をじっと見つめた。冬夜も不思議そうに、面識のないその女性を見つめ返す。
「……と、う……や?」
「?」
「……冬夜、なの?」
「……? ……はい、冬夜ですけど」
すると女はふらついたからだで門に寄りかかり、そのあと顔を両手で覆ってわぁっと泣き崩れてしまった。往来を行く人の目も憚らずにその場にへたり込み、ぽろぽろと涙をこぼしている。
「ちょ、ちょっと、どうしたんですか……」
なんの脈絡もない唐突な涙に、冬夜は駆け寄ることもできずにその場で狼狽するしかない。ちょうどそこへ、新聞新聞と唱えながら堂園家の家長が陽気に玄関へとやって来た。
「ちょっと秀春さん! この人が突然……」
弱り果てた顔で冬夜が秀春に助けを求めると、
「……ひで、はる、さん……?」
と、冬夜が名を呼ぶのを聞いていた女がはっとして顔を上げ、今度は冬夜の隣に立ち尽くしている秀春に視線を預けた。能天気が取り柄の秀春も、さすがに何事かと女を見返す。女を視界に入れた秀春は、瞬時に顔色を変えた。
「……ゆか、ちゃん? ……由夏ちゃんなんだね!?」
普段おっとりとしている秀春が珍しく声を張り上げたかと思うと、慌てて女に駆け寄ってしゃがみ、泣き崩れている由夏と呼ばれた女性の肩を抱くように支える。
「ゆかちゃん……って、誰?」
聡い冬夜も今回ばかりはうまく事態が飲み込めず、ただおろおろと二人の様子を傍観するしかなかった。
例の休日ルールに則って、今日も今日とて五人揃っての朝食を楽しんでいるときだった。今日は五人とも午前中は用事がないということでいつもよりずいぶんと遅めの団欒になり、ほとんど昼食にも近いその時間に、運命のチャイムはなんの前触れもなく突然鳴り響いた。
チャイムを聞いた息子四人はすかさずじゃんけんをし、誰が出るかを決める。これもまた恒例ルールのようなもので、堂園家の見慣れた光景だった。
じゃんけんで負けた冬夜は食べかけのトーストをコトリと皿に置くと、渋々リビングの隅にあるインターホンのモニターに向かった。
「……はい」
冬夜がモニター越しに返事をする。モニターには、知らない女性が映っていた。
「……あの、……と申します」
相手の声が小さいのか、聞き慣れない言葉だったからか、よく聞こえなかった。何かの営業だろうかと思い、冬夜はとりあえず玄関に向かう。
玄関の扉を開けて門の前を確認すると、そこには四十代くらいの女性が申し訳なさそうにひっそりと立っていた。肩につくくらいの軽やかなミディアムボブのその女性は、とろみのある薄いベージュのシャツにチョコレート色のロングスカート、小さめの白いショルダーバッグを肩に掛けている。ぱっと見ただけで、品の良さそうな綺麗な人だという印象を受ける。
女は玄関から少しだけ顔を出した冬夜を確認すると、突然顔色を変え、冬夜をじっと見つめた。冬夜も不思議そうに、面識のないその女性を見つめ返す。
「……と、う……や?」
「?」
「……冬夜、なの?」
「……? ……はい、冬夜ですけど」
すると女はふらついたからだで門に寄りかかり、そのあと顔を両手で覆ってわぁっと泣き崩れてしまった。往来を行く人の目も憚らずにその場にへたり込み、ぽろぽろと涙をこぼしている。
「ちょ、ちょっと、どうしたんですか……」
なんの脈絡もない唐突な涙に、冬夜は駆け寄ることもできずにその場で狼狽するしかない。ちょうどそこへ、新聞新聞と唱えながら堂園家の家長が陽気に玄関へとやって来た。
「ちょっと秀春さん! この人が突然……」
弱り果てた顔で冬夜が秀春に助けを求めると、
「……ひで、はる、さん……?」
と、冬夜が名を呼ぶのを聞いていた女がはっとして顔を上げ、今度は冬夜の隣に立ち尽くしている秀春に視線を預けた。能天気が取り柄の秀春も、さすがに何事かと女を見返す。女を視界に入れた秀春は、瞬時に顔色を変えた。
「……ゆか、ちゃん? ……由夏ちゃんなんだね!?」
普段おっとりとしている秀春が珍しく声を張り上げたかと思うと、慌てて女に駆け寄ってしゃがみ、泣き崩れている由夏と呼ばれた女性の肩を抱くように支える。
「ゆかちゃん……って、誰?」
聡い冬夜も今回ばかりはうまく事態が飲み込めず、ただおろおろと二人の様子を傍観するしかなかった。
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