乙女ゲーの世界に落ちましたが、目の前には推しのご先祖様!?異世界チートで魔王を倒すはずが、いつの間にか恋に落ちていました。

高崎 恵

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どうやら異世界に落ちたようです。

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「ゆう! 待って!!」
「危ない!!」
「キャーーーー!!!!」
 キキーーッ ドン!!

「誰か救急車! 救急車を呼んでくれ!!」
「おい! 聞こえるか! 負けるな! 救急車呼んでるからな!!」
「大丈夫ですか! 大丈夫ですか! 声が聞こえてたら何か反応してください!!」
「出血が多すぎる……」

「ゆう! ゆう! 大丈夫!? ごめんなさいごめんなさい。助けてくれて……」

 あぁもう私は駄目なんだろう。頭がガンガンしどんどん意識が薄れていくのを感じる。あの男の子……ゆうくんって呼ばれてた子は助かったのかな。偶然にも私の推しと同じ名前だ……あの男の子をかばってトラックに吹っ飛ばされた私はもう助からないだろう。どうせ吹っ飛ばされるなら推しの世界に吹っ飛ばされたかったな。そんなどうでも良いことを思って私の意識は落ちた。


 ◇


 あれ? ここはどこだろう。私は死んだんじゃなかったっけ? 全身を打ったはずなのに軽い倦怠感はあるけどどこも痛くない。そう思いながら目を開けると、目の前には美形の青年がいた。髪は染めているのだろうか少しくすんだ赤色に、茶色の目。目鼻立ちもはっきりしている。歳はまだ10代だろうか。これからさらに成長しそうな、まだ大人になり切れていない、そんな雰囲気を感じる。

「あぁやっと目が覚めたか。具合はどうだ」

「……」

 この青年が助けてくれたのだろうか。まだ頭が上手く働かず状況が把握できない。

「おい、助けてくれた相手に口も聞けないのか?」

「……っ……」

 喋ろうとするのだが、声がかすれてうまく出すことが出来ない。

「あぁ、2週間何も飲んでいなかったからな。ほらこれを飲め。ただの水だから安心しろ」

 そう言うと青年はコップに水を注ぎ渡してくれる。ここがどこだかも目の前の彼が誰かも分からない中で、渡された水を飲んでも良いのか悩んだが、喉の渇きが耐えられなかった私は意を決して水を飲む。1口飲んだだけで、カラカラだった喉を潤してくれるのを感じる。

「あ……あ、あなたが……助けて……くれた、の……ですか?」

「あぁ、外に出たらお前が倒れていたんだ。迷惑だったが、放っておくのも後味が悪いから看病した」

「それは……すみま、せん。ありがとう、ございます」

 青年は美しい見た目とは反して口調は乱暴らしい。私がまだ回復しきれていないのが伝わったのか、彼はその時の様子を話してくれる。

 彼は1人で旅をしているそうなのだが、2週間前にテントから出たら私が倒れていたそうだ。その時の私に外傷はなかったが、服には血痕が付きかなり汚れているし、意識もなかった為仕方なしにテントまで運び入れ様子を見てくれていたそう。2週間何も食べずによく生きてこれたと思ったが、無事なのだからなんとかなったのだろう。

 それにしてもトラックに跳ねられたはずなのに無傷だし、都会の交差点にいたはずなのに何でこんなテントの近くにいたのだろう。それに彼の身なりもあまり見慣れない服を着ている。綿の茶色いシャツとズボンの上に緑のワンピースのようなものを上から着てベルトで締めている。綺麗な見た目とは裏腹に服装は簡素というか色々勿体ない。

「お前は落界人らくかいびとなのか?」

「落界人……?」

「他の世界から落ちてきた人間なのかということだ」

 彼は頭がおかしい人なのだろうか。話についていけない。

「まあ見た方が早いだろう」

 そう言うと彼は私を抱えて上げて歩き出す。

「ちょっと何をするのよ!! 離して!!」

 そう私が抗議しても彼はそのままテントをくぐり抜けて外に出る。

「ここは……いったいどういう事?? 夢……?」

 私の目の前には、広大な森と、空を見上げれば大きな鳥……いやあれはドラゴンと呼んでいいだろう生物が飛んでいる。森の中を駆け回っているのは、羽が付いた馬。

「ここは一体……」

「ここはアーレン王国だ」

 アーレン王国? どこかで聞いたことがある気がする。しかしそんな国名が存在しただろうか。

「お前はどこから来たんだ?」

「私は日本……」

「やはりお前は落界人なんだな。この世界に日本何て国はない」

 そういった彼の目が少し厳しくなる。

「落界人って何? この世界ってどういうこと?」

 そう私が問うと彼が説明してくれる。落界人とは異世界から落ちてきた人のことを言うのだそう。この世界では、神様に選ばれた落界人が数十年に1度落ちてくることがあるそうだ。

 その落界人に選ばれた者は、前の世界で一度死んだものの魂と体がそのままこの世界に落ちてくる。私の体が無傷だったのも、その落界人の特典らしい。こちらの世界に合わせて神様が体に少し調整をしてくれるのだそうで、その影響で私は2週間寝たきりだったが無事でいられたらしい。

「待って急にそんな話をされても信じられない」

「信じようが信じまいが俺らにとってお前が落界人であることは変わらない。落界人を見つけた場合は王宮に報告する義務があるから報告させてもらった。ここは王城から離れていて鑑定士がくるまで1か月近くかかるから、その間は俺が面倒を見る。お前に選択肢はない」

「鑑定士って……?」

「お前がこの国にとって有益かどうか見極めるんだ。有益だと判断されれば身の上の保証をしてもらえるが、悪影響を及ぼすと判断されれば牢獄に投獄され強制労働が待っている」

「そんな……。そんなのひどすぎるよ」

 私はこの世界に来て何もしていないのに、なぜそんな目に合わなきゃいけないのか。

「とにかくそういうことだ。俺もまだお前のことを信用していないからな」

 そういうと彼はテントの中に戻ってしまうので、慌てて後を追いかける。先ほどは混乱して中をよく見ることは出来なかったが、このテントはおそらく1人用なのだろう、かなり狭い。テントの端に荷物が雑におかれており、真ん中に寝袋のようなものが置かれていて私はそこに寝かされていた。その横にタオルのような物を何枚か敷いてあり、彼はそっちで寝ていたのだろうか。

「ほら、やる。何か腹に入れておけ」

 そういうと彼は荷物の中からカンパンのような物をくれる。私はそれを受け取りどうしていいか分からず立ってると、腕をひかれて寝袋の上に座らせられ、その隣に彼は座る。

「そんなところに立たれていても邪魔だ。座れ」

「ごめんなさい……」

「カンパンは食べたことあるか? 水に浸せば食べやすくなる」

「ありがとう」

 そうお礼を言い、私は先ほどもらったコップに再度水を注いでもらいカンパンを浸して食べる。それでもかなり歯ごたえが残っており、この世界で初めて食べた食事は味気なかった。私が食べ終えたことを確認すると、彼は立てかけてあった剣を手に取った為、私は慌てて彼から距離を取る。そんな私を見て彼は馬鹿にしたように笑う。

「そんなに怯えるなよ。さっき食べ物を渡した奴をいきなり殺すわけないだろう、それなら最初から殺している」

「だったら何でいきなり剣なんか取るのよ」

「別に俺は俺の生活をするだけだ。お前に関係ないだろう」

 そう言って彼は外に出てしまうので、私はテントから顔だけ出し彼が何をするのか覗く。彼はテントから少し離れたところに立つと、その場で素振りを始める。ただ鍛えていただけなようで私は一安心する。とにかく今は状況を整理しようと思い、先ほどの寝袋の上にもう一度座らせて頂く。


 まずは自分のことよね。私は山本由莉ゆり29歳。日本の東京に住み会社員として勤めていた。うん、日本にいた時の記憶はちゃんと残っている。確か車道に飛び出した男の子をかばってトラックに轢かれたんだ。あの男の子は助かったのだろうかと気になるが、今となっては知るすべはないのだろう。

 自分の体を確認するが、轢かれたのが嘘のように体に傷ひとつない。骨の1,2本折れていてもおかしくなさそうなのだが……本当に神様に選ばれてこの世界に落ちたというのか。体のことはともかく、服に関しては最後に着ていたものと違う。

 私は白のブラウスにグレーのカーディガン、ブラウンのスカートといういつもの勤務スタイルのはずだったが、今着ているのは少し大きめのシャツの上に彼が来ていたような緑のノースリーブのワンピースを着ており、ズボンは履いていない。……きっと彼が着替えさせてくれたのだろう。よく見るとテントの片隅に私が来ていたらしき服(血まみれ)が畳んである。

 うん、状況的にしかたなかったのだろう。見ず知らずの異性に着替えさせてもらったのは恥ずかしいが、もう29の私がそんなこと気にしても仕方ない。着替えさせてもらったことに感謝しよう……そう自分を納得させる。しかしこのワンピース膝上なのよね、やはりこの歳でこれは恥ずかしい。どうにかしてちゃんとした服を手に入れよう。

 それより今後のことよね。鑑定士が来て私が有益かどうかと判断すると言っていたけどそんなのどこで判断されるのだろう。前世の知識を披露してこの国に使えそうな技術の提供とか? 確かそういうのを知識チートと呼ぶんだったっけ。

 私は前の世界ではただの会社員。大学は一応出たが、なんとなく学生をしていただけで専門的な知識は何もない。この世界のこともよく分からないまま、有益な情報を提供できる気がしない。これはなんとかして彼にこの世界の情報を聞き出して、私の有益性を認めてもらう方法を考えなければ。

 そう決めた私はまずは彼に近づいて情報を得ることに決めた。きっと私を助けてくれ2週間も面倒を見てくれた彼は悪い人ではないと思う。そう思い私はテントを出るが……そこには誰もいなかった。

「ちょっ、ちょっとどこ行ったのよーー!!」
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