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すれ違う

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翌日に元の世界に戻ってくると、みゆちゃんに相談する。

「それでアーノルドさんとまだ気まずいままなの?」

「うん。あれからちゃんと話す機会もなくて」

「そんなのめいが話したいって言えばみんな動いてくれるでしょ。機会がないんじゃなくて、めいが逃げてるだけ」

 みゆちゃんの言う通りである。こういう風にはっきりと物事を言えるみゆちゃんが羨ましい。

「でも距離を置いて欲しいって言われちゃったし、私から無理に声を掛けられないよ……。いつまで待てば良いのかな」

 どんどん弱気になってしまう。このまま距離を置いたら彼の心もどんどん離れて行くんじゃないかと思う。

「みゆちゃんは不安になったりしないの?」

「不安ってどんな不安よ」

「ちゃんとあっちの世界に滞在出来るようになるかなとか、ライザーと結婚出来るかなとか」

「ならないわよ」

 さすがみゆちゃん、強い。最近はこっちの仕事が忙しく、もうひと月近くあっちの世界に行けていない。それなのに不安にならないなんて。そして今でもみゆちゃんは2日経つとこっちの世界に戻ってきてしまう。私がこっちの世界に戻って来れている間に魔法を完成させないと、みゆちゃんはあっちの世界に移ることが出来なくなるのだ。



「だって私はライザーのことを信じてるもん。そのライザーのことを信じてる私のことも」

「信じる……?」

「えぇ、ライザーなら私が向こうの世界にいれるように魔法を完成させるって信じてるの。そしてライザーを信じるって決めた私のことも」

「もしそれでもダメだったら……?」

「それでも私は後悔しない。彼が頑張ってダメだったのなら本当に無理だったのねって。きっと彼は今も寝る間も惜しんで私があちらに残れる為の魔法を研究しているわ。その彼を私が信じないで誰が信じてあげるの?」

「みゆちゃん……」

「めいはアーノルドさんのことを信じてるんじゃないの?」

「……分からないよ。今はアーノルドの気持ちが分からない」

「アーノルドさんはそんな軽い気持ちで思いを告げるような人?」

 そんなことない、彼はとても真面目で色々悩んだ上で告げてくれたはずだ。

「めいのこと、聖女であることを受け止めきれないような人なの?」

 そんなことも覚悟の上で告白してくれたとライザーが言っていた。私なんかよりも沢山色々なことを分かっていて、それら全てを覚悟していたはずだ。私は首を横に振る。

「だったらあなたもアーノルドのことを信じなさい」

 アーノルドを信じるか……。確かに私は自分のことばっかりで相手のことを信じていなかったのかな。もっとアーノルドの立場、気持ちを考えていたら状況は変わったのかも知れない。


 ◇


 もう距離を置こう発言から2週間が経つ。みゆちゃんと話してからちゃんとアーノルドと話をしようとするのだが、なかなか上手く行かない。

「アーノルド、ちょっと時間あるかな?」

「すみません、これから今後の打ち合わせがあるので」

「じゃあ夜にでも……」

「夜も予定が入ってて、出なければならないので」

 話しかけようとしても、そうやって断られて彼からも避けられているように感じるのだ。


 今回の浄化は、小さな溜池の浄化だったので1日で終わる。その後すぐに移動するかと思ったのだが、何かこの町で調査することがあると言ってそのまま同じ町に滞在しいる。
 アーノルドと過ごす時間は取れないかと思ったが、本当に忙しそうにしていて声を掛けれない。

「ねぇライザー、ライザーは今日空いてる?」

「悪い、少し緊急の調査をしていて今みんな忙しいんだ。今回は申し訳ないが宿で3日間過ごしてもらえるか? 何か必要なものがあれば用意させるから」

 ライザーにまでそう言われてしまい、私はここ2日間ずっと部屋で過ごしている。暇だったので、刺繍セットを用意して適当に刺していく。上手くできたらみゆちゃんやマーサにプレゼントしよう。しかし今日はもう滞在3日目だから、明日話さないとまた来週まで持ち越しになってしまう。その晩ベットに入りどうしようかと考えていたのだが、結局良い案も浮かばず眠れないので外の空気を吸おうと思い、鞄を手に取り部屋の外に出る。

 部屋の前にいた護衛番の人に少し外の空気を吸ってくるから1人にして欲しいと伝えると、彼も気を利かせてくれたのがお辞儀をして通してくれる。中庭に出ようと廊下を曲がると、誰かの話し声が聞こえ思わず立ち止まり壁から様子を伺う。



「それで、お前はいつまでメイから逃げているつもりなんだ」

「……」

 廊下で話していたのはアーノルドとライザーだった。聞いちゃいけないと頭の中で警報が鳴っているが、話が気になってしまい戻ることも出ていくことも出来ずにその場に佇んでしまう。

「まただんまりか」

「お前には俺たちのことは関係ないだろう」

「別にキスの1つや2つすれば良いじゃないか」

「……良くないんだ。メイは聖女だから普通のキスと違うんだ」

「何だそれ? このままじゃ前言った通り他の誰かに取られてしまうぞ。今はお前が婚約者に収まっているが、聖女様との結婚を狙っている奴なんてうじゃうじゃいるんだ。第2王子だって狙っているという噂だぞ。王子にメイを渡してもいいのか」

「……あぁ分かってるよ。でもその方がメイにとっても良いのかも知れないな。結局俺ではメイに相応しくなかったんだよ。俺ではメイの期待には応えられない」

 アーノルドがそう言った瞬間もう聞いていられなくてその場を離れる。あそこから離れたい一心でふらふらと宿の外に出て座り込んでしまう。

「っっ。アーノルド……」

 涙が止まらない。彼にフラれてしまった。私の世界は彼がいなきゃ成り立たないのに。彼が離れてしまったらまた生きる意味を見失ってしまう。どうすれば良いの? もう彼を信じることも出来なくなってしまうのだろうか。


 暫くその場から立ち上がることが出来なかった。どれくらい時間が経ったのだろう。涙も止まり落ち着いてきて、そろそろ部屋に戻ろうと立ち上がると、見知らぬ男が目の前にいた。黒い帽子に黒のマントをつけており、見るからに怪しい雰囲気を醸し出している。

「……女か」

「……っ!」


 やばい、逃げなきゃいけない。声を上げれば誰かが気づいてくれるはず。そう思うのに、恐怖で声が出てこない。

「ちょうど良い。1人壊してしまったから、追加で増やせば数も合うし良いだろう」

 男はそう言うと何か呪文のようなものを呟いた。しまった、宿に戻らなきゃと思った瞬間、私は気を失っていたのだ。
 また私はやってしまった。自分の浅はかな行動のせいでみんなに迷惑をかけて、本当に嫌になる。
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