運命のつがいと初恋

鈴本ちか

文字の大きさ
2 / 76
運命のつがいと初恋 第1章

しおりを挟む
 この世には男女、その先にα、β、Ωと計6種の性がある。
  男女はレアケースを除いて生後判断が多いが、第二の性と言われるα、β、Ωは大抵、中学卒業目前の検査で判明し、自分の性を知ることになる。第二性でも生後すぐ受けられる性別検査があることにはあるのだが、高額で、なおかつ結果に揺れが生じるので推奨されていない。
  αは人口の約二割で、支配者の性と呼ばれている。能力面、体格、体力面、すべての面で他種より優位にあり、一種のカリスマ性を擁している。
  βは人口の約七から八割。市民の性といわれ、男女ともに能力に突出したものはなく、一般的、普通といえばβの事を指している。
  Ωは人口の一割にも満たない希少種だ。Ωは男女ともに子を為せる性で体質によって二から三ヵ月に一度、発情期がやってくる。
 発情期が来たΩは、Ωフェロモンを発し周囲の人間を性的に誘惑する。主にαが標的となるがフェロモンが強ければ稀にβもその餌食となってしまう。Ωフェロモンは自制できるものではなく、そのため近代までΩは成長し発情期を迎えると結婚する道しかなかった。
 αがΩのうなじを噛めばΩ側の意思に関わらず番となり、番のいるΩは発情期のΩフェロモンが番にしか効かなくなるので結果的にΩは生きやすくなる。よってΩはαとの婚姻を勧められるが、良い面ばかりではない。一度番になるとΩからは解除できない。
 αからうなじを噛まれ、飽きて捨てられたり、そもそも遊びで噛まれ放置される、ことも実際多数起こっており、捨てられたり、αの元を逃げ出したΩは発情期を苛烈な苦しみに耐え過ごさなければならないという。
 肉体的苦痛もさることながら、発情期のあるΩは一般の企業やアルバイト等倦厭され、経済面の苦労も多大だった。そんなΩの行き着く先は性産業で、古くからΩは差別の対象となっていた。特に男性のΩは待遇が酷かったという。
 しかし今は違う。
 Ωの状況改善のため、Ω用発情抑制剤の開発が進み今では服用が義務化され一般職への勤務が可能だし、公にはαβΩ権利の平等が叫ばれ雇用の性差別はないとされている。
 そんな世の中になったから、Ωの陽向も大学を卒業後、就職できた。
 高校時代、進路に迷っていた時に家族から幼児教育はどうかと進められ、強い意思も特別な想いもなく学び始めた。しかし子供達と触れあう時間を過ごすほど、この道に進んで良かったと思う。
 しかし、明日からは無職。
 毎月の収入が無くなれば陽向の暮らしはそう遠くないうちに立ち行かなくなってしまうだろう。

「実家かぁ、帰りたくないんだよなぁ」

 ついこぼれた本音が、がらんとした教室にすぐ吸収された。仲が悪い訳ではないのだけど。


『え、ほんとに辞めるの? 次はもう決まってるんだろ』

 SNSの着信音が聞こえたので、風呂上がりの濡れた髪を拭きながらスマホを取った
 昼間は暖かく感じても夜は冷える。十月ももう来週で終わるのだから、当然だ。震えながら見ると、着信は予想通り風呂の前までやり取りしていた幼なじみ、佐伯康平(さえきこうへい)からだった。とりあえず、先に服を着なきゃ。

『まだ決まってない』

 トレーナーに袖を通しながら返信するとすぐにぴこんと着信音がした。

『まじか。大丈夫かよ、次を決めてから辞めた方が良かったんじゃないかぁ?』

 吹き出しのあとにびっくり顔のスタンプが三つ並んでいて、その変顔に笑いが出る。

『勢いで言っちゃった』
『そっか、じゃあこっち帰ってこいよ! 待ってるよ』

 康平のせいで帰りにくいんですけど、と思いながら『検討しまーす』とメッセージを入れてスマホを机に置いた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

肩甲骨に薔薇の種(アルファポリス版・完結済)

おにぎり1000米
BL
エンジニアの三波朋晴はモデルに間違われることもある美形のオメガだが、学生の頃から誰とも固定した関係を持つことができないでいる。しかしとあるきっかけで年上のベータ、佐枝峡と出会い、好意をもつが… *オメガバース(独自設定あり)ベータ×オメガ 年齢差カプ *『まばゆいほどに深い闇』の脇キャラによるスピンオフなので、キャラクターがかぶります。本編+後日談。他サイト掲載作品の改稿修正版につきアルファポリス版としましたが、内容はあまり変わりません。

耳付きオメガは生殖能力がほしい【オメガバース】

さか【傘路さか】
BL
全7話。猪突猛進型な医療魔術師アルファ×巻き込まれ型な獣耳のある魔術師オメガ。 オメガであるフェーレスには獣の耳がある。獣の耳を持つ『耳付き』は膨大な魔力を有するが、生殖能力がないとされている存在だ。 ある日、上司を経由して、耳付きに生殖能力がない原因を調べたい、と研究協力の依頼があった。 依頼をしたのは同じ魔術研究所で働くアルファ……イザナだった。 彼は初対面の場で『フェーレスの番に立候補』し、研究を一緒に進めようと誘ってくる。 急に詰められる距離を拒否するフェーレスだが、彼のあまりの勢いに少しずつ丸め込まれていく。 ※小説の文章をコピーして無断で使用したり、登場人物名を版権キャラクターに置き換えた二次創作小説への転用は一部分であってもお断りします。 無断使用を発見した場合には、警告をおこなった上で、悪質な場合は法的措置をとる場合があります。 自サイト: https://sakkkkkkkkk.lsv.jp/ 誤字脱字報告フォーム: https://form1ssl.fc2.com/form/?id=fcdb8998a698847f

出会ったのは喫茶店

ジャム
BL
愛情・・・ 相手をいつくしみ深く愛すること・・・ 僕にはそんな感情わからない・・・ 愛されたことがないのだから・・・ 人間として生まれ、オメガであることが分かり、両親は僕を疎ましく思うようになった そして家を追い出される形でハイワード学園の寮に入れられた・・・ この物語は愛情を知らないオメガと愛情をたっぷり注がれて育った獅子獣人の物語 この物語には「幼馴染の不良と優等生」に登場した獅子丸博昭の一人息子が登場します。

あなたの家族にしてください

秋月真鳥
BL
 ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。  情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。  闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。  そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。  サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。  対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。  それなのに、なぜ。  番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。  一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。  ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。  すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。 ※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。 ※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。

泡にはならない/泡にはさせない

BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――  明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。 「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」  衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。 「運命論者は、間に合ってますんで。」  返ってきたのは、冷たい拒絶……。  これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。  オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。  彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。 ——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。

胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。 ◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。 ◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。

ベータですが、運命の番だと迫られています

モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。 運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。 執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか? ベータがオメガになることはありません。 “運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり ※ムーンライトノベルズでも投稿しております

アルファだけど愛されたい

屑籠
BL
ベータの家系に生まれた突然変異のアルファ、天川 陸。 彼は、疲れていた。何もかもに。 そんな時、社の視察に来ていた上流階級のアルファに見つかったことで、彼の生活は一変する。 だが……。 *甘々とか溺愛とか、偏愛とか書いてみたいなぁと思って見切り発車で書いてます。 *不定期更新です。なるべく、12月までメインで更新していきたいなとは思っていますが、ムーンライトノベルさんにも書きかけを残していますし、イスティアもアドラギも在りますので、毎日は出来ません。 完結まで投稿できました。

処理中です...