運命のつがいと初恋

鈴本ちか

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運命のつがいと初恋 第1章

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 満員電車が苦手、とニュース番組のインタビューで若いサラリーマンが答えていたけれど、これは嫌だろう。香水、汗、体臭、食べ物、様々な匂いが混ざっている。
 Ωの自分が毎朝、帰宅時、こんなに人と密着したら良くない事が起こりそうだ。
 大学進学時、就職で引っ越しをしなきゃならなかったとき、電車利用をしなくていい環境に押しきってくれた家族に胸のなかで感謝しつつ目立たないように背を丸め息をひそめる。停車のたびに奥へ押しやられて、乗り換えの駅でちゃんと下車出来るか不安になってきた。どきどきしながら車内に掲示してある路線図を見あげアナウンスに耳を傾ける。
 いよいよ乗換の駅につくが、陽向の心配をよそに多数が下車し、陽向もその人波に押されるまま下車出来た。降り立った陽向は乗り換え案内を見ながら数度曲がって二度、階段を上下した。
 よたよた歩く陽向の横を早足で過ぎる人達はきっと通い慣れた通路なのだろう。やっと次の乗り場にたどり着き電車を待っていると東園からメッセージが届いた。
 今どこにいるのか問われ、駅名を入れると電車は痴漢が多いから気を付けろとすぐ返信があった。
 痴漢。東園は陽向がΩと覚えているのだろうか。同学年でΩは陽向一人だけだったから覚えていても不思議はないけれど。
 フェロモンは微量、Ω特有の美しい外見でもない。  
 陽向自身も用心の為、息を潜めてはいたが実際、心配されるほどの危険はないと思う。
 到着した電車は座席がちらほら空いていたので助かった。さっきからポケットの底でスマホが震えていたから。
 座ってスマホを確認すると二件のメッセージが入っていて、二件とも東園だった。確認して「げ」と思わず呟いた。駅に車頼んだからそれに乗るよう東園から指示があった。すでにもうその駅から離れている。
 これから反対の電車に乗って戻るのと、キャンセルの連絡させるのと、どっちがいいのだろうか。考えているうちに途中駅に到着した。あと二駅で東園の最寄り駅、もう着いてしまうので、気づかなくて悪かった、次の電車に乗ったと書いて送った。
 車を、というのはタクシーの事だろう、キャンセル料が発生するのかな、と思いつつまたスマホが震えたのですぐさま確認する。
 車を最寄り駅へ移動させるから乗るように、最寄り駅に着いたら必ず連絡しろとあった。
 地図情報を見る限り最寄り駅から東園の家まで歩いても行ける距離だけど、固辞するのも悪いかなと思う。タクシーって自分で呼んだり一人で乗ったことがないからちょっと緊張する。
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