運命のつがいと初恋

鈴本ちか

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運命のつがいと初恋 第4章

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「まだ、かおる、」
「ああ、まだまだだよな。俺もだ」

 東園は陽向の身体を仰向けに変え、見上げる陽向の額にキスを落とす。
 額から目元、頬、唇にキスをして今度は陽向の首筋に吸い付いた。

「ん」

 敏感になった皮膚を舐め、吸われ陽向は萎えきらない前を東園の身体にこすりつける。

「陽向の首、いい匂いだ」
「かおるも、やらしい匂い、」
「俺か? αの抑制剤を飲んでないから」

 すぐそこにある東園の顔を両手で囲みこめかみに鼻を押し当てる。
 濃い、雄々しいαの匂い。昔は不穏や危険を感じて嫌だった匂いだ。最近慣れてきたと思っていたけれど東園の飲んでいるα抑制剤の効果だったのかもしれない。いま、鼻の奥を刺激しているのは昔感じた匂いだ、やっと思い出した。
 東園の匂いは陽向の性欲を掴んで揺さぶってくる。

「ああ、」

 首から鎖骨、それからピンと尖った乳首の先端に東園の舌が行き着く。
 舌先で丁寧に硬くなったそこを愛撫され陽向は悲鳴のような声を上げ腰をくねらせる。  
 東園が毎夜のように舐め快楽に弱い部分に変えてしまったところだ。気持ちよさが苦痛にもなると初めて知った。

「もう、もぅ、やだあ、挿れて、いれ、」
「あとちょっと我慢して」

 胸から東園を引き剥がそうと肩を押す。
 しかし上手く力が入らない陽向の腕はあっさりと東園に捉えられベッドに押しつけられた。
 乳輪ごと東園の唇に吸い込まれ温い口内でまたぬめぬめと舐められる。どこもかしこも敏感になっているけれど胸の先は余計だ。

「あ、もう、やだ、かおる、はやくっ」

 背をそらしいやいやと首を振るのに東園は全く聞いてくれない。
 両の胸をとことん弄られ腹から腰まで隙間無く皮膚を舐められる。陽向は涙を零し喘ぐ。

「あ、ふぅ、ん、あぁ、」

 下肢は白濁で汚れているのに、東園はそれを厭わず太腿にしゃぶりついている。温い舌を太腿に当てすうっと動かされるともう駄目だった。

「うう、や、やあ、あ、あ、あっ、」

 また陽向は白濁を吐き出し自分の腹を濡らした。さっきよりも少ない量だが余韻に震え悶え泣く陽向に東園はようやく挿入をする気になったようだ。

「泣くな、挿れるから」
「すっ、すぐっしてっ」

 ぐすぐす鼻を鳴らす陽向に「ちょっと待ってろ」と囁いた東園はコンドームの箱に手を伸ばした。

「すぐ、がいいっ、」

 首を振る陽向のこめかみにキスをしながら「俺はいいけど」と東園が言う。

「発情期だぞ、子どもが出来る。陽向はいいのか?」

 うんうんと頷く。
 なんでもいいから今すぐ欲しい。身体が焼けるように熱い。
 ふうふうと息をつく陽向の額にキスをした東園が目を合わせてくる。

「いいんだな。陽向と俺の子がここに来るんだぞ」

 陽向の薄っぺらい腹に手のひらを当てた。
 目が恐ろしいほど真剣で陽向は小さくうなずいた。

「り、りんちゃ、が、おねえちゃんに、なる、ね」

 発情で上手く頭が働かないけれど、東園なら優しいお父さんになる気がする。自分たちの間に子どもがいたらそれはそれで楽しいかもと思う。
 でもなにより、身体の奥が熱く焼け爛れそうで早く挿れてほしい。

「そうだな」

 ぽつりと呟いた東園に陽向は唇を押しつけた。
 肩に腕を回して自分より大きな口の中に舌をねじ込む。
 東園の身体がびくっと震えた。
 しばらく陽向のしたいようにされていたが、陽向のキスが下手だったのか急に東園が動きだし引き抜かれるかと思うほど絡んだ舌を吸われた。
 東園は主導権は渡さないとばかりに口内を愛撫したあと唇を離した。
 陽向の目をじっと見ながら、東園は緩んだ後ろに猛った先端を押しつける。

「ああ、」

 期待に息を漏らした陽向はゆっくりと挿ってくる大きさに胸をときめかせる。
 拡げられ挿られる快楽に身体が溶けそうだ。

「陽向、愛してる」

 え、と思った瞬間にずんと大きく突かれ陽向は嬌声を上げた。どんどん激しくなる抽挿に陽向の意識は朦朧としていった。


 ふと意識が浮上した。
 今が昼か夜か分からない。
 何時かなと思った。それと同時に吸い込んだ空気に混ざる東園のα臭に尻からとぷと蜜が溢れ下へ垂れてゆく。
 まだ発情期がすぎていない。
 手を伸ばして確認するけれど、ベッドに東園はいない。
 ようやく開いた視界が滲む。いない、なんでいないのと思う。
 相手をするって約束したのに。
 いま苦しい、いま欲しい。そういう普段なら我慢出来ることが全く無理になっている。
 陽向は身体を起こすと部屋を見回した。明るいから朝、いや、昼か。東園はやっぱりいない。
 部屋にもいないことに酷くショックを受け、陽向の両目からたらたらと涙が流れ落ちる。
 本当に東園は自分を置いてどこかに行ったのだろうか。
 拭いても溢れてくる涙に構っていられない。陽向はベッドを抜け出し廊下に出た。
 下に人の気配がする。足音、話し声。一人は女性、三浦かなと思う。もう一人が分からない。階段まで進むと三浦と話しているのが声で東園だと分かった。
 そこにいる。居ても立ってもいられなくて陽向は階段を駆け下りる。
 ダイニングテーブルの脇に立ってキッチンにいる三浦に向かって話しをしていた東園が陽向の足音で振り返り、ぎょっとして駆け寄った。
 階段を降りきった陽向は、驚きながらも両手を広げた東園に飛びつく。
 抱きついて東園の胸に顔を埋めるとようやく息が出来る気がした。

「かおる、まだ、まだで、だから」
「分かってるよ。ごめん、上にいなかったから心配になったよな。これ取りに来ただけだから戻ろう」

 嫌がる陽向をどうにか離し、これと東園が見せたのは市販のゼリー飲料だった。
 陽向は食べる気になれないが、東園は腹が減っているのかもしれない。
 三浦もいることだし食事を頂いたら、と言ってあげたいところだが陽向ものっぴきならない性欲を抱えている。
 また抱きつこうとした陽向を制した東園は陽向を横抱きして歩き始めた。

「俺を探してくれるのは嬉しいんだけど、裸で出てくるのは止めてくれ」
「……あ、そうだった」

  東園にそう言われ、陽向はなにも着ていないことに気がついた。
 東園の胸に顔を寄せ、陽向はほっと息をつく。
 抱いてくれる相手がいると、あんなにきつかった発情期がまったく違ったものになった。  
 身体が芯から喜んでいる。
 だけど頭の片隅に発情期に付き合わせてる間、仕事は大丈夫なのかと思う気持ちが引っ掛かっている。陽向は起きている時間ほぼ発情していて、東園と離れるのが辛いし怖い。
 陽向はそんな風だからいいけれど、東園には犠牲を強いている、気がする。
 でも、離れたくないし離れられない。
 東園の匂いが至近距離でどんどん陽向に入ってくる。
 陽向にある思考も気持ちもゆっくりゆっくり溶けて欲に置き換わっていく。

「もう待てないよ」

 見上げた東園は笑ったような怒ったような不思議な顔をして「俺もだよ」と唸った。
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