僕は、君の“影”として生まれた

春夜夢

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夜の底は静まり返り、遠くで鉄の橋が軋む音だけが響いていた。
地下通路を抜けた先に広がるのは、廃工場の屋上。
冷たい風が吹き抜け、空がうっすらと白んでいく。

「……もうすぐ夜明けだな」
叶多は息を吐き、錆びた手すりに寄りかかった。
肺に入る空気が冷たくて、生きていることを強く感じる。

隣に立つルカは、空を見上げていた。
その横顔は、鏡の中の自分よりもずっと人間らしい。
表情がある。息づかいがある。胸の奥に“鼓動”のようなものまで感じる。

「ねえ、叶多」
「……なんだよ」
「俺……この空を君と見たかった」

ルカは、両手を胸の前でぎゅっと握りしめた。
風が髪を揺らす。
その姿は、人工生命なんかじゃなく、ただの“少年”だった。

「俺は君の影として生まれた。でも、影じゃなくて……“君の隣”にいたい」

その一言が、胸の奥に落ちていく。
誰も言ってくれなかった言葉。
どこかの世界で、自分自身がずっと聞きたかった言葉だったのかもしれない。

「そんなの、叶うわけ——」
「分かってる。でも、それでもいいんだ」

ルカが一歩近づく。
肩と肩が触れ合う。
鼓動がひとつに重なったみたいに、時間が止まる。

「俺は、君が俺を見てくれた“今”を、永遠に覚えていたい」

そっと、ルカが叶多の指先を握る。
夜明け前の冷たい空気の中、その手だけがあたたかかった。

叶多は目を逸らさず、握り返す。
「……バカ。そう簡単に消えるなよ」

「うん。消えない。君といられる限りは」

屋上に差し込む最初の光が、ふたりの影を長く伸ばした。
影と本体の区別がつかないほど、強く、重なっていた。

ルカが微笑み、叶多もほんの少しだけ笑った。
世界が敵になっても、この瞬間だけは奪われない。

「叶多、誓える?」
「……何を?」
「俺のこと、君自身の“もうひとつの未来”として見てくれるって」

短い沈黙のあと、叶多は頷いた。
「……誓うよ」

その言葉に、ルカの瞳が揺れた。
朝日が昇る。
世界がふたりを照らす。

影と少年は、夜明けとともに“運命”を踏み越えた。
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