僕は、君の“影”として生まれた

春夜夢

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夜明け前の空は、重く静かだった。
都市全体に、いつもと違う空気が漂っている。
風の匂いに、鉄と焦げたような臭いが混ざる。

拠点の中。
ルカは暗いモニターを見つめながら、眉をひそめていた。
画面上では、国家軍の補給線と前線の動きが——
異常な速さで再構築されていた。

「……おかしい」
ルカが呟く。
「倉庫と補給線を潰したばかりなのに、復旧が早すぎる」

叶多が肩越しに覗き込み、唇を噛む。
「まさか……隠し拠点があるのか?」

「いや、それだけじゃない。これは——」

モニターの映像が一瞬ノイズを走らせた後、
東方の空域に現れた黒い影が映し出された。
――巨大な人型兵器群。
鋼鉄の鎧を纏い、戦車以上の火力を持つ新型機動兵器。

「“鉄騎(アイアン・ライダー)”……」
ルカの声が震えた。
国家が、影たちを叩き潰すために隠していた切り札。



午前6時。
都市の外縁。
影の偵察班が橋の向こうに黒い群れを発見した瞬間、空気が爆ぜた。
音速を超える弾丸が地面を裂き、
爆炎と土煙が一気に視界を飲み込む。

「敵の先遣部隊だ!!」
「全員配置につけ!!」

バリケードの後ろで、影たちが一斉に武器を構える。
奪った銃や即席の爆弾、EMP装置――
それでも相手は“戦争用”の兵器。
数で勝てても、質が違いすぎる。

「くそっ……!」
叶多が唾を吐く。
黒い人型兵器が一歩踏み出すたびに、地面が震えた。
胸部に埋め込まれた砲口が赤く光り、轟音が響く。

一斉射撃。
防壁がまるで紙のように吹き飛ばされた。

「避けろォッ!!!」
轟音とともに爆風が地下通路まで吹き込み、影たちが次々と吹き飛ばされる。
瓦礫と砂埃の中で、悲鳴と咳が重なる。

「EMP班! 照準合わせろ!!」
叶多が叫ぶ。
影たちが急いで装置を起動し、青白い閃光を放つ。
電磁波が空気を裂き、黒い兵器の一体が一瞬動きを止めた。

「今だ! 撃て!!」

数十人の影が一斉に銃撃と爆雷を叩き込む。
装甲がはじけ、胸部の装置が爆ぜる。
黒い兵器が膝を折って崩れ落ちた。

だが——

「……一体だけかよ」

残りの十数機がゆっくりと歩を進めてきた。
倒れた仲間の死体を踏みしめながら、赤い光を灯す。



「数が違いすぎる」
「ルカ、どうする!?」

仲間の声が乱れる。
ルカは息を荒くしながら、制御端末に指を走らせる。
「EMPの出力を……広域に拡張する。制御できる保証はない。でも、やるしかない」

「やれば……お前の身体、持たねぇぞ!」
叶多の声は怒鳴りにも似ていた。
だがルカは静かに、彼を見た。

「俺たちが今ここで止めなきゃ……もう誰も“未来”にたどり着けない」

叶多は数秒だけ、目を閉じた。
「……分かった。なら、俺が全部護る」



EMP発生装置を背負ったルカが瓦礫の上に立つ。
敵兵器の赤い照準が、次々と彼に集まる。
彼は深く息を吸い、地面に膝をつきながら装置を限界出力まで回した。

青白い光が拠点全体を包み、
鉄騎たちの関節部が一斉に軋んだ。
ノイズが空気を揺らし、
その一瞬、時間が止まったように見えた。

「――今だ!!」

叶多と影たちが総攻撃を仕掛ける。
一斉に爆雷と銃弾が火花を散らし、鉄騎の装甲に食い込む。
倒れる機体。崩れる瓦礫。
敵も黙っていない。
残りの機体が一斉にカウンター砲撃を行い、
拠点の一角が崩れ落ちた。



「撤退ルートが……潰された!?」
「包囲されてる!!」

ルカは血を吐きながら装置を握りしめる。
だが、すでに出力は限界を超えていた。
影たちの背後に炎と土煙が迫る。

「叶多!!」
「分かってる!!」

叶多は叫びながら、瓦礫を蹴ってルカの身体を抱え上げた。
「全員、地下第2ルートに回れ!! ここはもう持たねぇ!!!」

影たちは爆薬を次々に設置し、退避しながら敵を遅らせる。
背後ではルカのEMPと爆雷が同時に炸裂し、拠点入口が火柱と瓦礫に包まれた。



夜明け。
影たちは撤退先の旧トンネルに集結していた。
半数近くが傷を負い、数人が戻ってこなかった。
叶多の腕の中で、ルカの呼吸は荒い。
EMPの過負荷で、体は限界に近い状態だった。

「……守ったよ」
ルカが掠れた声で笑う。
「お前、馬鹿だよ……」叶多が震える声で返す。

だが彼らは――生き残った。
そして、敵の「本気」も見た。

この戦いはもう、ただの反乱ではない。
戦争になったのだ。
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