Rain after Five

春夜夢

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昼休みが終わり、オフィスのざわめきが再び落ち着きを取り戻した。
蛍光灯の白い光、キーボードの音、書類をめくる音――
さっきまでの柔らかい空気とは違って、また“いつもの午後”が始まる。

陽翔はパソコンの画面に目を戻し、
メールの整理をしながらコーヒーをひと口。
でも、頭の片隅にはまださっきのやりとりが残っていた。

(……“真面目に食え”って……ふふ)

蓮から届いた短いメッセージと写真。
たった数分前のことなのに、
思い出すたびに胸の奥がじんわりと温かくなる。

「……よし、がんばろ」

小さく呟いて、椅子に深く腰をかけ直す。
朝よりも心が軽い。
理由は、たぶん――もうはっきりしている。



その頃、蓮のオフィスでは。
部下の資料確認を終え、
自分のデスクに戻った蓮は深く息を吐いた。

午前中の緊張感も、午後になると少し緩む。
手元のスマホにはもう通知はない。
だけど、さっきの陽翔の写真が
頭の片隅で、まだしっかり残っていた。

(……ほんと、あいつは)

くしゃっと笑った顔。
ふざけたスタンプ。
まるで子どもみたいに、飽きもせず送ってくるメッセージ。

……なのに、それを見た瞬間、
朝の疲れがほんの少し軽くなったのも、事実だった。

「……っ」

思わず、ひとりで小さく笑ってしまい、
横の同僚に「珍しいですね、蓮さん」と声をかけられる。

「……なんでもない」

少しだけ咳払いをして、表情を戻す。
でも、自分でも隠しきれていないのはわかっていた。



陽翔は午後の資料整理をしながら、
ふとスマホをちらっとのぞいた。
通知は、やっぱり何もない。
けれど、それでいい。

(仕事中にずっとやりとりするわけじゃないもんね……)

むしろ、ほんの少しの時間に交わした言葉のほうが、
心に残ってずっと温かい。

自分の手の甲を指で撫でながら、
ふと、朝のキスの感触を思い出す。
胸の奥が、じんわりと甘く鳴った。

「……好きだなぁ」

小さな声は誰にも聞こえない。
でも、それが今の陽翔の素直な気持ちだった。



蓮は資料の山を片付けながら、
何気なくスマホをポケットに指で触れた。
それだけで、朝からずっと続いている“陽翔の温度”を思い出す。

(……帰ったら、またうるせぇんだろうな)

でもその想像に、
ほんの少しだけ口角が上がる。
きっと本人は、その顔を見たらまた大げさに喜ぶんだろう。

(……ま、悪くねぇけど)

午後の時間。
仕事の合間にふと、
“恋人”の存在が心の中でやわらかく灯り続けていた。

🕊️ 第56話 予告:「仕事終わりのメッセージ」
午後の仕事を終えたあと、
一言の連絡が、お互いの心をふわりと和ませる時間。
“会いたい”気持ちが、じわりと膨らむ夕方。
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