Rain after Five

春夜夢

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部屋の灯りをつけると、
オレンジ色のやわらかな光が、
リビング全体を包み込んだ。

外の夜の冷たい空気とちがって、
ここはふたりだけの静かな空間。
今日も――いつものように。

「……ふぅ~」

陽翔はコートを脱ぐなり、
ソファにぽすんと身を投げ出した。
足を軽く投げ出して、天井を見上げる。

「……今日も疲れた~」

「知ってる」

「え、なんで」

「顔に出てんだよ」

「ええ~……!」

蓮は玄関の鍵をかけ、
コートをハンガーに掛けながら淡々と答える。
その声は冷たく聞こえるのに、
不思議と安心するトーンだった。



「ねぇ、蓮さんも座ってよ~」

「……今座る」

靴下を脱いで、
蓮もソファに腰を下ろす。
陽翔の隣、ちょうど肩がふわりと触れるくらいの距離。

テレビはつけていない。
時計の音と外の風の音、
そしてふたりの呼吸だけが、
この空間を満たしていた。

「……こういう時間、好き」

「……またそれかよ」

「だって本当だもん」

「……バカ」

陽翔はくすっと笑いながら、
少しだけ体を傾けた。
蓮の肩に頭を乗せると、
そのぬくもりがゆっくりと全身にしみていく。

(……この温度があると、一日が終わったって感じがする)



「重い」

「え~、ほんとに?」

「……嘘」

「ふふっ」

蓮の声は小さくて、
ほんの少し笑いが混じっていた。
それがわかるだけで、
陽翔の胸の奥がじんわりあたたかくなる。

「なぁ」

「ん?」

「お前って、ほんと……」

「ほんと?」

「……うるせぇ」

「ちょ、途中でやめるのやめてよ!」

「……バカ」

蓮は苦笑しながら、
肩に頭を乗せている陽翔の髪をくしゃっと撫でた。
それは、言葉よりもずっとやさしい仕草だった。



しばらく、ふたりは何も話さなかった。
ただ、肩と肩が触れ合って、
同じ空気を吸って、
同じ時間を過ごしているだけ。

けれど――それだけで十分だった。

「……ねぇ」

「ん」

「今日、ほんといい日だったな」

「……」

「ごはんも一緒で、帰り道も一緒で、今こうしてる」

「……そうかよ」

「うん」

蓮はため息をひとつついて、
陽翔の手をそっと握った。
その指先から伝わる温度が、
言葉よりも優しく「俺もそう思ってる」と語っていた。



「……ねぇ、明日も、こうして隣にいられる?」

「……バカ。聞くまでもねぇだろ」

「……っ」

陽翔の胸の奥が、じんわりと熱くなる。
ゆっくりと目を閉じると、
蓮の肩のぬくもりと、静かな夜の空気が
心地よく全身を包み込んでいった。

この何気ない時間こそ、
ふたりにとっての“特別”だった。

🕊️ 第76話 予告:「おやすみの支度」
夜のリビングのあと、
ふたりで迎える“おやすみ”の時間。
ベッドへ向かう前の、穏やかで少しだけ甘い夜。
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