彼者誰時に溺れる

あこ

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★ 常闇に蕩ける

後編

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「りゅうじさんがおれのこと、ぐっちゃぐっちゃにするから、また気絶しちゃったね」
「嬉しそうだな」
「ん。だって、俺にいっぱいくれるからうれしーもん」

俺専用にしたいのにな、とむくれて言うと龍二が笑う。
「でもいいよ。龍二さんは浮気者だからね。下半身浮気やろーだもんね。俺はやさしーからゆるしてあげる」
、なんてどこかの誰が言われていたような、なんて思った龍二はそれを頭から追い出して、鎖骨に頬をくっつけたまま動かない奏の頭をゆるゆると優しく撫でる。
「なんで俺がゆるしてあげるかわかる?」
「さてな。お前の心が広いからか?」
「龍二さんがおれにいっぱい痛くして、痕残して、中にたくさん出してくれるからだよーだ」
他の誰もがもらえない龍二の本気。それがあれば、奏は奏でいられる。
「奏の中にぶち撒けるのはたまらねぇんだが、お前がしっかり飲み込むから掻き出すのは一苦労だぜ?たまにはきっちりゴムしねーとなあ」
「俺のせいじゃないよ。龍二さんのがでかいからです。ゴリゴリ奥まで突っ込んで、そこで出すからいけないの」
「俺のせいかよ」
酷い“下品”な会話をする奏は嬉しそうにくふくふ笑い、顔を上げて龍二の顎にキスを落とす。
そのまま出来る範囲にちゅちゅと奏が龍二にキスをすると、その擽ったさに龍二が笑うが、その声は聞いてる方が擽ったくなるような優しさと甘さが含まれている。
この声をもし、彼の妻や今までの愛人が聞けば、奏は今までの比ではないほどにに違いないだろう。下手をしなくても“大戦争”が起きる。それほどの声だ。
好き勝手にキスをしていた奏は、龍二の笑い声に聞き入りながら入れ墨が飾る肌に指を滑らせて鎖骨でその指を止めた。
「ねえねえ、りゅーじさん。俺もしてい?」
「はっ、なんだそりゃ」
「カプカプだよ、カプカプ」
龍二の胸に手をついて上半身を上げ、奏は目を細めた龍二と目を合わせ口を大きく開けて「カプカプ」と言って口を開け閉めする。
「俺もつけたいなー龍二さんに『おれの!』って痕つけたいな。それで龍二さんが他の女の前で裸になった時にとされたらいいと思うんだー」
「は、はは!したきゃすればいい。誰も見やしねぇよ」
「なんでさ。時々どっかの誰かとセックスしてるくせに」
「あれはセックスじゃないらしいぜ?中町が『これをセックスと言うな、くそ野郎』って言ってるからな」
「ふうーん」
「そんな可愛くない顔をするなよ。なあ、かなで」
龍二の手が奏の頬に伸びる。
ゴツゴツした男らしい太さの指先が奏の柔らかい頬に触れると、そのまま奏の肌を堪能するように撫でた。
「俺が痕を残すのも残したいのも、俺に痕を残していいのも、奏だけ。だから俺に聞かずにやりゃあいい。俺に痕を残したいなら好きなだけ残せ」
頬を滑っていた龍二の指が、奏の唇に触れ、その唇を割って歯をなぞる。
「この歯で俺を噛みちぎったっていい。奏が俺にそうして痕をつけたいなら、許してやるよ」
コツコツと爪を当てるように優しく綺麗に並ぶ歯を叩く。
奏は誘われるように口を開け、龍二の指を優しく噛んだ。
「そんなんでいいのかァ?」
ニヤリと挑発的な笑顔を向けた龍二に奏も笑みを返す。
龍二の指をペッと吐き出すと、ゆっくりと鎖骨に顔を近づけ口を大きく開けた。
奏は狙い定めた鎖骨に優しく噛みつくが、何を躊躇してかハムハムと噛むだけだ。
龍二の手が奏の頭を、髪の毛を梳くように撫でる。
「やりたきゃやれ。構わねえよ。我儘放題のお前が可愛いんだよォ。こんな事で今更、躊躇するんじゃない。奏はそんなじゃないだろう?」

俺は教えてやったろう?我儘好き勝手に振る舞って、俺の愛をねだる、で可愛いんだと。

「ほら、奏。してみたいんだろう?」
甘く落とされる自分の名前に誘われて、奏は今までの躊躇を捨てて力の限り噛み付いた。
ゴリゴリ、と歯が骨にあたる感触がし、皮膚が切れて鉄の味が口に広がる。
奏の頭にやり過ぎたと一瞬過ぎるも、鉄の味がするほど噛んだのだから相当“酷い傷”になったと思うと、満足感もある。
誰もが驚くはずだ。この痕を見れば。
(龍二さんには、こんな痕をつけれる人がいるんだって)
口を離して傷口を舌で撫で最後にキスを落として顔を上げると、優しく笑う龍二の顔が出迎えた。
「満足したか?」
「うん」
「なら寝るぞ。明日はそうだな、どっか行くか?」
「うん!」
龍二が左腕を広げると奏は龍二の上から降りて腕を枕に横になる。
「りゅーじさん、こっち向いて」
「はいはい」
腕の中に囚われるようにしまわれて、向かい合って目を閉じる。

布団から僅かに見える龍二の背中にある自慢の刺青。
天を翔ける龍の、その荒々しくも神々しいその姿に、今まで誰もつけた事のない引っ掻き傷がある事をさて、奏は知っているのだろうか。
彼の龍にいかなる理由でも傷がひとつもついた事がない事を、そしてそれをつけた唯一が自分である事を。
きっと奏はずっと、知る事はないのだろう。
そう、態々噛みつかなくたって、奏はちゃんと龍二に所有印を残しているのだ。
それを知らない奏は今日も幸せそうに眠っている。
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