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第一一話 深緑の翼
しおりを挟む― 一九四五年 六月某日 早朝 ―
「まわせ~」
発動機の音が唸り、霧に含まれる小さな水滴が深緑の中型機をひしひしとうちつける。
その機体たちの横では何やら白い飛行服を着た人間たちが整列していた。
「野郎ども、いよいよ我が隊出撃の日となった。これから敵機動部隊撃滅に向かう。なお出撃以降の無線使用はその一切を禁止だ。どんな弱い電波もだしちゃあならねぇ。目立ちたがり屋は戦闘海域ででっかい花火を上げることで祖国にその誉を見せつけろ。
健闘を祈る。」
その言葉を言い終えるとともに隊長らしき人間は盃を一気に煽り盃を割る。
するとその盃に描かれた菊花の紋は散り散りになり地へと舞い落ちる。
それに続くように隊員たちも酒を煽り同じく盃を割る。
すると、隊員たちは一斉に散り散りになって深緑の愛機へと乗り込む。
整備員たちは帽を振り、彼らを見送る。二度と見られぬであろう彼らの姿をしかと目に焼き付けながら……
― 同日 とある爆撃機の機内 ―
ガタガタと揺れる機内の中は形容しがたい重く緊張した空気が漂っていた。
耳に入るのは唸り声をあげ時々、ガタガタ震えるエンジンの音と機体の隙間から空気が入り込んでくる音だけだった。
先ほど、敵の偵察機がやってきてからずっとこの調子である。
そのある種の静寂ともとれる世界を破ったのは機銃手の声だった。
「左上方敵機!グラマンの大編隊だ!」
『各機散開!直掩は絶対に陸攻隊を守れ!!』
戦場は無線からの叫び声や敵味方の入り乱れた発砲音
そしてなにかの爆発音で一気に騒がしくなる。
「斉藤さん。最悪は私を早々に切り離して離脱していただいてもかまいません。」
それは、彼の覚悟であり、仲間を思う言葉でもあった。
「何言ってやがる鈴木、我らの任務はお前を機動部隊まで送り届ける事。お前を犬死させることではない。
わかったら、おとなしくその桜花に座っとけ」
特別攻撃機『桜花』
大戦末期、誘導弾の開発までの繋ぎとして特攻が作戦として立案され、少し経った頃。初期のころは成功率が高かった特攻も、錬度の低下や、米軍のカミカゼ対策などにより、艦隊到着前に撃墜、命中しても敵艦が沈まない等の問題が露見し始めた。
こうした経緯により目標到達までに撃墜されない。なおかつ一撃必殺の威力を持った新兵器が求められた。
その中の開発計画の一つが特別攻撃専用機『桜花』である。
一二〇〇瓩鉄鋼爆弾に固形墳進装置を取り付け短い航続距離の代わりに防空網を振り切れるだけの速度と敵艦を一発で轟沈させる威力を手に入れたその兵器はまさに
『人間爆弾』
であり、日本の生んだ
『死の桜』
であった。
― 沖縄沖 上空六〇〇〇米 ―
気づいた時、体は空の上にあった。
しかし、あの鉄塊の中にいるわけではない……
ただ、空から落下していた……
ただ、空は碧い静かな空じゃなかった。
その空は、赤い炎と黒い煙に包まれた戦場だった。
機銃弾が飛び交い、機体が燃え朽ちていく空の戦場。
そこを僕は軍服姿に白い落下傘一枚で落下していた。
いつ流れ弾が当たるかもわからない。ただ、死の覚悟を済ませていた本人には何ら問題はなかった。
しかし、心を動かしたものがあった。それは……
一機の燃え墜ちる陸攻それが真横を通過した時、機内に見えたのは達吉の戦う姿だった。
燃え盛る機内の中
一人二十粍機関銃を敵機に向かって撃ちまくっていた。
出入り口にも火が回り、崩壊していく機内の中、一人戦っていた。
彼には、色々とよくしてもらっていた。陸攻隊と、それに積み込まれる桜花とその乗組員。
ただ、それだけの関係であったはずだが出撃前にこっそり検閲を避けて手紙を運んでくれるくらいには仲良くさせてもらっていた。
そんな彼は今、燃え盛る深緑の機体の中にいた。
そして、ふと思った。
『僕は今、何をしているのだろう。』
最初この桜花搭乗員募集用紙を見たときはまさに天啓かと思った。
たくさんの敵を墜としてきたが、南雲さんの言った通り心の中にぽっかりと開いた穴は埋められなかった。
何度か、任務を放棄して死のうかとも考えた。
しかし、自分の代わりに死んで行く隊員のことを思えばそんなことはできなかった。だが、これは違った。
死んで散っていくことが任務なのだ。
散るために訓練をし
散るために出撃する。
それがこの神雷部隊桜花搭乗員の使命だった。
誰にも迷惑をかけず
命令に違反することもなく
敵を沈めるという栄誉頂戴し
自分の大好きな空で
さよ子に一番近い空で
華々しく散れる
こんな素晴らしい舞台は他にないと思った。
しかし、実際はどうなのだろう?
目の前で僕のために死んでいる人がいる。
そして、記憶が正しければ
僕は彼に助けられている。航続距離が足りずともここで打ち出せといった僕に彼らは僕に落下傘を背負わせ機体から放り出した。
結果僕は呑気に空を漂っている……
何を…しているんだろう。
結局僕は他人に迷惑をかけてばかり、命令すら最後まで果たせず生き永らえている。
いったい、何をしているんだろう……
そんな彼の体を、生暖かい潮が洗うのだった……
― 翌八月五日 鹿児島沖 第三八任務部隊第五群 航空隊待機室 ―
連日、特攻機が飛来し皆、疲労がたまっていた。
死をも恐れず突っ込んでくる日本兵は全く理解できない。
心を病むやつだっていた。
沖縄よりはマシらしいがすくなくとも恐ろしいことに変わりはなかった。
そして、最近作戦本部より対特攻用の特別多作ファイルの中に特攻専用の兵器があるとの情報まで入ってきた。
正気の沙汰ではない。
しかもそれは従来の四倍の弾幕を貼らなければ撃墜できない上に、命中すればほぼ確実に沈没又は大破するという。
実際、これを受けた駆逐艦は真っ二つになって沈んだ。
昨日は偵察隊のテスがその特攻隊の直掩機に見つかって死んだ。
一昨日は戦闘機隊のキールとリックが死んだ。
これまで、多くの仲間たちが死んだ。
皆、いい奴だった。
皆、夢を持っていた。
皆に未来があった。
なぜ、彼らは死ななければならなかった?こんな馬鹿げた戦争、終わっちまえばいいのに……
「おい、そう落ち込むなよウィル。確かに彼らはこんな戦争で死ぬのには惜しい奴等だった。でもな、死んでしまったらどうしようもないだろう?
彼らの死を悔やむのは本国に帰ってからだ。とっととこの戦争を終わらせてアメリカに帰ろう。な」
「ああ、ライアンわかってはいるんだが、どうしても気が参ってしまってな。気にしないでくれ。」
「……そうか。無理するなよ。」
「……ああ」
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