2 / 31
『生物研究部』の彼女たち
『生物研究部』の彼女たち
しおりを挟む
『こんにちは。『生物研究部』部長の安藤です。私たちの部活では主に……
安藤青蓮——彼女の顔を俺はよく知っていた。
だからこそ、強い衝撃を受けた。なぜ彼女がそんな部活に入ってしまっているのか、ということに。
◇
彼女と俺は同じ中学校の先輩・後輩の仲である。
しかしそれだけならば、いわゆる陰キャな俺と、対して陽がすぎる彼女が出会うはずも無かったのだ。部活動——俺が入ろうとした美術部に、すでに彼女はいたのだ。
容姿端麗、才色兼備。透き通るような銀髪にスラリと伸びた手脚。成績は常に学年上位なうえ、運動も、さらには芸術まで達者であった。
そんな彼女の評判や逸話は、学内で轟きに轟いて轟き尽くしていたため、やはり友達のいなかった俺の耳にさえ入ってきていた。
全く面識もなく、中学までの13年弱しか生きてこなかった俺でさえ、彼女が天に二物を……いや、それ以上を与えられた超人なのだと確信していた。
中学校では部活こそあれ、『部活動紹介』なんて丁寧なシステムが無かったため、最も楽で緩そうな美術部への入部を決め打ちしたのだが、それが彼女と出会うきっかけとなってしまったのだった。
幸いなことに、彼女の周りには常に複数人が群がっており、彼女が卒業するまでの2年ほど、まともに喋る機会も無く済んだのだった。
俺が彼女を避ける理由——これは畏敬に近い。近寄りがたい。俺にとって彼女は、月のように美しく輝いていて、太陽のように強く見えたのだ。
月にも太陽にも、手を伸ばしたところで掴めるはずもない。遠くから眺め、崇めるくらいがちょうどいいのだと思っていた。
高校に入学して、2週間が経とうとしている今日この日まででも、彼女の噂話を耳にしない日は無かった。あいも変わらず彼女は超人なのだった。
◇
だからこそ、謎なのだ。彼女が『生物研究部』に在籍していることが。
『私たちの部活では主に、ハムスターや金魚の飼育をしています。現在活動している部員は少なく、私を含め2名です。アットホームな部活ですので、ぜひ一度見にいらっしゃってください。以上です。』
以上だった。
なぜ。
なにがあったらあの安藤青蓮がこんなプレゼンをすることがあるのだ。なにがあればそんな程度の低い活動を、部として認められることがあるのか。なぜそんなブラック企業のような文言で締めくくってしまうのか。
気になった。あまりに興味を惹きつけられた。目が離せなかった。
体育館がざわつく中で、彼女の瞳が俺を捉えた気がした。
俺もまた、彼女の周りに群がっていた彼・彼女らのように、魅入られてしまったのだろうか。
◇
「……まぁ、覚えられちゃいないか。」
校舎1階東側の突き当たりにある生物室に向かう階段を降りながら、俺は呟いた。
『覚えていて欲しい』という希望からか、『覚えていて欲しくない』という願望からかは定かではないが、そんなことはどうでもいい。今はただ、謎を探求する冒険家が、未開のジャングルに踏み出すような、晴れ晴れとした心持ちが胸を満たしていた。
そうして俺は、ダンジョンの最奥に待つ魔王へと続く最後の扉——生物室の引き戸になっている扉の取手に手をかけた。
安藤青蓮——彼女の顔を俺はよく知っていた。
だからこそ、強い衝撃を受けた。なぜ彼女がそんな部活に入ってしまっているのか、ということに。
◇
彼女と俺は同じ中学校の先輩・後輩の仲である。
しかしそれだけならば、いわゆる陰キャな俺と、対して陽がすぎる彼女が出会うはずも無かったのだ。部活動——俺が入ろうとした美術部に、すでに彼女はいたのだ。
容姿端麗、才色兼備。透き通るような銀髪にスラリと伸びた手脚。成績は常に学年上位なうえ、運動も、さらには芸術まで達者であった。
そんな彼女の評判や逸話は、学内で轟きに轟いて轟き尽くしていたため、やはり友達のいなかった俺の耳にさえ入ってきていた。
全く面識もなく、中学までの13年弱しか生きてこなかった俺でさえ、彼女が天に二物を……いや、それ以上を与えられた超人なのだと確信していた。
中学校では部活こそあれ、『部活動紹介』なんて丁寧なシステムが無かったため、最も楽で緩そうな美術部への入部を決め打ちしたのだが、それが彼女と出会うきっかけとなってしまったのだった。
幸いなことに、彼女の周りには常に複数人が群がっており、彼女が卒業するまでの2年ほど、まともに喋る機会も無く済んだのだった。
俺が彼女を避ける理由——これは畏敬に近い。近寄りがたい。俺にとって彼女は、月のように美しく輝いていて、太陽のように強く見えたのだ。
月にも太陽にも、手を伸ばしたところで掴めるはずもない。遠くから眺め、崇めるくらいがちょうどいいのだと思っていた。
高校に入学して、2週間が経とうとしている今日この日まででも、彼女の噂話を耳にしない日は無かった。あいも変わらず彼女は超人なのだった。
◇
だからこそ、謎なのだ。彼女が『生物研究部』に在籍していることが。
『私たちの部活では主に、ハムスターや金魚の飼育をしています。現在活動している部員は少なく、私を含め2名です。アットホームな部活ですので、ぜひ一度見にいらっしゃってください。以上です。』
以上だった。
なぜ。
なにがあったらあの安藤青蓮がこんなプレゼンをすることがあるのだ。なにがあればそんな程度の低い活動を、部として認められることがあるのか。なぜそんなブラック企業のような文言で締めくくってしまうのか。
気になった。あまりに興味を惹きつけられた。目が離せなかった。
体育館がざわつく中で、彼女の瞳が俺を捉えた気がした。
俺もまた、彼女の周りに群がっていた彼・彼女らのように、魅入られてしまったのだろうか。
◇
「……まぁ、覚えられちゃいないか。」
校舎1階東側の突き当たりにある生物室に向かう階段を降りながら、俺は呟いた。
『覚えていて欲しい』という希望からか、『覚えていて欲しくない』という願望からかは定かではないが、そんなことはどうでもいい。今はただ、謎を探求する冒険家が、未開のジャングルに踏み出すような、晴れ晴れとした心持ちが胸を満たしていた。
そうして俺は、ダンジョンの最奥に待つ魔王へと続く最後の扉——生物室の引き戸になっている扉の取手に手をかけた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
