おまえらゼンゼン信用ならんっ!

ふくまさ

文字の大きさ
22 / 31
『生物研究部』活動記録 弐

その人を知りたければ 伍

しおりを挟む
「まあ、気にしないでおくれ、水仙すいせん。」

そう言って青蓮せいれんは、微笑みを浮かべつつ、肩を落として座る水仙の背に、柔らかく手を添える。

「……ほんと? 冗談なのよね? さっきの話。」

水仙が青蓮にたずねる。が、青蓮は微笑を崩さぬまま、水仙の背をぽん、ぽん、と優しく2回。ニコリと閉じた目は、おそらく真に笑ってはいない。

「……せ、青蓮? ねぇ? 嘘だったのよね?」

「水仙。私は生まれてこのかた、謹厳実直きんげんじっちょくを心がけて生きてきたつもりだよ。」

水仙は青蓮の言葉を聞くと、絶望した様子で、すでに下がり切っていたと思われた肩が、さらに一段下がった気がした。

「ふふ、冗談さ。嘘をついたことはもちろん無いが、さしもの私でも冗談くらいは口にするよ。」

「ほ、ほんと?」

水仙は疑いを拭い切れない様子。それもそうだ。なぜなら。

「……嘘と冗談って、なにが違うんです?」

と、いうことだ。同じだろう。『優しくい嘘』でさえ嘘には違いないのに、なぜ冗談が『嘘では無い』と言るだろうか。いや、ない。

「違うさ。まず字が違う。」

「そういうことなんすですか!?」

「ふふっ、今のが『冗談』さ。」

……なるほど、と素直に納得はできない。し、したくない。

「『冗談』は『冗』……つまり、ムダな『談』話のこと。たわむれさ。だから、『冗談』の内に『嘘』が含まれていると私は思うよ。」

「……そうですか。」

『冗談』に『嘘』が包含ほうがんされている……はたして本当にそうだろうか。かと言って、『嘘』の中に『冗談』があるとなると、それこそ『冗談』イコール『嘘』となってしまう。それも、少し違う気がする。実際、青蓮が今しがた発言した『字が違う』というのは紛れもない事実である。

『似て非なる』とはまさにこのことか。『冗談』と『嘘』、重なっている部分があるようで、そのじつ、本質的には全くの別物なのかもしれない。

「まあ、良いじゃないか~。冗談でも、嘘でも糸瓜へちまでも、青蓮くんの新たな一面が露わになったのは、喜ばしいことじゃないか~。」

熊井くまい先生がまとめに掛かったかと思うと、「ただ、」と続ける。

「『なぜ』というところだよ、重要なのはね~。その『怒り』の源を知ることが、つまりは青蓮くんを知ることに繋がるわけだね~。」

「……そうですね。夏瑪なつめくんはともかく、煤牛すすうしくんに関してはそれについて議論がなされた。」

俺も、俺について議論なされると思っていたのだが、それを切り捨てたのは紛れもなくこの青蓮である。

「『水仙くんのドジの後始末』と言ったね~。それは『なに』についての怒りなのか、ということだね~。『ドジ』に対する怒りかい~? 『水仙くんのドジ』? それとも『他人の後始末』?」

「そうですねぇ……。」

青蓮が再び眉を寄せて考え始めると、水仙は、不安そうに、しかし食い入るように彼女を見ていた。

「強いて言えば、最後のものでしょうか。」

「そうか~、そうだよね~。自分のお尻は自分で拭うのが『責任』というものだよね~。」

水仙は「うぐ」と潰されたカエルのように声を漏らした。

しかし、『強いて言えば』とわざわざ頭につけるくらいだから、やはり『水仙のドジの後始末』に怒りを覚える、というのが最も適当なのだろう。

「し、仕方ないじゃない……。あたしだって好きで巻き込んでんじゃないっての……。」

「まあ、水仙の不幸体質については情状酌量だが、私がそれによってストレスを与えられることは別問題だからね。」

「ごめんて!!!」

水仙はえた。

「ふ~む。では、佐々田くんがドジをしたらどうだい? あるいは煤牛くんがしたら?」

先生は立て続けに質問を繰り出す。彼女は青蓮の感情の根っこを探るように、パターンで検証を試みているようだ。

「……とくに怒りは感じませんね。」

「ちょっと!?」

青蓮の回答に、テーブルを手で打ち鳴らしながら、再び吼える水仙。

「というより、夏瑪くんや煤牛くんがドジをして、さらには私に後始末を手伝わせているようなが浮かばない。なので、『怒りを感じない』というかは、『想像がつかない』というのが正しいですね。」

「なるほど~。」

……これは、俺たちが青蓮に評価されている、と思って良いのだろうか。テーブルに不貞寝ふてねし始めた水仙とは反対に、あからさまに驚喜きょうきを抑えきれない様子の煤牛は、口角の上がりを抑制するように両頬に手を添えている。

煤牛が彼女に対して敬意を持っていたのは確かだが、褒められて嬉しくなるほどのものだとは思ってもみなかった。

俺も、他人ひとのことを言えた義理ではないが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...