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遠い何時の日かの追憶―A

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遠くで、剣戟の音が聞こえる。
正確には、それを聞いてる俺の記憶を見ている。
暗いトンネルの中、膝をついている俺の腕には、とても容姿の整った女性が抱かれていた。しかし彼女の腹にはどう見ても助からない傷がつけられていた。
誰だろう、と考える。
しかし、とても大切な人だったような気もする。
とても悲しいと思う。
とても苦しいと思う。
けれど、その感情は、記憶は靄がかかったようにはっきりとしてくれない。
彼女は血の気の引いた顔で微笑み、俺の顔に冷たくなった手を、力なく添える。
『ごめん…ね。貴方にはー
でも、未来の…貴方と、過去のー』
遠くの戦いの音がやけに大きく聞こえる。
いや、彼女の声が、命が薄れていっているのか…
俺は彼女の頬に手を添えようと手を伸ばしー
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