異世界探求者の色探し

西木 草成

文字の大きさ
上 下
1 / 155
序章の色

第1話 始まりの色

しおりを挟む
人は生まれ初めて世界を見るのだと思う。

 人は生きて初めて世界を知るのだと思う。

 人は死んで初めて世界に祈るのだと思う。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 目の前に広がるのは地平線続くだだっ広い荒野。

 まず最初に言っておくが自分は日本人だ。そしてこれを読んでいるのがもし日本人ならばわかるだろう。

 日本にこんな荒野なんてないはずだ。

 なぜ自分がこんなところにいるのか、そんなことはわからない。日本の山で遺跡の発掘調査の手伝いをしていたただのフリーターにはこの現状を知る手立てはない。

 自然と恐怖心はなかった。初めは自分が死んだのかと思ったが青い空に太陽、それがあるだけでもだいぶ安心していた。

 あの世に太陽なんてあるのか?

 とにかく、歩こう。思ったよりも日差しが強い、このまま干物になりたくはない。


 初めの一歩


 ....何かを踏んだ。石?

 足元を見ると見慣れたボロボロのシューズが何か棒状のものを踏んでいる。

 何を踏んだのか。興味本位で拾い上げるとそれは剣だった、黒塗りで木製の鞘に不自然に開けられた7つの穴と少し洒落ている銀装飾。その他は特に何ら飾りっ気のないただの剣だ。何だかベルトみたいなものもついてる

 よし、こいつを使うか。

 何に使うか、それは既に決まっていた。


 大きく振りかぶり、その剣を高く高く空へとぶん投げた。


 そして重力にしたがって地面へと落っこちてきた剣は太陽とは逆の方向。すなわち西の方に剣先が向いていた。

 そして自分は迷わず西の方向へと歩き始めた。

 剣?

 そんなものを拾ってラッキーと思う奴はおそらく異常者だ。もし近くにそんな奴がいたらニッコリ微笑んで距離を置く事を勧めよう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 案外、あんな占いでもなんとかなるものだと半ば感心にも似た思いで歩いていた。およそ20分、歩き続けた甲斐もあってか遠くの方に民家らしきものが見えたのである。

 村というか街というか、そんな場所だった。特に大きな建物も見当たらないし、歩いている人はなんだか外人みたいに鼻が高く髪の色も日本では絶対見ることのできない色だ。

 そして、行く人行く人はなぜだかよくあるファンタジーやら異世界物で見るような平民の格好をしている。中には動物の耳、いわゆる獣耳というものを持つ人間までいた。

 まず、状況を整理するために日陰で休憩の取れそうな場所を探しそこに座ることにした。

 フゥ....なんなんだこれは?

 歩いてくるのが人であるならばまだしも、明らかに獣耳を持つ人物がいて、中にはもはや二足歩行の化け物みたいなやつもいた。俗に言うリザードマンというやつなのだろうか。

 これはあれだ、おそらく発掘作業場で日に当たりすぎてぶっ倒れてみている夢なんだろう。おそらくほっぺただかを抓るか殴るかしたら目が醒めるものなのかもしれない。全くもって人体とは不思議だ。

 まず頬を抓る。

 痛いな。

 次に頬を殴る。

 うん、ものすごく痛い。

 遠くでウサギ耳を生やした男の子が母親にあの人どうしたの?って聞いてそのウサギ耳を生やした男の子の母親が見ちゃダメよって注意しているのを見てなんだか悲しくなった。

 さて...だとすればこれは友人に貸してもらって未だ返していないライトノベルなんかによくある異世界転生だか異世界転移ってやつなのだろうか?

 しかし、俺のいた日本は2017年を迎えようとしている。科学もそれなりに進歩している世界で異世界?そんなもの本当にあるのか?

 だとしたなら、次の予想として俺の頭が急に狂ったという点だな。

 そんなこんな考えていると向こうから何やら筋肉隆々の男がこっちに近づいてくる、腰には剣をぶら下げて何とも物騒だと思った。

「おい兄ちゃん、具合でも悪いのか?」

「まぁ....そんなとこですかね」

「ちょっと水汲んできてやっから、待ってな」

 するとその男は目の前にあった、おそらくこの街の共同で使うのであろう井戸から水を汲んできてくれた。怖い顔して案外優しいんだな。

「ほら、飲みな」

「ありがとうございます」

 差し出された木製のコップに入った井戸の水を飲んだ、少なからず家の水道水よりは断然美味しい。さて、これからどうしようか。夢ならさっさと覚めてほしいがこの水を飲んで夢ではないのではないだろうかと疑いだしている。

 だが諦めたらそこで試合終了だ。と誰かが言っていた気がする。

 こういった時に大抵の異世界主人公共はどうするか。だがなぁ....

「おい兄ちゃん、この辺じゃ見かけない顔だがどっから来た?」

「すみません....俺にもよくわからないんですよ」

「ん? おかしなこと言うな。まぁ、わからないことがあったらまずギルドに行ってみるんだな」

「そうですね....まずはギルドに....」

 今なんて言った?

「すみませんっ! 今ギルドって言いましたかっ!」

「えっ? お、おうここ真っ直ぐ行ったところにあるぞ? そこの受付嬢がべっぴんでよ」

 なんということだ、ここにはギルドというものが存在するのか。ならば話は早い、まずは行ってみよう。話はそれからだ。

「ありがとうございましたっ!」

「おう! 気をつけて行けよ」

 俺は水の礼とギルドの情報の礼を行って、道を真っ直ぐ。少し駆け足気味で進んで行く。

 駆け足で3分ほど

 確かに、他の建物に比べ若干ではあるが立派な建物がそこにあった。なんとなくイメージとして、山に入る前の事務所みたいな感じの建物だ。

 ここがギルドなのか?

 意を決し、俺は木製の扉をくぐる。

 扉を開けるとそこはなんだか実に落ち着く空間だった。人はほとんどいないに等しい。なんだか物々しい様子の警備員みたいな人間が一人と受付の前に立っているなんだかマタギみたいな人間とそれに対応する女性の声が聞こえてきた。

「タシターンウェイストランドからゴブリンの装備品を20ほど持ってきたものだが」

「はいこちらで精算いたしますので、冒険者名とランクを伺っていいですか?」

 聞き慣れない地名だ、しかしゴブリンとか冒険者という単語はゲームでやってきて聞いた事のある名前だった。

「こちら精算が終わりました、合計銀貨2枚になります」

「おう、お疲れさん」

 銀貨....という事は通貨が円ではない?

 しばらくその様子を眺めていたがそろそろ理性が飛びそうなくらいに頭がこんがらがってきてはいる。

 そしてその男が受付の前を離れ、カウンターが空いた時に俺は迷わずカウンタの方へと向かう。

「こんにちは、ギルドへようこそ、本日はどのようなご用件で」

 目の前に座っている女性、とても顔が整っていて美人だ。ただ耳が長いことを除けば普通の人間ではないということは容易にわかった。

 そして自分自身、その彼女の笑顔に安心しきったのか。

 どこかがプッツリとイッてしまった。

「すみません、この夢から覚める方法を知りませんか?」

「....はい?」
しおりを挟む

処理中です...