異世界探求者の色探し

西木 草成

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第1章 赤の色

第44話 事の顛末の色

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 今日は何をするか・・・そうだ。みんなでまた、あのフレンチトーストを作る日だったか。

 となると材料は・・・

 街の中を散策する、そして手頃な店で牛乳と卵を揃えてギルドへと戻る。

 中に入ると相変わらず暇そうでがらんどうだった。しかしそういうことならばみんな参加して料理ができるだろう。

 あれ・・・何で・・・俺泣いてるんだろう? こっちに来てからほぼ毎日同じ生活だったじゃないか、何を今更。

「あれ、ショウさん。今日はどうしたんですか?」

「えぇ、以前約束していた料理をみんなで作ろうと思って」

「そう・・・ですか」

 いつもの定位置、正面の椅子に座ってまさに聖母の微笑みを浮かべているはずのリーフェさんの顔が浮かない表情を浮かべている。

「どうしたんですか? もしかして具合でも悪いんですか?」

「いえ・・・」

 この燃えた体でどうやって料理をしようかと思いまして。

 目の前にあったのは、先ほどいたリーフェさんの姿ではない、黒焦げた焼死体だった。

「あなたのせいですからね?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 とんでもない声量で飛び上がった。これまでの人生で今まで見たことのない悪夢だった。

 そしてそれが悪夢であることを願った。

 目を覚まして、まず辺りを見渡す。壁が木の板で囲まれており、唯一光の差す窓には鉄格子がはめられていた。そして妙に体が揺れている。気になって寝ていた場所を踏み台に立ち上がると、格子窓の向こう側の外の景色、木々であったり、草原が動いているように見える。

 そうか、移動しているのか。おそらく馬車みたいなもので移動を・・・

 だが、なぜ。

 そして、揺れ動く中で、今自分の置かれている立場に至った経緯を考える。

 まず、俺はあの剣を握って・・・それから・・・

 散々、怒りに任せて魔物を斬って、斬って斬りまくってそしたら・・・そこからの記憶がまったくない。

 そして、なぜ自分がここにいるのかもわからないのだ。

 とにかく、外に出て確かめなければ。

 メルトさんは? あの逃げた冒険者の人たちは? あの街は? ギルドは? 聞きたいことが山ほどある。自分をこうやって拘束している人物にかくなる上は実力を行使しても聞き出さなくては。

 そしてこの扉のドアノブに見えるものへ近づこうとして、何かが足を絡まって転ばせられた。

「・・・って・・・鏈?」

 今になって気づいたが、自分の足には枷がついており、そして鏈は木の壁へとつながっている。

 何でこんなものが俺の足に・・・

 突如、俺を乗せた乗り物の動きが止まる。どうやら誰かが来るらしい、外から草を踏む音が聞こえてくる。そして、扉の向こうからまるで鏈でグルグルにされたナンキン錠を外すような音がする。

 そして、急に入り込んだ日差しの眩しさに思わず目がくらむ。

「目が覚めてたか。お前の名前はイマイシキ ショウでよかったな」

「え、えぇ。そうです」

 この響くような女性の声、どこかで聞き覚えがある。

「誰かわかっていないようだな。王都騎士団9番隊隊長、レギナ=スペルビアと言えばわかるか?」

「あ・・・」

 ようやく目が日差しに慣れて、ぼんやりと姿形が見えるようになり、その凜とした佇まいは紛れもなく自分に部隊全員の前で実践を命じた、あの王都騎士団の隊長を名乗る人物だ。

「もうすぐで到着する、特に準備するものはないが心の準備はしておけ」

「は、ハァ」

 そして、また再び扉の向こうから慌ただしい音が聞こえてくる。そしてそれが鳴り止んだと思ったらまた動き始めた。

「・・・さて」

 準備をすることはない、と言っていたが、自分はいったいどこに向かっているのだろうか。皆目見当がつかない。

 今まで自分の身の回りの状況について考えていたが果たして、今の自分自身はどうなっているのだろうか。

 まず、パルウスさんの作ってくれた防具は身につけていなかった。その代わりと言ってはなんだが麻のような服を着ている。だが薄汚れていて囚人みたいな感じだ。

 そして腰に巻いていた剣もどこかに消えてしまっている。おそらく誰かが持っているのだろうか、荒野の真ん中に置いてきても勝手についてきた剣だ。

 結論。今の自分を見てわかるのは、囚われの身ということ、ということだけである。

「ハァ・・・」

 先ほどまで眠っていた、ベットとも似つかない藁の上に腰を下ろす。そういえば・・・リーフェさんのところのベットも藁だった・・・

 ふと、藁の上に置いた右手に激痛が走る。

「っ!・・・な」

 激痛の走った右手を見て驚いた。右手の手首から指先まで黒くなっている。焼け焦げているのとは違う、これは・・・刺青か? そしてそれは模様を描いているようであり、それは炎のようにも見える。

「そいつが全身に回った時には、もうお前さんはどうあがいても焼け死ぬな」

「・・・っ! 誰だっ!」

 突如、部屋の中に男の声が響き渡る。俺しかいないと思っていたが同伴者みたいなものでもいたのか。

「なんだ、もう忘れたか? せっかく力を貸してやったというの失礼な奴だな」

 再び声のする方へと向くと、そこには誰かがいる気配を感じる。そしてその人物はゆらりと立ち上がると、格子窓から差し込む光で照らされ、その正体がわかる。

 男だ、真っ赤に燃えるような赤毛の髪と炎のような赤い両眼はこちらを見ながら爛々と輝いており、赤い皮のチョッキの下は何も来ておらず上半身裸であったが、そのいたるところに炎の刺青が彫られている。

「自己紹介はしたはずだがなぁ? 『サリー』だよ、お前を赤色に染め上げてやった張本人さ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「サリー・・・お前が?」

「そう、俺がサリーだ」

 みればただのチンピラにしか見えない。それに力を貸したって、どのようにしてだ。いや、それよりも気になるのはだ。

「おい、何か知ってるんだったら教えてくれっ。あの街はっ、イニティウムはどうなったんだっ、メルトさんはっ、他の冒険者はっ」

「っ、ウルセェな・・・ともかくだ分かってんのはあの街はほとんど焼けてなくなった、魔物は駆けつけた王都騎士団が一掃、お前はさっき会った女に気絶させられてここに運び込まれた。これで満足か?」

「気絶させられた? なぜ」

「さぁ、それはお前を気絶させた本人に聞くんだな」

  まぁ、端からそうするつもりではあったし、いくらでもその話は聞けるだろう。

 そして、壁を背もたれにしその場に座り遠くの方を見るこの男の正体はいったいなんなのだろうか。

「精霊だ」

「・・・は?」

 また心を読まれたのか?

「チゲェよ、あのクソ剣を中継してお前の思考がダイレクトに俺の頭に来んだよ」

「あのクソ剣って・・・パレットソードのことか?」

「そっ」

 そうなのか・・・いや待て、そんな話よりかだ。

「そう、そんな話じゃなくてだ。俺は精霊、赤色を担当してる・・・っていうのかな? まぁそんな感じだお前の世界でも名前くらいは聞いたことがあるだろ」

「え、まぁ」

 確かに、地球にいた頃にも精霊がいる話だったり、漫画やゲームになっていたような気がする。火の精霊とか水の精霊とか・・・

「こっちでは色で表現してっから火とか水で表現はしないがな」

「・・・」

 こうも、あっさりと心の声で返答されるとなんだか調子が狂う。

「さて、本題に入るか。お前さんの右手のその刺青だが、結論から言うとこのまま放置すれば、それが全身に回って焼け死ぬ」

「それはさっきも聞いた、なんでそうなるのかが知りたい」

「面倒クセェが話するか、まずお前があの糞虫を焼き殺した後に言った言葉は覚えてるよな」

「あぁ・・・確か『本当の契約を結んでいるわけじゃない』って言ってたような」

「その通り、俺たち精霊の力を行使する場合にはそれ相応の準備が必要なわけだ、そしてお前さんはそれら全部すっ飛ばして、ましてや最高位精霊である俺様の力を使っちまったもんだからそのペナルティとして、その刺青がお前の右手に出たんだ」

 なるほど、先ほどの俺が死ぬという理論については理解した。

 だが、それに関してはどうでもいい。

 そもそもだ。

「「なんであの剣にそんな大それた精霊がくっついていたんだ?」」

 だろ、とでも言いたげなサリーの顔がなぜか非常にムカつく。

「俺もよく分かんねぇんだよ、あのクソ剣にどうやってひっついてきたか。どうしてあのクソ剣にくっついてたか、何一つ覚えちゃいねぇんだ」

 だがな、と言って俺の方を指差すサリーの指先はライターの火のように燃えていた。

「俺は、テメェのその爆発的な怒りで目が覚めたんだぜ。そいつについては感謝してやらぁ」

 その礼と言ってはなんだが、と言って立ち上がり未だに座り込む俺を見下しながらこう言った。

「テメェを助ける方法を教えてやるよ」

 そのあと、このあとどうすればいいかという話をされたような気がしたが、その話は幾度と俺の頭に入ることはなかった。

 俺は助かる気など毛頭ないからだ。

「降りろ、着いたぞ」

 再び扉を開けられ、部隊の人に連れられ外に出た俺は外の日差しに照らされているそれは、まさに要塞と呼ぶにふさわしい、巨大な城門と岩を積み重ねて造られた建物を見た。

 王都騎士団9番隊本部



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