異世界探求者の色探し

西木 草成

文字の大きさ
上 下
68 / 155
第2章 青の色

第65話 収集の色

しおりを挟む

 なぜあの場から脱出することができたか、単純だ。後に戻らずただ先に進んだだけだ。

 崩れ落ちそうな建物に戻るのは自殺行為。ならば比較的火の回っていないであろう離れの先にあるであろう、建物や道に出るしかないと思った。運良くその先が道だったため炎が回っていなかったというわけだ

「とにかく、よかったぁ....」

「死んだと思ったぞ。仕事が減ると思ったが」

 ひどいことを言う。目の前で呆れたような表情を浮かべ腰に手を当てているレギナ。そしてその後ろでは、助け出した大婆さまを抱きしめて泣いている女性。この姿が観れただけでも助けがいがあったというのだろうか。

「それでは、次に行きますか」

 その場を離れようとした時だ。

「待て」

「え? どうしました」

 レギナに呼び止められる。その声は低い、何かあったのだろうか。

「この炎の動き、不自然だと思わないか?」

「え? 炎の動き」

 炎の動き、となると炎の広がっていきかたということなのだろうか。

「どういう、ことです?」

「風の動きを見てみろ」

 風の動きということは。確か指を舐めて確かめるんだったか?

 軽く指を舐め、風の有無を感じると指先に感じるひんやりとした感じが風上と風下を示す。

 そして辺りを見渡して、今わかったことと、レギナの指摘を受けて考えたことを総括してみる。

「....え、なんで風上の方向に炎が」

「そうだ、おかしいだろう」

 普通だったら、炎は風上から風下へと移動する。科学が苦手な俺でもわかる一般常識だ。しかし、この炎は確実に風上に移動しながら広がっている。明らかに非自然だ。

「レギナさん、これって」

「あぁ」

 これは魔術による炎の移動だ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「なんでこんなことを....」

「わからん」

 先ほどの場所を後にし、炎の中を駆けて行く。

 向かう先は街の中心。もしこの炎が魔術によるものだとしたら、一番全体を見渡すことのできることができ、炎を操る上で行いやすい場所。

 それはこの街の中心だ。

 その場所に向かっているわけだが、中心に近づくにつれ炎の勢いが強まっているような気がする。

 燃え盛る炎による灰の匂いが肺を満たすころ、街の中心が見えてくる。それはどこかの人物をかたどったモニュメントのある場所。そこを中心に丸く広場になっており、その周りを燃えている建物が囲んでいる。

「....誰もいない」

「....いや」

 聞こえるのは、建物ガラスが熱により割れる音、屋根の落ちる音。炎の勢いが強まる音。様々な音が耳を埋め尽くす中、気配を感じ取る。

「そこに隠れている者、出てこないというのなら直々に出向いてやるぞ」

 最初に気づいたのはレギナだ。目の前の右側の建物。その陰に誰かの気配を感じる。しかしこれは勘というのだろうか、そこに誰かがいるという実感はないが、何かの流れを感じる。

 そんな感じが。

 レギナの脅しにも似た発言が効いたのか、気配のする建物の陰から物音がする、誰だ。少なからずこの火事の中逃げていない人物だ、ただ者ではあるまい。

 腰にあるパレットソードに手をかける。

 建物から出てきたその人物はローブを着ていた。背後の炎が逆光となり、シルエットしか見えないが、そこそこ身長の高い人物だ。

「....質問いいか?」

 その人物、声から聞く限り男だ。いろいろな音が溢れる中でよく通る声だと思った。

「答えられる範囲でなら」

 それに対しレギナが反応する。俺といえば何も言えずにただ剣から手を離さないようにするので精一杯だ。

「貴殿、王都騎士団9番隊隊長レギナ=スペルビアと見受ける。違いないか」

 こいつ、なぜレギナのことを。細心の注意を払って追っ手には警戒していたはずなのに、こいつは一体....っ!

 思わずパレットソードを握る手が強くなる。

「いかにも、王都騎士団9番隊隊長のレギナ=スペルビアだ。そういう貴様は我が部隊の人間ではないな。身分と名前を言え」

 レギナはすでに臨戦態勢に入っており、剣を抜いてローブの男に向けている。

 すると男はローブを脱ぎ捨て、右手を胸に当て一礼をし、こう言った。

「私は『啓示を受けし者の会』赤の収集師の長をしている。イグニス=ロードウェル」

 レギナ=スペルビア。あなたをお迎えに上がりました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 啓示を受けし者の会。

 リーフェさんが言っていた、無色の魔力を持つ人間を探している国家公認の研究機関。しかしなぜ、レギナが研究機関から狙われることに....。

「一つ答えろ、イグニス=ロードウェル。この火災、貴様の行ったことか」

 レギナの声が響く。

 一瞬の間。

「いかにも。私が行ったことだ」

 こいつ....っ

 パレットソードを抜こうとした時、右手が抑えられる。見るとレギナが俺の手を押さえて、首を横に振っている。

「もう一つ聞こう。この街を焼いた理由はなんだ」

 レギナの問い。なぜここまで大規模なことを行ったのか、目的がレギナだったのならば最初から出向けばいい。そうせず、この街を火で焼いた理由はなんだ。

「本来ならば、貴殿の部隊に直接出向く予定だった。しかし、誘拐されたとなれば場所がつかめない。私とて、不確定な情報しか与えられなかった。よって街を焼き、貴殿の正義感の強さに賭けたわけだ」

 つまり、レギナの正義感を確かめて街を焼いて炙り出そうとしたと。

 ふざけてる。

「王都公認の研究機関である『啓示を受けし者の会』がこのような行動をとっていいと思っているのか、立場を無くすぞ」

 レギナは怒気を含めた口調で答える。確かに、王都の研究機関がこのような悪行をしているとならば、それを束ねている王都も黙ってはいないだろう。

「私は機関の指示で動いている。それは王都からの指示と同等としてみなされている」

 どんな手を使ってでも、レギナ=スペルビアを確保せよ。と

 その言葉を聞き、レギナは腰に下げている剣に手をかける。

「ならば、たとえ王都の命とはいえ。このような悪行を行う機関に協力する筋合いはない。全力をもってして抵抗させてもらおう」

 レギナは剣を抜き、それをイグニスに突きつけ宣言した。

 いくら王都騎士団の人間とはいえ、さすがこのようなことは国家がしていいものではない。

 俺も協力をさせてもらおう。

「他にも指示を受けている。もし、レギナ=スペルビアが抵抗した場合。四肢を捥いででも確保せよと。そういうことでいいのだな」

「聞こえなかったか、抵抗すると言った」

 ....理解した。

 イグニスがそう言うと、両手を広げ何やら唱えている。すると、広げた両腕に周りで燃えている炎が纏わりつき、それは大きな炎の腕を形成し始める。

「ならばこちらも全力をもってして、貴殿を確保する」

 簡単に折れてくれるなよ『戦場のコンダクター』
しおりを挟む

処理中です...