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第2章 青の色
第76話 契約の色
しおりを挟む前方の巨大な水人形の中心へと、その距離はだんだんと狭まってくる。『炎下統一』を持っている右腕を前方へ突き出し、渾身の魔力をその刀に込める。
「ハァアアアっっっ!」
しかし、そこで黙って接近を許されるわけでもない。水の巨人は足元の湖の水を左腕で思いっきり殴りつけた。すると、水しぶきが立つのと同時に、巨大な水の壁が正面に立ちふさがる。
こんなもの....っ!
右腕を引き絞り、『炎下統一』の先端に集まった炎が顔のそばで肌を焦がす。そして、水の壁が鼻の先まで来た時。引き絞った右腕を思いっきり前へと突き出。その瞬間、刀の先端と衝突した水の壁は接触した部分から弾けとび、大きな穴を作って再び水の巨人への活路を開いたのである。
『く....っ』
しかし、水の壁を突破したのはいいのだが、壁を形成するのに水の水流は上の方向へと流れている。その余波か体がそのまま空へと巻き上がる。
「まず....っ」
すぐ下には水の巨人の頭。そしてその下から無数の水の触手のようなものがこちらに向かって伸びている。
『今一色流 剣術 時雨<豪>』
空中でバランスをとりながら、小刻みに刀を折り返し触手を絶って行く。そしてそのまま重力の力で地面へと落下する。
クソガキっ! 来るぞっ!
頭の中でサリーの声が響く。ふと両端を見ると巨大な水の両腕がまるで蚊を叩き潰すようにして迫っている。
『炎下統一』を鞘の中へと戻し、深く深呼吸をした。
....スゥ
ハァ....
『今一色流 抜刀術 円月斬<空>』
抜刀した『炎下統一』が炎を吹き上げながら円状に、巨大な水の両腕を払いのける。両腕は水しぶきと炎を吹き上げながら湖へと落下する。
さぁ、ラストパートだ。
『炎下統一 参の型 炎爪えんそう』
サリーの声が頭に響くのと同時に、勝手に口が動き言葉を発する。すると『炎下統一』の両側の刀身に書かれた文字が赤く発光しだし、それが浮き出たと思ったら、一つに繋がり全く『炎下統一』と同じ刀身と同じ炎の刀が両側に現れた。
頭上に『炎下統一』を掲げる。
そして、完全に炎の塊となった『炎下統一』を思いっきり水の巨人の頭に叩いた。
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「心のままに従え....めっちゃ言ってみたい」
「言ってんじゃん、今」
いつもの道場にいつもの袴姿の親父。やっぱり、日本刀は親父にあんまり似合わない。
「心のままに従えってさ。全部心のままに従ったらそれって単なるわがままじゃん」
「まぁ、そうだな」
「でも従わなかったら従わなかったらでつまらない人間になるだろ」
「まぁ....そうだな」
心に従う。ってなんだ?
「それはまぁ....自分の良心の判断なんじゃないのか?」
「なるほど、じゃあ良心ってなんだ」
「良心って....それは道徳とか、人を殺してはいけない。物を盗んではいけないとかそういう当たり前のことなんじゃないのか?」
「じゃあさ、もし人を殺すのが当たり前のような世界で、人を殺してはいけないっていう良心とか道徳って生まれるのか?」
「それは....」
常識とか、当たり前ってなんだ?
「....」
「お手上げか? なら、そこが翔の現在地だ」
「....なぁ、俺は間違ってないよな」
「さぁ、だが。俺が言えるのはこれだけだな」
心に従え。
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どうやら気を失っていたらしい。さっき見てたのは記憶なのか、それともこの世界に来た時に見た親父の幻想だったのかよくわからなかった。
だんだんと覚醒してゆく意識のなか、妙な感覚がした。妙に体に圧迫感がある。特に顔の方に。順に体を動かしてゆくが、肩、腕、指、足と正常に動く。だとしたらこの圧迫感の正体はいったい....
恐る恐る目を開けてみる。確か俺は打ち上げられて、それで水の巨人の頭に一撃を与えたら、気を失ったのか?
そして、ぼんやりとした視界に映り込んだのは妙に接近している肌色。しかし、それは肌色というよりかはどちらかというと白っぽいに近い。まるで外国人の白人の肌のようだ。
いや、待て。なぜこんな至近距離に肌色がある。
急速に鮮明となる意識と感覚。妙に顔、特に口元が熱っぽい。この感覚、いや、経験したことはないがおそらくこれは間違いない。
俺はキスをされている。
「え....うわっ!」
突然の出来事に思わず相手から顔を離す。しかし、相手の肩を掴んで視界が開けると今自分の立っている場所に驚いた。
そこは、湖の中心で湖から登る水柱の上に立っているのである。
「え、ちょっと、ここって」
完全に意識も感覚も覚醒した頃。目の前で俺の唇を奪った張本人の姿を見る。
鮮やかな青い髪、透き通るような白い肌、深きところを見つめるかのような青い瞳、そして東京を歩いていたら10人中12人が振り向きそうなくらいの美女が目の前にいた。しかし、その表情は読み取りにくい、どこか怒っているような、だがどこか嬉しそうなよくわからない表情をしている。
「えっと....」
こんな美人が俺にキスをしたというのか、にわかに信じがたい。思わず自分の唇に触れる。おそらくそれが悪かったのだろう。
「....っ!」
突然女性の白い肌が赤く染まったと思ったら、俺の足元に視線を合わせる。
「へ?」
そして、俺の立っていた水の足場は突如消失し、そのまま湖へと自由落下をする羽目になった。
誰か教えてはくれないか。俺が一体何をやった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「えっと....あなたが青の精霊さんですか?」
「えぇ、そうよ。この変態っ!」
青の精霊さま、大変ご立腹である。
ここは先ほどまで水人形との激戦があった場所。隣にいるレギナに至っては俺と目を合わせようとしない。本当に俺は一体何をしたというのだ、この女性に。
「まずあんたっ! あの火吹き蜥蜴をさっさと呼びなさいっ! 言いたいことが山ほどあるわっ!」
「え、あ。はい」
火吹き蜥蜴とはおそらくサリーのことだろう。だが呼ぶまでもなく、すでにサリーは俺の背後に立っていた。
「このバカっ! 脳筋っ! こんなガキンチョになんて大技使わせてるのよっ! 私を焼き殺す気っ!?」
「っ! 相変わらずウルセェ女。600年前から全く変わってないな」
「あんたがバカだからでしょっ! それに最後のは何よっ! よりによってこんなガキンチョと私がき、き、キスさせられたのよっ!」
涙目での必死の抗議。そこにはすでに先ほどの恐れやその他もろもろの雰囲気などは微塵も感じず、ただ単に見ていて眼福な光景があるだけである。
「仕方ねぇだろ、こいつの魔力キャパがあまりにもみみっちいからテメェに魔力流すしかなかったんだよ」
「だったらもっと他に方法があったでしょうがっ!」
そういえば、魔力の供給とかってキスでやりとりするんだったよな。イニティウムで教えてもらったが、確かにもっとこの世界の人類は他の方法を見つけるべきであると思う。
「えっと....二人ともここまでにして、契約の話を....」
「ハァ? ふざけないで、まさかこんなガキンチョが2代目だっていうの? 絶対嫌よっ! だったら隣にいる女の方がまだマシだわっ!」
隣にいるレギナが彼女の言葉に体が反応する。すでに彼女が無色の持ち主であるということはわかっているらしい。
「いや、こいつじゃなきゃダメだ。それにウィーネ、テメェ言ったよな。『その剣、己の力を証明せよ』って。少からず、あのままいけばテメェは負けていたぜ?」
サリーの言葉に女性ことウィーネが黙る。確かに、途中で意識を失ったがあのままいけば確実に勝利は確定していた。それに、早く彼女と契約してこの仮契約の呪いを解かなくては。
「....お願いします。何があったのかはわかりませんが、俺にはあなたの力が必要なんです」
俺も頭を下げて頼み込む。彼女の力がサリーの言う通りだったら、俺には彼女の力が必要だ。自分が生きるために。
「....あなた、私と契約してどうしたいの? 世界征服?」
世界征服なんて出来ちまうのか....だがそんな力は必要じゃない。
「自分を守るため、自分の大事な人を守るため。約束を守るため、自分の行く先を守るためにあなたの力を使いたいです....」
彼女の目を見てしっかりと答える。これは嘘偽りない本心からの言葉だ。
「....わかったわ、いいでしょう。あなたと契約します」
ただし。
「条件があります」
「条件....ですか?」
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