異世界探求者の色探し

西木 草成

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第2章 青の色

第97話 助太刀の色

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『今一色流 剣術 氷雨<霰>』

 味方の船員たちが囲まれている。それぞれ、高速に首、腕、肩といった急所に打ち込んでゆき敵船の船員たちを峰打ちで気絶させた後、再び別な船員のところへと向かう。

「く....速ぇっ!」

「お、おいっ! そいつを狙い撃ちにしろっ!」

 何処かの誰かが余計なことを言った。

 異常事態を察した船員たちが船の上であるにもかかわらず、甲板の上で魔法をぶっ放し始める。その結果、甲板で戦っていた船員たちに被弾。主に俺を狙って打ったわけで、敵の近くにいたためか、もはや同士討ちになっている。

『スクトゥム』

 一応移動しながら、味方の船員たちに被弾しないよう。鞘を盾に変形させ、味方を守りながら、徐々に船の船長室に当たる部分へと進んで行く。

 狙うは船長室。この無駄な戦いを終わらせるためには船長をぶん殴って気絶させなければ意味がない。

 未だに砲撃の続く中、船員たちを剣術で薙ぎ払いながら進んで行く。当然殺しは無しだ。

「な、何を....っ!」

「あと....2分っ!」

 残りの一人を鞘で殴って気絶させる。

 これで甲板に残った敵はほとんど一掃し終えた。

 見たところ怪我を負った味方の船員は数名と残りは一部始終を見て唖然としている船員。その他甲板に突っ伏してるのは敵の船員たちだ。

 それにしても、こんな大きな船であるにもかかわらず、船員の人数が味方の人数とあまり変わらない。

 他の船員はどこへ....

「ほぉ....この人数をよくも....」

「っ....!」

 突如、全身にのしかかったプレッシャーの重さに身震いをする。そして、そのプレッシャーを放った相手の方を見ると、甲板の奥にある扉から何者かが出てくる。見る限りかなりの大男、思わず剣を抜き身構える。

「あなたはここの船長ですか?」

「....いや、ここの船に用心棒として雇われた傭兵だ」

「だとしたら....あなたに攻撃中止の話をしても筋違いですね」

「そうだな」

 すると大男は甲板の奥から船の甲板へと出る。シルエットしか見えていなかったが、日にさらされその姿があらわとなる。長くボサボサに伸びた黒い髪に190センチは越える身長。そして見るからに立派に育った筋肉、その右手に握られているのは巨大な斧だ。

「アムスト号 傭兵のバッキオだ」

「冒険者の今一色です」

 互いに剣、斧を構える。

「「尋常に、勝負っ!」」

 開戦。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 船の上での生活がしばらくあったからか、足場の不安定な場所での戦いでも前回のレベリオの時とは違いだいぶ慣れてはいる。

 しかし、それ以上に相手が強い。

 場を気にしない戦い方。完全に潰しにかかっている。

 まず剣で受け止めることができない。斧は基本的に持ち手の部分に刃を引っ掛けて、まず相手から武器を落とすという戦術を多くとる。しかし、その一撃があまりにも衝撃が強く、パレットソードで斧を受け止めるものの、こちらにキリキリと迫る斧を防ぐので精一杯になり、力を受け流すことができない。

 そして、その斧術。かなり重いはずの斧をまるで重さのないように扱うその技術にかなり苦戦している。そして攻撃の隙間を埋めるように放つ魔術、彼はどうやら緑色の魔術を使えるらしい。

 風で編まれた緑色のオーラが隙ができるたびに幾度となく襲いかかる。 

 その結果、ほんの少しの戦いで身体中が切り傷に覆われることになった。

「ちっ....」

「もうすでに3回は殺せたと思ったのだが....」

 確かに、命の危機を感じた部分は3回どころか幾つもあった、その度に身体強化術を二重三重もかけ回避をしてきた。おかげで10何秒の戦闘ですでに筋肉痛が襲いかかる。

 こうなったら今度はこちらから攻めに行こう。

「は....っ!」

 足に身体強化術を全開にかけ、相手に突っ込む。

『今一色流 剣術 時雨<豪>』

 敵に攻撃を打たせない。

 攻撃を与える隙を与えない。

 そんなつもりで剣を振り続ける。

 当たれ....っ! 一太刀でもっ!

「く....っ!『風よっ!』」

 必死の形相で剣撃を防いでいたバッキオが突如何かを唱えた瞬間、彼を中心に風が巻きおこる。その強烈な風圧に思わず仰け反り、攻撃の手がゆるくなる。

「ウラッ!」

「っ!」

 自分の胸につけていた鎧をすれすれで斧の横一閃入る。

 だが、これはチャンスだ。

 大振りの攻撃、すなわち隙。

 これを逃す手立てはない。

 素早く剣を収め、一呼吸。

 スゥ....

 ....ハァ

『今一色流 抜刀術 星天回』

 放たれた剣撃はまっすぐバッキオの左肩へと吸い込まれてゆく。

 命は奪う必要はない。

 ただ、もう、止まれっ!

 しかし、確実に捉えたはずの左肩。

 そこから鳴り響いたのは金属音だった。

「惜しいっ!」

「....っ!」

 放たれた抜刀術は、斧の絵の部分を半分ほど斬って止まっていた。

 まずい....っ!

「終わりだ、冒険者ぁっ!」

「あ....っ」

 剣は、斧の柄とともに持ってかれ両手から剥がされる。

 振り上げられた斧は頭上へ、振り下ろされるその刹那。

 一瞬走馬灯がよぎる。

 そうだ....

 自分はいつも誰かに助けられてばかりじゃないか、

 今回だって、サリーの力を使えないから。

 レギナがそばにいて戦ってくれてないから。

 リーフェさんが....ガルシアさんが....メルトさんが....



 結局、俺は無力だ。



『雷鳴よっ!』

 突如、頭上で詠唱を唱える声が響く。

 ふと見上げた青い空、太陽のせいでシルエットになって見えないが。

 あれは....っ

 次の瞬間、俺とバッキオの間に凄まじい爆音と光が空間を満たす。そのあまりの明るさに目がくらみ、思わず腕で顔を覆いそうになるが必死に目を細めて耐える。

 ここで、顔を腕で覆ってしまったらせっかくの攻撃の機会を見失う。

「今だっ! やれっ、大将ぉっ!」

「はいっ!」

 レベリオさんっ

 光の中駈け出すののと同時に、前転。

 次の瞬間、光の中から飛んでくるのはパレットソード。

 空中で下を見るとレベリオが苦しそうな表情をしてこちらに片手を突き出しているのが見える。

 それを空中でキャッチし、鞘に収める。

 そして前転によりついた遠心力で威力を増した、純粋かつ強力な面打ち。

 それを思いっきり、バッキオの頭上に放つ。

『今一色流 剣術 鉄砲百合てっぽうゆり』

 思いっきり放たれた面はバッキオが防いだ斧の柄に着弾。

 次の瞬間。

 斧の柄はパレットソードで入った切れ目から砕け散り、手の中で折れる。

「ぐお....っ!」

「まだ....っ」

 甲板に思いっきり叩きつけられたパレットソードをそのまま滑らせ、着地に際に引いた左足をバネにし、前へと突き出しながら放つ技。

『今一色流 剣術 翡翠かわせみ』

 鞘で突かれた先にあるのはバッキオの鳩尾。

 完全に入ったっ!

「か....はっ!」

「まだだ....っ!」

 突き出した鞘をそのまま腰の元へと持ってくる。

 そして剣から放たれた抜刀術

 低空姿勢で放たれ、体に当たる寸前に、剣の腹に向きを変える。

『今一色流 抜刀術 風滑り』

 完全に右脇の下に入った。これで呼吸を封じる。

 勢いあまり、そのまま前進を続けバッキオの背後。

 振り抜かれた剣を背後から、左の脇へと打ち込む。

『今一色流 抜刀術 円月斬』

 放った後のしばらくの虚無。

 海風の音が響く中、突如響いたのは巨体が甲板の上で倒れるような音。

 一連の今一色流の流れ。

『鉄砲百合』

『翡翠』

『風滑り』

『円月斬』

 これらの連撃の流れを今一色流では複合剣技と呼ぶ。

 そして、これらの流れを

『今一色流 複合剣技 花鳥風月』

 と名付けられている。

「おい、3分の約束だろ。何分かける気だ大将?」

「え、あ。すみません」

 不機嫌そうな表情でこちらを見ているレベリオ、だがその目には怒りはなくどこか安心したといった感じで見ていた。

 ふとレベリオの後ろに目をやると船員たちは疲れた表情で、しかし勝利を確信したかのような目でこちらを見ていた。

「大将、あんたが守ったものだぜ」

 ありが....

 一発の銃声。

 こちらに差し出されたレベリオの手が、空へと向かう。

 自分の背後から響いた。

「レベリオさんっ!」

 レベリオの元へと駆け出した瞬間。とんでもない量の銃声が背後から響き渡る。背中に幾つか被弾し、焼け付くような痛みが全身を襲う。

「ガァアアッッッ『スクトゥムッッ!』」

 鞘の盾を展開させ、その砲撃からレベリオをかばいながら進んで行く。痛みが思考を支配する前に必死に今起きている状況と退路を考える。

 この世界に銃? しかもガトリングガンのようなものがこの世界に。

 いや、それよりも退路だ。どうやって船員たちを逃す。どうやってレベリオを守りながら船に戻る。

 どうやってっ!

「さっすが武器大国の『フォディーナ』特製の武器だなぁっ! 武器専用のお貿易船を狙って襲った甲斐があったってもんだゼェっ! おいっ! もっと魔石を持ってこいっ!」

 盾から覗いた光景、先ほどバッキオの出てきた扉から覗いているのは金色で装飾された巨大な重兵器のようなも。その形状から見るに、地球にいた頃の軍事兵器となんら変わらない形状をしている。しかし、唯一違うのは操作を行う部分に漏斗のようなものがあり、そこからバケツで大量の魔石を入れているということか。

 そして、打ち込んでいる奴。あいつがおそらく船長、甲板に出ないで船員などに指示を出していないところから考えて、ろくな奴ではない。

 再び銃撃が襲いかかる。

「くっ!」

「くそ.....外道が....っ」

 俺がかばっているレベリオがそう零しているが、右胸から大量の血が流れている。心臓でなかったのが不幸中の幸いだが、重症であることには変わりない。

 このままでは死ぬ。

 結局このままなのか。

「その邪魔くせぇ盾どかせ。クソガキ」

「は....サリー? お前今までっ!」

 突如、隣に膝をついて命令を出してきたのは未だに白い髪の毛になっているサリーだった。しかし、それは昨日現した時のような力のこもっていない表情ではない。

 まるで餌を見つけた野獣のような、そんな眼だ。

「おぉっと、それ以上言うんじゃねぇぞ。いいから言うこと聞けよ」

「馬鹿っ! あんた状況がわかってんのかっ!」

 今この砲撃の中、盾だけがせめてもの守りだというのにこれを解けと。

「あぁ、その通りだ。逆を言うと、俺にしか頼ることができないのに。大きくでたもんだな? クソガキ」

「っ....あぁっ! わかったよっ!」

『レクソスっ!』 

 盾を元の鞘に戻す。

 砲撃の雨が待っていると思った、蜂の巣にされてもおかしくない状況であるというのにだ。

 砲撃の雨は、なぜか目の前で焼失しこちらに飛んでくることがない。

「な、なんだっ!」

 いや、こっちが聞きたい。

 目の前で砲撃しているにもかかわらず攻撃が通らないという事実を突きつけられている相手側の船長は戸惑いの色を隠すことができない。

 当然俺もだ。

 ふと後ろの船員たちの様子を見ると、驚愕の表情を浮かべている。

「さ、サリー、一体....」

「あのデブが使ってるのは赤の魔石。今俺にぶっ放してるのは餌をくれてるようなもんだぜ?」

『炎下統一 秘の型 焔喰らい』

 そうだ、今サリーは炎を喰っている。
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