106 / 155
第3章 緑の色
第101話 襲撃の色
しおりを挟む見渡す限り真っ白だった。
そんな中で、たった一人自分だけがいる。
いや。
「なんとも殺風景な風景だな? ん」
「親父....」
腰に刀を差し、道着姿の変わらない父の姿が目の前にいた。自分はといえば、腰に剣を差し、パルウスからの形見の防具を身に付けている。
「お前も、随分とごつい見た目になったな?」
「そういう親父は全く変わらないな」
そう、何も変わらない。
変わったのは俺だ。
「変わった結果、どうだ? 何かものを見る目は変わったか?」
「....あぁ、自分は甘かった」
何かを守るためには、犠牲が必要だ。
何かを守るためには、覚悟が必要だ。
何かを守るためには、何かを捨てなければならなかった。
何かを守るためには、恐れてはいけない
何かを守るためには、綺麗事は必要ない。
「それが、お前がこの世界で学んだことなのか?」
「....」
「今、お前は真っ直ぐ生きてるのか?」
徐々にあたりの白い空間が真っ赤に染まってゆく。血の色ではない、これは....
「これ以上にないくらい、迷いはない」
「....そうか」
白かった空間は真っ赤に染まった。
父親の姿も、真っ赤に染まる。
あたりは炎で包まれた。熱が肌を焦がしてゆく。
そうか、これは。怒りか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「もっと踏み込め、剣先を意識しすぎだ」
「....はいっ」
朝の訓練、久しぶりだった。レギナは普段訓練では使わない二刀流を使って攻めてくる。片方を足で受け止め、剣先をレギナの喉元めがけ突き出すが、そう簡単に攻められるわけでもなく、足場の不安定さが威力を半減させる。
剣の打ち合いが続き、数分。自分の剣が弾き飛ばされ砂浜へと突き刺さる。だが、レギナの右手に持った剣も弾き飛ばされ、砂浜へと落ちるのが見えた。
「....今日はここまでだ」
「はい....」
木剣を拾い、レギナから手渡された手ぬぐいで汗を拭う。
現在、いる場所はリュイ。すべては青の精霊石を探すためだ。昨日、パレットソードを使って精霊石の位置を確認したがこの場所に問題はないということがわかった。あとは進むだけだろう。
荷物をまとめ上げ、砂浜から森へと続く道へと歩く。
リュイ、エルフの国。そして、リーフェさんの生まれ故郷。現在戦争中だと聞いたが、ここには戦果は向いていないらしい。森の中を進むと様々な動植物がおり、どれもイニティウムで教わっていない知らないものばかりだった。
「イマイシキ ショウ。どこに向かうか詳しい話を聞かせてくれるか?」
「はい、わかりました」
この土地に来て、パレットソードで見た風景はアエストゥスで見たよりも鮮明でくっきりとしていた。まず、森の中に佇む、巨大な神殿のような建物。そしてどこか日本の神社の鳥居のような入り口、神聖な佇まいに思わず息をのむほどの美しさがある。だが、パレットソードの力を駆使しても神殿内部を見ることは叶わなかった。
向かうのは、この森を真っ直ぐ歩くその先。おそらく三日ほどかかる距離だろう。食料は、船から持ち込んだ分を考えれば持つと考えていい。問題なのは、ここの人たちに合わないようにするべきだという点か。
エルフの国というからには、エルフがその人口の大多数を占めていることだろう。それに今は戦争中、絶対に観光目的でこの国を訪れるようなことはありえない。そんな中に、何も知らない俺たちのような人間がいては疑われた挙句、犯罪者とバレ、そのまま王都騎士団の監獄行きとなる。
そうなる前に、迅速に行動しなくてはならない。
だが、もう一つ理由がある。
「貴様....その右腕、まだ痛むのだろう」
「はは....バレちゃいましたか」
そう、現在右腕が燃えた鎖で巻き付けられたかのように痛んでいる。気力で耐えているものの、やはりにじみ出る脂汗は隠せるものではない。
だが、ここで自分が動けなくなったら、誰も自分を助けることのできる人物はいない。自分の命のための旅だ。
自分は生きるんだ。
「休める時に休んでおけ。こっちとしては全く関係ないのだからな」
「ありがとうございます。レギナさん」
そうは言うが、足を止めるわけにはいかない。この右腕の痛みが感じさせるように、自分の命は残りわずかだ。いつ自分がこの痛みに耐え切れず死ぬかわからない。それに、青の精霊石だってどれほど自分の命を延ばすかわからない。
そんなことを考えながら森の中を進んで行く。
ふと、目の前に立っている木に巻きついたツタが気になった。
「どうした?」
「レギナさん....」
後ろ歩いているレギナと顔を見合わせると、彼女がこちらに近づいてくる。一緒に顔を並ばせてみている木のツタ。
ぶら下がっている部分が確実に人為的に切られたものだ。なにやら鋭い刃物で切断されたかのように見える。そして、切断面は明らかに新しい。
この森に、人が。
「走るぞっ!」
「え、はいっ!」
レギナが突如叫び、全力で森の中を疾走する。なぜだ、いったいなにを考えて....
次の瞬間、後方から弓矢のようなものが顔の横スレスレを通り過ぎるのが見えた。確実に何かが殺しにきている。
「レギナさん、これってっ!」
「エルフだっ! あいつらの得意にしているのは森の奇襲戦なんだ」
ここはすでにエルフの掌の上だっ!
レギナの声が響くのと同時に大量の矢がこちらに向けて飛んでくる。それらは正確に二人に狙いを定めており、まっすぐ急所に向かって飛んできている。
それをレギナは、躱すのと同時に持っている剣では弓矢をはたき落としている。こっちは鞘を盾に変形させ、飛んでくる弓矢を防いでいる。
「足を止めるなっ、ともかくこの森から抜けるぞっ!」
「森を抜けるって....」
見渡す限り木に囲まれているというのに、一体どうやって森を抜けるつもりなのか、どう考えてもこの襲撃を乗り越えるには方法は一つしかない。
襲撃者を迎え撃つ。
レギナが森を進む中。その姿に背中を向け、盾からパレットソードを引き抜く。パレットソードを引き抜いた瞬間、右腕から痛みが走り抜け脳をシビレさせるが剣を一振りし、その痛みを振り払う。
「貴様っ、何をしているっ!」
「襲撃者を迎え撃ちます。レギナさんは隠れてて」
「馬鹿っ! 相手はエルフだぞっ!」
「知るかっ!」
弓矢の飛んでくる位置を特定し始める。足を止め自分に向けられた弓矢の本数は7本。飛んできた位置を身体強化術で強化した視力で見据える。すると、森に溶け込みやすい服装でエルフがこちらに向けて弓矢を放っている姿が見えた。
そこか。
『今一色流 抜刀術 風滑り』
盾から鞘に戻した剣から繰り出す抜刀術。それは木の幹に直撃し、十数メートルは有るであろう木をそのままなぎ倒す。そして倒れた先に弓矢を放った襲撃者がいるはずだ。
「っ!」
倒れた木が起こした土ボコリを巻き起こす。その先で、咳き込む声や、突然の衝撃に驚く声が聞こえる。
『今一色流 剣術 翡翠』
その中に突っ込むようにして、思いっきり剣術の突きを叩き込む。そのあまりの勢いにまわりの土ボコリが風圧で一気に晴れる。そして剣先が捉えたのは
弓矢を持った左腕のちょうど肩の部分、エルフの男性に剣先が埋まっていた。
「ガァっ!」
「....」
肉を突き破る感触が右腕から伝わってくる。吹き出した血が頬を濡らす。
これは、生きるためだ。
剣を引き抜き、血ぶりをする。次の瞬間、横方向から弓矢が飛んでくるのを感じ取る。
『今一色流 抜刀術 円月斬<地>』
飛んできた弓矢を抜刀術で薙ぎはらう。まだ、残っている。
飛んできた方向へ、足に込めた魔力をそのまま爆発的に膨らませ、常人ではない脚力を生み出す。
一足。
『今一色流 抜刀術 星天回』
弓矢をつがえたエルフをそのまま抜刀術で弓矢ごと、右肩から抜け、そのまま弓を破壊しながら振り抜く。斬られたエルフはそのまま崩れ落ち動かなくなった。
「....」
生きるためだ。
『今一色流 剣術 時雨<豪>』
生きるためだ。
『今一色流 剣術 紅葉壱点』
生きるためだ。
『今一色流 剣術 鉄砲百合』
生きるためだ。
『今一色流 抜刀術 風滑り』
生きるため....
「そこまでだっ!」
突如、振り下ろそうとして剣が誰かの声で止まる。
レギナだ。
「レギナさん....」
「貴様、周りを見てみろ。何をやってる」
何をって....
そして辺りを見渡し、今起こっている現状を確認する。
なぎ倒された木々、そしてその下敷きになっているエルフ、そして、自分が斬ってきた血まみれになっているエルフ。
「何をやっているかと聞いているんだっ!」
「....守ろうと....して....あれ? 何で、あれ....?」
ふと見た右腕、痛みを感じない。いや感じてない。そして血に染まりきった両腕とその剣。そして、ふとなぞった自分の頬についた血。
一体....俺は....
いや、生きるために。
そうだ、殺されそうになってたんだ。
生きるためだ、殺すしかなかったんだ。
「レギナさん....俺は....っ!」
突如、首筋に痛みが走る。次にだんだんと脳がとろけてゆくような眠気に襲われ、地面との距離が近くなる。
首に刺されたものの正体、手に取ってみると小さな弓矢だった。
薬を盛られたらしい。
大勢の足音が近づいてくるのが、倒れた冷たい土の地面の先から伝わってくる。ふと見上げたレギナは両腕を上げて降参のサインを出しているのが見える。
だめだ....彼女は....僕が守らないと....
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる