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第3章 緑の色
第120話 明かされた色
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「レギナさんっ!」
「わかってるっ!」
レギナの持っている剣が巨大な幽霊の脳天を叩き斬る。そして真っ二つに割れた半透明な幽霊の残骸は空気に溶けるようにして、その場から消え去った。そして、完全に幽霊の消失を確認して二人とも大きなため息をつく。
「それにしても貴様。こう言った幽霊の類が苦手なのか?」
「ほっといてください。トラウマがあるんです」
自分がこんなにもホラーが苦手なのには原因がある。まぁ、とても恥ずかしくて言えたものじゃないが。
レギナが剣をしまい、目の前の光景に目を向ける。
そこには、美しく、そして恐ろしく、物理の法則に反したものがあった。
何て表現していいのかわからない、ただこの建物において重要な柱だというのは理解した。とても大きな柱だ。
そうだ、例えるのならば水族館でよく見かけるアザラシが縦長に通るために用意された水の通っている通路と言えばわかりやすいだろうか。そして、目の前にあるのは形状こそ同じだが、覆われているガラスは存在していない。
そして、その中心で漂っている物体。
まるで宝石のサファイアのような物体。大きさは小指の爪ほど、まさにそれこそが青の精霊の精霊石である。
「まぁ、見つかったな」
「はい、そうですね」
だが、一つ問題がある。
「おそらくだが、これ。外したら建物ごと倒壊しないか?」
「....ですね」
レギナが予測をいうが、おそらくそれは正しい。
その物理法則に反した水の柱は天井と地面につながるようにして流れている。そして天井と地面には血管状に広がった青い筋のようなものがびっしりと広がっており、どう考えてもこの建物構造上、重要な役割を担っているというのは一目瞭然だった。
「これを外した瞬間に建物は崩壊して、この遺跡の下敷きだな。言っておくが、墓石のない墓は嫌だぞ」
「一応石なんだからいいじゃないですか。まぁ、方法は探しますけど」
そうして、二人は手分けをして部屋を散策する。
部屋は円状に広がっており、丸いその壁をそれぞれ反対の方向に調べている。壁にはそれぞれなんらかの文字が彫られており、それはまるでパレットソードにブレード部分に書かれている文字とそっくりだった。
そして例外なく、その文字を自分は読むことができる。
「全く、なんて書いてあるのか読めない」
「なんか気になるところがあったら言ってください。自分が訳しますんで」
「読める貴様も大概だがな」
レギナには一応、この手の精霊文字は読めるといううことを伝えてある。そして、この世界の言語ならほとんど読めるかもしれないということもだ。ある意味、今回がその証明になるだろう。
そして互いが壁の周りを歩き、一周をして元の場所へと戻ってきた。
「どうだ、何かこの精霊石を取り出す方法は見つかったか?」
「いえ。儀式の方法についてと、ここに精霊石を封印した経緯しか書かれていませんね」
「そういえば、あの青の精霊はその経緯について話さなかったな」
確かに、彼女はその経緯については話したくないということだった。実際にも彼女と初めて会った時、『精霊石は失くした』と嘘をついていたのだから相当のことがあったのだろう。
だが、その『相当なこと』の経緯がそこには描かれていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
四人の勇者を召喚した魔術師は恐れた。
まさか、召喚された勇者ですら無色の持ち主であるということに。
そこから先は地獄の始まりだった。
国は召喚した勇者を迫害し始めた。
国を滅ぼす兵器として、道具として洗脳するために。
街を歩けば侮辱の言葉を浴びせられ、様々なものをぶつけられる始末だった。
そして、使われるがまま使われるがまま。
四人の中で、最も剣に秀でた者に、一振りの剣が与えられた。
剣には白銀、鞘には宝石をあしらい、腰に巻くベルトには龍の翼が使われた。
そして、勇者四人はその剣を持ち、無色の国へと進んだ。
軍はついてこない。全ては、召喚されたこの天命に応えるのみ。
だが、勇者を照らしたのは、希望の光ではなく。
破滅の光だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「やっぱりダメですね、どう頑張ってもこれを外したらこの建物は壊れます」
「ダメか....」
隣でレギナが落胆したかのようなため息をついて、その場にしゃがみ込む。そして今自分の目の前にある壁には精霊文字でこんな詩が書かれていた。
『禁忌に触れし者。その探求にて自身を破滅させる、己の欲に埋もれ自らの過ちを悟れ』
読んで字のごとくというわけだ。それにしても、この壁画の説明といい、厨二病が若干混ざっているのは気のせいではないはずだ。とにかく内容から察するに自分の考えていることは正しいということは大いにわかった。
「それで? 結局青の精霊石を手に入れることなく、貴様はその刺青に殺されるというわけだな」
「それは困りますね」
「いいじゃないか、それでめでたく私は解放されるわけだ」
壁に頭をくっつけ天井を見上げるレギナだが、その様子にどこか違和感を感じていた。
「レギナさん....もしかして怒ってます?」
「もしかしてもクソもあるか。私はいつだって不機嫌だ、特に貴様の前ではな」
そう言って顔をこっちに傾け冷たい視線を送る彼女の目は確かにいつもと変わらない。やっぱり気のせいだったか。
「それでどうする。この場所でくたばるのか? だったら私はこの遺跡からは出るぞ」
「もうちょっとだけ待ってください。もしかしたら....方法があったかもしれません」
「....聞かせてもらおうか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
剣に収められた7つの精霊石。
魔術師たちの精密かつ、計算し尽くされた技術で作られた、三つの神器の一つである。すべての色を統べる魔剣。
そして、
四人の勇者と無色の国もろとも吹き飛ばす破滅の光を放った剣そのものである。
最初から違う世界の人間を召喚したのは、自分たちの国の人間に自殺まがいなことをさせないため、最初から、呼び出されたその瞬間から
彼らはただの道具にすぎなかったのだ。
聖典には、それまでの一部始終は描かれていない。ただ、何の罪のない無色の国は世界に破滅をもたらす魔王の住む国として。そして、そんな世界を救うため、希望の光をもたらす剣を手にした異世界の勇者との綺麗な戦いを描いたものだ。
これが、原書の語る真実である。
そして、これが。
今一色 翔の持つ剣の正体である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「えっと、ここに青の魔石が一つあります」
「あぁ」
右手に持っているのは拳大の青色のペンキを塗りたくった石が一つ乗っかっている。これはエルフの村を出るとき、選別と言ってもらった魔石だった。
「おそらく、あの柱を維持しているのは精霊石の持つ膨大な魔力だと思います」
「だろうな」
冷たい目で見られながらのプレゼン。はっきり言って不安しかない。
「おそらく精霊石ほどではないにしろ、この魔石にも相当な量な魔力が詰まっているはずです」
「....わかった、言いたいことはわかった。だが一つ言うぞ、かなりの自殺行為にしか思えない」
「はい、俺もそう思います」
考えている内容はこうだ。
誰もが一度は見た事があるかもしれない有名な冒険考古学者の記念すべき最初の作品の冒頭。そこで彼は遺跡の秘宝を運び出すため、偽物を用意しその偽物と秘宝をすり替えて遺跡を脱出したのだ。
まぁ、結局失敗しているが。
「でも少なからず、1分くらいは持ってくれると思います。そしたらこの遺跡は脱出できるでしょう」
「まぁ....だが危険だぞ」
レギナは剣を地面につき、それを支えに腰を上げた。どうやらこの作戦に乗るらしい。
「もう一度言っておくが、墓石のない墓は嫌だからな」
「墓石になんでこだわるんですかね....まぁ、聞きませんが」
そうして、部屋の中心にある水の柱へと近づく。それにしても、本当に現実の世界にこんなものがあるのかと思うくらいに美しい。そして、その柱の中心で輝くサファイアのような精霊石。
さて、本番だ。
両手を広げ、それぞれ同時に水の柱の中へとゆっくり突っ込んで行く。
水の中はひんやりしていて、わずかではあるが流れを感じる。そして左手に持った青の魔石を徐々に精霊石へと近づけて行く。
そして
魔石で精霊石を押しのけ、右手に精霊石を収める。
次の瞬間。
突如濁流のごとく、頭の中に記憶が流れ込んできた。
「....っ!」
「おいっ! 急げっ!」
必死に頭の中に流れてくる映像を振り払おうとするが、右手に持った精霊石から流れてくる記憶の濁流は簡単に意識を戻してくれない。
「くあっ!」
「足を動かせっ! さっさと出るぞっ!」
レギナに服を捕まれ、部屋から引きずり出されるようにして通路へと向かう。多少意識が目の前の向いたところで先ほどまでいた部屋を振り返ると、水の柱の中心に先ほど手に乗っていた魔石がしっかりと精霊石と同じように収まっている。しかし、魔石のペンキのような青は時間が経つごとにその色を失っているようにも見えた。
おそらく、あれが消えた瞬間がタイムアウトだ。
「大丈夫かっ!」
「あれ、レギナさん。心配してくれているんですか?」
「阿保っ! 貴様がここで死んだら、私がここまで来た意味がなくなるだろっ!」
徐々に足が動かせるようになり、あとは一目散に出口へと向かうだけだ。
幸いにもこの遺跡は儀式を行っていた場所というだけあって、それほど入り組んだ構造をしていない。監獄の地下にあった迷宮とは大違いだ。角を曲がったり階段を上がったりを繰り返しだいたい800mコース。それを1分ほどで走り抜けるというチャレンジだ。
はっきり言って、こんな無謀なチャレンジ、正気の人間の沙汰ではない。
もっと簡単に説明しよう、400mトラックを見たことがあるだろう。そしてそこには障害物が立ち並んでおり、それを1分以内に2周しろということなのだ。
もう一度言おう。
無謀だ。
「ここを登り終えたらあと少しだ」
「そうです....っ!」
突如、激しい爆音が建物を包み込む。同時に足元が激しい揺れを引き起こし、体が大きく揺らぐ。
魔石の魔力が切れた。
「止まるなっ!」
「言われなくてもっ!」
先ほどと比べ、ペースを上げて通路を渡る。天井にヒビが入り、通路のなめらかに舗装された壁にも大きな亀裂が入る。
「くそ....っ!」
「もう少し....もう少し....」
もう少しっ!
その時だった。
右腕の痛みが、体全身を麻痺させた。
「....え?」
「わかってるっ!」
レギナの持っている剣が巨大な幽霊の脳天を叩き斬る。そして真っ二つに割れた半透明な幽霊の残骸は空気に溶けるようにして、その場から消え去った。そして、完全に幽霊の消失を確認して二人とも大きなため息をつく。
「それにしても貴様。こう言った幽霊の類が苦手なのか?」
「ほっといてください。トラウマがあるんです」
自分がこんなにもホラーが苦手なのには原因がある。まぁ、とても恥ずかしくて言えたものじゃないが。
レギナが剣をしまい、目の前の光景に目を向ける。
そこには、美しく、そして恐ろしく、物理の法則に反したものがあった。
何て表現していいのかわからない、ただこの建物において重要な柱だというのは理解した。とても大きな柱だ。
そうだ、例えるのならば水族館でよく見かけるアザラシが縦長に通るために用意された水の通っている通路と言えばわかりやすいだろうか。そして、目の前にあるのは形状こそ同じだが、覆われているガラスは存在していない。
そして、その中心で漂っている物体。
まるで宝石のサファイアのような物体。大きさは小指の爪ほど、まさにそれこそが青の精霊の精霊石である。
「まぁ、見つかったな」
「はい、そうですね」
だが、一つ問題がある。
「おそらくだが、これ。外したら建物ごと倒壊しないか?」
「....ですね」
レギナが予測をいうが、おそらくそれは正しい。
その物理法則に反した水の柱は天井と地面につながるようにして流れている。そして天井と地面には血管状に広がった青い筋のようなものがびっしりと広がっており、どう考えてもこの建物構造上、重要な役割を担っているというのは一目瞭然だった。
「これを外した瞬間に建物は崩壊して、この遺跡の下敷きだな。言っておくが、墓石のない墓は嫌だぞ」
「一応石なんだからいいじゃないですか。まぁ、方法は探しますけど」
そうして、二人は手分けをして部屋を散策する。
部屋は円状に広がっており、丸いその壁をそれぞれ反対の方向に調べている。壁にはそれぞれなんらかの文字が彫られており、それはまるでパレットソードにブレード部分に書かれている文字とそっくりだった。
そして例外なく、その文字を自分は読むことができる。
「全く、なんて書いてあるのか読めない」
「なんか気になるところがあったら言ってください。自分が訳しますんで」
「読める貴様も大概だがな」
レギナには一応、この手の精霊文字は読めるといううことを伝えてある。そして、この世界の言語ならほとんど読めるかもしれないということもだ。ある意味、今回がその証明になるだろう。
そして互いが壁の周りを歩き、一周をして元の場所へと戻ってきた。
「どうだ、何かこの精霊石を取り出す方法は見つかったか?」
「いえ。儀式の方法についてと、ここに精霊石を封印した経緯しか書かれていませんね」
「そういえば、あの青の精霊はその経緯について話さなかったな」
確かに、彼女はその経緯については話したくないということだった。実際にも彼女と初めて会った時、『精霊石は失くした』と嘘をついていたのだから相当のことがあったのだろう。
だが、その『相当なこと』の経緯がそこには描かれていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
四人の勇者を召喚した魔術師は恐れた。
まさか、召喚された勇者ですら無色の持ち主であるということに。
そこから先は地獄の始まりだった。
国は召喚した勇者を迫害し始めた。
国を滅ぼす兵器として、道具として洗脳するために。
街を歩けば侮辱の言葉を浴びせられ、様々なものをぶつけられる始末だった。
そして、使われるがまま使われるがまま。
四人の中で、最も剣に秀でた者に、一振りの剣が与えられた。
剣には白銀、鞘には宝石をあしらい、腰に巻くベルトには龍の翼が使われた。
そして、勇者四人はその剣を持ち、無色の国へと進んだ。
軍はついてこない。全ては、召喚されたこの天命に応えるのみ。
だが、勇者を照らしたのは、希望の光ではなく。
破滅の光だった。
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「やっぱりダメですね、どう頑張ってもこれを外したらこの建物は壊れます」
「ダメか....」
隣でレギナが落胆したかのようなため息をついて、その場にしゃがみ込む。そして今自分の目の前にある壁には精霊文字でこんな詩が書かれていた。
『禁忌に触れし者。その探求にて自身を破滅させる、己の欲に埋もれ自らの過ちを悟れ』
読んで字のごとくというわけだ。それにしても、この壁画の説明といい、厨二病が若干混ざっているのは気のせいではないはずだ。とにかく内容から察するに自分の考えていることは正しいということは大いにわかった。
「それで? 結局青の精霊石を手に入れることなく、貴様はその刺青に殺されるというわけだな」
「それは困りますね」
「いいじゃないか、それでめでたく私は解放されるわけだ」
壁に頭をくっつけ天井を見上げるレギナだが、その様子にどこか違和感を感じていた。
「レギナさん....もしかして怒ってます?」
「もしかしてもクソもあるか。私はいつだって不機嫌だ、特に貴様の前ではな」
そう言って顔をこっちに傾け冷たい視線を送る彼女の目は確かにいつもと変わらない。やっぱり気のせいだったか。
「それでどうする。この場所でくたばるのか? だったら私はこの遺跡からは出るぞ」
「もうちょっとだけ待ってください。もしかしたら....方法があったかもしれません」
「....聞かせてもらおうか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
剣に収められた7つの精霊石。
魔術師たちの精密かつ、計算し尽くされた技術で作られた、三つの神器の一つである。すべての色を統べる魔剣。
そして、
四人の勇者と無色の国もろとも吹き飛ばす破滅の光を放った剣そのものである。
最初から違う世界の人間を召喚したのは、自分たちの国の人間に自殺まがいなことをさせないため、最初から、呼び出されたその瞬間から
彼らはただの道具にすぎなかったのだ。
聖典には、それまでの一部始終は描かれていない。ただ、何の罪のない無色の国は世界に破滅をもたらす魔王の住む国として。そして、そんな世界を救うため、希望の光をもたらす剣を手にした異世界の勇者との綺麗な戦いを描いたものだ。
これが、原書の語る真実である。
そして、これが。
今一色 翔の持つ剣の正体である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「えっと、ここに青の魔石が一つあります」
「あぁ」
右手に持っているのは拳大の青色のペンキを塗りたくった石が一つ乗っかっている。これはエルフの村を出るとき、選別と言ってもらった魔石だった。
「おそらく、あの柱を維持しているのは精霊石の持つ膨大な魔力だと思います」
「だろうな」
冷たい目で見られながらのプレゼン。はっきり言って不安しかない。
「おそらく精霊石ほどではないにしろ、この魔石にも相当な量な魔力が詰まっているはずです」
「....わかった、言いたいことはわかった。だが一つ言うぞ、かなりの自殺行為にしか思えない」
「はい、俺もそう思います」
考えている内容はこうだ。
誰もが一度は見た事があるかもしれない有名な冒険考古学者の記念すべき最初の作品の冒頭。そこで彼は遺跡の秘宝を運び出すため、偽物を用意しその偽物と秘宝をすり替えて遺跡を脱出したのだ。
まぁ、結局失敗しているが。
「でも少なからず、1分くらいは持ってくれると思います。そしたらこの遺跡は脱出できるでしょう」
「まぁ....だが危険だぞ」
レギナは剣を地面につき、それを支えに腰を上げた。どうやらこの作戦に乗るらしい。
「もう一度言っておくが、墓石のない墓は嫌だからな」
「墓石になんでこだわるんですかね....まぁ、聞きませんが」
そうして、部屋の中心にある水の柱へと近づく。それにしても、本当に現実の世界にこんなものがあるのかと思うくらいに美しい。そして、その柱の中心で輝くサファイアのような精霊石。
さて、本番だ。
両手を広げ、それぞれ同時に水の柱の中へとゆっくり突っ込んで行く。
水の中はひんやりしていて、わずかではあるが流れを感じる。そして左手に持った青の魔石を徐々に精霊石へと近づけて行く。
そして
魔石で精霊石を押しのけ、右手に精霊石を収める。
次の瞬間。
突如濁流のごとく、頭の中に記憶が流れ込んできた。
「....っ!」
「おいっ! 急げっ!」
必死に頭の中に流れてくる映像を振り払おうとするが、右手に持った精霊石から流れてくる記憶の濁流は簡単に意識を戻してくれない。
「くあっ!」
「足を動かせっ! さっさと出るぞっ!」
レギナに服を捕まれ、部屋から引きずり出されるようにして通路へと向かう。多少意識が目の前の向いたところで先ほどまでいた部屋を振り返ると、水の柱の中心に先ほど手に乗っていた魔石がしっかりと精霊石と同じように収まっている。しかし、魔石のペンキのような青は時間が経つごとにその色を失っているようにも見えた。
おそらく、あれが消えた瞬間がタイムアウトだ。
「大丈夫かっ!」
「あれ、レギナさん。心配してくれているんですか?」
「阿保っ! 貴様がここで死んだら、私がここまで来た意味がなくなるだろっ!」
徐々に足が動かせるようになり、あとは一目散に出口へと向かうだけだ。
幸いにもこの遺跡は儀式を行っていた場所というだけあって、それほど入り組んだ構造をしていない。監獄の地下にあった迷宮とは大違いだ。角を曲がったり階段を上がったりを繰り返しだいたい800mコース。それを1分ほどで走り抜けるというチャレンジだ。
はっきり言って、こんな無謀なチャレンジ、正気の人間の沙汰ではない。
もっと簡単に説明しよう、400mトラックを見たことがあるだろう。そしてそこには障害物が立ち並んでおり、それを1分以内に2周しろということなのだ。
もう一度言おう。
無謀だ。
「ここを登り終えたらあと少しだ」
「そうです....っ!」
突如、激しい爆音が建物を包み込む。同時に足元が激しい揺れを引き起こし、体が大きく揺らぐ。
魔石の魔力が切れた。
「止まるなっ!」
「言われなくてもっ!」
先ほどと比べ、ペースを上げて通路を渡る。天井にヒビが入り、通路のなめらかに舗装された壁にも大きな亀裂が入る。
「くそ....っ!」
「もう少し....もう少し....」
もう少しっ!
その時だった。
右腕の痛みが、体全身を麻痺させた。
「....え?」
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