私は逃げます

恵葉

文字の大きさ
30 / 83

帰還

しおりを挟む
山の中を彷徨い歩いた数か月…なわけは無いです。
ほんの三日程度です、彷徨い歩いたのは。
登ってきた方角と、反対側へ尾根を進み、途中で下へ降り、川沿いを上流へ向かって進みました。

川沿いの理由の一つは、水を確保出来るから。
運が良ければ魚という食料を確保出来るから。
三日で捕まえられた魚は5匹…鮎みたいな魚でした。
木の枝に刺して、焼いて食べました。
塩が欲しかったな…。
途中、栗の木も見付け、小ぶりの栗でしたけど、落ちていたので、まだ落ちて間もない感じのを、拾って焼いて食べました。
落ちて日が経っていると、虫が入ってしまっていたりするから…いや、入っていましたけどね…でも落ちてすぐの方が、少ないし。
攫われてから、サバイバルだなぁ…。
貴族の子息令嬢のする事ではないですよね。

レイとは、他愛もない話ばかりしていました。
お互いに疲れていたし、だから重い話はしたくなくて、それに険悪な雰囲気になるのも嫌で。
昔の幼馴染との思い出も話しました。
一緒に夜祭りに行って、その帰りに見渡す限りの星を見たこと、幼馴染が星座を幾つか教えてくれたこと。
でもその星座が何かは言えませんでした…この世界と違うかもしれないから。
幼馴染と、冬にかまくらを作った事も話しました。
作り方も知らない状態で作っていたら、庭師のおじさんが手伝ってくれたこと。
実は本当は前世の父ですけど、父だって言ったら、この世界の父とは全く違うから、おかしなことになってしまうので、勝手に庭師にしてしまいました。
頑張って大きなかまくらを、頑丈に作りすぎてしまって、春になっても溶けず、ついには父に言われて、泣く泣く壊したこと。

レイは子供の頃、アンドリュー様と遊んでいて、アンジェリカ様が怒ってしまった事とか、話してくださいました。
アンドリュー様や、他の男の子たちと、湖へ釣りに行って帰ってきたら、そもそも釣りなんて好きでもないのに、誘わなかったことを凄く怒られ、以後、一年以上も釣りを禁止されてしまったこととか。
アンジェリカ様は、唯一の女の子だったので、ご両親から溺愛されているそうで、少々我儘で困っているそうで。
少々の我儘かな?
私がアルと茶会へ訪れた時、アンジェリカ様は私の事は完全無視して、アルの腕を掴んで連れ去って、右も左も分からない私を一人放置するという事をやってくれたけどな…。
まあ…レイも妹には甘いのでしょうね…その甘さの半分でも、うちの兄さまに欲しかったですよ。

そんなくだらない話をしているうちに、川の河口である湖にたどり着きました。
そのあたりには、湖を囲むように集落が沢山ありました。

次の問題は、私たちにはお金が無いという事です。
所持品は全て取り上げられていましたからねぇ。
ナイフの一本くらいは残してほしかったです。
ナイフ一本でサバイバルは随分と楽になるのに…。
うん、次からは、ナイフを隠す場所を考えよう…新たなナイフも開発したいですね…攫われても奪われないようなものを。
取り敢えず、最初の集落は通り過ぎ、次の集落で、湖で釣りをしていたおじさんに、私がここがどこなのかとか、聞きに行きました。
「おじさん!釣れる?」
「まあ、ぼちぼちだなぁ。
お嬢ちゃん、この辺の子じゃないねぇ。どっから来たんだい?」
「ん…王都から親戚のお兄ちゃんと来たんだけどね、ちょっと迷子になっちゃって…。
この辺ってどこなの?王都から遠い?」
「王都から来たのかい。
まあ遠くは無いけどお嬢ちゃん、歩いて帰るのは無理があると思うよ。」
聞けば、ここは王都の近くの街でした。
まあ…また歩けって言われたら、再び三日掛かるかな…まともに歩けてですけど。

レイに話すと、その街にはレイの従兄弟の別荘があるはずと。
行った事もあるというので、そこを目指して再び歩き始めました。
従兄弟本人が居なくても、管理しているものが居るはずだから、従兄弟に連絡を付けてもらえるだろうと。
正直言って脚はもう限界に来ておりまして、半ば引きずるようにして歩いておりました、私。
頑張ったんです…本当に頑張ったんですけどね、私…でもついに脚が動かなくなりました。
脚が固まったように持ち上がらないの。
一歩一歩持ち上げるようにしてやっと。
それではレイの従兄弟の別荘まで、何時間かかるか分からない。
なのでついに私は湖の畔に置いて行ってもらって、一人で向かってもらいました。
私は湖畔にあった大きな岩の陰に隠れていることに。

岩陰に座って、ぼうっとしていると、疲れがどっと押し寄せ、眠くなってきてしまいました。
でも…眠ったら、また攫われるのではとも思い、必死で瞼を開けていようとするのですが。
瞼が重いというのも、こういうのを言うのですね…開けていられない。
座っていたら危険だと思い、立ち上がって少しでも動こうと岩に手を掛けるのですが、今度は立ち上がれない。
脚に力が全く入らず、岩によじ登るように這い上がって、ようやく立ち上がりました。
その瞬間、こちらを凝視する人が目に入り。
瞼もしっかり開けていられず、疲労で思考回路も停止する一歩手前状態の私には、判断能力もまるでなく。
「やばい!追手に見つかった?!」
と必死で動かない身体を動かそうとしました。
次の瞬間、追手に捕まっていた…というか、抱きしめられている?!誰???

「良かった!生きていた!!!」
「あ…アルだ…。」
見えないけどその声に、相手が誰か気が付き、そのまま意識を手放してしまいました。

アルは倒れた私を滞在していた宿に寝かせ、その後、私と一緒に行方不明になったレイを探し、レイにも無事に合流出来ました。
何でも、私とレイは、駆け落ちしたのではないかという噂も出回っているそうです。
例の既成事実を作ろうとされた事といい、犯人は、私を傷者にしたいか、私とレイを無理矢理にでも一緒にしたいか、若しくは私とアルが一緒にならないようにしたいか…そのどれかしか無いでしょう。
しかし駆け落ちの噂が流れているという事は、それで私とレイが一緒にならなければ、レイも駆け落ち相手を捨てた男となってしまいますので、傷者にしたいというよりも、私とレイを一緒にしたいか、若しくは私とアルが一緒になる事を阻止したいか…。
寧ろ私とレイを一緒にしたいという方が強い気もしますが。

それで得をするのは誰だろうという話になりました。
得をする人…何人も思い当たります。
先ず、姉さまたちは、私が公爵家へ嫁ぐのは良しとはしません。
自分たちの方が立場が下になるから…侯爵家くらいが丁度良いとか思っていそう。
父さまは公爵家の方が良いと思っている気もしますが、母さまは姉さまたちの味方なので…。
更にはアンジェリカ様は、私がレイと一緒になるのは気に入らないと思っていそうですが、アルから引き離せるなら話は別となりそうです。
他にも考え始めたら、幾らでも出てくる得をする方々。
手っ取り早いのは、私たちが閉じ込められていた邸の持ち主辺りから探るのが良いのではと思いました。
と言っても、11歳児の私に出来る事は、ほぼ無いので、それはアルとレイに任せ、私はいつ、どんな時でも逃げられるように、鍛錬を積もうと思いました。

私たちは、暫く湖畔の街に滞在していましたが、王都の公爵家別邸へ戻る事にしました。
敵が分からない以上は、別邸へ戻るしかないんですよね。
アルの関係者の可能性も考えられるのですが、それでも戻るしかない。
私達が攫われて、割とすぐに、アルも別邸を飛び出し、探してくれていたそうです。
それを利用し、私はレイと二人きりでいたわけではなく、三人で雲隠れしていたことにしようと相談しました。
レイの従兄弟に協力を仰ぎ、レイの従兄弟の別荘の、更に所有する湖の中に浮かぶ孤島にあるこじんまりとした家に雲隠れしていたことにするという話でした。
その孤島の小さな家は、そもそも引っ込み思案なその従兄弟さんが、引き籠もりたくなった時のために建てられた、使用人でさえもその存在を知らない家なのだそうです。
レイはいざという時のためにその従兄弟から教えられていて、知っていたそうです。

今回の件で、その家の存在が知られてしまいますが、そもそも簡単には行けない場所にあるとかで!存在を知っても、招かれなければ島に上陸も出来ないらしいです。
だから多少は存在を知られても問題ないと言って頂けました。

そこで数日間過ごした後、私たちは王都へ帰還することになりました。
その数日間の間に体調とか整えたり、少しだけのんびり過ごしました。
それで気が付いたのですが、確かにアルと私の間に恋愛感情は無いです。
でもどうやら私を妹のように思っているようで、私が攫われたときも、アルは自ら邸を飛び出して探しに行き、公爵様が止めても聞かず、公爵家では大変だったらしいです。
アルは笑いながら話していましたが、湖畔で再会したときの、アルの疲れ切った顔に泣きそうな瞳で抱きしめてくれたことは忘れません。

帰還後は、私は暫く部屋に引き籠もり予定です。
公爵家別邸の使用人の中に、私たちを攫った犯人の協力者が居ないとは限らないし。
アルとレイがあの閉じ込められていた邸の所有者とか調べる予定です。
犯人が捕まれば良いのですが…。
しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。

りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。 やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか 勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。 ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。 蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。 そんな生活もううんざりです 今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。 これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...