私は逃げます

恵葉

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目覚め

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レイは前に過ごしていた客間で看病することになり、アンドリュー様はその隣の客間へとなりました。
私の部屋からは少し離れてはおりますが、問題無いです。

アンドリュー様とバーバラ様と話し合い、日に何回かはアンドリュー様に看病を代わっていただき、バーバラ様に勉強を見ていただくことになりました。
基本はレイの部屋で、看病をしながら自習です。
それ以外の時間は、可能な限り、私はレイの看病をすることになりました。

「レイ…朝だよ…。今日はお天気も良いよ。
起きて一緒に朝ご飯、食べようよ。元気になったらレイが気に入っていたフレンチトーストも作ってあげるよ?」
私は朝昼晩と食事もレイの枕元で食べ、話しかけ、食事の香りもレイに嗅がせたりとかしていました。
それでもレイは一向に目覚める気配がありませんでした。
夕食を食べ、暫くレイに話しかけた後、一旦、入浴のために私が滞在している部屋へ戻りました。
寝支度をし、再びレイの部屋を訪ねました。

あと何日、レイは持つんだろう…。
飲まず食わずは限界があります。
でも本人に生きる意志が無いように見受けられると、今日、やってきたお医者さんには言われてしまいました。

「レイ…今日も一日穏やかな日だったね…。明日には目が覚めるかなぁ?
起きてまた一緒に食事をしたり、話したり、一緒に出掛けたりしようよ…ね?」

離れがたくてレイの眠るベッドに顔を伏せてボーっとしていました。
ふと顔を上げて身体を起こし、レイの顔に顔を近付け、言ってみた。
「お姫様は王子様のキスで目が覚めるんだよね。
レイは私のキスで目が覚めてくれないかな?」
そして心を込めて、唇を重ねてみました。
二度三度と繰り返し重ねてみました。
でも目覚めない…。
「駄目か…。レイ…。レイ!レイ!レイ!起きてよぉ!!!」
眠り続けるレイに抱き着き、呼びまくった…。



妹のアンジェリカがリーナに対し、あまりにも酷すぎる事をやってしまったことの責任の一端を負い、私はリーナとの婚約を諦め、公爵家マスターソン家別邸を出て、家へ戻ってきた。
正直言って、公爵家マスターソン家別邸を出る前後辺りから、記憶があまりない。
帰宅してからも、私はもう全てどうでも良くなってしまったというか、気力という気力を全て失くしてしまった。

とにかく今は、何も考えずに休みたい。
着替えるのも面倒で、そのままベッドへ入った。
凄く疲れているのに…眠いのに…何故か寝付けない…。
「今頃リーナは…もう眠っているかな…。
あぁ…会いたいな…会えないって思うと、一層会いたくなる…。
リーナ…リーナ…リーナ…。
何故こんな事になってしまったのか…。うぅ…リーナ…会いたい…。」

あれから何時間経ったのか…。
寝ても寝ても疲れが取れない…。
「…うわぁあああああああ!!!!!
何でなんだ!何でなんだ!どうしてなんだ!何でよりにもよってアンジェリカが!!!
絶対に許さない!」
テーブルの上の物を全て払落し、目につくものを片っ端から壁に投げつけた。
でも私の気分は全く晴れない…。
やがて私には時間の感覚がなくなってきた。
食べる気は起きない。
頭がボーっとして、何が何だかよくわからない。
時々、何もかも嫌になり、無性に暴れたくなり、目に付くもの、手が触れたものを投げつけ壊している。
誰にも会いたくない。
それでもアンドリューが時々、少しでもと、食事とか水を運んでくる。
何でアンドリューがそんな事をしているのか、よく分からない。
もう本当に色々良く分からないんだ…。

そしてまたアンドリューが来た。
アンドリューは余計な事は言わないし、だから時々、部屋にいれてやっていた。
すると今日は何と、リーナを連れてきた…。
リーナに会いたい!会いたい!会いたい!
…でもこんな姿の私は見られたくない!会えない!
何でアンドリューはリーナを連れてきたんだ…もうほっといてくれ!
でも…会いたい…リーナの顔が見たい…声が聞きたい…触れたい…。
私はダメな人間だ…結局、拒否なんて出来ない。
ドアの隙間から、久しぶりにリーナの声を聞いたし少しだけだが姿を見てしまった。
だけど私の姿を見せる勇気は無く、頭からシーツを被るという、子供じみたみっともない恰好を見せてしまった。
それでももう良いや…もう色々疲れた…最後にリーナの声が聞けて、姿が見られて良かった…。

そしてまたどのくらい時間が経ったのか、気が付くと私は公爵家マスターソン家別邸の庭に居た。
でもこれは夢だ…アルとリーナの三人で暮らしていた、あの頃だ…。
別邸の庭の大きな欅の木の下で、敷物を敷いて、三人で寝転がって本を読んだ、あの時だ。
あの頃に戻りたいなぁ。
いや、ここに居られるなら、夢でも良いや、ずっとこのままで居たいな。
あぁ…何て温かい夢なのかな。

でも何か重い…身体の上に何か乗っているようだ。
重い…。
そっと瞼を開くと、見慣れているけど、そんなはずは無い、天蓋が目に入った。
私は家へ戻ったはずなのに、この天蓋は公爵家マスターソン家別邸の私が滞在していた部屋のベッドの天蓋にそっくりだ…。
これも夢なのか?
それにさっきから何かが身体に乗っている。
いや、誰かが私の身体を押さえつけている?
そっと頭を起こして、私に抱きついていると思わしき人物を見てみた。
「…リーナ?やっぱりこれは夢?」
ぼそっと呟くと、その人物が顔を挙げ、目が合った。
「起きた…レイ!起きたのね?!良かった!!!」
リーナだった…リーナが更に私を締め付けるように抱きついてきた。
「ここはどこ?夢の中なの?何でリーナがいるの?」
「夢じゃないよ。本当に私が居るよ!良かった!レイが目を覚まして!」
私は疲れていて思考が全く働かない。
するとリーナが私の額に手を当てた。
「まだ熱、あるねぇ…でも本当に気が付いて良かった!
待ってて!今、白湯を作って持ってくるから!あ、でもその前に少しでも水を口にした方が良いよね!」
そう言ってリーナがベッドから降りた。
水差しとグラスを持ってきて言った。
「レイ、少し身体を起こせる?」
そう言って水差しとグラスをサイドテーブルに置き、再びベッドに上ってきて、私の身体を一生懸命起こそうとした。
私も良く分からないまま、何とか必死で起こすと、私の背にリーナが沢山のクッションを入れた。
身体が思うように動かない。
これはどういう状況なんだろう?
ボーっとリーナを見ていた。
「大丈夫?はい!少しだけ水を口に含んで!そしてゆっくり飲んで!」
そう言って、リーナは、一口、また一口と、ゆっくり私に水を飲ませた。
喉が…乾いた砂に水が沁みていくように水が沁み渡っていった。
「ちょっとだけ待っていてね!起きて待っていてね!ね!」
リーナが私の顔を覗き込み、念を押すかのように、私から目を話すのが心配だとでもいうように言い、ドアの方へ掛けて行った。
ドアの向こうで人を呼ぶ声が聞こえ、リーナが何かを話しているようだった。
すると再び戻ってきて、ベッドサイドの椅子に座った。
「今ね、白湯とスープを持ってきてくれるように頼んだから。
先ずは少しずつ体力を戻そう!
それでね、本当は身体を拭いてあげたいけど、今日、少しでも食べられたら、明日、拭いてあげるね!」
「ここは…どこ?」
「ここは公爵家マスターソン家別邸だよ…別邸のレイが滞在していた部屋だよ。
公爵様と、レイのお父様が相談して、ここへ連れてきてくれたの。
アルは居ないけど、その代わりにアンドリュー様がレイに付き添ってきているよ。
アンドリュー様、呼んでくる?」
「呼ばなくて良い…。私はどうしてここに?」
「ドアの隙間越しに私に会ったのは覚えている?」
私がうなずくと、リーナは続けた。
「その翌日ね、約束通り、また侯爵家スチュアート家へ行ったの。
でもどんなに呼んでもレイの返事が無くて…ごめん…窓を割って、強引に入っちゃった!
そしたらレイが凄い高熱で倒れていて。
お医者さんを呼んでもらって診てもらったんだけど…心が疲れちゃっているって言われてね。
それで公爵様とレイのお父様が相談して、ここで療養した方が良いだろうって。
ここなら私が居るからね!」
「そうか…迷惑をかけてごめんね…。でも私がここに居ては…。」
「ここに居て良いって公爵様は言ったよ。それにアンドリュー様も付き添った方がって言ったのは、公爵様だし。
だからね、今は何も考えなくて良いから、しっかり休んで、元気になって!」
そしてドアをノックする音が聞こえ、リーナが走っていった。
少しだけドアを開け、ワゴンが部屋へ入れられ、リーナがそれを押して戻ってきた。
「スープ、少しでも食べられる?」
それは味も薄くて、具は何もないスープだった。
それをゆっくりゆっくり飲み干す間、リーナはずっとそばに居てくれた。
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