私は逃げます

恵葉

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第二章

再会 前編

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リーナが住んでいるだろう街へ到着した。
会えるわけでは無いけど、それでも同じ空の下にどこかにリーナが居ると思うだけで、胸が苦しいけど、それでも嬉しくなった。
私はリーナの現状は知らない。
知ろうとしなかった。
もう会う事も無いし、だから知りたくなかった。
知りたいと思えば、アンドリューはリーナと手紙のやり取りをしているし、アルの親戚の家に養女に行ったので、アルに連絡を取れば分かる。
でも…過去にするには、知らないほうが良いと思った。

到着し、滞在先は従姉弟のイヴォンヌの結婚相手の家なので、先ずは皆に合わせて行動をとる事にした。
数日は体調を整えるべく邸内でゆっくりし、到着した日から数えて5日目にささやかな夜会を開くとの事で、私も参加しなければいけない。
しかし適当に過ごしたら、こっそり部屋へ戻って良いと伯父がいうので、そうさせてもらうつもりだった。

イヴォンヌの結婚相手の家の関係者が殆どだと聞いていた。
始まって暫くは、そこを離れるわけにはいかないが、知っている人が居るわけでも無いし、新たな交流を求めるわけでもないので、会場の一番奥の、両家の親族が集まる場に、私も留まっていた。

するとこの国の第三王子がイヴォンヌの相手の友人だとかで、半ばお忍びでやってきたとの事だった。
まあ私には関係ないし、挨拶を交わすことも無いので、そこで他の従兄弟たちの会話に耳を傾けていた。
するとたまたまこちらを注視していたイヴォンヌが呼ばれ、振り返ろうと動いて出来た、ホンの隙間から見えた人物に、私の頭は真っ白になった。
周りの音も何も聞こえなくなり、彼女しか見えなかった。
彼女も私を見つめていた。
しかし次の瞬間、彼女が倒れると思った私は、無我夢中で彼女を抱き留めようと走り込んでいた。
私が彼女の下に滑り込み、彼女の身体が床に打ち付けられるのは回避できた。

私は彼女の身体を抱きしめられた喜びよりも、真っ白な顔に瞼を閉じたままの彼女が心配で、慌てて抱きしめたまま立ち上がり、伯父に相談した上でこの夜会の親族控室へ運んだ。

長椅子に彼女を寝かせるも、彼女は瞼を開く様子は無く、そっと彼女の名前を呼び掛けた。
「リーナ…リーナ…目を開けて?」
しかし彼女が瞼を開く様子は無く。

外が少し騒がしくなってきたと思ったら、この家の使用人が、この国の王子殿下と、リーナの両親を案内してきた。
両親と聞いて、あの身勝手な伯爵夫妻かと思ったら、別人だった。
アルの親戚の家へ養女に入ると聞いていたが…この二人がリーナの養父母なのか?
王子殿下が何故ここにきている?
そんな事を考えていると、伯父が最初に王子殿下やリーナの養父母に挨拶をし、そして私を呼び、紹介した。

王子殿下は、リーナの夜会のパートナーだった…。
リーナは、すっかり遠いところの人になったのだなと痛感した。
彼女はなかなか目を覚まさず、今夜はこのままイヴォンヌの結婚相手の邸に養母と一緒に泊まる事になった。

私たちは再び会場へ戻る事になり、部屋を出ようとしたところ、王子殿下に呼び止められた。
先ほど、リーナの養父母に紹介された際に、私がリーナと知り合いであることは説明されたが、それが良くないのだろうか?
王族のパートナーに他に親しい男がいるのは、外聞が悪い?
悪いかもしれない…。
もう一度、リーナと話がしたかったけど…叶わないだろうな…。

先に親族だけが会場へ戻り、私はしばらくそこへ留まる事になった。

「君はリーナとどのような関係なのかな?」
「…幼なじみのようなものです…元婚約者候補の一人でした。」
「それ以上に親しかったようにも見えるが?」
「二人でではありませんが、もう一人の婚約者候補の幼なじみと三人で良く一緒に過ごしておりましたから…。」
「もしかして君は、スチュアート家の?」
「…そうですが今回のイヴォンヌ嬢やこちらに来ている親戚とは、遠縁です。
私はたまたま留学していたので、同行させていただけたに過ぎません。」

スチュアート家の存在によって、従姉弟の結婚にケチが付いてはいけないと思い、我が家は親戚と言っても遠縁であることを申し上げ、暗につながりの強い家同士ではないとお伝えした。
しかし殿下の興味はそんな話では無かったようだ。

「それで?今回はその幼なじみ同士、旧友を温めるのかな?」
「…いえ…私はあくまでも親戚の婚礼のために参りましたので…。」
「そう…。しかし君のもう一人の幼なじみも今はまだこの国に居るのでは無かったかな?
留学期間を終えて、もうすぐ帰国するとも聞いているが。
今日は来ていないようだけど…彼には会いに行くのかな?」

正直言って少しイライラした。
この王子殿下に、私たち三人の事は、関係ないのではないだろうか。
何故こんなあれこれ聞かれなくてはならないのだろう。
それでも相手が王族である以上は、イライラを顔に出さないようにしなくてはならないし、質問にも答えなくてはならないのだが。

それにしても…そうか…アルは今はまだこの国に居るのか。
そしてもうすぐ帰国という事は、私が帰国する前後にアルも帰ってくるという事か。
そう遠くない未来で、またアルと会える日が来ると良いな…。

この時はただ漠然と、そんな事を考えていた。
アルに意識を向けないと、私の意識は他へ行ってしまいそうだったので…。
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