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二章 死に至る

19 ドラゴン・ブラッド

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 ハミルが死んだのはほんの数日で前だった。

 城屋敷でジーンはアキラを医師に預けた時、アキラは何かを飲まされた可能性があると話してある。

 アキラは魔法師により治癒を繰り返されていた。

 あの時、ジーンはアキラのいる方角に違和感を感じて探していた。そしてハミルがアキラを襲うのを見た。完全に失態だった。その全てに息が詰まりそうになる。

 死んだハミルの部屋の床下には、反乱分子の情報とその対処法が書いてあり、ハミルがマークした名前の中には元王族も含まれていた。全てはジーンを王にするため、インクが染みるほど強く書かれた言葉通りにジーンは王になる。

 ジーンはハミルの遺体をハミルの父母が眠る坑道に一人埋葬した。

 反逆した全ての名前が出揃いハミルが記述した元王族首謀者と、反乱分子全員が始末され事態は収束した。長引かず、速やかに一人も残さず逆らった反逆者を抹殺したことで、ジーンへの忠誠心が増すことまで計算に入れていたのだ。

 政務を手早く終わらせ、三階へ上がって部屋へ入る。食事も水も受け付けなくなったアキラはただ眠っていた。

 ーードラゴンブラッド

 毒の分析の結果はすぐに出た。解毒不可能な劇薬で、絶滅した筈の『黒竜の血』だ。何故ハミルがそんな物を手にしていたのか分からないが、傷が再生するアキラを殺す手立てがない以上、猛毒をどこからか入手したのかもしれない。ジーンの弱みを取り除くために。

「アキラ……」

 アキラの髪を撫でアキラに気付かれないように治癒陣をかける。ハミルが死んで一週間、ドラゴンブラッドは第二段階に来ているのだと医師は話していた。第一段階は吐血を繰り返しそれから身体中に毒が散る。第二段階で毒はその場で周りを溶解して体内がぐずぐずになり、食事や水を口に入れると血混じりの嘔吐をした。

 アキラは溶解と再生を体内で繰り返している。無尽蔵のオドだが、再生スピードが落ちるのか睡眠が深くなっていた。頼みの綱の万能薬はまだ届かない。

「ハミル……私のことを思うなら、アキラを連れて行かないでくれ」

 アキラが身じろぎをしたから治癒陣は終わりだ。

「アキラ、気がついたかい?」

 ふっと目を開け悲しそうな顔をしているのに気がついた。

「ジーン、無理に笑わないでください。僕……」

 アキラに残された命はもう長くない。

 同じ毒を飲んだハミルは即死だった。治験体で薬に耐性があるアキラだからか、再生と治癒能力を持つからか、ハミルより少しだけ生きていられるが、意識が途切れることが多くなった。

「私に出来ることはあるかい?アキラのために何かしたい」

 ジーンが顔を近づけると、アキラが小さく笑う。

「……じゃあ、手を握ってください」

 ジーンは少し驚いたが即座に頷くと、何も出来ない歯痒さを感じて唇を噛んだ。

「本当に?それだけかい?」

「はい、もう誰にも見られたくないです。注射もお医者様もいりません。最後は二人だけでいたいです」

 あまりにも苦しくなりジーンは胸の奥からやってくる感情の何かを堪えて金の目が伏せた。

 ハミルのことは自分の中で折り合いをつけていたし、これからもハミルのことが頭をよぎる時は胸が痛むだろう。しかしアキラは違う。魂の番いで異世界から娶った唯一無二の伴侶だ。

「ずっと……こうしているよ」

 ジーンは何もできない不甲斐なさに掠れた声で告げ、意識が薄れそうになっているアキラの深い息をついた。

「ジーン……もう……そんなに長くはかかりません」

 動揺するジーンにアキラが笑いかける。何か言いたそうにしていたがやめたらしい。ジーンはアキラの耳元で囁いた。

「アキラがいて、私は幸せだ。君はそんな私を一人にして、不幸にしてしまうのかい?」

 しかし返事はなくアキラは再び目を閉じて深い眠りの中に入って行ってしまった。

「アキラ……死なないでくれないか」

 ジーンができることは延命のために治癒陣を繰り出すだけだった。
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