怪奇探究倶楽部譚

坊

男の手が差し出されている、僕がそれを取らないと…
「やああ！」
男はもんどり打って転がり、ニヤッと笑った。
「この子に、触るなぁ！」
「へぇ？」
腫れた頬を気にも止めず立ち上がる。
「なぜ彼にこだわるんです？弟でもないのに。」
「一緒にいたいから。」
品定めのような視線に短く応える。
「そうですか、で、君は？」
前に踏み出る、必要だ。
「僕は彼女と一緒にいる、邪魔するなら…」
「わかりました、それでは。」
身を翻して去っていく。
去ってしまえばあまりにあっけなく、それ以上何が起こるでもない。
映画のような出来事は、非現実的なふわふわした感覚を残して消えてしまった。
「綺羅さぁん！」
前がよく見えないが、とにかく抱きついた
「よしよし、帰ろ。」
「申し訳ございません、坊はお逃げになられまして…」
電話口から長老の責め立てる声がする。
「坊は長になられるのだぞ！？わかっているのか？」
「承知の上でございますが、坊のお力が長を上回っておられると…」
「むう。」
これを言えば長老たちは押し黙る、坊には勝てないからだ。
「俺のような若造にはどうも…」
「よい、戻れ！」
「はは。」