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第5章 1 私はぷりちーアイドル!
ただの偏見です
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家に帰った俺は、リビングでミライに正座させられていた。
「誠道さんはなにをやっているんですか。あんな、『みんなの恋人』なんて、モスキート音より高くて不快な声で、あからさまな嘘をつくような女に見惚れちゃって」
「え? ……ホンアちゃんはみんなの恋人だよ?」
まあ、この俺だけにウインクしてくれたので、みんなの恋人ではなく俺の恋人だと表現しても過言ではないが。
「誠道さん」
ミライのこめかみがぴきりと動く。
「聞き間違いかもしれないので、もう一度よろしいですか?」
「え? もう一度、って?」
「だ・れ・が、だ・れ・の、恋人なんですか?」
「それは……弁解のしようもございません」
ミライの背景に燃え滾るマグマといくつもの雷が見えた。
これは、ただただ謝るしかない。
今日のミライは地獄の門番よりも恐ろしい。
「はぁー、誠道さんは単純すぎて、はぁーもう。アイドルなんて裏でイケメンとずっこんばっこんつき合ってるしょうもない性欲の塊ですよ。いつだってファンを裏切っているんですよ」
「オノマトペおかしいから! いや『つき合ってる』だからおかしくなかったわ!」
付き合ってると突き合ってるがかかってるんですね。
上手いこと言うんじゃねぇってだから!
「いいですか。女性アイドルは男性アイドルと音楽番組という名の公開合コンをしまくるしょーもない生き物なんです」
「いますぐ音楽番組に謝れ」
「舞台上で出演者と公開合コンをしまくるようなしょーもない生き物なんです」
「いますぐ舞台役者たちに謝れ」
「ご想像の通り、プロデューサーとPでPでPしまくってるんです」
「PとPでPってなんだよ! ホンアちゃんに限ってそんなことは……」
まさか、裏ではPとPでPしまくってるなんて。
絶対にありえないよ。
「なにをバカげたことを。女性アイドルはみんな性欲の塊なんです。アイドルになった時点で『私は性欲の塊です』って、自ら世間に言いふらしているようなもの。つまりただの変態なんです!」
「みなさんこれは個人のものすごい偏見解だからねー!」
偏見解なんて、俺もうまいこと言っちゃったかな?
「まだ洗脳は解けませんか。まったく誠道さんは、女からウインクされた程度でこんな状態にまで……」
腕をくみ、呆れたようにそっぽを向くミライ。
でも、あれは確実に俺のことを見て、俺だけのために放たれたウインクだったぞ。
「とにかく、あんなホンアだかアホだかドアホだか知りませんが、今後一切あのアイドルに近づくことを禁止します」
「え……そ、それだけは……」
「そもそも、アイドルと付き合うなんて最低の人間がすることです。告白した側ならいわずもがな、バレたときのリスクを考えられない想像力のないしょうもない男だと揶揄されることでしょう。仮に告白された側だとしても、『あなたのファンを裏切るような人とは付き合えない。それはアイドルを引退してからね』とさらりと言えるのが、真のいい男なんです。わかりましたか?」
「……まあ、そうかもしれないけど」
「だいたい、誠道さんとドアホンアさん。知名度が高いのは圧倒的に超ドアホンアさんでしょう。バレたときにバッシングの矢面に立つのは彼女の方です。アイドルと付き合うことはアイドルを傷つけるのと同義なんです!」
「それは……たしかにミライ様の言う通りです」
いまの時代、バレない可能性のほうが低い。
自分たちだけは大丈夫だ、なんて思えるやつはミライの言う通り、想像力が足りなさすぎる。
そしてバレた場合、彼女であるアイドルの方がより強烈なバッシングを受けることは目に見えており、彼女を精神的に傷付けることになる。
ファンとアイドル仲間を裏切らせた事実だけが残り、彼女が築き上げてきた信頼や人間関係はぐちゃぐちゃになる。
もしかしたらすべてわかった上で付き合い、『世間は君を裏切ったけど、俺だけはずっと君の味方だよ』って彼女を依存させようって魂胆かもしれない。
とんだ自作自演だ!!
「まったく、どこで誠道さんの存在を知ったのかはわかりませんが、今後はあの泥棒アイドルにも伝わるくらい、いま以上に誠道さんの悪評を広める必要があるみたいですね。ってか引きこもりの誠道さんの存在を認知するってもはやただのストーカーでは」
「……ん? ねぇ、ちょっと待って。ミライ、いまなんて言ってる?」
コン、コン。
その時、玄関扉をノックする音が聞こえた。
「誠道さんはなにをやっているんですか。あんな、『みんなの恋人』なんて、モスキート音より高くて不快な声で、あからさまな嘘をつくような女に見惚れちゃって」
「え? ……ホンアちゃんはみんなの恋人だよ?」
まあ、この俺だけにウインクしてくれたので、みんなの恋人ではなく俺の恋人だと表現しても過言ではないが。
「誠道さん」
ミライのこめかみがぴきりと動く。
「聞き間違いかもしれないので、もう一度よろしいですか?」
「え? もう一度、って?」
「だ・れ・が、だ・れ・の、恋人なんですか?」
「それは……弁解のしようもございません」
ミライの背景に燃え滾るマグマといくつもの雷が見えた。
これは、ただただ謝るしかない。
今日のミライは地獄の門番よりも恐ろしい。
「はぁー、誠道さんは単純すぎて、はぁーもう。アイドルなんて裏でイケメンとずっこんばっこんつき合ってるしょうもない性欲の塊ですよ。いつだってファンを裏切っているんですよ」
「オノマトペおかしいから! いや『つき合ってる』だからおかしくなかったわ!」
付き合ってると突き合ってるがかかってるんですね。
上手いこと言うんじゃねぇってだから!
「いいですか。女性アイドルは男性アイドルと音楽番組という名の公開合コンをしまくるしょーもない生き物なんです」
「いますぐ音楽番組に謝れ」
「舞台上で出演者と公開合コンをしまくるようなしょーもない生き物なんです」
「いますぐ舞台役者たちに謝れ」
「ご想像の通り、プロデューサーとPでPでPしまくってるんです」
「PとPでPってなんだよ! ホンアちゃんに限ってそんなことは……」
まさか、裏ではPとPでPしまくってるなんて。
絶対にありえないよ。
「なにをバカげたことを。女性アイドルはみんな性欲の塊なんです。アイドルになった時点で『私は性欲の塊です』って、自ら世間に言いふらしているようなもの。つまりただの変態なんです!」
「みなさんこれは個人のものすごい偏見解だからねー!」
偏見解なんて、俺もうまいこと言っちゃったかな?
「まだ洗脳は解けませんか。まったく誠道さんは、女からウインクされた程度でこんな状態にまで……」
腕をくみ、呆れたようにそっぽを向くミライ。
でも、あれは確実に俺のことを見て、俺だけのために放たれたウインクだったぞ。
「とにかく、あんなホンアだかアホだかドアホだか知りませんが、今後一切あのアイドルに近づくことを禁止します」
「え……そ、それだけは……」
「そもそも、アイドルと付き合うなんて最低の人間がすることです。告白した側ならいわずもがな、バレたときのリスクを考えられない想像力のないしょうもない男だと揶揄されることでしょう。仮に告白された側だとしても、『あなたのファンを裏切るような人とは付き合えない。それはアイドルを引退してからね』とさらりと言えるのが、真のいい男なんです。わかりましたか?」
「……まあ、そうかもしれないけど」
「だいたい、誠道さんとドアホンアさん。知名度が高いのは圧倒的に超ドアホンアさんでしょう。バレたときにバッシングの矢面に立つのは彼女の方です。アイドルと付き合うことはアイドルを傷つけるのと同義なんです!」
「それは……たしかにミライ様の言う通りです」
いまの時代、バレない可能性のほうが低い。
自分たちだけは大丈夫だ、なんて思えるやつはミライの言う通り、想像力が足りなさすぎる。
そしてバレた場合、彼女であるアイドルの方がより強烈なバッシングを受けることは目に見えており、彼女を精神的に傷付けることになる。
ファンとアイドル仲間を裏切らせた事実だけが残り、彼女が築き上げてきた信頼や人間関係はぐちゃぐちゃになる。
もしかしたらすべてわかった上で付き合い、『世間は君を裏切ったけど、俺だけはずっと君の味方だよ』って彼女を依存させようって魂胆かもしれない。
とんだ自作自演だ!!
「まったく、どこで誠道さんの存在を知ったのかはわかりませんが、今後はあの泥棒アイドルにも伝わるくらい、いま以上に誠道さんの悪評を広める必要があるみたいですね。ってか引きこもりの誠道さんの存在を認知するってもはやただのストーカーでは」
「……ん? ねぇ、ちょっと待って。ミライ、いまなんて言ってる?」
コン、コン。
その時、玄関扉をノックする音が聞こえた。
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