あなたが愛してくれたから

水無瀬 蒼

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オメガになりたい8

「優斗、ほら行くよ。あんなの見る必要ないから。ちょっと顔がいいからっていい気になってるだけなんだ。人にあんなこと言えるんだ。性格悪いにもほどがあるだろ」

 樹くんはそう言う。けれど、僕は胸が痛いままだ。
 母に出来損ないと言われるのは仕方がない。加賀美の家の役に一切立たないベータなんだから。それも、散々ホルモン剤を注射しても後天性オメガにもならなかった。
 オメガでないのなら、まだアルファなら良かった。他家からオメガを娶ることができるから。でも、ベータはどちらもできない。嫁ぐことも娶ることもできない。本当に役立たずなんだ。
 けれど、ベータは見ず知らずの人間にまでそう言われなければならない存在なのだろうか。やっぱり僕は樹くんに不釣り合いなんだ。そう思ってしまう。

「あんなの気にしなくていいから。他人にあんなこと言える神経を疑うよ」

 今まで二十ニ年生きてきて、他人にあそこまで悪意のある言葉を言われたのは、親を抜かしたら初めてだった。
 樹くんは気にするな、と言うけれど僕は気になってしまう。だって、僕がオメガだったらあんなこと言われなかったんだ。 
 樹くんの言葉に何も返さない僕に樹くんは足を止めて言った。

「俺が誰と付き合うかは俺が決める。そうして決めたのが優斗だ。そこに性別は一切関係ない。だから優斗は自信を持って」
「でも、僕がベータでなければ……」
「言っただろう。性別は関係ないって。優斗がベータでもオメガでもなんでも関係ないんだよ」
「樹くん……」

 樹くんの言葉に、僕はそれ以上何も言えなかった。
 オメガになりたい。別に加賀美の家に役立ちたい、というわけじゃない。母は命を断ち、もともと寄り付かなかった父は、変わらずに僕の顔を見に来ることはない。戸籍上、父となってはいるけれど、子供の頃から何かをして貰ったことはない。
 一年に数回、母の元へ顔を出していたようだが、母が死んでしまえば、それもなくなる。何しろ加賀美の家にとってなんの役にも立たないのだから。だから、父と会うことなんてお盆とお正月のときくらいしかない。
 だから今さら父のためにオメガになりたいとは思わない。僕がオメガになりたいのは、樹くんの隣にいたいからだ。
 ベータの僕がアルファの樹くんに不釣り合いなのはわかっていたけれど、今日、他人にまで言われてしまった。だから僕はオメガにならなきゃいけないんだ。そう。誰のためでもない。僕自身のためにもオメガにならなきゃいけないんだ。そのためには、オメガになる方法を何度だって試すしかないんだ。
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