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その日は夕方になって積荷の問題が起き、山となった明日フライトのインボイスを作りながら担当の中国とのやり取りを続けた。と聞くと大変なことが起きたと思われるが、大変なことではあるのだが、書類の不備があったりなんだかんだで、こんなことはよくあるので書類だけ急いで揃えれば済む。それでフライトに影響が出るものに関しては仕方ない。相手側に連絡をする。
今日は、書類の不備ではなく、機体が飛ばないというトラブルだったため、相手側にその旨メールで連絡した。相手方にも都合があるので簡単に納得してくれるはずもないのだが、向こうもフライトの問題はどうしようもないとわかっていての文句なので、そこまでエスカレートすることはない。海外なので、直接持って来い、などという文句もないし、その辺は国内より楽かもしれない。
この日も、差し替え用のインボイスとパッキングリストを揃えてFAXを用意した後は、翌日のインボイスを作りながらメールで中国とのやり取りを淡々として終わった。
珍しいことではないが、問題発生時の第一報を聞いた時は胃が痛くなる。もちろん、相手側とのやり取りも面倒くさい文句を聞くことになるから、疲れることは疲れる。しかし、この仕事に携わって八年になるが、貿易という仕事をやっていく上では回避できない問題だと思っている。だいたいが神経をすり減らす仕事なのだ。
とは言え、仕事は楽しいと思っている。特に成果をあげたりと言った仕事ではないけれど、学生の頃に思っていた語学を使った仕事であることは間違いないし、海外とのやり取りも問題さえ起きていなければ気楽に色々な話ができるのでトラブルが起きない限りは楽しい仕事だと思っている。
そんなこんなで、今日も残業の定時とも言える時間、夜の九時をまわった頃会社を出て、電車に揺られ、家の最寄り駅に着く。
「じゃ、お疲れ」
「また明日」
途中まで一緒に帰ってきた同僚と別れ、改札を出てネオンの派手な方へと歩いていく。とは言え、決してクラブ、キャバクラが軒を並べるここへ遊びに来たわけではない。
住処であるアパートに帰るためにネオン街を通るのが近いのだ。黒服もたまに声をかけてくるが、それらを無視して足早に歩く。
夕方に問題発生が起きると大体いつもこの時間になるので、黒服の声掛けにも慣れたものだし、あちらも、こちらが無視するのをわかっているのであまり声をかけてくることはない。声をかけてくるのは給料日から数日くらいだ。
ネオンが派手で、少し行くとラブホテルも存在するこの街は、夜になると目を覚まし、人々が集まってくる。
直生の住むアパートへ帰るには、別のきちんとした道があるのだが、いかんせん遠回りになる。そのため、通勤にはいつもこのネオン街を通っている。
夜は騒がしいこの街も朝はしんと静まり返っている。そんな街を働き始めた頃から歩いているから、最近ではネオンの派手さも、道行く人の欲望に満ちた顔も気にならない。ただ、黙々と歩くだけだ。
最近は朝晩とても冷えるようになった。そろそろ鍋でもしようか、などと考えながら歩いている足元はとても早い。疲れている体に冷たい風は余計にしみる。早く家に帰って、温かいお風呂に入りたい。
その時、どこからかサンダルウッドのようなオリエンタルないい香りがしてくることに気がついた。サンダルウッドは男性用の香水によくあるので、香水の香りがしたのだろうと最初は思った。
しかし、香水の香りがするほど近くにいるのは黒服だけで、黒服はシトラスの香水をつけていてサンダルウッドの香水などつけていないのはわかっている。それに、香りがするのはどこか一点から、というよりは充満している、と言った方が近いかもしれない。
けれど、周りの人間はその香りに気づいている様子はない。それに、香水といった人工的な香りとは違うような気がした。
何の香りだろう? そう思っていると、香りはどんどんと濃密になってきて、自然と視線を彷徨わせた。
そして、ある人に視線が止まる。その人もこちらに目を向け、二人の視線が絡み合う。
目があった瞬間、心臓は激しくドクっと大きな音をたて、目を離せなくなってしまった。
今日は、書類の不備ではなく、機体が飛ばないというトラブルだったため、相手側にその旨メールで連絡した。相手方にも都合があるので簡単に納得してくれるはずもないのだが、向こうもフライトの問題はどうしようもないとわかっていての文句なので、そこまでエスカレートすることはない。海外なので、直接持って来い、などという文句もないし、その辺は国内より楽かもしれない。
この日も、差し替え用のインボイスとパッキングリストを揃えてFAXを用意した後は、翌日のインボイスを作りながらメールで中国とのやり取りを淡々として終わった。
珍しいことではないが、問題発生時の第一報を聞いた時は胃が痛くなる。もちろん、相手側とのやり取りも面倒くさい文句を聞くことになるから、疲れることは疲れる。しかし、この仕事に携わって八年になるが、貿易という仕事をやっていく上では回避できない問題だと思っている。だいたいが神経をすり減らす仕事なのだ。
とは言え、仕事は楽しいと思っている。特に成果をあげたりと言った仕事ではないけれど、学生の頃に思っていた語学を使った仕事であることは間違いないし、海外とのやり取りも問題さえ起きていなければ気楽に色々な話ができるのでトラブルが起きない限りは楽しい仕事だと思っている。
そんなこんなで、今日も残業の定時とも言える時間、夜の九時をまわった頃会社を出て、電車に揺られ、家の最寄り駅に着く。
「じゃ、お疲れ」
「また明日」
途中まで一緒に帰ってきた同僚と別れ、改札を出てネオンの派手な方へと歩いていく。とは言え、決してクラブ、キャバクラが軒を並べるここへ遊びに来たわけではない。
住処であるアパートに帰るためにネオン街を通るのが近いのだ。黒服もたまに声をかけてくるが、それらを無視して足早に歩く。
夕方に問題発生が起きると大体いつもこの時間になるので、黒服の声掛けにも慣れたものだし、あちらも、こちらが無視するのをわかっているのであまり声をかけてくることはない。声をかけてくるのは給料日から数日くらいだ。
ネオンが派手で、少し行くとラブホテルも存在するこの街は、夜になると目を覚まし、人々が集まってくる。
直生の住むアパートへ帰るには、別のきちんとした道があるのだが、いかんせん遠回りになる。そのため、通勤にはいつもこのネオン街を通っている。
夜は騒がしいこの街も朝はしんと静まり返っている。そんな街を働き始めた頃から歩いているから、最近ではネオンの派手さも、道行く人の欲望に満ちた顔も気にならない。ただ、黙々と歩くだけだ。
最近は朝晩とても冷えるようになった。そろそろ鍋でもしようか、などと考えながら歩いている足元はとても早い。疲れている体に冷たい風は余計にしみる。早く家に帰って、温かいお風呂に入りたい。
その時、どこからかサンダルウッドのようなオリエンタルないい香りがしてくることに気がついた。サンダルウッドは男性用の香水によくあるので、香水の香りがしたのだろうと最初は思った。
しかし、香水の香りがするほど近くにいるのは黒服だけで、黒服はシトラスの香水をつけていてサンダルウッドの香水などつけていないのはわかっている。それに、香りがするのはどこか一点から、というよりは充満している、と言った方が近いかもしれない。
けれど、周りの人間はその香りに気づいている様子はない。それに、香水といった人工的な香りとは違うような気がした。
何の香りだろう? そう思っていると、香りはどんどんと濃密になってきて、自然と視線を彷徨わせた。
そして、ある人に視線が止まる。その人もこちらに目を向け、二人の視線が絡み合う。
目があった瞬間、心臓は激しくドクっと大きな音をたて、目を離せなくなってしまった。
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