7 / 46
1-7
しおりを挟む
「まぁ、大事にならなくてよかったな」
「うん、それは本当に助かったよ」
和明の家へ着き、誕生日祝いをする。祝いと言ってはいるがただの酒呑みの口実に過ぎない。
空きっ腹では悪酔いする、と言って直生が持ってきたものや和明が用意していた食事を済ませ、酒を開けた。
そして、食べながらネオン街であったことを話したのだ。もちろん、ラットを起こしてもいない神宮寺からサンダルウッドの良い香りがしたことも、自分からバニラのような香りがすると言われたことも。
「そんなことってあるんだな。お前からもバニラの香りがするっていうんだろう?」
「うん。匂う?」
「いや。俺には全然だ。βだからかな?」
直生からはバニラの香りがすると神宮寺に言われた。けれど、和明にはその香りがわからないという。以前すれ違った時に神宮寺と一緒にいた運転手にも直生の香りはわからなかったという。つまり、直生の香りは神宮寺にしかわからないのだ。
最も和明も、その一緒にいたという運転手もβだからかもしれない。しかし、今日あの場にαやΩが誰もいなかったとは考えにくい。それに、ヒートでもない時に離れたところにいた人間にわかるほど香りを強く発していたというのならβの和明や運転手にだってわかるはずだし、居合わせたαやΩが反応しただろう。しかし、それはなかった。
もしかしたら微量なのかもしれない。しかし、離れていても気がついたのだから微量だとは考えにくい。とすると、それが意味することは……。
「運命の番だったっけか。それじゃないのか?」
「俺に運命の番なんていると思うか? それに運命の番は都市伝説だぞ」
「そうは言うけどさ、数例であれ近年だって運命の番の報告例はあるんだろう」
「そうらしいけど。でも、それが自分の身に起こるとは思えないんだよな。だって俺だぞ? 平凡が服着て歩いてるような俺だぞ? 人混みの中じゃ埋もれて消えちゃうんだぞ。他のΩみたいに可愛くも綺麗でもなくて、背だってΩにしては高いし」
「でも、運命の番なんだからどんな人間かなんて関係ないだろう。それにお前は自己否定が強すぎる」
和明には運命の番なのではないか、と言われた。それは自分も一瞬考えた。確かに運命なのなら、平凡だろうがなんだろうが関係ないのかもしれない。
それでも都市伝説とまで言われているものが自分の身に起きているとは思えないのだ。けれど、そうとしか思えないものが身に起きているのも事実で。それをどう考えていいのかわからない。
和明には否定したし、直生自身も否定しているけれど、運命の番と考えれば納得がいくのだ。いや、そうでないと納得できないのだ。それでもにわかには信じられなかった。
「まぁ、お前が自己否定しててもいつかはっきりするだろ」
「そう、なのかな?」
「でもさ、運命の番なら惹かれあうとかないのか?」
「さぁな」
「何もない感じ?」
そう問われて、うーん、と考える。惹かれてはいない。ただ
「落ち着くかな?」
「へぇ。やっぱり他の人とは違うんだな」
「かなぁ?」
「でも、運命の番なんてロマンチックだよなぁ」
と和明が夢見る表情をして言う。
「なんて顔してんだよ。キモいぞ」
「ひっでぇな。だってロマンチックだろ。βじゃそんなのないからな」
運命の番は普通の番関係よりも関係が強固で離れることはないと言う。
ロマンチック、か……。
自分があまりにも平凡すぎて、そんなの考えたこともなかった。平凡というのは直生の中ではトラウマなのだ。
高校生のときに当時好きだった子が友達と話しているのを聞いてしまったのだ。
「白瀬くん結菜のこと好きじゃない?」
「白瀬くんかぁ。悪くないのかもだけど、平凡すぎて影が薄いよね」
「うわっ、ひっど!まぁ、でも確かに人の中にいたら目立たないよね」
そう言って笑っているのを聞いてしまったのだ。それまでは不細工じゃないから、と思っていたけれど平凡ってそんなふうに言われるんだ、と傷ついたしトラウマになった。だから自己否定してしまうのだ。それは自己否定だけでなく、直生にとっては他人からの否定と変わりなかった。
「運命の番なんて平凡男には荷が重いよ」
それが直生の本心だった。
「うん、それは本当に助かったよ」
和明の家へ着き、誕生日祝いをする。祝いと言ってはいるがただの酒呑みの口実に過ぎない。
空きっ腹では悪酔いする、と言って直生が持ってきたものや和明が用意していた食事を済ませ、酒を開けた。
そして、食べながらネオン街であったことを話したのだ。もちろん、ラットを起こしてもいない神宮寺からサンダルウッドの良い香りがしたことも、自分からバニラのような香りがすると言われたことも。
「そんなことってあるんだな。お前からもバニラの香りがするっていうんだろう?」
「うん。匂う?」
「いや。俺には全然だ。βだからかな?」
直生からはバニラの香りがすると神宮寺に言われた。けれど、和明にはその香りがわからないという。以前すれ違った時に神宮寺と一緒にいた運転手にも直生の香りはわからなかったという。つまり、直生の香りは神宮寺にしかわからないのだ。
最も和明も、その一緒にいたという運転手もβだからかもしれない。しかし、今日あの場にαやΩが誰もいなかったとは考えにくい。それに、ヒートでもない時に離れたところにいた人間にわかるほど香りを強く発していたというのならβの和明や運転手にだってわかるはずだし、居合わせたαやΩが反応しただろう。しかし、それはなかった。
もしかしたら微量なのかもしれない。しかし、離れていても気がついたのだから微量だとは考えにくい。とすると、それが意味することは……。
「運命の番だったっけか。それじゃないのか?」
「俺に運命の番なんていると思うか? それに運命の番は都市伝説だぞ」
「そうは言うけどさ、数例であれ近年だって運命の番の報告例はあるんだろう」
「そうらしいけど。でも、それが自分の身に起こるとは思えないんだよな。だって俺だぞ? 平凡が服着て歩いてるような俺だぞ? 人混みの中じゃ埋もれて消えちゃうんだぞ。他のΩみたいに可愛くも綺麗でもなくて、背だってΩにしては高いし」
「でも、運命の番なんだからどんな人間かなんて関係ないだろう。それにお前は自己否定が強すぎる」
和明には運命の番なのではないか、と言われた。それは自分も一瞬考えた。確かに運命なのなら、平凡だろうがなんだろうが関係ないのかもしれない。
それでも都市伝説とまで言われているものが自分の身に起きているとは思えないのだ。けれど、そうとしか思えないものが身に起きているのも事実で。それをどう考えていいのかわからない。
和明には否定したし、直生自身も否定しているけれど、運命の番と考えれば納得がいくのだ。いや、そうでないと納得できないのだ。それでもにわかには信じられなかった。
「まぁ、お前が自己否定しててもいつかはっきりするだろ」
「そう、なのかな?」
「でもさ、運命の番なら惹かれあうとかないのか?」
「さぁな」
「何もない感じ?」
そう問われて、うーん、と考える。惹かれてはいない。ただ
「落ち着くかな?」
「へぇ。やっぱり他の人とは違うんだな」
「かなぁ?」
「でも、運命の番なんてロマンチックだよなぁ」
と和明が夢見る表情をして言う。
「なんて顔してんだよ。キモいぞ」
「ひっでぇな。だってロマンチックだろ。βじゃそんなのないからな」
運命の番は普通の番関係よりも関係が強固で離れることはないと言う。
ロマンチック、か……。
自分があまりにも平凡すぎて、そんなの考えたこともなかった。平凡というのは直生の中ではトラウマなのだ。
高校生のときに当時好きだった子が友達と話しているのを聞いてしまったのだ。
「白瀬くん結菜のこと好きじゃない?」
「白瀬くんかぁ。悪くないのかもだけど、平凡すぎて影が薄いよね」
「うわっ、ひっど!まぁ、でも確かに人の中にいたら目立たないよね」
そう言って笑っているのを聞いてしまったのだ。それまでは不細工じゃないから、と思っていたけれど平凡ってそんなふうに言われるんだ、と傷ついたしトラウマになった。だから自己否定してしまうのだ。それは自己否定だけでなく、直生にとっては他人からの否定と変わりなかった。
「運命の番なんて平凡男には荷が重いよ」
それが直生の本心だった。
54
あなたにおすすめの小説
氷の公爵様と身代わりパティシエ~「味覚なし」の旦那様が、僕のお菓子でトロトロに溶かされています!?~
水凪しおん
BL
【2月14日はバレンタインデー】
「お前の菓子だけが、私の心を溶かすのだ」
実家で「魔力なしの役立たず」と虐げられてきたオメガのリウ。
義弟の身代わりとして、北の果てに住む恐ろしい「氷血公爵」ジークハルトのもとへ嫁ぐことになる。
冷酷無慈悲と噂される公爵だったが、リウが作ったカカオのお菓子を食べた途端、その態度は激変!?
リウの持つ「祝福のパティシエ」の力が、公爵の凍りついた呪いを溶かしていき――。
拾ったもふもふ聖獣と一緒に、甘いお菓子で冷たい旦那様を餌付け(?)する、身代わり花嫁のシンデレラストーリー!
あなたの家族にしてください
秋月真鳥
BL
ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。
情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。
闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。
そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。
サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。
対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。
それなのに、なぜ。
番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。
一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。
ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。
すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。
※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。
※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
たとえ運命じゃなくても、僕は
mimi
BL
「僕は自分の気持ちを信じたい。
たとえ運命から背を背けようとも」
音楽大学に通うΩの青年・相田ひなた。
努力家の先輩αと、
運命の番だと告げられた天才α。
運命か、愛情か――
選ぶのは、僕自身だ。
※直接的な描写はありません。
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
みにくいオメガの子
みこと
BL
オメガの由紀は高校を卒業するまでに番を見つけたい。しかし、他のオメガと違い全くモテない。お見合いも紹介もいつも散々な結果に終わっていた。
このまま誰にも必要とされずに一生を終えるかと不安になる。そんな由紀に驚きの事実が判明して…。
またもやオメガバースです。オメガバースの説明はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる