26 / 46
4-1
しおりを挟む
直生と神宮寺が一緒に食事をするようになってどのくらいが経つだろうか。神宮寺からの甘い言葉も甘い表情にも最近は慣れてきた。いや、慣れてきただけで進展があったりするわけではないけれど。ただ、神宮寺ははっきりと言葉にはしないし、返事を求められているわけではない。だから、その雰囲気を軽く流しながら会話をするようにしている。嫌いではないのだ。それだけははっきりしている。ただ、そういった意味で好きか、と問われると言葉に詰まる。だから今はそんなことは抜きに食事を楽しみたい、と思う。
「一週間お疲れ様」
そう言ってビールで乾杯する。
少し忙しくなってきた金曜日。にも関わらず今日は一時間ほどの残業で帰ることができた直生は、神宮寺に連絡をし、神宮寺の家で食事をすることにしたのだ。
今週は神宮寺が接待があったりと仕事が忙しく、直生も出荷ラッシュでひたすらインボイスやパッキングリストを作っていた。そんなこんなで今日は一週間ぶりに顔を合わせたのた。
「そう言えば、美味しいメキシコ料理の店ができたの知ってるか?」
唐揚げにレモンを絞りながら神宮寺が訊く。
「え、どこにですか?」
「ネオン街の外れのカフェの近くに。空きが一軒あっただろう。そこだ」
「あそこか。メキシコ料理って珍しいな」
「今度行ってみるか?」
「行ってみたい! あまり食べたことないんですよね」
「店自体少ないからな。じゃあ、次はそこに行ってみよう」
二人とも食べるのが好きなので、新しい店の情報や食べ物の話をする。神宮寺にいたっては料理が趣味のひとつでもあるようで、時間があれば手料理を振る舞ってくれる。今日はそれほど時間がなかったらしく、惣菜は買ってきて、神宮寺が作ったのはサラダとスープ、クリームチーズとクルトンのおつまみだけだが、一度は時間があったと言ってフランス料理を振る舞われてびっくりした記憶がある。
神宮寺いわく、気分転換に料理はいいらしい。精神的に詰まったときに料理をすると無心になれていい、と言う。料理自体を面倒くさいと思い、忙しさにかまけて手抜きばかりしている直生には理解できないことだが。
一週間ぶりに会ったということで、最近の出来事などを話す。と言っても数日のことなので、それほどたくさんあるわけではないけれど。大体、直生は話を振るのはあまり上手くない。話題があり、訊かれれば答えるが、自分からというのは苦手だ。しかし、そこは神宮寺が上手いので話が途切れることはない。そして直生も神宮寺も騒ぐのが好きなわけではないので、酒を呑みながらゆっくりと話す。そんな時間の過ごし方が直生は好きだった。
「今日はクルトンいっぱいですね」
「今日はパンから作ったからな。好きだよな?」
「カリカリしてて好きです」
「手抜きをしたからな。だからせめてクルトンだけでもと思って。ただ作りすぎてしまったから、おつまみまでクルトンになってしまったが」
「大丈夫ですよ、好きなんで」
「明日は何か作るよ」
「やった! 楽しみ」
神宮寺は直生の好みを把握していて、直生好みの料理を作ってくれたり、好みの味付けにしてくれる。明日は土曜日だし、時間もあるのだろう。明日も神宮寺の手作りを食べられるのは楽しみだ。どうしても食べたいものがあるときはリクエストするが、基本的にリクエストはしない。それは、直生が思いもしないようなものが出てくることもあるし、旬の食材を使った料理が出てくるからだ。食べたことがないようなものが出てくることもあり、それが楽しみなのもあって、リクエストしないのだ。明日は何が出てくるか今から楽しみだ。
「もう少し呑みたいな。つまみもまだあるし」
「俺もビールもう一本呑もうかな、明日休みだし。神宮寺さんは何呑みます?」
「俺もビールでいい」
「じゃ、取ってきます」
勝手知ったる他人の家。冷蔵庫にビールを取りに行く。そのとき、少し足元にきていることに気づいた。それを神宮寺も気づいたようだ。
「その一本で終わりにした方がいい。足にきてるだろう」
「これで最後にします」
そう言ってビールを手にリビングに戻ったとき、よろけて転び、神宮寺を押し倒す形になってしまった。
――ヤバい! ヒート起こす!
「一週間お疲れ様」
そう言ってビールで乾杯する。
少し忙しくなってきた金曜日。にも関わらず今日は一時間ほどの残業で帰ることができた直生は、神宮寺に連絡をし、神宮寺の家で食事をすることにしたのだ。
今週は神宮寺が接待があったりと仕事が忙しく、直生も出荷ラッシュでひたすらインボイスやパッキングリストを作っていた。そんなこんなで今日は一週間ぶりに顔を合わせたのた。
「そう言えば、美味しいメキシコ料理の店ができたの知ってるか?」
唐揚げにレモンを絞りながら神宮寺が訊く。
「え、どこにですか?」
「ネオン街の外れのカフェの近くに。空きが一軒あっただろう。そこだ」
「あそこか。メキシコ料理って珍しいな」
「今度行ってみるか?」
「行ってみたい! あまり食べたことないんですよね」
「店自体少ないからな。じゃあ、次はそこに行ってみよう」
二人とも食べるのが好きなので、新しい店の情報や食べ物の話をする。神宮寺にいたっては料理が趣味のひとつでもあるようで、時間があれば手料理を振る舞ってくれる。今日はそれほど時間がなかったらしく、惣菜は買ってきて、神宮寺が作ったのはサラダとスープ、クリームチーズとクルトンのおつまみだけだが、一度は時間があったと言ってフランス料理を振る舞われてびっくりした記憶がある。
神宮寺いわく、気分転換に料理はいいらしい。精神的に詰まったときに料理をすると無心になれていい、と言う。料理自体を面倒くさいと思い、忙しさにかまけて手抜きばかりしている直生には理解できないことだが。
一週間ぶりに会ったということで、最近の出来事などを話す。と言っても数日のことなので、それほどたくさんあるわけではないけれど。大体、直生は話を振るのはあまり上手くない。話題があり、訊かれれば答えるが、自分からというのは苦手だ。しかし、そこは神宮寺が上手いので話が途切れることはない。そして直生も神宮寺も騒ぐのが好きなわけではないので、酒を呑みながらゆっくりと話す。そんな時間の過ごし方が直生は好きだった。
「今日はクルトンいっぱいですね」
「今日はパンから作ったからな。好きだよな?」
「カリカリしてて好きです」
「手抜きをしたからな。だからせめてクルトンだけでもと思って。ただ作りすぎてしまったから、おつまみまでクルトンになってしまったが」
「大丈夫ですよ、好きなんで」
「明日は何か作るよ」
「やった! 楽しみ」
神宮寺は直生の好みを把握していて、直生好みの料理を作ってくれたり、好みの味付けにしてくれる。明日は土曜日だし、時間もあるのだろう。明日も神宮寺の手作りを食べられるのは楽しみだ。どうしても食べたいものがあるときはリクエストするが、基本的にリクエストはしない。それは、直生が思いもしないようなものが出てくることもあるし、旬の食材を使った料理が出てくるからだ。食べたことがないようなものが出てくることもあり、それが楽しみなのもあって、リクエストしないのだ。明日は何が出てくるか今から楽しみだ。
「もう少し呑みたいな。つまみもまだあるし」
「俺もビールもう一本呑もうかな、明日休みだし。神宮寺さんは何呑みます?」
「俺もビールでいい」
「じゃ、取ってきます」
勝手知ったる他人の家。冷蔵庫にビールを取りに行く。そのとき、少し足元にきていることに気づいた。それを神宮寺も気づいたようだ。
「その一本で終わりにした方がいい。足にきてるだろう」
「これで最後にします」
そう言ってビールを手にリビングに戻ったとき、よろけて転び、神宮寺を押し倒す形になってしまった。
――ヤバい! ヒート起こす!
47
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
ずっと、貴方が欲しかったんだ
一ノ瀬麻紀
BL
高校時代の事故をきっかけに、地元を離れていた悠生。
10年ぶりに戻った街で、結婚を控えた彼の前に現れたのは、かつての幼馴染の弟だった。
✤
後天性オメガバース作品です。
ビッチング描写はありません。
ツイノベで書いたものを改稿しました。
あなたの家族にしてください
秋月真鳥
BL
ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。
情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。
闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。
そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。
サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。
対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。
それなのに、なぜ。
番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。
一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。
ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。
すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。
※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。
※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる