春は君のとなり 〜Tokyo & Seoul 〜

水無瀬 蒼

文字の大きさ
9 / 86

これが日本の居酒屋2

しおりを挟む
 イジュンから着信があったのは、教室に入ったときだった。焦る必要なんてないのに、慌ててスマホを取りだし、メッセージを確認する。

『じゃあまた今度』

 その短い一言に、なぜか心が痛んだ。別に嘘をついたわけじゃない。明日までの課題はほんとにある。だけど、なんだか悪いことをしてしまった気がして心が痛い。でも、だからと言って行ってやることはできないよな。そう考えていると声をかけられた。

「おはよ、明日海。なに難しい顔してんの。綺麗な顔が台無しだぞ」

 そう声をかけてきたのは、友人の巧真だった。

「綺麗な顔は余計だよ」
「ごめんごめん。でもほんとなにそんなに難しい顔してスマホ見てるの」

 巧真はそう言って俺の隣に座る。教授が来るまでもう少し時間がありそうだ。

「んー。昨日浅草で韓国人観光客にガイド頼まれてOKしちゃったんだけど、俺、明日までの課題の存在忘れてて、今日は無理って返事したんだよね。それがなんか、申し訳ないことしたなーって思って」
「放っておけなかったんだ?」
「うん。1人で旅行来たっていうし。それに英語は話せるけど日本語はわからないから」
「明日海ってほんと優しいよな。らしいよ。課題って度会教授の?」
「そう。途中まではやってあるんだけどさ。課題落とすわけいかないじゃん?」
「そしたら休憩時間に必死でやって行くとか」
「もっと時間かかるし、なにより持って来てない」
「そしたら夜まで頑張るとか。で、夜だけでも会うとかさ。食事くらいできるんじゃん?」

 巧真の言葉にそうか、と考える。家に帰ってから必死でやるか。そしたら、夜くらいなんとかなるかもしれない。食事くらいならギリ行けるだろう。

「少しなら明日の授業までやればいいんじゃん? 教授の授業、最後だし」

 そうか。少し残ったら明日の昼休みにやるっていう手もあるか。でも、それには、あらかた片付けておかないとだけど。

「そんな難しい顔して、今日丸一日NGにしたら罪悪感感じちゃうんだろ?」
「そうなんだよ」
「なら夜まで頑張ろうぜ。少しなら明日見せてやるし」
「巧真ーー」

 巧真が一瞬、神々しく見えて抱きつこうとしたら逃げられた。でも、ほんとにありがたい。

「頑張るのは明日海だからな。俺はアドバイスしただけ」
「それだってありがたいよ」
「夜だったら、飲みに連れて行ったっていいんじゃん? あ、お酒飲める年?」
「うん。24だって言ってたから大丈夫」
「ホテルはどこ?」
「上野」
「上野なら、この間アメ横でいい店あったよ。めちゃ安いの。ステーキが300円しない」
「え? そんな安いの?」
「うん。アルコールも安かったよ。えっと、あ、ここだ、ここ」

 そう言って巧真はスマホで店の場所を見せてくれる。アメ横なら近いしいいかもしれない。

「で、これが写真」

 そこには、真っ赤なグラス。なんのドリンクかわからなかった。

「これ、トマトサワー」
「トマトサワー?」
「そう。トマトジュース飲んでるみたいで美味しかったよ。トマトジュース飲めればだけど」

 トマトサワーか。初めて聞いた。イジュンは知っているだろうか。つい最近まで兵役に行ってたからな。大学のときに飲みに行ってれば知っている可能性もあるけど、どうなんだろう。でも、話題にはなるよな。

「その場所、俺に送って」
「うん」

 そういった数秒後、俺のスマホにその居酒屋のマップが送られてきた。イジュンを連れていってやろう。そう思ったとき、教授が教室に入ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

カフェ・コン・レーチェ

こうらい ゆあ
BL
小さな喫茶店 音雫には、今日も静かなオルゴール調のの曲が流れている。 背が高すぎるせいか、いつも肩をすぼめている常連の彼が来てくれるのを、僕は密かに楽しみにしていた。 
苦いブラックが苦手なのに、毎日変わらずブラックを頼む彼が気になる。 今日はいつもより温度を下げてみようかな?香りだけ甘いものは苦手かな?どうすれば、喜んでくれる? 「君の淹れる珈琲が一番美味しい」
苦手なくせに、いつも僕が淹れた珈琲を褒めてくれる彼。 照れ臭そうに顔を赤ながらも褒めてくれる彼ともっと仲良くなりたい。 そんな、ささやかな想いを込めて、今日も丁寧に豆を挽く。 甘く、切なく、でも愛しくてたまらない―― 珈琲の香りに包まれた、静かで優しい記憶の物語。

孤毒の解毒薬

紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。 中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。 不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。 【登場人物】 西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

悋気応変!

七賀ごふん
BL
激務のイベント会社に勤める弦美(つるみ)は、他人の“焼きもち”を感じ取ると反射的に号泣してしまう。 厄介な体質に苦しんできたものの、感情を表に出さないクールな幼なじみ、友悠(ともひさ)の存在にいつも救われていたが…。 ────────── クール&独占欲強め×前向き&不幸体質。 ◇BLove様 主催コンテスト 猫野まりこ先生賞受賞作。 ◇プロローグ漫画も公開中です。 表紙:七賀ごふん

恋と脅しは使いよう

makase
BL
恋に破れ、やけ酒の末酔いつぶれた賢一。気が付けば酔っぱらいの戯言を弱みとして握られてしまう……

Candy pop〜Bitter&Sweet

義井 映日
BL
「完璧な先輩」が壊れるまで、カウントはもう、とっくに『0』を過ぎていた。 ​「185cmの看板男」が、たった一人の恋人の前で理性を失う。 三ヶ月の禁欲を経て、その愛は甘く、激しく、暴走する――。 ​「あらすじ」 大学の「看板男」こと安達大介は、後輩の一之瀬功(こう)を溺愛している。 ついに迎えた初めての夜。しかし、安達の圧倒的な「雄」の迫力に、功は本能的な恐怖で逃げ出してしまう。 ​「――お前は俺を狂わせる毒だと思ってた」 ​絶望した安達と、愛しているのに身体が竦む功。 三ヶ月の「じれったい禁欲生活」を経て、看板男の仮面が剥がれるとき、世界で一番甘い夜が始まる。 ​★本編全6話に加え、季節を巡る濃密な番外編1本も公開中!近日最新エピソードも追加予定! (2月の看病編/3月のホワイトデー編公開予定です) お話が気に入った、面白かった、と思ってくださったら、お気に入り登録、いいね、をお願い致します! 作者の励みになります!!

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

処理中です...