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君と写す未来2
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隅田川の水面は深い群青色になっていて、どこが川岸なのか明かりがないとわからない。それでも近所の家の灯りやネオンがキラキラと水面を照らしている。隅田川を見たことなんて何度もあるけれど、夜に見たのは初めてだなと思い当たる。都内在住とはいえ、俺の住んでいるのはこちらとは離れているから、夜こちらを通ることはない。だから初めての隅田川の夜景だけど、意外と綺麗なんだなと考えた。
イジュンが自販機の方から歩いてくる。手には2本の缶。はい、と片方を俺に差し出す。受け取るとホットコーヒーだった。
「日本の自販機、面白いね。冷たいのと温かいのが1つの自販機の中にあるのも驚きだけど、ゲームみたいなのがはじまってびっくりした」
そう言っているイジュンの表情はとても楽しそうで俺は少し笑ってしまった。
「あー、なんかたまにいきなり始まるのあるよな」
「そう。今そうだったんだ。日本語わからないのに、終わるまでずっと聞いてた」
日本語がわからないと言いながら最後まで聞いてるって、なにかのゲームだと思ったのかもしれない。あれは俺にもよくわからない。
「イジュンってさ、なんでも楽しそうだよな」
口にしてから自分でも少し意外だった。だけど、そう思っているのは事実だ。慣れない場所にいて、ストレスや不安があるはずなのに、イジュンは臆せず、新しいことに目を輝かせている。その無邪気さに何度救われてきたか。
「日本は新しいことばかりだから楽しいよ」
イジュンは缶を両手で包むように持ち、視線を川へと向けた。
「でもね、一番楽しいのは……」
言葉がそこで途切れて、俺は横目でイジュンを見て、なに? と視線で軽く問う。しばらく無言が続く。イジュンは俺の視線を受け止めることなく、ふっと笑って首を横に振った。
「……なんでもない」
肩をすくめ、口元だけで笑う。ごまかすときのイジュンの癖のようだ。何度か見たことがある。なにを言いかけたのか気にはなるけれど、ここで追求するのも違うと思ったので、俺はそれ以上は聞かなかった。
沈黙が落ちる。けれど、不思議と気まずさはない。2人で黙ってコーヒーを飲みながら川を眺める。視界の端にイジュンが缶を口に運ぶのが見えた。だけど、なんで気まずさがないんだろうと考える。誰かといて、沈黙が流れると普通はちょっと気まずさがあると思うんだけど、イジュンとの間にはそれがない。これが、付き合いの長い友人なら不思議はないけれど、イジュンとは出会ったばかりだ。なのに、まるで付き合いの長い友人のような空気感が不思議だと思った。
そんなふうな沈黙だから、俺は言葉を探すのをやめた。無理に訊かなくても、無理に話さなくても隣にイジュンがいるだけで場の空気は成立している。だから、これでいいのだ。
水面に映る光はキラキラと反射していて、綺麗だなと思う。こんなふうにゆっくり川を見たのは初めてかもしれない。
そのとき、視界の端に再びイジュンの横顔が入る。光を受けて少しだけ赤く染まった頬。そんな彼の輪郭がこの風景の一部になっているかのような気がした。
俺は盗み見るようにイジュンを見た。ほんの数秒。でも、心臓が飛び跳ねるような感じがして、慌てて視線を逸らした。俺はなにをやってるんだ。そう思っていると不意にイジュンがこちらを見て、視線が交差する。一瞬で頬が熱も持ち、慌ててコーヒーを口にして、なんでもないふりをした。イジュンもなにか言いかけたように見えるけれど、結局は言葉を飲み込んだ。そしてただ微笑んで、また川へと視線を戻した。
再び訪れる静寂。けれど、そこには「共有」があった。言葉を交わさなくても、イジュンが俺と同じようにこの時間を特別に感じていることがなんとなく伝わってきた。
イジュンが自販機の方から歩いてくる。手には2本の缶。はい、と片方を俺に差し出す。受け取るとホットコーヒーだった。
「日本の自販機、面白いね。冷たいのと温かいのが1つの自販機の中にあるのも驚きだけど、ゲームみたいなのがはじまってびっくりした」
そう言っているイジュンの表情はとても楽しそうで俺は少し笑ってしまった。
「あー、なんかたまにいきなり始まるのあるよな」
「そう。今そうだったんだ。日本語わからないのに、終わるまでずっと聞いてた」
日本語がわからないと言いながら最後まで聞いてるって、なにかのゲームだと思ったのかもしれない。あれは俺にもよくわからない。
「イジュンってさ、なんでも楽しそうだよな」
口にしてから自分でも少し意外だった。だけど、そう思っているのは事実だ。慣れない場所にいて、ストレスや不安があるはずなのに、イジュンは臆せず、新しいことに目を輝かせている。その無邪気さに何度救われてきたか。
「日本は新しいことばかりだから楽しいよ」
イジュンは缶を両手で包むように持ち、視線を川へと向けた。
「でもね、一番楽しいのは……」
言葉がそこで途切れて、俺は横目でイジュンを見て、なに? と視線で軽く問う。しばらく無言が続く。イジュンは俺の視線を受け止めることなく、ふっと笑って首を横に振った。
「……なんでもない」
肩をすくめ、口元だけで笑う。ごまかすときのイジュンの癖のようだ。何度か見たことがある。なにを言いかけたのか気にはなるけれど、ここで追求するのも違うと思ったので、俺はそれ以上は聞かなかった。
沈黙が落ちる。けれど、不思議と気まずさはない。2人で黙ってコーヒーを飲みながら川を眺める。視界の端にイジュンが缶を口に運ぶのが見えた。だけど、なんで気まずさがないんだろうと考える。誰かといて、沈黙が流れると普通はちょっと気まずさがあると思うんだけど、イジュンとの間にはそれがない。これが、付き合いの長い友人なら不思議はないけれど、イジュンとは出会ったばかりだ。なのに、まるで付き合いの長い友人のような空気感が不思議だと思った。
そんなふうな沈黙だから、俺は言葉を探すのをやめた。無理に訊かなくても、無理に話さなくても隣にイジュンがいるだけで場の空気は成立している。だから、これでいいのだ。
水面に映る光はキラキラと反射していて、綺麗だなと思う。こんなふうにゆっくり川を見たのは初めてかもしれない。
そのとき、視界の端に再びイジュンの横顔が入る。光を受けて少しだけ赤く染まった頬。そんな彼の輪郭がこの風景の一部になっているかのような気がした。
俺は盗み見るようにイジュンを見た。ほんの数秒。でも、心臓が飛び跳ねるような感じがして、慌てて視線を逸らした。俺はなにをやってるんだ。そう思っていると不意にイジュンがこちらを見て、視線が交差する。一瞬で頬が熱も持ち、慌ててコーヒーを口にして、なんでもないふりをした。イジュンもなにか言いかけたように見えるけれど、結局は言葉を飲み込んだ。そしてただ微笑んで、また川へと視線を戻した。
再び訪れる静寂。けれど、そこには「共有」があった。言葉を交わさなくても、イジュンが俺と同じようにこの時間を特別に感じていることがなんとなく伝わってきた。
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