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未来を囲む灯り2
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「うわ……」
イジュンの家は高層マンションだった。それもちょっと立派系の。でも、日本の最近のマンションみたいに入り口とかはロックがかかっていない。韓国では普通なのかわからないけれど。
「なあ。確認しておくけど、普通のマンションなんだよな? 豪邸とかじゃないよな?」
「豪邸なんかじゃないよ。普通のマンションだから大丈夫だよ。韓国じゃあこのくらい高いのは普通だよ」
「それならいいけど……」
玄関前に立ったとき、胸が高鳴っていた。友だちでビジネスパートナーとして紹介されるとわかってはいるけれど、それでもイジュンのご両親とお婆さまだということに緊張はする。それでも玄関をあけたときの家の匂いはどこか懐かしさを感じた。
「通訳してくれよな」
「オンマは韓国語しか話せないけど、アボジもハルモニも少し日本語話せるから大丈夫だよ。アボジは英語も話せる」
そう言われて少しホッとした。
「어서 와(いらっしゃい)!」
弾む声とともに現れたのはエプロン姿のお母さんだった。にこやかな笑顔で、その目元はイジュンに似ていて、しかしイジュンよりも強いエネルギーがあった。元気なお母さんだ。
「明日海、あがって」
「うん。お邪魔します」
リビングに通されると、物静かそうなお父さんと穏やかそうなお婆さまがいた。
「안녕하새요. 스나쿠라 아스미 입니다(こんにちは。砂倉明日海です)」
覚えてきた韓国語で拙いながらに挨拶をすると、みんな笑顔になった。良かった。これは絶対に言いたいと思って覚えたんだ。
「○▽□*!」
お母さんが韓国語でなにか言っているけど、なんて言っているのかわからずにイジュンを見る。
「韓国語うまいのねって」
そう言われて、覚えてきて良かったとホッとした。
「◇▽○+*」
「遠いところからいらっしゃい。ご飯、いっぱい食べてね。だって」
なんだか来た早々食事だなんてどうかと思ったけれど、お母さんはそんなこと気にしてないらしい。
「あ、イジュン。これ、日本のお菓子。バウムクーヘン。かぼちゃ味でちょっと洒落てるからみんなで食べて」
「うん」
そう言ってイジュンからお母さんに手渡して貰う。
「あとでみんなで食べましょうってさ」
「うん」
とお母さんの台風みたいな出迎えがキッチンに消えたら、お父さんとお婆さまが日本語で迎えてくれた。すごい。俺の付け焼き刃の韓国語なんかよりずっとうまい。なので、ちょっとホッとした。
「遠くからよくきてくれたのね。イジュンの祖母です」
白髪をきちんと纏め、ソファにピシッと座っていた。皺の刻まれた目元はとても優しい。
「こんにちは。砂倉明日海です」
「いらっしゃい。日本の方は私にとって特別なのよ。母から日本人のことをよく聞いていたし、日本の歌や言葉が好きでね。あなたが来てくれて嬉しいわ」
イジュンの言う通り、日本人のこと色々聞いていたらしい。もしかしたら日本語もそのお母さんっていう人から教わったのかもしれない。昔は韓国でも日本語が話されていたから。
でも、お婆さまの言葉に俺は肩の緊張が少し解けていった。異国で聞く母国語ってこんなに安心するんだと知った。
そんなふうにお婆さまと話しをしていると、リビングのテーブルに食事がどんどん並んでいった。すごい量でびっくりした。
「さあ食べましょう!」
テーブルの上には湯気のたつわかめスープ。キムチの赤、ナムルの緑、そしてお肉が、これでもかというくらい並んでいた。
「たくさん食べなさいってさ」
「うん……」
お母さんはお皿にたくさんの肉を取ってくれる。あまりの量にびっくりしていると、隣でイジュンが笑った。
「엄마, 천천히(お母さん、ゆっくり)」
韓国語でそう言ってくれたけれど、お母さんは取り分けるのを止めないし、お父さんもお婆さまも笑っていて止めようとしない。
「まだまだ育ちざかりなんだから、たくさん食べてね」
お婆さまにそう言われて俺は苦笑してしまった。もう育ちざかりは過ぎてる気がするんだけど。こうなったら頑張って食べるしかない。一口肉を食べると少し辛めの味付けだけど美味しかった。
「美味しい! 맛있어요」
そう言うとお母さんは笑みを濃くした。カタコトで発音なんてなってないだろうけど、それでも嬉しそうに笑ってくれるから、少し勉強してきてよかったと思った。
キムチも食べてみると、確かに辛いけれど、まろやかさもあった。キムチってただ辛いだけかと思っていた。
「イジュン。キムチ、美味しい」
「だろ? ハルモニとオンマの漬けるキムチは美味しいんだ」
お母さんにたくさん取り分けられたお肉を頬張りつつ、キムチやナムルも食べる。お母さんは料理上手なようだ。美味しい料理に緊張はさらに解れていく。
「イジュンとビジネスをすると聞いたけれど、韓国で大丈夫かい? もちろん私たちもできる限りのバックアップはするけれど、ご家族と離れるのは寂しくはないかい?」
とお父さんに聞かれた。
「日本にはお正月やお盆に帰れるし、イジュンもいるので大丈夫です」
俺がそう答えると、隣でイジュンが嬉しそうに笑った。そしてお父さんも安心したように笑う。お父さんは口数は少ないけれど、とても優しい人のようだ。いや、イジュンの家族はみんな優しい。来るのに緊張したけれど、来て良かったと心から思った。
イジュンの家は高層マンションだった。それもちょっと立派系の。でも、日本の最近のマンションみたいに入り口とかはロックがかかっていない。韓国では普通なのかわからないけれど。
「なあ。確認しておくけど、普通のマンションなんだよな? 豪邸とかじゃないよな?」
「豪邸なんかじゃないよ。普通のマンションだから大丈夫だよ。韓国じゃあこのくらい高いのは普通だよ」
「それならいいけど……」
玄関前に立ったとき、胸が高鳴っていた。友だちでビジネスパートナーとして紹介されるとわかってはいるけれど、それでもイジュンのご両親とお婆さまだということに緊張はする。それでも玄関をあけたときの家の匂いはどこか懐かしさを感じた。
「通訳してくれよな」
「オンマは韓国語しか話せないけど、アボジもハルモニも少し日本語話せるから大丈夫だよ。アボジは英語も話せる」
そう言われて少しホッとした。
「어서 와(いらっしゃい)!」
弾む声とともに現れたのはエプロン姿のお母さんだった。にこやかな笑顔で、その目元はイジュンに似ていて、しかしイジュンよりも強いエネルギーがあった。元気なお母さんだ。
「明日海、あがって」
「うん。お邪魔します」
リビングに通されると、物静かそうなお父さんと穏やかそうなお婆さまがいた。
「안녕하새요. 스나쿠라 아스미 입니다(こんにちは。砂倉明日海です)」
覚えてきた韓国語で拙いながらに挨拶をすると、みんな笑顔になった。良かった。これは絶対に言いたいと思って覚えたんだ。
「○▽□*!」
お母さんが韓国語でなにか言っているけど、なんて言っているのかわからずにイジュンを見る。
「韓国語うまいのねって」
そう言われて、覚えてきて良かったとホッとした。
「◇▽○+*」
「遠いところからいらっしゃい。ご飯、いっぱい食べてね。だって」
なんだか来た早々食事だなんてどうかと思ったけれど、お母さんはそんなこと気にしてないらしい。
「あ、イジュン。これ、日本のお菓子。バウムクーヘン。かぼちゃ味でちょっと洒落てるからみんなで食べて」
「うん」
そう言ってイジュンからお母さんに手渡して貰う。
「あとでみんなで食べましょうってさ」
「うん」
とお母さんの台風みたいな出迎えがキッチンに消えたら、お父さんとお婆さまが日本語で迎えてくれた。すごい。俺の付け焼き刃の韓国語なんかよりずっとうまい。なので、ちょっとホッとした。
「遠くからよくきてくれたのね。イジュンの祖母です」
白髪をきちんと纏め、ソファにピシッと座っていた。皺の刻まれた目元はとても優しい。
「こんにちは。砂倉明日海です」
「いらっしゃい。日本の方は私にとって特別なのよ。母から日本人のことをよく聞いていたし、日本の歌や言葉が好きでね。あなたが来てくれて嬉しいわ」
イジュンの言う通り、日本人のこと色々聞いていたらしい。もしかしたら日本語もそのお母さんっていう人から教わったのかもしれない。昔は韓国でも日本語が話されていたから。
でも、お婆さまの言葉に俺は肩の緊張が少し解けていった。異国で聞く母国語ってこんなに安心するんだと知った。
そんなふうにお婆さまと話しをしていると、リビングのテーブルに食事がどんどん並んでいった。すごい量でびっくりした。
「さあ食べましょう!」
テーブルの上には湯気のたつわかめスープ。キムチの赤、ナムルの緑、そしてお肉が、これでもかというくらい並んでいた。
「たくさん食べなさいってさ」
「うん……」
お母さんはお皿にたくさんの肉を取ってくれる。あまりの量にびっくりしていると、隣でイジュンが笑った。
「엄마, 천천히(お母さん、ゆっくり)」
韓国語でそう言ってくれたけれど、お母さんは取り分けるのを止めないし、お父さんもお婆さまも笑っていて止めようとしない。
「まだまだ育ちざかりなんだから、たくさん食べてね」
お婆さまにそう言われて俺は苦笑してしまった。もう育ちざかりは過ぎてる気がするんだけど。こうなったら頑張って食べるしかない。一口肉を食べると少し辛めの味付けだけど美味しかった。
「美味しい! 맛있어요」
そう言うとお母さんは笑みを濃くした。カタコトで発音なんてなってないだろうけど、それでも嬉しそうに笑ってくれるから、少し勉強してきてよかったと思った。
キムチも食べてみると、確かに辛いけれど、まろやかさもあった。キムチってただ辛いだけかと思っていた。
「イジュン。キムチ、美味しい」
「だろ? ハルモニとオンマの漬けるキムチは美味しいんだ」
お母さんにたくさん取り分けられたお肉を頬張りつつ、キムチやナムルも食べる。お母さんは料理上手なようだ。美味しい料理に緊張はさらに解れていく。
「イジュンとビジネスをすると聞いたけれど、韓国で大丈夫かい? もちろん私たちもできる限りのバックアップはするけれど、ご家族と離れるのは寂しくはないかい?」
とお父さんに聞かれた。
「日本にはお正月やお盆に帰れるし、イジュンもいるので大丈夫です」
俺がそう答えると、隣でイジュンが嬉しそうに笑った。そしてお父さんも安心したように笑う。お父さんは口数は少ないけれど、とても優しい人のようだ。いや、イジュンの家族はみんな優しい。来るのに緊張したけれど、来て良かったと心から思った。
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