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未来を囲む灯り4
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紅茶の湯気がまだカップから立ち上っている。隣ではイジュンとソヨンさんが笑い合っている。それを聞いているのが辛くてトイレに逃げる。
「すいません、ちょっとトイレに」
一言そう断ってからリビングから離れ、廊下を曲がったところにあるトイレに入る。ここにはイジュンとソヨンさんの笑い声はない。そしてホッと息を吐いた。水を流し、深呼吸する。大丈夫だから落ち着け。そう自分に言い聞かせた。
トイレから出て手を洗おうとすると、そこにはソヨンさんが立っていた。なんでもない顔をして髪の毛を直している。これは、俺と2人になろうと待っていたんだろう。急なことで一瞬体が固まる。なんで俺を待っていた? 答えは簡単だ。みんなに聞かれずに、でも俺に言いたいことがあるからだ。
「ごめんなさい。びっくりさせちゃったわよね」
なめらかな英語で話す。
表情には柔らかな笑顔を浮かべ、敵意なんて欠片もないという顔をしている。だけど、目が笑っていないことは見てとれる。
「イジュンの友だちなんだって? わざわざ遠いところからありがとう」
まるで自分は家族の一員で、温かく迎えてるような口ぶりだ。俺はそれに対して軽く会釈をする。
「お世話になってます」
他になんて言えばいいんだ? それ以外の言葉が見つからなかった。喉の奥には重たいものがつかえているみたいだ。
ソヨンは鏡の前で髪を整えながら、穏やかに続けた。
「イジュンって明るいけど、少し不器用なところがあるでしょう? だからこうしていい友だちができたのは本当に良いことだと思うの。まして一緒にビジネスをするなんて」
彼女は柔らかく、でも言い切った。口調は優しげなのに、俺を突き放す。この人には勝てない。そう思った。
彼女の仕草、立ち居振る舞い。なによりこの家の空気にすでに溶け込んでいる自然さが余裕を感じさせるのかもしれない。それに反して俺は外から来た客人に過ぎない。招かれたからここにいるだけで、この場に気軽に帰る場所になることはない。けれど、ソヨンさんは既に血縁という動かしがたい絆でこの家と結ばれている。俺がどんなに努力しても超えられない壁だ。
「イジュンさんに誘われたので。頼りになると思いますし」
やっと絞り出した言葉は、ありきたりなものだった。でも、それ以外の言葉が浮かばなかったんだ。俺のその言葉にソヨンさんはふっと目を細めた。その表情には揺るがない余裕が漂っている。きっとわざとそうしてるんだろうなと思わせる表情だ。
「私もまた日本に行きたいな。イジュンと一緒なら楽しいし」
その言葉に心臓がツキリと痛む。まるで当たり前かのようにイジュンと並ぶ未来を語る。その言葉に、ひやりとした感情が広がる。
「良ければガイドしますよ」
「ありがとう」
嘘だ。イジュンと彼女の旅行のガイドなんてしたくない。でも、なんでもない振りをするにはこう言うしかなかった。
「じゃあ、ごゆっくり」
そう言うとソヨンさんはドアを開け、リビングへ向かう。すれ違いざまに漂う香りが、劣等感を刺激した。残された俺はしばらく立ちつくしたままでいた。でも、いつまでもここにいるわけにはいかないので、蛇口をひねり手を洗う。冷たさが指先から腕にかけて駆け上がり、震えそうになる。彼女に勝てるはずがない。どんなに頑張っても彼女が持っている立場には俺は立つことができない。親族という確かな居場所。それが彼女の背後には揺るぎなくある。
タオルで手を拭きながら、鏡に映る自分の顔を見た。強ばった笑み。目には微かな憂いの表情。深く息を吐いた。ここを出るには笑顔にならなければ。イジュンは俺の様子が変なことに気づくだろう。いや、ソヨンさんとの話に忙しくて、俺の表情になんて気がつかないかもしれない。でも、お婆さまやお母さん、お父さんは気づくだろう。だから笑わなくては。鏡の前で笑みを作り、なんでもないふりをする。帰るまでこの表情が崩れないように。だけど、笑顔の奥ではざらざらとした感情が渦巻いている。イジュンの隣にいたいと思う俺は、ただの外側の人間だと突きつけられたに過ぎない。
戻らなきゃ。そう思って足を一歩踏み出したけれど、心の中の重さは拭えなかった。
「すいません、ちょっとトイレに」
一言そう断ってからリビングから離れ、廊下を曲がったところにあるトイレに入る。ここにはイジュンとソヨンさんの笑い声はない。そしてホッと息を吐いた。水を流し、深呼吸する。大丈夫だから落ち着け。そう自分に言い聞かせた。
トイレから出て手を洗おうとすると、そこにはソヨンさんが立っていた。なんでもない顔をして髪の毛を直している。これは、俺と2人になろうと待っていたんだろう。急なことで一瞬体が固まる。なんで俺を待っていた? 答えは簡単だ。みんなに聞かれずに、でも俺に言いたいことがあるからだ。
「ごめんなさい。びっくりさせちゃったわよね」
なめらかな英語で話す。
表情には柔らかな笑顔を浮かべ、敵意なんて欠片もないという顔をしている。だけど、目が笑っていないことは見てとれる。
「イジュンの友だちなんだって? わざわざ遠いところからありがとう」
まるで自分は家族の一員で、温かく迎えてるような口ぶりだ。俺はそれに対して軽く会釈をする。
「お世話になってます」
他になんて言えばいいんだ? それ以外の言葉が見つからなかった。喉の奥には重たいものがつかえているみたいだ。
ソヨンは鏡の前で髪を整えながら、穏やかに続けた。
「イジュンって明るいけど、少し不器用なところがあるでしょう? だからこうしていい友だちができたのは本当に良いことだと思うの。まして一緒にビジネスをするなんて」
彼女は柔らかく、でも言い切った。口調は優しげなのに、俺を突き放す。この人には勝てない。そう思った。
彼女の仕草、立ち居振る舞い。なによりこの家の空気にすでに溶け込んでいる自然さが余裕を感じさせるのかもしれない。それに反して俺は外から来た客人に過ぎない。招かれたからここにいるだけで、この場に気軽に帰る場所になることはない。けれど、ソヨンさんは既に血縁という動かしがたい絆でこの家と結ばれている。俺がどんなに努力しても超えられない壁だ。
「イジュンさんに誘われたので。頼りになると思いますし」
やっと絞り出した言葉は、ありきたりなものだった。でも、それ以外の言葉が浮かばなかったんだ。俺のその言葉にソヨンさんはふっと目を細めた。その表情には揺るがない余裕が漂っている。きっとわざとそうしてるんだろうなと思わせる表情だ。
「私もまた日本に行きたいな。イジュンと一緒なら楽しいし」
その言葉に心臓がツキリと痛む。まるで当たり前かのようにイジュンと並ぶ未来を語る。その言葉に、ひやりとした感情が広がる。
「良ければガイドしますよ」
「ありがとう」
嘘だ。イジュンと彼女の旅行のガイドなんてしたくない。でも、なんでもない振りをするにはこう言うしかなかった。
「じゃあ、ごゆっくり」
そう言うとソヨンさんはドアを開け、リビングへ向かう。すれ違いざまに漂う香りが、劣等感を刺激した。残された俺はしばらく立ちつくしたままでいた。でも、いつまでもここにいるわけにはいかないので、蛇口をひねり手を洗う。冷たさが指先から腕にかけて駆け上がり、震えそうになる。彼女に勝てるはずがない。どんなに頑張っても彼女が持っている立場には俺は立つことができない。親族という確かな居場所。それが彼女の背後には揺るぎなくある。
タオルで手を拭きながら、鏡に映る自分の顔を見た。強ばった笑み。目には微かな憂いの表情。深く息を吐いた。ここを出るには笑顔にならなければ。イジュンは俺の様子が変なことに気づくだろう。いや、ソヨンさんとの話に忙しくて、俺の表情になんて気がつかないかもしれない。でも、お婆さまやお母さん、お父さんは気づくだろう。だから笑わなくては。鏡の前で笑みを作り、なんでもないふりをする。帰るまでこの表情が崩れないように。だけど、笑顔の奥ではざらざらとした感情が渦巻いている。イジュンの隣にいたいと思う俺は、ただの外側の人間だと突きつけられたに過ぎない。
戻らなきゃ。そう思って足を一歩踏み出したけれど、心の中の重さは拭えなかった。
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