春は君のとなり 〜Tokyo & Seoul 〜

水無瀬 蒼

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未来を探す歩幅4

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 弘大の喧騒を抜けて新村の街に入ると、心なしか足取りも落ち着いた。大通りにはチェーンの軽食店、カフェ、若い子向けの可愛いコスメ店が並んでいる。路地に入れば大学生向けの飲み屋や安い食堂が並ぶ。ほんとに「生活の匂い」のする街で、弘大のように目立つ装飾や奇抜なコンセプトはない。だけど、だからこそ毎日通う人たちの足が止まる場所になり得るのだろう。

「ここだと、客層はほとんど大学生だね。観光客もほとんどいない」

 イジュンが周囲を見渡しながら言う。確かに、リュックを背負った学生や、教科書が入っているのだろう大きなトートバッグを肩にかけた女の子が行き交い、カフェの窓際ではノートパソコンを開いて課題をしている姿が目立つ。俺は頷いてから、少し現実的な視点を口にした。

「だとすると5000ウォン(約500円)ぐらいになるかな? それ以上になると手が止まる子もいるんじゃない? バイトしてない子もいるかもしれないし」
「そうだね。俺もバイトはしてなかったから、安いならそれにこしたことはなかった。だからそうだね5000ウォンくらいかな。あとはトッピングで追加する方式にすれば、ある程度は単価を調整できるね」

 俺たちは路地を抜け、学生が集まる小さな広場に出た。野外のベンチではグループで軽食をシェアしている子たちもいて、シェアの習慣が根付いているのがわかる。

「クレープをシェアするのはなかなか難しいよね。あらかじめ訊いてはじめに分けておくとか?」
「おもしろいね。包装紙を真ん中で分けておくとか。珍しいからSNSにあげてくれるかな?」
「そんなクレープ見たことないもんな」

 そんな話しをしながら大通りを歩いていると、テナント募集の張り紙が目に入った。少し古い雑居ビルの1階。人通りはそこそこあるけれど、弘大のようにごった返してはいない。

「こういう場所なら賃料も抑えられそうだな」

 俺がそう言うと、イジュンはスマホで相場を調べながら言う。

 「弘大よりかなり安くなる。でも、大学生だけを相手にするというデメリットもある」

 イジュンの横顔を見ながら、2人で巡った浅草や谷中を思い出す。観光地では流行に流されやすく、地元の人で集まるところは習慣に溶け込む必要がある。どちらも一長一短だ。けれど、「生活動線に入り込む」という点では、新村の可能性は大きい気がした。

「放課後に友だちと立ち寄る習慣ができたら強いよね。小腹を満たす一品として定着できれば」

 俺がそう言うと、イジュンは少し黙り込んでから、ぽつりと続けた。

「俺たちの店が、誰かの”いつもの場所”になればいいよね」

 その言葉が胸に残った。派手さはなくても日常の一部に溶け込む店。谷中の店のように、いつでも寄れる、安心できる空間。俺自身、友人と通うカフェがある。コーヒーの味よりも、居心地がいい店。いつまでも話していられるような。そんな店を提供できたらいい。

「でも、それにはやっぱり味と雰囲気のバランスがいるよね」
「うん。味はもちろんだけど、ここなら雰囲気は”アットホーム”で十分かも。インテリアにお金をかけすぎなくても、学生が気軽に入れる方がいい」

 通りの先に、また別のカフェが見えた。中は学生でいっぱいだが、椅子もテーブルもシンプルで、壁にかかったメニューも手書きの黒板だ。それでも人は一杯で、笑い声に満ちている。新村では派手な装飾より「居心地」と「価格」が全てなのだろう。
 俺たちは再び歩き出す。人通りが少し途切れる。

「この先が梨大。同じ学生街だけど、少し雰囲気が変わる」
「女子大の街か……」

 きっと同じ学生街でも、もう少し華やかで可愛らしい雰囲気が待っているのだろう。さっきまでの学生の日常に重きをおいた思考が、ふわりと次の期待へと変わる。それでも新村の景色はしっかりと頭に残っている。ここで店を構える未来も選択肢のひとつだ。

「新村なら”日常の一部”を狙えるな」
「そうだね。でも、梨大を見て判断しよう。俺も数えるほどしか行ったことないけど、こことは違う可能性があるはずだよ」
「そうか。楽しみだな」

 そう言って俺たちは手早く昼食を済ませると新村を後にし、梨大へと向かった。

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