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第三章:蝕まれる現実
第24話:目に映るモノが真実と思うことなかれ
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エルトルージェの城に再び戻った。
新鮮で甘い空気が肺を満たす。
「やっぱり、ここの空気はうまいな」
京志郎は深呼吸を一つした。
もとより、自分は自然と共にいる時間が多かった。
そのせいもあってか、都会の空気はいまいち慣れない。
ここは自然も多く、花も色とりどりで景観もとてもいい。
いつまでもいたい――自分らしくない感情に、しかし京志郎はすんなりと受け入れた。
「って、もうこんなに時間が経っていたのか」
気が付けば、山の向こうの空が東雲色に染まろうとしていた。
思いの他、修練場で長く過ごしていたらしい。
ふと隣を見やる。エルトルージェが小さく欠伸をこぼしていた。
「……もう一度寝るか?」
京志郎の提案に、エルトルージェが小さくうなずく。
うつらうつらと船を漕ぎ、意識は今にも微睡の海を漂いそうな勢いだ。
「キョウシロウさんといっしょがいい……」
「わかったわかった。わかったからこんなところで寝ようとするなよ?」
「えへへ……うん」
にこりと微笑むエルトルージェの手を取る。
ほんのりとした優しいぬくもりが、心地良い睡魔を伝染させた。
たまには、遅くまで寝るのも悪くないかもしれない。
京志郎はなんとなく、そんなことを思った。
大きな欠伸を一つする。エルトルージェの手を引いて寝室へ向かった――刹那。
「ん? なんだ、この音は……」
遠くより地鳴りが響く。
それによって睡魔は一瞬して喪失した。
ぞくり、と全身がかつてないほどひどく粟立った。
特にうなじの辺りがじくりと疼く。とてつもなく悪い予感が胸中によぎる。
険しい面持ちで周囲を一瞥した時、京志郎はその目をカッと限界まで開いた。
「あれは……!」
視線の先、険しい山道に従っていくつもの火が見えた。
目をジッと凝らす。松明を手にした大軍がこの城を目指し直進している。
百、二百どころの話ではない。
遠くからでもはっきりとわかるぐらい、とにもかくにも多かった。
「まさか、本格的に吸血鬼退治に乗り出してきたっていうのか!?」
京志郎はすぐにエルトルージェの肩をがしりと掴んだ。
相当な力がこもってしまい「い、痛い……!」と、エルトルージェの顔が苦痛で歪む。
罪悪感を抱きつつも、だが猶予は皆無に等しい。事態は一刻を争う。
「エルトルージェ、お前はすぐにここから脱出しろ」
「え……?」
事態がまだ把握できていないのか、困惑の感情を色濃く浮かべるエルトルージェ。
(どうしてこいつが、狙われないといけないんだ……?)
素朴にして、最大の疑問が京志郎の顔に不動明王を宿す。
エルトルージェは吸血鬼だ。だが、人を襲わない善良な少女である。
そうでなければ今頃、こうして生きているはずがない。
自分こそが生きた証人であるだけに、今回の暴挙に京志郎はひどく怒りを覚えた。
「今ここにたくさんの人間が迫ってきている! 目的はエルトルージェ、お前だ」
「わ、わたくし……?」
ようやく事態を把握したのだろう。
たちまち端正な顔が恐怖によってひどく歪んだ。
元よりきれいな白い肌が、血の気が引いて余計に白に染まっていく。
「くそっ! あの時、無理にでも仕留めておくべきだった……!」
こうなるのであれば――人ならではの悪癖だ。
後悔ばかりに思考が寄りがちになる。
いかなる時でも冷静であれ――京志郎は大きく深呼吸をした。
エルトルージェを守るためにも、冷静さを欠いてはならない。
不安でいっぱいの表情を、少しでも早く笑顔に戻したい。
その決意を胸に、京志郎は握り拳を強く作った。
「アルバトロス、俺が殿をする。その間にエルトルージェを安全な場所へ」
「正気ですかキョウシロウ殿!」
アルバトロスが声を荒げた。
「敵は、一人でどうにかなる数ではありませんぞ!」
彼の主張は、実にごもっともだ。
いかに鬼神でも、数百を同時に相手するのは無謀というもの。
自殺行為に等しい。だが京志郎に退くつもりは最初からなかった。
誰かが、やらなければならない。ただ、それだけのこと。
「交渉でどうにかできれば楽なんだがな……」
叶いそうにもない展開を、京志郎は鼻で一笑に伏した。
「とにかく、エルトルージェを頼むぞ」
「ま、待ってキョウシロウさん……!」
エルトルージェが袖を強く掴んだ。
離そうとする気配はない。向けた視線は涙で潤んでいる。
離れたくない……言葉にしなくても、その意思がひしひしと伝わる。
「俺もお前と離れることは本意ではない」
現状がどうしても、それを許さない。
これは苦渋の決断だ。一人きりにすることへの危険もある。
幸いエルトルージェにはアルバトロスがいた。
多少の危険も、単独よりずっと安全であるはずだ。
エルトルージェを生かすためには、これがもっとも効率がいい。
こうしている時間が、とにもかくにも惜しい。
京志郎はエルトルージェの手を半ば強引に解いた。
「きょ、キョウシロウさん……」
驚きの後に深い悲しみが、彼女の顔を一気に染める。
ずきり、と胸が痛んだ。こんな顔をさせるつもりは、もちろん京志郎にはなかった。
だからこそ、京志郎はここに新たな誓いを立てた。
まっすぐとエルトルージェの赤い瞳を見据える。皮肉にも、涙で一際美しく輝いていた。
「心配するな。俺は必ず、生きてお前のところに帰ってくる」
確固たる証拠などどこにもなかった。所詮は口約束にすぎない。
是が非でも誓いを果たす――決意が炎となって胸の内を熱く焦がす。
「……アルバトロス、頼んだぞ」
「……ご武運を、キョウシロウ殿!」
刹那の時間、視線を交えた後アルバトロスが深く首肯した。
彼もまた、覚悟を決めた男の目をしていた。
「姫様、さぁこちらへ!」
「駄目! キョウシロウさんも……!」
尚も抗うエルトルージェに、京志郎はそっと背を向けた。
彼女の視線も、悲痛な表情も声も、決意を揺らがせるには効果は絶大だった。
程なくして、風を荒々しく切る羽音が背後で鳴った。
吸血姫の必死の叫びも、その羽音によってかき消される。
京志郎にとって、それは救いでもあった。
「これで心置きなく戦えるな……」
愛刀をすらりと抜く。すでに羽音もエルトルージェの声も聞こえない。
代わりに、しんとした城内を外からの地鳴りが反響した。
敵はもう、目と鼻の先だ。
「……鬼神に再び、戻るとするか」
そう一言もそりと口にして、京志郎は城門へと急ぎ向かった。
広いエントランスに着いた時、ドンというけたたましい音が何度も鳴った。
その都度、固く閉じた扉が不自然にぐらりと前後に揺れる。
敵が乗り込もうとしている。
そのために彼らは、門を強引にこじ開けようとしているのだ。
京志郎はそれを静観した。一人では、どう足掻いても止める術はない。
やるのならば、あえて中へと招いてから。
それからでも遅くはないだろう――京志郎は全力で身構えた。
ついに扉が耳をつんざく破壊音と共に決壊した。
大量の人がぞろぞろとエントランスへと群がる。
ずらりと並ぶ騎士たち――装備の質が極めていい。
鎧についての知識は皆無に等しいが、見てくれは大変いい。
煌めき具合や、流動的なフォルムから察するにナマクラの類ではない。
一斉に剣が抜き放たれる。直線的かつ両刃が怪しくも神々しく輝く。
眼前に並ぶ剣林を、京志郎は静かに見据えた。
このまま激しい斬り合いになる。それは過去類を見ないほど熾烈なものとなるだろう。
そんな予想は、紅蓮の炎によってあっさりと崩れた。
「なっ! 火の手がもうこんなところにも……!」
あっという間に広がった火の海に、京志郎もこれには下がるしかできず。
一方で、騎士たちはというと憐れにも火の海の中に取り残された。
熱い、助けて、苦しい……どれも悲痛な声で、彼らの叫びに京志郎は――。
「ッ!?」
がつん、とハンマーで後頭部を殴られたような激痛が走った。
動機が激しくなる。呼吸一つでさえも、肺が苦しくてうまくできない。
大切な物を忘れていた――京志郎は思わずゾッとした。
原動力でもあった感情を、いったいいつの間に忘れていたのだろう。
「俺は……そうだ、俺は――!」
「思い出したようね」
凛とした声に京志郎はハッとした。
揺らぐ炎の向こうで人影がゆらりと揺れる。
それはすぐにはっきりと形となって視界に映った――アリアが不敵に笑っている。
こつ、こつ――軽快な足音がエントランスに不気味に響き渡る。
「どう? この炎……あなたにとってはある意味感慨深いんじゃない?」
挑発的な言動が神経を逆撫でする。
それを知ってか知らずか、アリアの口調は親しい友人にでもするかのように軽やかだった。
「炎はあなたにとって最大の汚点にして怒りの要因……そうでしょう?」
「お前は、いったい……」
「あなたはこのまま、忘れてもいいのかしら?」
質問との関連性がない。意図も読めない。
にも関わらず、アリアの一言は心を容赦なく抉る。
「それも一つの方法とは思うわよ。けど、あなたはそれで納得できる? いいえ、できない」
「ぐっ……!」
そう断言するアリアに、京志郎は更なる痛みを覚えた。
立位を保つことさえもままならない。
早くこの痛みから解放してほしい――そんな思いばかりが頭の中をぐるぐると回る。
「後輩を殺された下手人が生きているのに、平穏な日々をすごせるかしら?」
その一言が、引き金となった。
「……知ったような口を、何も知らない奴が軽々しく口にするな!」
京志郎は歯を食いしばり、形相を怒りと痛みで歪めたままぎろりと睨んだ。
アリアがふっと、不敵に笑う。満足したようなその面持ちは、突如視界が霞んだことで消失した。
「次は現実世界で――あなたは、ちゃんと覚えているかしらね」
その言葉を最後に、京志郎は意識を深淵へと委ねた。
新鮮で甘い空気が肺を満たす。
「やっぱり、ここの空気はうまいな」
京志郎は深呼吸を一つした。
もとより、自分は自然と共にいる時間が多かった。
そのせいもあってか、都会の空気はいまいち慣れない。
ここは自然も多く、花も色とりどりで景観もとてもいい。
いつまでもいたい――自分らしくない感情に、しかし京志郎はすんなりと受け入れた。
「って、もうこんなに時間が経っていたのか」
気が付けば、山の向こうの空が東雲色に染まろうとしていた。
思いの他、修練場で長く過ごしていたらしい。
ふと隣を見やる。エルトルージェが小さく欠伸をこぼしていた。
「……もう一度寝るか?」
京志郎の提案に、エルトルージェが小さくうなずく。
うつらうつらと船を漕ぎ、意識は今にも微睡の海を漂いそうな勢いだ。
「キョウシロウさんといっしょがいい……」
「わかったわかった。わかったからこんなところで寝ようとするなよ?」
「えへへ……うん」
にこりと微笑むエルトルージェの手を取る。
ほんのりとした優しいぬくもりが、心地良い睡魔を伝染させた。
たまには、遅くまで寝るのも悪くないかもしれない。
京志郎はなんとなく、そんなことを思った。
大きな欠伸を一つする。エルトルージェの手を引いて寝室へ向かった――刹那。
「ん? なんだ、この音は……」
遠くより地鳴りが響く。
それによって睡魔は一瞬して喪失した。
ぞくり、と全身がかつてないほどひどく粟立った。
特にうなじの辺りがじくりと疼く。とてつもなく悪い予感が胸中によぎる。
険しい面持ちで周囲を一瞥した時、京志郎はその目をカッと限界まで開いた。
「あれは……!」
視線の先、険しい山道に従っていくつもの火が見えた。
目をジッと凝らす。松明を手にした大軍がこの城を目指し直進している。
百、二百どころの話ではない。
遠くからでもはっきりとわかるぐらい、とにもかくにも多かった。
「まさか、本格的に吸血鬼退治に乗り出してきたっていうのか!?」
京志郎はすぐにエルトルージェの肩をがしりと掴んだ。
相当な力がこもってしまい「い、痛い……!」と、エルトルージェの顔が苦痛で歪む。
罪悪感を抱きつつも、だが猶予は皆無に等しい。事態は一刻を争う。
「エルトルージェ、お前はすぐにここから脱出しろ」
「え……?」
事態がまだ把握できていないのか、困惑の感情を色濃く浮かべるエルトルージェ。
(どうしてこいつが、狙われないといけないんだ……?)
素朴にして、最大の疑問が京志郎の顔に不動明王を宿す。
エルトルージェは吸血鬼だ。だが、人を襲わない善良な少女である。
そうでなければ今頃、こうして生きているはずがない。
自分こそが生きた証人であるだけに、今回の暴挙に京志郎はひどく怒りを覚えた。
「今ここにたくさんの人間が迫ってきている! 目的はエルトルージェ、お前だ」
「わ、わたくし……?」
ようやく事態を把握したのだろう。
たちまち端正な顔が恐怖によってひどく歪んだ。
元よりきれいな白い肌が、血の気が引いて余計に白に染まっていく。
「くそっ! あの時、無理にでも仕留めておくべきだった……!」
こうなるのであれば――人ならではの悪癖だ。
後悔ばかりに思考が寄りがちになる。
いかなる時でも冷静であれ――京志郎は大きく深呼吸をした。
エルトルージェを守るためにも、冷静さを欠いてはならない。
不安でいっぱいの表情を、少しでも早く笑顔に戻したい。
その決意を胸に、京志郎は握り拳を強く作った。
「アルバトロス、俺が殿をする。その間にエルトルージェを安全な場所へ」
「正気ですかキョウシロウ殿!」
アルバトロスが声を荒げた。
「敵は、一人でどうにかなる数ではありませんぞ!」
彼の主張は、実にごもっともだ。
いかに鬼神でも、数百を同時に相手するのは無謀というもの。
自殺行為に等しい。だが京志郎に退くつもりは最初からなかった。
誰かが、やらなければならない。ただ、それだけのこと。
「交渉でどうにかできれば楽なんだがな……」
叶いそうにもない展開を、京志郎は鼻で一笑に伏した。
「とにかく、エルトルージェを頼むぞ」
「ま、待ってキョウシロウさん……!」
エルトルージェが袖を強く掴んだ。
離そうとする気配はない。向けた視線は涙で潤んでいる。
離れたくない……言葉にしなくても、その意思がひしひしと伝わる。
「俺もお前と離れることは本意ではない」
現状がどうしても、それを許さない。
これは苦渋の決断だ。一人きりにすることへの危険もある。
幸いエルトルージェにはアルバトロスがいた。
多少の危険も、単独よりずっと安全であるはずだ。
エルトルージェを生かすためには、これがもっとも効率がいい。
こうしている時間が、とにもかくにも惜しい。
京志郎はエルトルージェの手を半ば強引に解いた。
「きょ、キョウシロウさん……」
驚きの後に深い悲しみが、彼女の顔を一気に染める。
ずきり、と胸が痛んだ。こんな顔をさせるつもりは、もちろん京志郎にはなかった。
だからこそ、京志郎はここに新たな誓いを立てた。
まっすぐとエルトルージェの赤い瞳を見据える。皮肉にも、涙で一際美しく輝いていた。
「心配するな。俺は必ず、生きてお前のところに帰ってくる」
確固たる証拠などどこにもなかった。所詮は口約束にすぎない。
是が非でも誓いを果たす――決意が炎となって胸の内を熱く焦がす。
「……アルバトロス、頼んだぞ」
「……ご武運を、キョウシロウ殿!」
刹那の時間、視線を交えた後アルバトロスが深く首肯した。
彼もまた、覚悟を決めた男の目をしていた。
「姫様、さぁこちらへ!」
「駄目! キョウシロウさんも……!」
尚も抗うエルトルージェに、京志郎はそっと背を向けた。
彼女の視線も、悲痛な表情も声も、決意を揺らがせるには効果は絶大だった。
程なくして、風を荒々しく切る羽音が背後で鳴った。
吸血姫の必死の叫びも、その羽音によってかき消される。
京志郎にとって、それは救いでもあった。
「これで心置きなく戦えるな……」
愛刀をすらりと抜く。すでに羽音もエルトルージェの声も聞こえない。
代わりに、しんとした城内を外からの地鳴りが反響した。
敵はもう、目と鼻の先だ。
「……鬼神に再び、戻るとするか」
そう一言もそりと口にして、京志郎は城門へと急ぎ向かった。
広いエントランスに着いた時、ドンというけたたましい音が何度も鳴った。
その都度、固く閉じた扉が不自然にぐらりと前後に揺れる。
敵が乗り込もうとしている。
そのために彼らは、門を強引にこじ開けようとしているのだ。
京志郎はそれを静観した。一人では、どう足掻いても止める術はない。
やるのならば、あえて中へと招いてから。
それからでも遅くはないだろう――京志郎は全力で身構えた。
ついに扉が耳をつんざく破壊音と共に決壊した。
大量の人がぞろぞろとエントランスへと群がる。
ずらりと並ぶ騎士たち――装備の質が極めていい。
鎧についての知識は皆無に等しいが、見てくれは大変いい。
煌めき具合や、流動的なフォルムから察するにナマクラの類ではない。
一斉に剣が抜き放たれる。直線的かつ両刃が怪しくも神々しく輝く。
眼前に並ぶ剣林を、京志郎は静かに見据えた。
このまま激しい斬り合いになる。それは過去類を見ないほど熾烈なものとなるだろう。
そんな予想は、紅蓮の炎によってあっさりと崩れた。
「なっ! 火の手がもうこんなところにも……!」
あっという間に広がった火の海に、京志郎もこれには下がるしかできず。
一方で、騎士たちはというと憐れにも火の海の中に取り残された。
熱い、助けて、苦しい……どれも悲痛な声で、彼らの叫びに京志郎は――。
「ッ!?」
がつん、とハンマーで後頭部を殴られたような激痛が走った。
動機が激しくなる。呼吸一つでさえも、肺が苦しくてうまくできない。
大切な物を忘れていた――京志郎は思わずゾッとした。
原動力でもあった感情を、いったいいつの間に忘れていたのだろう。
「俺は……そうだ、俺は――!」
「思い出したようね」
凛とした声に京志郎はハッとした。
揺らぐ炎の向こうで人影がゆらりと揺れる。
それはすぐにはっきりと形となって視界に映った――アリアが不敵に笑っている。
こつ、こつ――軽快な足音がエントランスに不気味に響き渡る。
「どう? この炎……あなたにとってはある意味感慨深いんじゃない?」
挑発的な言動が神経を逆撫でする。
それを知ってか知らずか、アリアの口調は親しい友人にでもするかのように軽やかだった。
「炎はあなたにとって最大の汚点にして怒りの要因……そうでしょう?」
「お前は、いったい……」
「あなたはこのまま、忘れてもいいのかしら?」
質問との関連性がない。意図も読めない。
にも関わらず、アリアの一言は心を容赦なく抉る。
「それも一つの方法とは思うわよ。けど、あなたはそれで納得できる? いいえ、できない」
「ぐっ……!」
そう断言するアリアに、京志郎は更なる痛みを覚えた。
立位を保つことさえもままならない。
早くこの痛みから解放してほしい――そんな思いばかりが頭の中をぐるぐると回る。
「後輩を殺された下手人が生きているのに、平穏な日々をすごせるかしら?」
その一言が、引き金となった。
「……知ったような口を、何も知らない奴が軽々しく口にするな!」
京志郎は歯を食いしばり、形相を怒りと痛みで歪めたままぎろりと睨んだ。
アリアがふっと、不敵に笑う。満足したようなその面持ちは、突如視界が霞んだことで消失した。
「次は現実世界で――あなたは、ちゃんと覚えているかしらね」
その言葉を最後に、京志郎は意識を深淵へと委ねた。
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