魔剣『影法師』~転生した影の魔剣使いは異世界にて剣術無双する~

龍威ユウ

文字の大きさ
4 / 25
第一章:魔剣スレイヤー

第3話

しおりを挟む
 夜遅くに現れた彼らは、一般人とは程遠い装いをしていた。

 質素でこそあるが各々しっかりと武器や防具で武装している。

 下賤な笑みを浮かべると共に武器をちらつかせた。――野盗だ。数も多い。

「まぁ、そこの嬢ちゃんはまだかわいがりがありそうだからいいとして……おいそこのお前!」

 リーダー格らしいスキンヘッドの男がキョウジロウに切っ先を向けた。

 ボロボロの剣だ。刃こぼれはしているし、手入れがまるでされていない。

 剣としての機能はもはや皆無に等しいだろうが、それでも殺傷能力が完全に失われたわけではない。

「死にたくなかったら身ぐるみ全部置いていきな!」

「そうだそうだ。これは善意だぜぇ? 無駄に抵抗して死にたくないだろぉ? 俺らのボスは優しいからなぁ、こうやってお前に慈悲を与えてくださってんだよ」

「おらどうしたぁ! さっさと――」

 次の瞬間、一陣の疾風が吹いた。

「な、なに……?」

 突然の疾風にリディアは困惑した。

 つい先ほどまで穏やかな夜だった分だけ受けた衝撃も大きい。

 わずかな間を置いて、どさりと何かが地面に落ちた。同時に濃厚な鉄の香りが辺り一帯を包み込む。

「え……?」

 リディアは落ちたモノを、ぎょっと丸くした目で見やった。

 腕だった。剛毛で筋肉もそれなりにある。ごつごつとした腕がすぐ目前にあった。

 しばしの静寂が流れ、野盗の一人が断末魔にも近しい叫び声をあげた。

 彼の肘から下がなかった。鋭利な断面図からはたちまち、赤々とした鮮血が滝のようにぼたぼたと滴り落ちる。

 うそでしょ……?

 もしかして、キョウジロウがやったの……?

 でも、いつ剣を抜いたの……?

 リディアはいぶかし気な視線をキョウジロウへと送った。

 キョウジロウは先ほどの場所から一歩たりとも動いていなかった。

 しいて言うなれば、腰の剣をいつでも抜ける体制だけはしっかりと整えている。

 けれども肝心の抜剣の瞬間がリディアにはわからなかった。

 こ、これが魔剣スレイヤーとしての実力なの……!?

 リディアは大いに驚愕した。その中で同時に、キョウジロウに対し強い好奇心をも抱いた。

 この無口で、だけど気遣いができるキョウジロウのことを個人的にもっと知りたい……。

 それはある種、恋する乙女のような思考に近しかったのかもしれない。――恋なんて、私らしくないかも。

 リディアは自嘲するように小さく笑った。

「な、なんだこいつ!? いったい何をしやがった!?」

「もういい殺せ! こっちは人数は多いんだ! 殺してから奪おうが、どっちでも一緒だ!」

 スキンヘッドの男の言葉に、仲間の二人がキョウジロウに襲いかかった。

 キョウジロウは、やはり先ほどと同様抜く体制こそあれど微塵たりとも動こうとしない。

「死ねこの野郎!」

「てめぇなんか俺の斧で一発だぜ!」

「あ、危ない……!」

 リディアがそう叫んだ時、二つの首がことりと落ちた。

 またしてもキョウジロウが斬った。ただしその瞬間はやはり肉眼では捉えられなかった。

 代わりに、彼の剣がついにその正体を白日のもとにさらされた。

 すごく、きれい……。

 リディアは無意識のうちにそれをジッと凝視した。

 滑らかかつ浅くカーブを描いた刀身はまず、ここオルトリンデは見ることは不可能である。

 神々しい月明かりをたっぷりと浴びた刀身の輝きは美しく、それでいてどこか妖艶な雰囲気をひしひしと放っていた。

 なに? なんなの、あの剣……。

 あの感じ……あれじゃあまるで、魔剣じゃない……!

 リディアは強く困惑した。

「な、なんなんだよこいつ……!」

「め、めっちゃ強いじゃねぇかよ……! こんなに強いだなんて聞いてないぞ!」

「お、お頭どうするんですか!?」

 野盗たちにもはや戦意は皆無に等しかった。

 皆、キョウジロウの圧倒的すぎる実力差に怖気ついてしまっていた。

 今ならいけるかも……。

 リディアは深呼吸を一つして、そしてできる限り大きく声を張り上げた。

「ここにいるのはかの有名な魔剣スレイヤーよ! あ、あなたたちなんかが敵う相手じゃないんだからね!」

「ま、魔剣スレイヤーだって……?」

 野盗の一人が、顔を青白くさせた。がたがたと小刻みに震えて、呼吸も浅い。

「ま、まさか……あの魔剣スレイヤーなのか!?」

「じょ、冗談じゃねぇよ! あんなのとやりあうなんて命がいくつあっても足りやしねぇよ!」

「お、俺も逃げるぞ……まだ死にたくなんかねーよ!」

「あ、おいお前ら待ちやがれ! 誰が勝手に逃げていいと……」

 スキンヘッドの男の言葉に従う者は、こうこの場には誰もいなかった。

 我先にと一目散に逃げていき、ついにスキンヘッドの男だけがぽつんと残された。

「く、くそぉ……こうなったら」

 スキンヘッドの男の眼光に鋭さが帯びた。

 そしてくるりと背中を見せた。――なんで背中を見せるのかしら。

 リディアは警戒しつつもはて、と小首を小さくひねった。

「今日のところはこれで許してやるよ! だがなぁ、次は絶対にねぇからな!」

「あ、逃げた……!」

 捨て台詞を吐いてスキンヘッドの男はようやく退散した。

 とりあえず、なんとかなったみたい……。

 リディアはホッと安堵の息を吐いた。

 再び戻ってきた静寂を堪能しつつ、今度こそリディアはテントの中で横たわった。

 暖かい毛布もあってもはや言うことはなしだ。あえて一つ不満をもらすなら、いい加減お風呂に入りたいところだろう。

 そのためにも早く、村を救ってもらわないと……!

 リディアはちらりとテントの外を見やった。

 布越しにわずかに揺れるシルエットは他でもない、キョウジロウのものである。

 野盗のような輩にいつまた狙われるかわからない以上、誰かが見張るのは言うまでもない。

 そこでキョウジロウが自らが寝ずの番を買って出たのだ。

 なんだか申し訳ないな……。

 リディアはそう思いつつも、ゆっくりと重くなった瞼を閉じていく。

 長時間による移動や、野盗の襲来による緊張で、彼女の疲労は限界に達しようとしていた。

 とりあえずまずはしっかりと休もう。そう結論を下し、リディアは意識を完全に心地良い常闇へと手放した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない

仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。 トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。 しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。 先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...