魔剣『影法師』~転生した影の魔剣使いは異世界にて剣術無双する~

龍威ユウ

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第三章:忠実なる魔剣

第17話

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 つい先日、エルトルージェを連れて帰った際も同様の反応を示している。

 その時はついに彼女ができたのか、とジンはリリアナから問い詰められている。――あの時のリリアナ、本当に怖かった……。

「あ、えっと……紹介しますね。こちらは隣国ミストルーンの姫君で名前はアリスです」

「ど、どうも……」

「あ、こちらこ……熱ッ」

 先程までの流麗さも、工房に籠る熱気の前では発揮できなかったらしい。

 今すぐにでもここから立ち去りたい。アリスの表情にはそんな訴えが色濃く滲んでいた。

 これ以上、ここにいるのは控えたほうがいいだろう。そう判断したジンは先にアリスを外へと出した。少なくとも外ならば、中よりかは比較的熱気もマシだろう。

 さて……。

 ジンは改めてリリアナを見やった。

 彼女の瞳は大粒の涙で潤んでいた。

 今にも堤防が決壊しそうな彼女に、ジンは小さな溜息と共に苦笑いを浮かべる。

「とりあえず、リリアナが思っているとおりです。彼女は俺の結婚相手です」

「そんな……ジン様、結婚……するの? ウチ以外の女と……?」

「……どうしてそこで自分を引き合いに出すのかはあえて言及しません。ですが、心配しなくても俺に結婚する意志はまったくありませんので」

「グスッ……ホント……?」

「この歳で結婚するとか俺だって嫌ですよ。だからどうにか穏便に済ませられないか必死に考えてます」

「ん……ウチにできることがあったら、なんでもいって……」

「えぇ、その時は是非ともよろしくお願いしますねリリアナ」

 工房を出てすぐに、アリスからの鋭くも力ない視線がジンを突き刺した。

「あなた……よくあんな灼熱地獄のような場所にいて平気でいられますわね」

「だから慣れですよ慣れ――紹介し遅れましたけど、彼女がリリアナ。アティルヘムが誇る俺専属の鍛冶師です。この腰の白鷲はくじゅ黒鷹こくようも彼女が打ってくれているんですよ」

 そう言ってジンは腰のそれをすらりと抜いた。

 次の瞬間、アリスの目がカッと見開かれた。

「な、なんで美しい剣なのかしら!」

「お、おぉ……?」

 ジンの愛刀をジッと見やるその姿勢に、ついさっきまで熱気にやられた様子は微塵もなかった。瞳をきらきらとさせて大いにはしゃぐ姿は正に外見相応だと言えよう。

「この計算された滑らかな曲線、片刃というデザイン、そして刀身に描かれた独特の模様……これほど見事な剣は、我がミストルーンでも目にしたことがありませんわ!」

「へぇ……」

 ジンは感嘆の息をそっともらした。

 てっきり、そんなものにはまったく興味がないとばかり思っていたが……。

 このお姫様も俺に似た人種のようだったらしい……。

 剣の良さがわかる女性っていうのはなかなか珍しいな……。

 ジンは無性に嬉しく思った。これまで剣について、その良さを理解し合える相手が誰もいなかったからに他ならない。そういう意味でもアリスは、唯一良さがわかる数少ない理解者だった。

「これは刀という武器です。こう見えても曲がらず、折れず、それでいて大変よく斬れる代物です。アリスの腰にあるそれは……」

「え? えぇ、この剣の名前はブルーローズ。父が私に送ってくださった大切な剣ですの」

 言って、アリスがそれをゆっくりと丁寧に抜き放った。

 針のように細い刀身だった。ジンの刀と比較するとあまりにも頼りない。

 しかしその細く先端が針のように鋭利であることこそ、アリスの剣の最大の特徴だった。

 刺突剣レイピア……突きとは本来、死技として呼ばれている。

 一撃で仕留められればそれでよし、外せばその時は己が死を覚悟せよ。

 こう口にされるほど、刺突とは危険の高い技なのだ。

 それをあえて承知の上でわざわざレイピアを用いているのだから、アリスが相当な腕前であるとジンが察するのは実に容易いことだった。

 曲線がとても美しい籠鍔スウェプトヒルトより伸びた刀身は――蒼い薔薇。この名が示すとおり海のように澄んだ蒼さが印象的である。

「青色の刃とはずいぶんと珍しいですね」

「この蒼い刀身こそ、我が国で採取できる鉱石――天からの贈り物として天鋼オリハルコンによる賜物ですわ。これ単体では石ころと大差ないですけど、でも他の鉱石と組み合わせることで様々な効果を発揮しますの。例えば鉄鉱石と組み合わせればその高度は金剛石以上を誇ります。また他の鉄には出せない、独特な色合いが出せるのも特徴の一つですの」

「それは、興味深いですね……!」

 ジンは深く感心した。

 どうして今更になってミストルーンと同盟を結ぼうとしたのか……。

 これを見れば、まぁわからなくもない……。

 確かにこれは、この国にとって更なる発展にもつながるはずだ……。

 この時ジンの脳裏にある考えがふと浮かぶ。自国で採取できる鉱石は良質でこそあるが、ミストルーンのような特殊なものはない。

 もしも天鋼オリハルコンと、リリアナの技量が加わった時、果たしてそこにはどのような名刀が生まれるのだろう。

 見てみたい……。

 ジンはすこぶる本気でそう思った。

「――、さすがはミストルーンの姫君といったところでしょうか」

 自室にて、ジンは感嘆の声でそう述べた。

「どういう意味ですか?」

 エルトルージェがはて、と小首をひねった。

「ミストルーンは鉄の国、鉱石が豊富だから腕のいい鍛冶師がたくさんいるっていう話を聞きました。そんな環境下で育ったからでしょう、剣についてあぁ強く関心を抱かれているとは……話が自然と弾みましたよ」

「……ジン様。ジン様は本当に結婚をしないおつもりなのですよね?」

 エルトルージェの目がすっと細くなった。

 ジンに向いた彼女の瞳は明らかに疑念が孕んでいた。

「え? えぇそうですよ」

 ジンはあっけらかんと返答した。

「どっちかといえば、共通の趣味を持つ仲間とか友人……彼女とはそんな関係が俺にとっても一番望ましいですね」

「それならば、よろしいのですが……ですが、万が一と言うこともあります」

「大丈夫ですよ。多分彼女も今回の結婚については意欲的ではないでしょうから」

 これはあくまでもジンの直感にすぎない。

 結婚……この議題についてジンは終始触れようとしなかった。

 剣による話があまりにも楽しくて仕方がなかった。それを結婚などというもので台無しにしたくなかったという気持ちが大きい。

「とりあえず、結婚はなにがろうとしません。それだけは絶対不変ですので」

「……信じていますからね?」

「嘘は言いませんよ、多分」

「多分では困ります」

「冗談ですってば」

 何気ないやり取りにジンは優しく口元を緩めた。
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