創作童話「しあわせひめ」

kromin

文字の大きさ
上 下
1 / 1

しあわせひめ

しおりを挟む
しあわせひめ

旅芸人の一座で道化師を務める少年フィーは、ある日巡業でその国を訪れる。
その国は、国の中心に建つ城に住む「しあわせひめ」の祈りによって、とてもしあわせな国だった。
しあわせひめは、その祈りで、人をしあわせにする力を持つ精霊を生み出すことができた。
国中にその精霊は漂い、住民は皆とてもしあわせだった。
ある日街中を歩いていたフィーは、一つの小さい青い精霊を見つける。
かなしい。かなしい。
可愛らしい女の子の声で、その精霊は泣いていた。
気になったフィーは、その精霊の後をついていく。
その精霊は、ゆっくりと国の中心に建つ城の、一番高い塔の一室に入っていった。
フィーは身軽にひょいひょいと塔を上り、その部屋に入る。
そこには、雪のように真っ白な長い髪をした、美しく可愛らしい一人の少女がいた。

少女は言う。

あなたは、だれ?

フィーは言う。

ぼくはフィー。たびのいちざでピエロをしてるんだ。きみは?

少女は言う。

わたしは、しあわせひめ。ここでひとをしあわせにするためにいのりつづけているの。
わたしはとても、しあわせなの。

フィーは言う。

でも、なんだかきみ、とてもかなしそうだよ?

ひめは言う。

ううん、わたしは、かなしくならないの。
あのね、わたしがすこしでもかなしいことをかんがえたら、だいじんが、おしろのおくにあるそうちにつれていってくれるの。
そのそうちにつながれると、あっというまにかなしいことをかんがえなくなるの。

ひめは言う。

あのね、だいじんがきたひのよる。ほんとにとつぜん、わたしのおとうさんとおかあさんがしんでしまったの。
そのときわたし、とてもとてもかなしかったのだけど、だいじんがそのそうちにつないでくれたら、あっというまにかなしくならなくなったの。
そのそうちは、とてもとてもしあわせなそうちなの。
だからわたしは、かなしくなんて、なりっこないの。
わたしは、とても、しあわせなの。

そう笑うひめは、とてもとてもかなしそうだった。

ひめは言う。

さあ、あなた、はやくもどりなさい。
ここにいるのがみつかったら、とてもおこられるし、ろうやにいれられてしまうかも。
わたし、そんなかなしいもの、みたくないわ。

そう言って、ひめは静かに部屋の奥に行った。

そう言われたフィーは、静かにサーカスのテントに戻って行った。

数日後の夜のこと。

突然城から、おぞましく、とてもかなしそうな精霊が、たくさんたくさんあふれ出し、あっというまに国中をおおってしまった。

かなしい。かなしい。かなしい。

そう泣き叫びながら、精霊は国中をかなしくしていった。

フィーは駆け出し、ひめの部屋を訪れる。

かなしい。かなしい。わたしは、しあわせなのに。
どうして、こんなにかなしいの。
そう泣き叫びながらうずくまるひめは、体からかなしい精霊を生み出し続けていた。
その時、部屋に大臣が飛び込んでくる。

大臣は言う。

ひぃ、な、なんだこれ。
う、うわあああああ。

ひめから一際大きくおぞましくかなしそうな精霊が生まれ、大臣をひと飲みにしてしまった。

フィーはひめに手をさしのべ言う。

ねえ、やっぱり。
こんなの、ぜったいしあわせじゃないよ。
きみは、とてもとてもかなしそうだよ。
ねえ、ひめ。いっしょにいこう。
ここからでて、そんなそうちにつながれるのをやめて、きれいなものをたくさんみて。おいしいものをたくさんたべて。うたって、おどって。たのしいことをたくさんして。これからは、たくさんたくさん、しあわせになろうよ。
だいじょうぶ。これからはずっとぼくがいっしょだよ。

ねえ、ひめ。しあわせになろうよ!

その時、ひめの目から一粒の涙がこぼれる。

ひめは言う。

ああ、どうして。
どうして、わたしは、ないているのに。
どうしてこのなみだは、こんなにあたたかいの。

どうして、こんなに、しあわせなの。

その時、ひめの胸から、優しくあたたかい光があふれ出し。
その光はどんどんひろがり、国中を包み込んだ。

そうして、かなしい精霊はあっという間に消え去ってしまった。

フィーは言う。

ね、いま、しあわせでしょ。

だいじょうぶ。これからはずっとぼくが、きみをしあわせにしてあげるから。

だから、いっしょにいこう!

それからしばらくして。

ある町を巡業で訪れた旅の一座。

そこには、楽しそうに飛び跳ね踊るフィーと、とてもとてもしあわせそうに、優しく温かい精霊を生み出す、しあわせひめがいた。

おしまい
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...