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しあわせひめ
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しあわせひめ
旅芸人の一座で道化師を務める少年フィーは、ある日巡業でその国を訪れる。
その国は、国の中心に建つ城に住む「しあわせひめ」の祈りによって、とてもしあわせな国だった。
しあわせひめは、その祈りで、人をしあわせにする力を持つ精霊を生み出すことができた。
国中にその精霊は漂い、住民は皆とてもしあわせだった。
ある日街中を歩いていたフィーは、一つの小さい青い精霊を見つける。
かなしい。かなしい。
可愛らしい女の子の声で、その精霊は泣いていた。
気になったフィーは、その精霊の後をついていく。
その精霊は、ゆっくりと国の中心に建つ城の、一番高い塔の一室に入っていった。
フィーは身軽にひょいひょいと塔を上り、その部屋に入る。
そこには、雪のように真っ白な長い髪をした、美しく可愛らしい一人の少女がいた。
少女は言う。
あなたは、だれ?
フィーは言う。
ぼくはフィー。たびのいちざでピエロをしてるんだ。きみは?
少女は言う。
わたしは、しあわせひめ。ここでひとをしあわせにするためにいのりつづけているの。
わたしはとても、しあわせなの。
フィーは言う。
でも、なんだかきみ、とてもかなしそうだよ?
ひめは言う。
ううん、わたしは、かなしくならないの。
あのね、わたしがすこしでもかなしいことをかんがえたら、だいじんが、おしろのおくにあるそうちにつれていってくれるの。
そのそうちにつながれると、あっというまにかなしいことをかんがえなくなるの。
ひめは言う。
あのね、だいじんがきたひのよる。ほんとにとつぜん、わたしのおとうさんとおかあさんがしんでしまったの。
そのときわたし、とてもとてもかなしかったのだけど、だいじんがそのそうちにつないでくれたら、あっというまにかなしくならなくなったの。
そのそうちは、とてもとてもしあわせなそうちなの。
だからわたしは、かなしくなんて、なりっこないの。
わたしは、とても、しあわせなの。
そう笑うひめは、とてもとてもかなしそうだった。
ひめは言う。
さあ、あなた、はやくもどりなさい。
ここにいるのがみつかったら、とてもおこられるし、ろうやにいれられてしまうかも。
わたし、そんなかなしいもの、みたくないわ。
そう言って、ひめは静かに部屋の奥に行った。
そう言われたフィーは、静かにサーカスのテントに戻って行った。
数日後の夜のこと。
突然城から、おぞましく、とてもかなしそうな精霊が、たくさんたくさんあふれ出し、あっというまに国中をおおってしまった。
かなしい。かなしい。かなしい。
そう泣き叫びながら、精霊は国中をかなしくしていった。
フィーは駆け出し、ひめの部屋を訪れる。
かなしい。かなしい。わたしは、しあわせなのに。
どうして、こんなにかなしいの。
そう泣き叫びながらうずくまるひめは、体からかなしい精霊を生み出し続けていた。
その時、部屋に大臣が飛び込んでくる。
大臣は言う。
ひぃ、な、なんだこれ。
う、うわあああああ。
ひめから一際大きくおぞましくかなしそうな精霊が生まれ、大臣をひと飲みにしてしまった。
フィーはひめに手をさしのべ言う。
ねえ、やっぱり。
こんなの、ぜったいしあわせじゃないよ。
きみは、とてもとてもかなしそうだよ。
ねえ、ひめ。いっしょにいこう。
ここからでて、そんなそうちにつながれるのをやめて、きれいなものをたくさんみて。おいしいものをたくさんたべて。うたって、おどって。たのしいことをたくさんして。これからは、たくさんたくさん、しあわせになろうよ。
だいじょうぶ。これからはずっとぼくがいっしょだよ。
ねえ、ひめ。しあわせになろうよ!
その時、ひめの目から一粒の涙がこぼれる。
ひめは言う。
ああ、どうして。
どうして、わたしは、ないているのに。
どうしてこのなみだは、こんなにあたたかいの。
どうして、こんなに、しあわせなの。
その時、ひめの胸から、優しくあたたかい光があふれ出し。
その光はどんどんひろがり、国中を包み込んだ。
そうして、かなしい精霊はあっという間に消え去ってしまった。
フィーは言う。
ね、いま、しあわせでしょ。
だいじょうぶ。これからはずっとぼくが、きみをしあわせにしてあげるから。
だから、いっしょにいこう!
それからしばらくして。
ある町を巡業で訪れた旅の一座。
そこには、楽しそうに飛び跳ね踊るフィーと、とてもとてもしあわせそうに、優しく温かい精霊を生み出す、しあわせひめがいた。
おしまい
旅芸人の一座で道化師を務める少年フィーは、ある日巡業でその国を訪れる。
その国は、国の中心に建つ城に住む「しあわせひめ」の祈りによって、とてもしあわせな国だった。
しあわせひめは、その祈りで、人をしあわせにする力を持つ精霊を生み出すことができた。
国中にその精霊は漂い、住民は皆とてもしあわせだった。
ある日街中を歩いていたフィーは、一つの小さい青い精霊を見つける。
かなしい。かなしい。
可愛らしい女の子の声で、その精霊は泣いていた。
気になったフィーは、その精霊の後をついていく。
その精霊は、ゆっくりと国の中心に建つ城の、一番高い塔の一室に入っていった。
フィーは身軽にひょいひょいと塔を上り、その部屋に入る。
そこには、雪のように真っ白な長い髪をした、美しく可愛らしい一人の少女がいた。
少女は言う。
あなたは、だれ?
フィーは言う。
ぼくはフィー。たびのいちざでピエロをしてるんだ。きみは?
少女は言う。
わたしは、しあわせひめ。ここでひとをしあわせにするためにいのりつづけているの。
わたしはとても、しあわせなの。
フィーは言う。
でも、なんだかきみ、とてもかなしそうだよ?
ひめは言う。
ううん、わたしは、かなしくならないの。
あのね、わたしがすこしでもかなしいことをかんがえたら、だいじんが、おしろのおくにあるそうちにつれていってくれるの。
そのそうちにつながれると、あっというまにかなしいことをかんがえなくなるの。
ひめは言う。
あのね、だいじんがきたひのよる。ほんとにとつぜん、わたしのおとうさんとおかあさんがしんでしまったの。
そのときわたし、とてもとてもかなしかったのだけど、だいじんがそのそうちにつないでくれたら、あっというまにかなしくならなくなったの。
そのそうちは、とてもとてもしあわせなそうちなの。
だからわたしは、かなしくなんて、なりっこないの。
わたしは、とても、しあわせなの。
そう笑うひめは、とてもとてもかなしそうだった。
ひめは言う。
さあ、あなた、はやくもどりなさい。
ここにいるのがみつかったら、とてもおこられるし、ろうやにいれられてしまうかも。
わたし、そんなかなしいもの、みたくないわ。
そう言って、ひめは静かに部屋の奥に行った。
そう言われたフィーは、静かにサーカスのテントに戻って行った。
数日後の夜のこと。
突然城から、おぞましく、とてもかなしそうな精霊が、たくさんたくさんあふれ出し、あっというまに国中をおおってしまった。
かなしい。かなしい。かなしい。
そう泣き叫びながら、精霊は国中をかなしくしていった。
フィーは駆け出し、ひめの部屋を訪れる。
かなしい。かなしい。わたしは、しあわせなのに。
どうして、こんなにかなしいの。
そう泣き叫びながらうずくまるひめは、体からかなしい精霊を生み出し続けていた。
その時、部屋に大臣が飛び込んでくる。
大臣は言う。
ひぃ、な、なんだこれ。
う、うわあああああ。
ひめから一際大きくおぞましくかなしそうな精霊が生まれ、大臣をひと飲みにしてしまった。
フィーはひめに手をさしのべ言う。
ねえ、やっぱり。
こんなの、ぜったいしあわせじゃないよ。
きみは、とてもとてもかなしそうだよ。
ねえ、ひめ。いっしょにいこう。
ここからでて、そんなそうちにつながれるのをやめて、きれいなものをたくさんみて。おいしいものをたくさんたべて。うたって、おどって。たのしいことをたくさんして。これからは、たくさんたくさん、しあわせになろうよ。
だいじょうぶ。これからはずっとぼくがいっしょだよ。
ねえ、ひめ。しあわせになろうよ!
その時、ひめの目から一粒の涙がこぼれる。
ひめは言う。
ああ、どうして。
どうして、わたしは、ないているのに。
どうしてこのなみだは、こんなにあたたかいの。
どうして、こんなに、しあわせなの。
その時、ひめの胸から、優しくあたたかい光があふれ出し。
その光はどんどんひろがり、国中を包み込んだ。
そうして、かなしい精霊はあっという間に消え去ってしまった。
フィーは言う。
ね、いま、しあわせでしょ。
だいじょうぶ。これからはずっとぼくが、きみをしあわせにしてあげるから。
だから、いっしょにいこう!
それからしばらくして。
ある町を巡業で訪れた旅の一座。
そこには、楽しそうに飛び跳ね踊るフィーと、とてもとてもしあわせそうに、優しく温かい精霊を生み出す、しあわせひめがいた。
おしまい
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