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チュパカブラ吉本初期作品集の一篇

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■愛と平和の逆転満塁ホームラン 

作:チュパカブラ吉本


良く覚えていないが前世でなんか色々あったらしくあらゆる事象や未来を見通す千里眼の力と左手で触れた物を爆発四散させるチートスキルを幼少期より持つ俺・朱雀院ルシファはその力を天より与えられた物と思い、凶悪な事件を解決すべく学生探偵として日夜活躍していた。

相棒の男装をしているが明らかに女の子の優秀な助手・愛野ラブリーと提携する情報屋の新聞部の典型的眼鏡くん(数回死んでいるが凄まじい大家族で兄弟全員そっくりなので問題無く復活する)とか憎まれ口をいつも叩いてくるが何だかんだで事件を提供してくれるちょっとくたびれたベテラン刑事などの愉快な仲間達と殺人事件とチートスキル有の楽しい日常生活を送っていた。


そんなある日、千里眼の力を活かし商店街の福引きで一等を当て俺達一行は沖縄へ旅立った。

しかし宿泊先のホテルでいけ好かない大企業の御曹司・天堂リッチに三度遭遇してしまった。

「…貴様等か、忌々しい。飯が不味くなる」
「こっちだってお前みたいなウザい奴に会いたく無かったね。何でお前こんな所いんの」

「ここは俺のグループ企業の経営するホテルだ。近くに我が一族のプライベート・ビーチがあるので1か月程休暇に来た」
「確かに今夏休みだけどお前も高校生なのにそんなサボってて良いの?」
「金を積めば進学などどうとでもなる」
「お前本当に性格終わってんな」

「そういう訳でこれから最上階のインペリアルデラックス・スイートで猫まんまから満漢全席まで世界各国のあらゆる料理を揃えた豪勢なディナーを堪能するのだ。邪魔をするな」

そう言っていけ好かない成金メガネはカラコロと下駄を響かせ去って行った。


「ったく、戦後のゴタゴタとバブル崩壊を運良く乗り切っただけの成金一族のくせに本当下品な奴だな」
「まあ若くして大富豪ならそうもなっちゃうでしょ。無視して楽しめば良いじゃない」
「ええ、僕達は僕達で身の丈に合った楽しみ方をしましょうよ」

「あーまあそうだな。いやーここのホテルのご飯美味しいらしいから楽しみだなあ」
「ええ、自慢料理のレバ刺しとカンジャンケジャンが楽しみね」
「ですねー。あ、お料理の撮影OKらしいんでたくさん撮ってインスタに上げますね」
「ああ、頼むよ眼鏡くん4号」
「えー、確かにこの前死にかけましたがギリ助かったので僕まだ3号ですよ」
「あはは、そうだったな。ごめんごめん」

そうして俺達は豪華な食堂(西洋風の内装だが提灯と能面が飾られていた)で素敵なディナーに舌鼓を打った。

「いやー、このカンジャンケジャン本当に美味しいなー」
「ええ、良く漬かっているわね」
「この山盛りパクチーも美味しいですねー」

「あ、デザートはサルミアッキアイスですって」
「やったー、俺それ大好物。日本じゃなかなか食べられないから嬉しいなー」
「ルシファさんチート能力者で凶悪事件解決結構してるとはいえ、まだ学生ですもんね」

「ああ、決して毒親ではないがお小遣いはあんまりもらえないしな。千里眼でカンニングし放題なんで勉学は余裕だが」
「もう、それじゃ天堂君のこと言えないじゃないの」
「そうですよー。そこは実力で頑張りましょうよ」

「ははは。まあそれもそうだな」


立派なホテルなので食堂には多数の客が来ていたが、他に目立つ人物は天堂とは別の大企業の社長のやっぱり傲慢で下品な中年男性や、そんな社長を恨めし気に見つめる明らかに闇がありそうな秘書、後は普通の温厚そうな若い夫妻、ちょっと下衆な所がある三文カストリ雑誌記者、ドジっ子だけど心優しい短期バイトの給仕や客室清掃の女の子などだった。

「おいこら姉ちゃん、もっと酒持ってこい。ここで一番高い奴だ。ほら秘書のバイリンガルセクレタリー安田、お前からもさっさと言え」
「…はい。すみません給仕さん。一番高価で料理に合うワインをお願いします」

「は、はいただ今。き、きゃー!また何もない所でつまづいちゃったー!」
「ったく使えねえ姉ちゃんだな。コケるならパンツくらい見せろやサービス精神がねえな。俺の会社なら速攻クビだぞ」

「うっわー。天堂に負けず劣らず下品なクソ野郎だな」
「まあ、どこにでもあんな奴いるでしょ」
「僕もこういう事言いたく無いけど、ああいう人こそ真っ先に殺されて欲しいですねー」
「ああ、そうだな」


そして夕食の後は大浴場で豪華な納豆風呂に入り全身ネバネバのツヤツヤになった後、高校生なので寝酒代わりの青汁を飲んで安らかにデコトラばりの電飾で彩られた回転ベッドで眠りに就いた。

翌朝、バイトの女の子の甲高い悲鳴で俺達は目を覚ました。

「き、きゃあああああ」

急いで外に出て、女の子がドアの前で立ちすくむ部屋に入ると、そこには昨夜の下品な大社長が頭部やら全身をぶっ潰され、もうどう見ても死んでいた。

正直誰だか判別できないレベルの死体だったが、部屋にデカデカと自分の写真が飾ってあり、【ここは俺様の部屋だ】という張り紙がしてあったので被害者は社長で間違いないと判断した。

「うわー。まあ予想はしてたけどまた事件に巻き込まれちゃったな」
「まあ、事件が起きなきゃ日常回以外やる事無いし仕方ないわよ」
「うーん。希望が叶ってスカッとしたけど殺人事件起きた以上早く犯人見つけなきゃですねー」
「ああ、早速調査を開始しよう」

「っていうかあなた千里眼あるからそれ使えば一発じゃない」
「あーごめん、俺体調によって千里眼の精度左右されるんだけど、昨日調子乗って夕飯食べ過ぎてしかもさっき起き抜けに牛乳がぶ飲みしたせいかかなり腹の調子悪くって今無理」
「もう、肝心な時に使えないわね」
「まあ推理物でこんなチートスキルあったら成り立たないですからね」


その時再びカラコロと下駄の音を響かせ、3D眼鏡に黄金のスーツに身を包んだ成金メガネが俺達の前へ現れた。

「ふふふ、良い余興が出来たな。丁度いいエセチート探偵よ、俺と貴様どちらが先に犯人を突き止められるか勝負だ」
「あー、まあ良いぞ。いけすかないお前をギャフンと言わせてやりたいと思ってたからな」

「とは言ってもクローズドサークルじゃない普通のホテルなんだから、すぐ警察来ちゃうでしょ」

「そこは既に俺が手を打った。俺の地位を利用し警察にもしばらく介入出来ないよう手を回した。ついでに我が社お抱えのアレな技術者に依頼し一切の通信を遮断させ、ホテルの敷地外に関係者は出られないよう特殊部隊で包囲し封鎖もした」
「お前マジで終わってんな」
「強制クローズドサークルですね」

「さあ、これで舞台は整った。三流チート能力者の貴様に引導を渡してやろう。ふはははは」

そう高笑いしながらまたカラコロと下駄を響かせ成金クソメガネは去って行った。


「ったく、あいつ面倒な事しやがって。まあこれで犯人も逃げられなくなるし好都合っちゃ好都合だが」
「うーん、でも昨晩の深夜や早朝の犯行だったらもう逃げてるかもしれないわよ」

「…あ、ああ。それなら大丈夫だと思います。私がお部屋に清掃に入ろうとしたのはつい先ほどなのですが、お部屋の壁掛け時計が15分前くらいで止まっていましたから。本当に今しがたの犯行だと思います。おえええ」

洗面所で吐きながらドジっ子バイトの子が証言してくれた。

「そっか、吐きながら重要証言どうもありがとう。好きなだけ吐いてね」
「す、すみません。おろろろろ」
「ええ、これは吐くのも当然よ」
「まあ僕達はもうこの程度見慣れてるんで、耐性付きましたけどね」


「ふむ。じゃあとりあえず昨日の食堂に居た目立つ人に聞き込みをしに行くか」
「ええ、明らかに闇のある秘書さんとかもいるものね」
「不用意に単独行動したら殺されかねないので、絶対離れないようにして行きましょうね」
「さすが眼鏡くん、もう3回も死んだり死にかけたりして危機回避能力が上がっているね」

「ええ、もう矢でも鉄砲でも持ってこいですよ!あはは」
「いやー、流石に矢や鉄砲来たら君でも死ぬでしょ」
「っていうかそういう事君が言うと明らかにフラグだから自重しなさいって」


そうして被害者の部屋からは少し離れた部屋に泊まる秘書さんにまずは聞き込みに行く事にした。

「…ああ、君達ですか。昨晩はお目障りな物を見せてしまいすみませんでしたね」
「いえ、秘書さんは悪く無いですよ。貴方も上司が亡くなって大変ですね」

「…いえ、まあ。この状況で疑われるような事を言うのもなんですが。私は待遇が良いので就職したものの、あの人の傲慢ぶりにはもう辟易としていた所でしたので。不謹慎ですがこれで良かったのかもしれません」
「あー、そうですか。まああんなクズに付き合ってたらそうも思うかもしれませんね」

「で、申し訳ありませんが被害者が亡くなったと思しき15分から20分くらい前には、貴方はどちらにいらっしゃいましたか?」

「私はその時間から今まで、ずっとここに居ました。その少し前に社長にモーニングコールをしましたがもっと寝ていたいから起こすなと怒鳴られ、すぐに切られました」
「うわー、本当傲慢だなあ」
「経営者としての器に欠けているわね」
「絶対見習いたくないですねー」

「わかりました。じゃあ俺みたいなチートスキル持ちか共犯者でも居ない限り無理ですね。ではあなたは除外という事で」
「ありがとうございます。ここの宿泊客では天堂さんは数度パーティー等でお会いした事はありますがそれ程親しい仲ではありませんし、他は皆初対面の人ばかりです」
「そうですか、どうもありがとうございます。では失礼します」
「ええ、捜査頑張ってくださいね」


そうして俺達は次にごく普通っぽい夫妻に聞き込みに行く事にした。

「…包囲された時にお話は聞きましたが、大変ですね」
「ええ。とても恐ろしいし、早く犯人を見つけてもらえると助かります」
「お任せください。俺かあの成金メガネが必ず解決してみせますので。それですみませんが犯行の行われたと思わしき時間はあなた方は何をされていましたか?」

「僕達は二人とも、この部屋でずっとテレビを見ていました。どんな番組をやっていたかはっきり答えられますよ」
「ええ、私も同じよ。私達は本当に闇も秘密も無いただのごく平凡な夫妻だからこれ以上疑っても何も出ないわよ」
「そうですか、ご丁寧にありがとうございます。ではアリバイ成立という事で失礼します」


次に三文カストリ雑誌の下衆だが人情家のいかにもな感じのライターに聞き込みをした。

「あー、あんたが例のチート能力者探偵か。最近噂だったから取材してみたかった所だよ」
「それはどうも。でもあんまり下品な大衆紙に載せられるのはちょっとなー」
「まあそれは俺の性分なんでな。で、死亡時刻の俺の動向だよな。俺はその頃ホテル内のプールでひと泳ぎしてたぜ。ここのプール結構早朝から深夜までやってるからな。他に泳いでた客も数人いるからこれで完璧だろ」
「なるほど、後で従業員さんにも聞いてみますがそれなら疑いようがありませんね。ではこれで」
「ああ、応援してるよ」


その後従業員にも聞いたが実際ライターのアリバイは完璧で、他に気になる客もいなかった。

「うーん、今回結構難しいかもな。でもあの成金クソメガネに先を越されるのもシャクだなー」

「おう、朱雀院じゃないか。こんな所で偶然だな」
「あれ、いつものベテラン刑事さん。どうしてここにいるんですか」

「ああ、家族サービスでちょっとな。しかし旅先でこんな事に巻き込まれて封鎖されるなんざ俺もツイてねえな」
「あー、それはご愁傷様です。まあもうじき俺の体調も復活しそうなんですぐ解放されますよ。で、あなたは闇堕ち展開でもない限り絶対犯人じゃないと思いますが。何か事件と関係ありそうな情報とかありますかね?」

「おう、あのガイシャの社長だが。やっぱああいう奴なだけあってかなり恨みは買ってたんだが、特に気になる事件が昔あってな」
「へえ、それは興味深いですね」


少し後、俺のお腹もかなり調子良くなって来たので関係者を屋上に集め推理を披露する事にした。

犯人が暴れたら危険なので、クソメガネ以外の無関係そうな人にはかなり距離を取ってもらった。

「…秘書のバイリンガルセクレタリー安田さん、あなたが犯人ですね」

俺の爆破能力を抑え込む為の包帯でぐるぐる巻きにされた左手で指さされた闇のある秘書は身じろいだ。

「…どうしてそんな事を言うのですか。私のアリバイは完璧でしたでしょう」

「先程胃腸薬を飲んでだいぶお腹の調子が良くなって来たので千里眼を使い見させてもらいましたが、あなたもチート能力者だったのですね」

「………!」

「あなたはこの国でもかなり珍しい、隕石を自在に降らせる力を持つのですね。それで社長の部屋に流星群を落としぶっ潰したのでしょう。それならわざわざ少し離れた部屋に泊まっていたのも説明がつきます」

「ああ、そういえばスルーしてたけど被害者の部屋、天井や壁が盛大にぶっ壊されて大穴が無数に空いてたわね」
「ええ、僕もうっかりスル―しちゃってました。すみません」

「…それにしても動機がないでしょう。確かに私もあの人の傲慢ぶりには辟易としていましたが、折角の収入源をみすみす殺すはずもないでしょう」

「すみませんがそれももう調査済みです。ベテラン刑事さんから聞きましたが、あなたは幼少期あいつに財産を全て取り上げられ無理心中に巻き込まれかけ、一家離散させられたそうですね」

「……っ」


バイリンガルセクレタリー安田は、観念したように憎々しげに語り始めた。

「…確かに君の言う通りだよ。私はまだごく幼い頃、あいつに全てを奪われ将来を悲観した父に殺されかけた。抵抗したその時、隕石を落とす能力に目覚めたんだ」

「…祖父母や兄弟は助からなかったが、生き残った母となんとか地を這いながら生きて来た。母が必死に働いてくれ、奨学金でなんとか大学まで出る事は出来たがあいつにはいつか必ず復讐すると誓っていた」

「そして私は闇のアレ業者に頼み改名した戸籍を作成してもらいあいつの会社に就職し、社長に取り入り数年かかったが秘書になる事が出来た。あいつが有頂天になっている時に二目と見られないくらい無残な状態にして殺してやろうと思い、ここで犯行に及んだのだ」

「…全てを奪われ復讐したくなる気持ちは分かります。しかしここまでの凶行は許される物ではありません」

「…何とでも言うが良いさ。私もここまで来てみすみす捕まりたくはない。悪いがここにいる人達皆、死んでもらう」

そう言ってバイリンガルセクレタリー安田は両手を掲げ、多数の隕石を召喚した。

「る、ルシファさん危なーい!!!」

もの凄い勢いで降って来た隕石に対処しきれなかった俺を、眼鏡くんが突き飛ばし身代わりに眼鏡くんの頭部がものの見事に吹き飛んだ。

「め、眼鏡くん3号ー!!!」

血飛沫の中にひび割れたメガネだけが残されていた。

「うーん。さすがの眼鏡くんも隕石はどうしようもなかったわね」
「うん、矢や鉄砲ならギリ行けたかもだけどこれは仕方ないね」

俺は意を決し左手の封印を解いた。

「…いくら次回復活するとはいえ大事な仲間を殺されては黙っていられないね。悪いがこの隕石、すべて俺の左手で破壊させてもらう」

俺は降り注ぐ隕石を次々に左手で木っ端微塵に破壊していった。

「おい成金クソメガネ、お前も流石に死んだら寝覚めが悪いからとっとと避難しな」

「貴様ごときに心配されるほど落ちぶれてはいない。俺もこの程度どうとでもなる」

そう言って悪趣味な黄金スーツの懐から、これまた下品な黄金銃を取り出し隕石を撃ち抜いた。

「我が天堂コーポレーションの技術の粋を尽くした、あらゆる物を撃ち抜き破砕する黄金銃だ」

「ふーん。お前のクソ会社もたまにはマシな物作るじゃん」

そうして間もなく闇深秘書もMPが尽きたのか流星群は止まり、屋上は隕石片だらけになったが無事平穏が戻った。


「…私の負けだ。どうとでもするがいい」

バイリンガルセクレタリー安田はがっくりと膝を付き呟いた。

ベテラン刑事さんがすぐに手錠を掛け、犯人が分かったのでクソメガネに封鎖を解いてもらい犯人は連行されていった。

「…ちっ、貴様ごときに遅れを取るとはな。次は必ず勝つ」

「あーはいはい噛ませ乙。何度でもかかってきな負け犬メガネ」

「…本当に口の減らない奴だ。もう二度と会いたくは無いが、いつか必ず決着は着ける」

そういって再度カラコロと下駄を響かせ負け犬クソメガネは去って行った。


「やー、今回もお手柄だったな。お疲れさん」
「ええ、刑事さんも確保ありがとうございます。あいつも殺しはよくないですが気の毒な奴ですね」
「ああ、やっぱりあの社長相当やらかしてるらしいし、パワハラで自殺に追い込んだ社員も数名いるようだし情状酌量はされるだろうよ」
「そうですか、それは良かった」

「うーん。まあ眼鏡くんフラグは建ってたけど可哀想に。せっかくこの前フラグへし折って生還したのに」
「まあ、霊感強くて死んだ兄弟たちと知識や記憶共有できるし大丈夫だろう」
「まあ、それもそうね。良い子だしきっと天国行けてるだろうしね」

「じゃ、屋上の片付けは悪いけど従業員さんにやってもらうとして。俺達は海にでも遊びに行くとしようか!」
「ええ、そうね。…ああそうだ。もう君と付き合って結構経つから告白するけど。私実は女なの」
「あーうん、見れば分かるし千里眼でとっくに知ってた」
「ああ、そうなの。私親が毒では無いけど結構アレで、どうしても男の子が欲しかったって事で男装させられてるの」
「ふーん、そうだったんだ。まあ色々あるよね」

「ええ、そんな訳で改めて助手としてよろしくね。まあそういうのともちょっと違うけど」
「ああ、よろしく」

そうして俺は爆破能力の無い右手でラブリーと握手を交わし、改めて探偵と助手としての絆を結んだ。

その後俺やベテラン刑事さん達がビーチへ向かうべくホテルを後にした頃、クソメガネの手配ミスでホテルは大爆発し跡形も無く吹き飛んだ。





「…どうでしょうか」

「…どうって君ねえ。もう何度言わせたら気が済むの。毎回主人公チート能力者でワンパターンすぎるし肝心の千里眼は大事な所で活かせて無いし、ライバルの御曹司もただの嫌な奴で全く魅力無いし他のキャラもありきたり過ぎるし。あとヒロインが男装の女性とか半世紀以上前からあるでしょ、今時男の娘だってありふれてるって言うのに。君今まで何見て生きて来たの。君プライド高いからあんまり他の作品やアニメとか見なそうだけどもっと他の人気作見て勉強しなさいよ」

「…すみません」

「って言うか突っ込みどころしかないけど何なのこのタイトル。野球要素何一つ無いじゃん」

「…スポーツ物が流行っているので要素を入れたかったのですが、自分は文系で一切知識や興味が無いので結局本編には入れられませんでした」

「あーそう、じゃあもっと別のタイトルにしなさいよ本当融通利かないなあ。でさあ、もう本当同じ事何度も言いたくないんだけど。君センスが何から何まで終わりすぎでしょ。ネーミングセンスや服装センスから壊滅的過ぎるし、今日の君の私服も般若柄のダサTに病気の猫みたいな柄の半ズボンだし。毎回どこでそんなん買って来るの」

「…通販やフリーマーケットです」

「あーまあどうでも良いけど。で、本当こういう事いい大人に言いたく無いんだけど。君もう30過ぎてるでしょ。もう将来性の無い夢追いかけてないでいい加減現実見なさいよ。友人とか君の周りの人皆出世するなり家庭作ってしっかり立派にやってるでしょ?いくら現代でもまともな職歴無いままこんな歳じゃもう一生底辺生活だよ」

「…」

「あーはい、もうこの原稿とっとと持って帰って。まあいらないならこっちで処分しとくけど。正直シュレッダーの電気代もったいないから持って帰って欲しいけど」
「…持って帰ります」

「はい、じゃあもう二度と来ないでね。君のどうしようもない原稿見てると頭痛くなってくるから。さっさと就職して真面目に働きな。さよなら」

「…どうも、お邪魔しました」


「…ちくしょう」

私は出版社を追い出され、あてども無くビジネス街を彷徨い歩いた。

茶の一杯も出されず喉がカラカラだったが、喫茶店に入る余裕も無かった。

「…どうして、私の才能が認められないんだ。どうしてあんな宝の持ち腐れをしている彼女ばかり幸せになって行くんだ」

「…ああ。もう、こうするしか無いか」

その時から私は、外道に堕ちてしまった。


※その直後応募された新作は登場人物の名前が若干アレ気味だったものの非常に良作で、審査員から満場一致で受賞と出版が決められた。

それから全てが発覚し、己の罪と向き合い精神的に落ち着いた後は獄中から新作を出版した。

その後は完全にネタ的な意味だがバカミス作家として一定の地位を得た。
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