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プロローグ
不死鳥計画
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この世界はもう終わりのカウントダウンが始まっているのだと私は思う。
約7年前にロシア、中国、インドなどユーラシア大陸とアフリカ大陸の国家が参加する人類共栄連盟 通所ー人栄同盟と、アメリカ、カナダ、日本、イギリスなどの北アメリカ大陸と南アメリカ大陸の国家が参加する新自由連邦 通所ー自由連邦。
その2大巨頭勢力による全面戦争が始まった。
事の始まりは総人口80億と言う、急激に増加した人口を自力で賄えなくなった人栄同盟が、自由連邦に資源や食料の購入取引を持ち掛け、それに対して自由連邦は要求された資源や食料を市場の3倍近い金額で売りに出した。
この時はまだ人栄同盟も一時的な凌ぎと考えて、購入した資源で宇宙にコロニーを建造し、新たな生産場を確保して持ち直す事を考えていた。
だが、その消費速度は想定を遥かに超えており、コロニーの安定稼働する前にその資源や食料が底をついてしまった。
再度、人栄同盟は自由連邦に対して物資の購入を持ち出すと、自由連邦はあろうことか今度は市場の5倍近い金額を提示した。
その売る気のないふざけ切ったこれに人栄同盟の国民の大反感を買い、さらに値引き交渉も一切取り繕うことなく逆に「買う気の無いなら取引は中止する」と言い張った。
その一言が人栄同盟の国民を戦争運動にまで発展させ全面戦争へと繋がってしまった。
私は開戦時は日本に住んでおり、そして全面戦争の最初の戦場は日本海から始まった[日本戦線]。
朝鮮半島から出港する無限とも思える圧倒的な物量が日本海を超えて日本へと染めてきた時に初めて「戦争」と言う事実を実感した。
人があそこまで大量に死ぬ中で、お国の為、人の為、家族の為に他者の土地や命をなんの躊躇もなく蹂躪していく様子はまだ幼い私には表現の仕方もない恐怖に押しつぶされそうだった。
そして物量に物を言わせた戦術と、アメリカ大陸が拠点の自由連邦の補給路の苦しさから日本の陥落は一年とも経たなかった。
その間に私の友達や親戚、隣人は気がつけば居なくなり、アメリカへ避難できたのは私と私の家族を含め民間人は約10万人と少ない。
それからと言うもの、第二の戦場は太平洋に移り[太平洋海戦]と呼ばれ、自由連邦は予想を遥かに超える物量に、要塞化を進められてきたミッドウェー島、ハワイ諸島、その中央に建造された人工軍港プラットフォームに集結してあった艦隊は3倍近く増やされ、アメリカ大陸への大陸弾道ミサイル対策に島を中心に迎撃弾頭搭載の最新の自己判断AI[バトロイド]搭載の無人潜水艦が500隻と、50隻から成る原子力航空母艦と、世界最大規模の機雷原の付設によって5年に渡る戦線の膠着が続いた。
だがそんな停滞も続く事はない。翌年に自由連邦の医療機関の人体義手部門が独自に極秘裏に開発していた戦闘用の義体【GAN】。その初期モデルを敵国である人栄同盟の兵士1000名に施術した。
その戦闘力は凄まじく、[日本戦線]とほぼ同時期に進行を受けていた、不落の要塞と歌われたイギリスの湾岸要塞はGAN積載の船団に一週間と掛からずに陥落した。
この戦いは[義体の戦い]と呼ばれ、自由連邦の兵士全員を畏怖させた。
その事に激しく危機感を抱いた自由連邦は開発主任であるガン・アタッチ氏を投獄したが、彼が人栄同盟に基礎理論と人員を売り込んだことと、技術提供を条件に釈放され後に国営軍事義体産業【グレードガン】の開発主任になっていた。
その時それを知った私の心情と言えば、「敵に塩を送りつけて、挙げ句の果てにそれをデモンストレーションをするなんて…」と心底苛立っていたと思う。
そこからの戦局は非常に目まぐるしく変化していき、今までイギリスで防衛出来ていた事が裏目にでてその後の防衛手段なとまるっきし考えておらず、艦隊の全てを大西洋へと集結させていた為に、北大西洋をほぼ素通りで通してしまいカナダのニュージーランド州に人栄同盟の橋頭堡を確保された。
そこからなだれ込んでくる圧倒的な物量と圧倒的な力のGANに、同じだけの物量の[バトロイド]と同じGANをぶつけた頃にはもう遅かった。
自由連邦の本土はひどく荒らされ、通信と流通インフラらすでに致命的な被害を覆っている。
もう、自由連邦は、なりふり構っている場合じゃ無い。
いつNBCが使っても可笑しくない。事実上の最終戦争へと向かっている。
だから自由連邦は…いえ、人類の最後の希望として国家再建計画【不死鳥計画】を実行することにした。
###
この戦時中、ガソリンの一滴すら惜しい中、私――東上 アテナは父の運転する車に乗って移動している。
別に日本からアメリカに逃げて、さらに疎開する訳じゃない。
まだ爆撃を受けてないきれいなコンクリート舗装道路を進んでいく先には自由連邦の所持する宇宙打ち上げ装置 マスドライバー施設が見えてきた。
すると父は心配そうな唸り声を出し始めて、詰まっていた声を出す。
「アテナ?本当にいいのか?」
心配する父。それに対してアテナは首を横に振る。
「父さん。大丈夫よ。私が決めたことなんだら」
「そうか?そうだな…」
まだ何か言いたげそうな父だったが、私の強情の性格を知っているからその口を閉じた。
そんな静かな車内で数分経つと、マスドライバー施設の入口前に到着し、現地にいたスーツ姿の男が車の扉を開ける。
「東上アテナさんですか?」
「ええ」
「お待ちしておりました。時間がありませんので説明は歩きながら」
男は急かすように施設の入口を指す。
私はその通りに車を降りて、最後に父に挨拶をと車に覗き込む。
「父さん。ありがとう。私頑張るから悲しまないで」
そう言われた父は普段見せない涙目が溢れてきて、袖で顔を隠す。
「ああ、行ってきなさい。愛しのアテナ」
それに感化されたのか、気づけば私はそっと父を抱いていた。しばらくそのまましていたかった。
しかし時間がないとスーツ男が咳き込む。
「行ってきます」
その一言。最後にしては呆気ない言葉であるが父は軽く頷くと、袖を下ろしハンドルを握って、目の下を赤くしたまま来た道を戻っていく。
「ごめんなさい。お待たせしました。行きましょう」
そんな父の後ろ姿を習って私はマスドライバー施設へと足を運ぶ。
施設内は資料で読んだ通り最先端テクノロジーらしく、見たことも無い巨大な装置が並んでいるが、施設の大半は稼働を停止している。
「では、東上アテナさん」
「アテナでいいわ」
「承知しました。ではアテナさん本計画の志願で間違いはないでしょうか?」
スーツ男はこれが規則らしく、ここまで来て説いてくる。
【不死鳥計画】…全面戦争後の国家再建計画。
「ここまで来てそれを聞くのかしら?」
規則とはいえ、こうも規則的にされると鬱陶しい。
「承知。では説明を省くため、本計画の認識はどうなってますか?」
「全面戦争後の国家再建計画としか、何故打ち上げ施設のマスドライバーが必要なのかまでは知らない」
「承知。では本計画の本題は言われた通り、国家再建計画です。対NBC技術があるとはいえ、最も最悪の場合も想定して、地球再生計画も本計画には組み込まれています」
やはり核戦争も視野に入れてるのね。
「そうね。それで?」
「本計画の内容の詳細は後程、記憶転写装置の焼き付けによるインプットを行います。ここではその概要をお伝えします」
「お願い」
カツカツと速歩きで廊下を通って行き止まりにあるエレベーターにスーツ男はIDカードをかざし開けると、アテナを入れて最地下へと向かう。
「では、本計画では国家再建の他に再生の為に地球起源の生物を可能の限り保存し未来の地球を再度居住可能惑星へと開拓して居住可能とすることが準目標、国家再建が最終目標となります。
それに伴い、地下も含めこの地球上にはその種子を保存する環境には適さないと判断し、民間には未公開ですが衛星軌道に[オービタルリング]と呼ばれる未完成ですが地球を一周する大型の宇宙ステーションに急遽増設したリソースステーションに貴方方は保管されます」
「保管?生活ではく?」
「はい。保管です。ですが安心してください。保管には覚醒確率がほぼ100%の冬眠方式を採用してありますので、目覚めない事はまずありません」
「そう?それは安心出来るけど…何年を予定してるの?」
「そうですね。地上の状態によりますが30年から50年と言った所でしょうか?」
「思ったりも短いのね…核戦争起こしたらもっと長いのでは?」
「それは大丈夫でしょう。人栄同盟も自由連邦も核を無力化する為の技術とその備蓄も備えておりますので、核の冬は避けられると思います。それにここまで来たら争い事をする気にもなりません。少なくとも私は無いですね」
「そうね。そのまま終戦してくれたら私がおばあちゃんになるまで寝る必要性は無いもんね」
するとスーツ男は急に立ち止まりそっぽ向いて笑い出す。
「フフ!アテナさんは面白い人ですね」
「くだらない冗談よ。きっと気が動転してるのかもね」
アテナは軽く笑い飛ばす。
最終戦争。NBC兵器の使用。30年後…いえ、もしかしたら50年後の未来。正直な所で怖くて仕方がない。
すると静かに減速したエレベーターはその扉を開くと、急拵え感満載の設備配置。準備不足なのがここの施設だけでありますようにと願うアテナ。
するとスーツ男はアテナの前に出る。そして
「最後の打ち上げ人だ!気合い入れてやれ!これが人類の希望になるかも知れないのだから!」
「「「はい!」」」
張り上げた返事と共に、周囲がドタバタと動き始める。
するとスーツ男は明らか様に頭に何かをしますと言わんばかりの椅子が置いてある所を指す。
「アテナさん。あれは記憶転写装置です。少々美的に欠けますが、機能は折り紙付きなので安心してください」
先程言われた計画の詳細をインプットする為の装置だと理解して、未経験だが子供ぽく怖いなのなんだの言ってる場合でも無いと、その椅子に座る。
すると施設の白衣の人に「安全の為に固定させてもらいます」と手足から胴体に加え頭まで固定され、頭に落ちてきたら体が潰されてしまうのではないかと思えるほどに大きなヘルメット状の機材を取り付けられる。
「転写には急激な倦怠感や吐き気など襲われる時がありますが、正常なので焦らないでください」
そう告げられた次の瞬間、倦怠感や吐き気などとそんな言葉に収まりきらない気持ち悪さが襲いかかる。
頭に直接棒を突っ込まれグルグル掻き回された挙げ句、革袋に入り切らない荷物を無理やり押し込むような窮屈感が頭の中で起こっている。
何かの拷問器具の間違いではないかと脳裏に走った時、チリチリと音を立てて重厚なヘルメットが外され、目の前にはスーツ男が立っている。
「アテナさん。貴方が格納されるエリアと、計画内での役職は?」
この人…何を今更…
「…ステー、ション、エリアD…7…有、機資、源循環、プロ、ジェクト…リーダー…?」
「記憶転写の不具合無し。よしこのまま打ち上げ準備にかかるぞ!」
「「「はい!」」」
再度の威勢の良い掛け声と共にアテナの拘束が解かれ、自立できずにフラフラとすると周りの白衣の方の肩を貸してもらう。
する肩を貸してくれてる白衣の人が「調子悪いところ申し訳ないが、このまま次の工程に掛かります!」
そう言って施設の奥へと駆け込むと、そこにあるのは壁に埋もれた細長く一人取り入れる箱が一つ。その中身は呼吸器やら心電図ならの医療機器も備わっていて、中身は清潔そのもの。
「すいませんが、衣服の着用や身に付ける物は不具合を起こす場合がありますので、全て取り外させてもらいます」
そう言い放つとワラワラとやってきた白衣の人に上も下も全て脱がされて、金属探知機を一周かけられた後に、例の箱に詰められて、また体をベルトで拘束され呼吸器ならなんやらを取り付けられる。
一言なにか言ってやりたかったが気持ち悪さが抜けずに口が重たい。
ゆっくりと箱の扉が閉じていくと、箱の窓越しにスーツ男と、白衣の人がズラリと並んでいる。
「では。東上アテナさん。人類を、地球をお願いします」
その一同が自由連邦式の敬礼を見せると、急に奥の方へ追いやれ、箱の外側の扉が閉まる。
同時に急に箱が無重力空間に放り込まれたように、宙にふわふわ浮き始め、外の景色には放電がスパークが起こっている。
『冬眠カプセルポットの射出位置への固定完了。射出電力をコンデンサーへ蓄積開始。射出準備完了まで30秒』
ーーえ??
あまりの急展開に焦るアテナ。
『20…15…10…5…準備完了…射出します』
とりあえずいつの間にか頭の中にある。射出マニュアルに従い、首を引いて対衝撃体勢を取った瞬間、凄まじい加速共に連続して聞こえる爆発の衝撃波の振動を感じながら、瞬きするごとに風景が一変する外を見ながら、天へと打ち上げられる。
気がつけばそこは本当の意味での無重力。宇宙空間を漂っていた。
そして窓からはついさっきまでいた地球の大地が見える。宇宙飛行士は口を揃えて「地球は青い」というが、今見える地球は戦争によって均された灰色の地球。
「父…さん、私、頑張る、から。人類の、為に、頑張る、から」
そう口にするアテナ。すると箱にガコンと振動が伝わると、オービタルリングと思わしき疎らの板状の宇宙ステーションへと格納される。
『冬眠プロセス開始。おやすみなさい』
それを最後に、アテナは深く落ちていく…。
約7年前にロシア、中国、インドなどユーラシア大陸とアフリカ大陸の国家が参加する人類共栄連盟 通所ー人栄同盟と、アメリカ、カナダ、日本、イギリスなどの北アメリカ大陸と南アメリカ大陸の国家が参加する新自由連邦 通所ー自由連邦。
その2大巨頭勢力による全面戦争が始まった。
事の始まりは総人口80億と言う、急激に増加した人口を自力で賄えなくなった人栄同盟が、自由連邦に資源や食料の購入取引を持ち掛け、それに対して自由連邦は要求された資源や食料を市場の3倍近い金額で売りに出した。
この時はまだ人栄同盟も一時的な凌ぎと考えて、購入した資源で宇宙にコロニーを建造し、新たな生産場を確保して持ち直す事を考えていた。
だが、その消費速度は想定を遥かに超えており、コロニーの安定稼働する前にその資源や食料が底をついてしまった。
再度、人栄同盟は自由連邦に対して物資の購入を持ち出すと、自由連邦はあろうことか今度は市場の5倍近い金額を提示した。
その売る気のないふざけ切ったこれに人栄同盟の国民の大反感を買い、さらに値引き交渉も一切取り繕うことなく逆に「買う気の無いなら取引は中止する」と言い張った。
その一言が人栄同盟の国民を戦争運動にまで発展させ全面戦争へと繋がってしまった。
私は開戦時は日本に住んでおり、そして全面戦争の最初の戦場は日本海から始まった[日本戦線]。
朝鮮半島から出港する無限とも思える圧倒的な物量が日本海を超えて日本へと染めてきた時に初めて「戦争」と言う事実を実感した。
人があそこまで大量に死ぬ中で、お国の為、人の為、家族の為に他者の土地や命をなんの躊躇もなく蹂躪していく様子はまだ幼い私には表現の仕方もない恐怖に押しつぶされそうだった。
そして物量に物を言わせた戦術と、アメリカ大陸が拠点の自由連邦の補給路の苦しさから日本の陥落は一年とも経たなかった。
その間に私の友達や親戚、隣人は気がつけば居なくなり、アメリカへ避難できたのは私と私の家族を含め民間人は約10万人と少ない。
それからと言うもの、第二の戦場は太平洋に移り[太平洋海戦]と呼ばれ、自由連邦は予想を遥かに超える物量に、要塞化を進められてきたミッドウェー島、ハワイ諸島、その中央に建造された人工軍港プラットフォームに集結してあった艦隊は3倍近く増やされ、アメリカ大陸への大陸弾道ミサイル対策に島を中心に迎撃弾頭搭載の最新の自己判断AI[バトロイド]搭載の無人潜水艦が500隻と、50隻から成る原子力航空母艦と、世界最大規模の機雷原の付設によって5年に渡る戦線の膠着が続いた。
だがそんな停滞も続く事はない。翌年に自由連邦の医療機関の人体義手部門が独自に極秘裏に開発していた戦闘用の義体【GAN】。その初期モデルを敵国である人栄同盟の兵士1000名に施術した。
その戦闘力は凄まじく、[日本戦線]とほぼ同時期に進行を受けていた、不落の要塞と歌われたイギリスの湾岸要塞はGAN積載の船団に一週間と掛からずに陥落した。
この戦いは[義体の戦い]と呼ばれ、自由連邦の兵士全員を畏怖させた。
その事に激しく危機感を抱いた自由連邦は開発主任であるガン・アタッチ氏を投獄したが、彼が人栄同盟に基礎理論と人員を売り込んだことと、技術提供を条件に釈放され後に国営軍事義体産業【グレードガン】の開発主任になっていた。
その時それを知った私の心情と言えば、「敵に塩を送りつけて、挙げ句の果てにそれをデモンストレーションをするなんて…」と心底苛立っていたと思う。
そこからの戦局は非常に目まぐるしく変化していき、今までイギリスで防衛出来ていた事が裏目にでてその後の防衛手段なとまるっきし考えておらず、艦隊の全てを大西洋へと集結させていた為に、北大西洋をほぼ素通りで通してしまいカナダのニュージーランド州に人栄同盟の橋頭堡を確保された。
そこからなだれ込んでくる圧倒的な物量と圧倒的な力のGANに、同じだけの物量の[バトロイド]と同じGANをぶつけた頃にはもう遅かった。
自由連邦の本土はひどく荒らされ、通信と流通インフラらすでに致命的な被害を覆っている。
もう、自由連邦は、なりふり構っている場合じゃ無い。
いつNBCが使っても可笑しくない。事実上の最終戦争へと向かっている。
だから自由連邦は…いえ、人類の最後の希望として国家再建計画【不死鳥計画】を実行することにした。
###
この戦時中、ガソリンの一滴すら惜しい中、私――東上 アテナは父の運転する車に乗って移動している。
別に日本からアメリカに逃げて、さらに疎開する訳じゃない。
まだ爆撃を受けてないきれいなコンクリート舗装道路を進んでいく先には自由連邦の所持する宇宙打ち上げ装置 マスドライバー施設が見えてきた。
すると父は心配そうな唸り声を出し始めて、詰まっていた声を出す。
「アテナ?本当にいいのか?」
心配する父。それに対してアテナは首を横に振る。
「父さん。大丈夫よ。私が決めたことなんだら」
「そうか?そうだな…」
まだ何か言いたげそうな父だったが、私の強情の性格を知っているからその口を閉じた。
そんな静かな車内で数分経つと、マスドライバー施設の入口前に到着し、現地にいたスーツ姿の男が車の扉を開ける。
「東上アテナさんですか?」
「ええ」
「お待ちしておりました。時間がありませんので説明は歩きながら」
男は急かすように施設の入口を指す。
私はその通りに車を降りて、最後に父に挨拶をと車に覗き込む。
「父さん。ありがとう。私頑張るから悲しまないで」
そう言われた父は普段見せない涙目が溢れてきて、袖で顔を隠す。
「ああ、行ってきなさい。愛しのアテナ」
それに感化されたのか、気づけば私はそっと父を抱いていた。しばらくそのまましていたかった。
しかし時間がないとスーツ男が咳き込む。
「行ってきます」
その一言。最後にしては呆気ない言葉であるが父は軽く頷くと、袖を下ろしハンドルを握って、目の下を赤くしたまま来た道を戻っていく。
「ごめんなさい。お待たせしました。行きましょう」
そんな父の後ろ姿を習って私はマスドライバー施設へと足を運ぶ。
施設内は資料で読んだ通り最先端テクノロジーらしく、見たことも無い巨大な装置が並んでいるが、施設の大半は稼働を停止している。
「では、東上アテナさん」
「アテナでいいわ」
「承知しました。ではアテナさん本計画の志願で間違いはないでしょうか?」
スーツ男はこれが規則らしく、ここまで来て説いてくる。
【不死鳥計画】…全面戦争後の国家再建計画。
「ここまで来てそれを聞くのかしら?」
規則とはいえ、こうも規則的にされると鬱陶しい。
「承知。では説明を省くため、本計画の認識はどうなってますか?」
「全面戦争後の国家再建計画としか、何故打ち上げ施設のマスドライバーが必要なのかまでは知らない」
「承知。では本計画の本題は言われた通り、国家再建計画です。対NBC技術があるとはいえ、最も最悪の場合も想定して、地球再生計画も本計画には組み込まれています」
やはり核戦争も視野に入れてるのね。
「そうね。それで?」
「本計画の内容の詳細は後程、記憶転写装置の焼き付けによるインプットを行います。ここではその概要をお伝えします」
「お願い」
カツカツと速歩きで廊下を通って行き止まりにあるエレベーターにスーツ男はIDカードをかざし開けると、アテナを入れて最地下へと向かう。
「では、本計画では国家再建の他に再生の為に地球起源の生物を可能の限り保存し未来の地球を再度居住可能惑星へと開拓して居住可能とすることが準目標、国家再建が最終目標となります。
それに伴い、地下も含めこの地球上にはその種子を保存する環境には適さないと判断し、民間には未公開ですが衛星軌道に[オービタルリング]と呼ばれる未完成ですが地球を一周する大型の宇宙ステーションに急遽増設したリソースステーションに貴方方は保管されます」
「保管?生活ではく?」
「はい。保管です。ですが安心してください。保管には覚醒確率がほぼ100%の冬眠方式を採用してありますので、目覚めない事はまずありません」
「そう?それは安心出来るけど…何年を予定してるの?」
「そうですね。地上の状態によりますが30年から50年と言った所でしょうか?」
「思ったりも短いのね…核戦争起こしたらもっと長いのでは?」
「それは大丈夫でしょう。人栄同盟も自由連邦も核を無力化する為の技術とその備蓄も備えておりますので、核の冬は避けられると思います。それにここまで来たら争い事をする気にもなりません。少なくとも私は無いですね」
「そうね。そのまま終戦してくれたら私がおばあちゃんになるまで寝る必要性は無いもんね」
するとスーツ男は急に立ち止まりそっぽ向いて笑い出す。
「フフ!アテナさんは面白い人ですね」
「くだらない冗談よ。きっと気が動転してるのかもね」
アテナは軽く笑い飛ばす。
最終戦争。NBC兵器の使用。30年後…いえ、もしかしたら50年後の未来。正直な所で怖くて仕方がない。
すると静かに減速したエレベーターはその扉を開くと、急拵え感満載の設備配置。準備不足なのがここの施設だけでありますようにと願うアテナ。
するとスーツ男はアテナの前に出る。そして
「最後の打ち上げ人だ!気合い入れてやれ!これが人類の希望になるかも知れないのだから!」
「「「はい!」」」
張り上げた返事と共に、周囲がドタバタと動き始める。
するとスーツ男は明らか様に頭に何かをしますと言わんばかりの椅子が置いてある所を指す。
「アテナさん。あれは記憶転写装置です。少々美的に欠けますが、機能は折り紙付きなので安心してください」
先程言われた計画の詳細をインプットする為の装置だと理解して、未経験だが子供ぽく怖いなのなんだの言ってる場合でも無いと、その椅子に座る。
すると施設の白衣の人に「安全の為に固定させてもらいます」と手足から胴体に加え頭まで固定され、頭に落ちてきたら体が潰されてしまうのではないかと思えるほどに大きなヘルメット状の機材を取り付けられる。
「転写には急激な倦怠感や吐き気など襲われる時がありますが、正常なので焦らないでください」
そう告げられた次の瞬間、倦怠感や吐き気などとそんな言葉に収まりきらない気持ち悪さが襲いかかる。
頭に直接棒を突っ込まれグルグル掻き回された挙げ句、革袋に入り切らない荷物を無理やり押し込むような窮屈感が頭の中で起こっている。
何かの拷問器具の間違いではないかと脳裏に走った時、チリチリと音を立てて重厚なヘルメットが外され、目の前にはスーツ男が立っている。
「アテナさん。貴方が格納されるエリアと、計画内での役職は?」
この人…何を今更…
「…ステー、ション、エリアD…7…有、機資、源循環、プロ、ジェクト…リーダー…?」
「記憶転写の不具合無し。よしこのまま打ち上げ準備にかかるぞ!」
「「「はい!」」」
再度の威勢の良い掛け声と共にアテナの拘束が解かれ、自立できずにフラフラとすると周りの白衣の方の肩を貸してもらう。
する肩を貸してくれてる白衣の人が「調子悪いところ申し訳ないが、このまま次の工程に掛かります!」
そう言って施設の奥へと駆け込むと、そこにあるのは壁に埋もれた細長く一人取り入れる箱が一つ。その中身は呼吸器やら心電図ならの医療機器も備わっていて、中身は清潔そのもの。
「すいませんが、衣服の着用や身に付ける物は不具合を起こす場合がありますので、全て取り外させてもらいます」
そう言い放つとワラワラとやってきた白衣の人に上も下も全て脱がされて、金属探知機を一周かけられた後に、例の箱に詰められて、また体をベルトで拘束され呼吸器ならなんやらを取り付けられる。
一言なにか言ってやりたかったが気持ち悪さが抜けずに口が重たい。
ゆっくりと箱の扉が閉じていくと、箱の窓越しにスーツ男と、白衣の人がズラリと並んでいる。
「では。東上アテナさん。人類を、地球をお願いします」
その一同が自由連邦式の敬礼を見せると、急に奥の方へ追いやれ、箱の外側の扉が閉まる。
同時に急に箱が無重力空間に放り込まれたように、宙にふわふわ浮き始め、外の景色には放電がスパークが起こっている。
『冬眠カプセルポットの射出位置への固定完了。射出電力をコンデンサーへ蓄積開始。射出準備完了まで30秒』
ーーえ??
あまりの急展開に焦るアテナ。
『20…15…10…5…準備完了…射出します』
とりあえずいつの間にか頭の中にある。射出マニュアルに従い、首を引いて対衝撃体勢を取った瞬間、凄まじい加速共に連続して聞こえる爆発の衝撃波の振動を感じながら、瞬きするごとに風景が一変する外を見ながら、天へと打ち上げられる。
気がつけばそこは本当の意味での無重力。宇宙空間を漂っていた。
そして窓からはついさっきまでいた地球の大地が見える。宇宙飛行士は口を揃えて「地球は青い」というが、今見える地球は戦争によって均された灰色の地球。
「父…さん、私、頑張る、から。人類の、為に、頑張る、から」
そう口にするアテナ。すると箱にガコンと振動が伝わると、オービタルリングと思わしき疎らの板状の宇宙ステーションへと格納される。
『冬眠プロセス開始。おやすみなさい』
それを最後に、アテナは深く落ちていく…。
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そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
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