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魔法が使える世界は不安定な世界

火の精霊 火トカゲサムサム

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 ホグワードは、ドワーフだ。みんなホグと愛称で呼ぶ。無茶な鍛冶働きをして体を壊し、こんな田舎で鍛冶屋をしているが、以前は、王都で1、2の腕を競う名工だった。ここクナの里は、田舎と言っても王都に近い。ホグは、火に魅了されたかのように鉄を打ち、その火花を見すぎて片目を失い。ミスリルより魔力の籠っているアダマニュウムを鋳潰す時に魔力が暴走して、それを右手に受け、片手が上がらなくなった。魔力暴走による溶けたアダマニュウムによる火傷。王都の治療師は、ホグワードの治療にさじを投げた。ところが、マルタは、そのホグワードの右腕の火傷を治した。火傷で上がらなくなった腕も、以前より上がるようになった。ホグワードは、王都では、とても気難しい人だったそうだ。しかし、クナの里で、そんなそぶりを見たことがない。みんなは、ホグと愛称で呼んで、クワとか鎌とか、鍋を注文している。だけど、鍜治場にだけは、人を入れたことがなかった。でも、マルタには、とても甘々な親父さんなので、今回のお願いも、喜んで聞いてくれた。マルタは、火の魔法が得意。ホグと気が合う。マルタは、嬉しそうに鍜治場のドアを開けた。

うんちく
 ヒヒイロカネ   チタン 鉄より軽くさびにくく固い。色が7色に変わる。
 マグネニュウム  磁気鉄鋼 雷魔法を発する触媒になる
 オリハルコン   魔鉱銅 黄金の様なく光を薄く発している
 ミスリル     魔鉱銀 青白い光を発している
 アダマンタイト  ダイヤより硬い 加工するのにとても魔力を必要とする
 アダマニュウム  魔鉱アダマンタイト 魔力が含まれているアダマンタイト


「おじさん来たよ」
「待っとたぞ。坊ちゃんも」
「坊ちゃんはやめてよ。タカシでいいよ。はい、お土産」
 おれは、マグダラに無理言って、屋敷の地下からワインを1本貰った。おれが、以前から鍛冶屋に興味を持っているのを知っているマグダラは、理由を聞かなかった。
「ワハハ、これを待っとったんじゃ」
 ドワーフは、お酒が大好き。
「それで、これなんですけど」と、おれは、電磁魔法で集めた砂鉄を見せた。
 ホグは、一杯やりたそうな顔をやめ、4Kg以上ありそうな袋を軽々と持って、ロ壺に入れて、砂鉄の値踏みをしてくれた。つまり22Cmホーロー鍋1つ分。
「ふむ、いいんじゃないか。これで足りる。火力を上げるのは、マルタがやってくれるのだろ」
「任せて」
「なら話が早い。厚手の鋳物鍋じゃろ、型は作ってある。それでじゃ。お代なんじゃが、これを後2本でどうだ」
「それ、10年物ですよ。仕方ない、持ってきます」
「商談成立じゃ」
 ホグは、ほくほくで、おれたちをたたら場に案内してくれた。マルタが火力を上げ、おれが空気を吹き込む。そしてホグが鉄を見てくれることになった。まず木型を使って砂で型を作る。こればっかりは素人は手を出せない。でも、なんだか自分もできそうな気がする。次が、砂鉄を鋳つぶす作業になる。

 炉に火がともり、コークスで火力を上げていく。おれは、ふいごを踏んで風を送る。結構な重労働、これをホグは、一人でやっている。これだけでも、鉄を溶かすには問題がない。しかし、注文の品は、極厚手鍋。魔法を使わないで、火力を上げるとなると、とても体力がいる作業になる。

「よっしゃ、坊ちゃんは、そのまま、ふいごを踏んでくれ。マルタ、火力を上げるんじゃ」

 マルタは今回、火魔法ではなく、妖精を召喚して火力を上げる。鉄の量が4Kgと、とても多いからだ。
 マルタがポウと薄っすら光り出した。魔力の発現だ。今回は、マルタが出せる火の召喚獣で、一番強力なサラマンダー族を呼ぶ。彼はトカゲで、赤い火の舌を持つ。頭上に浮かんでいる火は、他の物を焼き尽くす力を持っている。今回は、その頭上の火で、コークスの火力を上げてもらう。

「火を司るサラマンダー族よ、我に力を貸したまえ。全てを焼き尽くす強い炎を宿せし勇者を与えたまえ」

 なんだかいつもより気合が入っている。でも、来るのは、マルタの友達の火トカゲなんだけどね。マルタは、召喚の触媒に、おれの、この間散髪した大量髪と、自分の髪を少々を火魔法で焼いた。おれの髪の量が多すぎて、鍜治場が臭くなった。
 マルタの奴、おれの髪を全部焼いたな!
 現在詠唱中なので茶々を入れられない。

「我の招きに応えよ。サラマンダー!」

 そこには、マルタに聞いていたトカゲ君と違う、おれでも見えるほどの魔力を持ったトカゲが現れた。尻尾は青白く光っており額の炎も赤ではなく青い。マルタも、面食らっていた。

「は、初めまして。マルタです」
「おう、よろしくな」

 それもしゃべっている。ホグが、目を丸くして、サラマンダーを凝視した。

「ほ、ホグワードじゃ」
「よろしくな。おーーーータカシじゃないか。懐かしいと思ったんだ」
「おれ?」
「そっか、記憶をなくしたんだったな。オレは、あの時いなかったんだよ。悪かったなー。いけね、今のは、内緒な。聖霊王様に怒られる。はいはい、記憶消去!」
 ホグが、あっけにとられた顔を正気に戻した。
「あなた様は、精霊様か」
「様かって、普通の精霊だろ。サムサムだ。よろしく。サムサム言うのが面倒だったらサムでいいからな。火の精霊なのに、寒いって何のギャグだよ本当に」
 二人には、記憶消去が効いているようだが、おれのは消えていない。こいつ、いつのまにかおれの肩に乗って、おれの肩をちっちゃな手でペシペシやっている。懐かしそうに、してるし、いったい何なんだ。とにかく溶鋼の作業は、最高潮に達している。いま疑問をぶつける暇はない。

「サム、ロ壺の中の砂鉄を鋳つぶして」
「エェッ、それだけ?それだけでいいのかよ」
 おれに疑問を向けるなよ。
「丈夫なホーロー鍋がほしいんだ」
「オウ、それでか。分かった」

 サムは、青白い炎の舌をロ壺に付けて砂鉄をいい塩梅に溶かした。ホグが会心の出来に、「よっしゃ」と唸っている。すぐさま、解けた砂鉄を型に流し込む。

「はー、疲れたよ。でも、タカシから魔力を貰ったからな。最高の出来じゃないか」
 と、囁かれてもよく分からん。マルタが嬉しそうに、サムを慰労した。とにかく降りろよと思う。

「サム、ありがとう。また来てね」
「そうするよ。マルタと、ホグワードだったな。いい仕事だったぜ」
「おれは?」
「普通に働けよ」
 ものすごい低評価。
「それでさっきの話なんだけど・・」
「おっと、オレ帰るな。あばよ」
 最低な奴! サムサムが霧散した。ホグが、興奮してマルタを褒めたたえた。

「おい、なんじゃありゃ。わしゃ、生まれて初めて、最高の仕事をしたぞ。これを我が家の家宝にしたいぞ」
 ホーロー鍋なのに?
「サラマンダーさんが来たのは、いつものことなんですけど、青かったですね」
「二人は、初めっから見えているんだろうけど、おれにも見えたよ。話してたし、おれの肩、ぺちぺちやってたし」
「すっごい魔力だったものね」
「精霊じゃと言ってたぞ。ありゃ、トカゲ族の長より高位の存在じゃ。すごいなマルタ」
「でも、気まぐれに出て来たって感じじゃなかったですか」
「じゃろうのう。わしらドワーフでも、数少ない体験じゃ。こんなこともあるんじゃな」

 二人は大喜びしている。でもおれは、消化不良だ。サムサムは、おれの過去を知っている。なんだか、逃げられた気分だった。

 鋳物は、鉄が冷えるのに時間が掛かる。出来上がりは、後日と言う事になった。


ここまでの 登場人物

主人公
タカシ・フォン・ラルク 16歳 男 精霊の加護を持つ

ヒロイン
マルタ・ノバ・マナーヤ 16歳 女 4大魔法を使えるラルク家のメイド

ラルク家

タカシの義父
サンダー・フォン・ラルク 56歳 男 アナム王国将軍兼聖騎士団団長

タカシの義姉
アリア・フォン・ラルク 22歳 女

ラルク家のメイド長
マグダラ・アドノス 36歳 女

ラルク家の馬屋番
ルター・ホッファー 38歳 男 元聖騎士

ラルク家の執事
セバス・チャン 56歳 男 ラルク家代々の執事で将軍の幼馴染 奥さんはローリー

ラルク家の庭師
ペドロ・ドノス 42歳 男 妻リアスと共に邸宅内に住む 嫁は身重で里帰り中

ラルク家のメイドは全部で6名マグダラ、マルタ以外は以下に掲載
サラ:21歳 メイド長に次いで仕事ができる
ルツ:18歳
アンナ:18歳
メイ:13歳 駆け出しのメイド

ホグワード:腕利きだった鍛冶屋

精霊界

精霊王

マーレ 精霊王の娘 タカシの幼馴染

サムサム 火トカゲの精霊
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