くっころエルフは抱かれたい

芳一

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今日は朝からとことんついてなかった。

「普通にオーガの討伐に来ただけ…だったんだけどなあ」

俺のそんな小さな呟きが洞窟内に妙に大きく響く。
薄暗く、ゴツゴツとした岩壁に囲まれたその場にしゃがみ込みながら、俺は深く息を吐いた。



昨夜、知り合いのおっさん冒険者に誘われてうっかり酒場で飲み過ぎたのが始まりだったと思う。
いつもなら既に支度を済ませている筈の時間まで泥のように眠り、起きたら起きたで酷い頭痛に襲われた。
目覚めは最悪だったと言っていい。

それからそうゆっくりもできないままに俺は冒険者ギルドに向かった。
ギルドに張り出されている依頼書は報酬の美味しいものが当然人気で、昼近くになる頃には目ぼしい依頼は全て受注されてしまっている。

せめて今日の宿代分くらいは稼ぎたいなぁなんて思いつつ、緩慢な動きでギルドの扉を押し開けた───その直後、拳やら魔法やらが俺目掛けて飛んできた。
それも顔面に。

どうやら冒険者同士が口論をしていたようで、ヒートアップした両者が周りを巻き込んで大暴れしていたらしい。
何とか身を仰け反らして避けたけれど、危うく大怪我をするところだった。

周りにいた冒険者たちも冒険者たちで、野次は飛ばせど仲裁はせず。火に余計な油を注ぐわどちらが勝つかの賭け事を始め出すわ、最終的にギルド長が出てくるまで収拾がつかなかったのだから酷い話である。

その後、掲示板前へと向かい貼られていた依頼書に目を通したけれど、やはり報酬の良いものは粗方受注された後だった。
残っていたものはCランクのものがひとつと、あとはDランクとEランクが僅かに残っているだけ。
俺は仕方なく、その残っていたCランクの依頼を受注した。

依頼内容は魔窟内に出現しているらしいオーガの討伐。
討伐する数は多ければ多いほどいい、というものだ。

オーガの討伐自体はそう難しいものじゃない。討伐数が多かったり、効率を考える冒険者はパーティーを組んで受注したりもするが、まあ大抵は一人で熟してしまうものである。
そんな油断が、朝からついてない俺をさらにどん底につき落としたんだろう。比喩ではなく、そのままの意味で。

「なんで危険度Cの魔窟に最下層への転移トラップがあるんだよぉ!」

そう、落とされた。
ご丁寧にも大量に沸いていたオーガの群れのど真ん中に。
その結果、予想してなかった突然の転移トラップに俺は尻で着地する事になったし、眼前のオーガの量に驚く間も無く戦闘をする羽目になってしまった。
無尽蔵に襲ってくるオーガを千切っては投げ千切っては投げ…何とか無事すべてのオーガを倒し切ったのがつい先ほどのこと。


───と、いうのがここまでの流れである。





この魔窟は別に未踏破の箇所があるだとか、冒険者の間で情報共有されている危険ポイントがあるだとか、そんな大層な場所ではない。
何ならDランク冒険者が腕試しに訪れたりするような場所だ。

嫌というほど出入りされている筈なのに、なんで転移トラップが仕掛けられている?今まで運良く誰も踏んで来なかったとかある?
それも三つ叉になっている分岐地点のうち「どれにしようかな」で適当に選んだルートの、一歩踏み出した地面の真下にトラップの魔法陣が仕掛けられているとか誰も思うまいよ。

「結果的に依頼も達成したし良いけどさあ…100匹は軽くいたよね?中には変異体まで混じってたし………ん?」

辺りに転がる大量のオーガを横目に、しゃがみ込んだままぶつぶつと文句を垂れていれば、ふと視界に違和感のある岩壁を見つけた。
よく見ればそれは壁ではなく岩の扉だったようで、中途半端に開きかけたその岩扉の向こうにちょっとした空間があるのがわかる。
中は松明でも灯っているのか、少しだけ明かりが漏れ出ていた。

この魔窟は多くの冒険者たちによって既に最下層まで探索が成されているが、行き止まりだと思っていた最深部にその先があるなんて情報はなかった筈だ。
つまりはあれは隠し部屋か何か、という事なんだけれど…。


「…誰だ」

そんな事を考えていれば岩扉の向こうから鋭い刃のような声が飛んできた。
漂う殺気に一瞬魔物か、なんて身構えたけれど、どうやら隠し部屋の中に誰かがいるらしい。

何で最下層のそれも隠し部屋に人が?と思いつつ、岩扉をこじ開けるようにして横にずらし中を確認すれば、そこにはやはり『誰か』がいた。
ザンバラ髪のような短い銀の髪にそこからひょっこりと覗く尖った耳先。こちらを睨むように視線を向ける碧い瞳は宝石のような輝きを放っている。
人間に似ているが、人間ではないと一目でわかるその特徴を持つ彼は────

「…エルフ?」

そう呟いた俺の言葉に目の前の彼の細い眉がぴくりと跳ね上がった。

すらりと伸びる彼の長い両の腕は壁に備え付けられた鎖に繋がれていて、脚の先にも動きを封じるような重石が付いている。
肌はあちこち怪我をしていて、防具の下の衣服も切り裂かれてボロボロだ。

きっと、オーガの群れに襲われてこの隠し部屋に囚われていたんだろう。
オーガの中でも知恵を持つ変異体は時折こうして多種族、特に人間やエルフといった種族を捕まえる事があるのだ。
食糧として捕らえているとも聞くし、想像したくないが交配するためとも聞いた事がある。

エルフである目の前の彼は整った顔立ちはしているけれど、線が細いわけでもなくしっかりと防具を付けていた。オーガに襲われた時にできたと思われる傷とは別に、頬や腕に薄らと古傷もある。
多分、俺と同じ冒険者なのだろう。
何故オーガに捕まってしまったのかはわからないが、エルフは仲間以外とは群れないと聞くし一人でいるところを狙われたんだろうか。

そう考えながら囚われている彼の姿をじっと見つめてしまったのがいけなかった。
彼は眉を寄せキッと睨み付けるような視線を俺に向けると、屈辱だと言わんばかりに怒りで頬を赤く染めた。

「くっ…殺せ!オーガ如きに捕まったエルフを嬲るなど容易いと思っているんだろう!そんな恥辱を受けるくらいなら死んだ方がマシだ!」

まずい、錯乱している。
どうやら俺の事もオーガと同じように敵だと思ってるらしい。
ふうふうと荒い息を吐き、すっかり殺気立ってしまっている。

「落ち着いて。俺はあなたの敵じゃな───」



「いいや、どうせお前も俺を蹂躙したいと思ってるんだろう!?その華奢な身体からは想像もつかない凶暴な大剣を勃たせて俺の身体を好き放題するんだろう!?」




しないよ!?!!?

なんか思ってた返答と違った!どんだけ錯乱してんの!?
美丈夫の口からいきなりド下ネタが飛び出してきてギョッとした。
凶暴な大剣て。

「お前のようないかにも善良で純朴そうな奴ほど欲望を溜め込んでいるものだ!腹の内ではその欲を俺にぶち撒けようと舌舐めずりをしているくせに!」
「してないんだけど!?」

まずい、めちゃくちゃ変なエルフだった。

冒険者になってからそれなりに経つが、こんなふうにエルフとしっかり会話した事は実のところ一度も無かった。
パーティーを組む冒険者であれば勧誘目的で彼らに話しかけたりもするのだろうが、生憎俺は自由なおひとり様。
エルフは騒がしいのが嫌いだから酒場で出会う事も無いし、冒険者ギルドで見かけたとしても彼らと知り合いな訳じゃないんだからこちらから話しかけに行く事もない。

だから余計に目の前の男が俺の想像してたエルフ像と違って驚いた。
いや、彼が特別変なだけなのかもしれないけど。

「と、とりあえず怪我を治すから暴れないで。ほら、手枷で手首が赤くなってるし…」
「………」

色々と抗議したいところではあるが、とは言え相手は怪我人。治癒をする方が優先だ。
彼を宥めるようにして傷口に手を翳せば、悔しそうな顔で睨んでくるものの一旦は大人しくなってくれた。多分、身じろぎする度に傷が痛むんだろう。

俺は魔法よりも剣で戦う事が多いが、治癒魔法のヒールも一応習得している。
本職の治癒士ヒーラーと比べられたら流石に敵わないが、重症でなければ俺のヒールでも十分に癒す事ができる。
幸いにも彼は致命傷とも言える怪我は負っていない。
彼が大人しくしている間に癒やしてしまおう。

そう考えながら素早く掌に魔力を集中させ、傷口に向けてヒールを放った。
柔らかな光が掌に灯り、痛々しい傷口を優しく覆う。


「あッ……」


………ん?

突然何処からか艶っぽい声が聞こえて思わず辺りをキョロキョロと見渡してしまった。
しかしここは魔窟の最下層で、既に倒した大量のオーガが岩扉の外に転がっているだけ。女性どころか俺たち以外に人影はない。
気のせいか。


「ん、ぁっ…んん、そこぉッ…!」


違う違う違う、目の前にいた!目の前のエルフがめっちゃ喘いでた!!!
しかもさっきまでの敵意はどこに行ったのか、瞳は潤んでるし頬は赤く染まって薄ら汗ばんでるし、荒く呼吸をする唇の隙間からちりと見える舌はぬらぬらとしているし、とんでもなくえっちな表情になっているんですが!?何で!どうして!?

「ご、ごめん俺の治癒があなたには合わなかった、の…かな!?」
「…ふん、それだけ澄んだ心地のいい魔力を俺のナカに注ぎ込んでおいてよく言う」

その意味深な言い方やめて?今の喘ぎは俺のヒールが思ったより心地よかったってだけだよね?
目の前の彼の表情はいつの間にかすんっとしてるし、さっきの艶っぽい声と表情は演技かな?と思ってしまったが、とりあえず問題が無いならさっさと治療した方がいいだろう。

そう思い再び傷口に向けて手を翳し、ゆっくりと魔力を注ぎ込む──が。


「くっ…!一思いに…んんぅッ…!」
「……」
「ぁんッ、そこだめぇ…っそれ以上は、ぁ…!」
「……」
「あ、あっ…くる、奥にきちゃうぅ…!」
「お願いだからその声やめて欲しいな!?」

奥にきちゃうとは!?奥も何も表面の怪我にしかヒールをかけていませんが!?
この場に俺たち以外の人影がないからいいものを、誰かに聞かれたら絶対誤解されるだろこれ。
俺は頭を抱えそうになりながらも目の前のエルフの口から漏れる喘ぎ声と、口癖なのか「くっ…殺せ!」という言葉を無視して何とか治療を終えた。魔力は対して使ってないはずなのに無駄に疲れたんだけど…?

俺は若干ぐったりしながらも彼の手足を拘束する鎖を解いてやった。
トラップに掛かって最下層まで落ちた上、妙なエルフと妙な出会いをしてしまうとはやっぱり今日の俺はとことんついていないのかもしれない。
ため息を吐きながら解いた鎖をじゃらりと地面に放ると、改めてエルフの彼へ向き直る。

「これでもう大丈夫。俺はオーガの解体をしたいからもう少しここにいるけど、あなたは地上に戻るでしょ?武器、貸そうか」

俺は言いながら腰にぶら下げている剣とは別の、予備として持っていた短剣を取り出した。
地上に戻るまでに他階層のオーガと遭遇するかもしれないが、既に100匹近くも俺が狩ってしまったのだから残りはそういないだろうし、変異体やら何やらうじゃうじゃ現れるなんて事はきっとない。
彼が冒険者であれば短剣一本しかなくても地上には戻れるだろう。

と思っていたが、目の前の彼は鎖が解かれたにも拘らずその場に立ち尽くしたままなかなか返事をしない。
俺の方をじっと見て、何だか少し不服そうにしている。

「……えーっと?」
「………」

暫し無言の時間が続く。
ムッと唇を結ぶ男を俺も見つめ返しながら、このエルフ意外と感情が顔に出るんだなあなんて考えていたら、彼が徐ろに近付いてきた。
おお、近付くと俺との身長差がよくわかる。さすがエルフは背が高い。
彼は感心する俺をじっとりと見つめてから、ふんとそっぽを向いた。

「お前、本当は俺を蹂躙したいと思ってるんだろ?」

なんて?

「いえ思ってないですけど…」
「子供のくせに強がるな。隠したところで俺への劣情が滲み出ている」
「子供はそんなえっちな事は思わないんだよなあ…」

漸く口を開いたらこれか。
もう何度目かわからないぶっ飛んだやりとりに思わず遠い目をすれば、彼が間髪入れずに追撃をしてくる。

「本当は欲望のまま俺の身体をめちゃくちゃにしたいと思ってるくせに!」

何でだ。というかこのエルフは何故さっきから俺が抱く前提の話ばかりしているんだろうか。いや別に、俺が抱かれたいとかそういう話でもないんだけれど。
彼は相変わらず不服そうな顔で、さらに胡乱げな目で俺の方を見てくる。
今度は何だよ。

「俺の奥にあんなに熱いのを注いだくせに触れずに終わるわけがない」
「言い方ァ!俺はヒールかけただけだから!そういう趣味はないから!」
「趣味はない?」

彼が驚いたように鸚鵡返しをする。まるで俺がそう思っていて当然だと言わんばかりの反応だった。
いやいやいや。
そんな趣味あるわけない。いや、例え彼が女性だったとしても思わない。
オーガに襲われかけてた相手に対していきなり蹂躙したいだとかめちゃくちゃにしたいだとか、そんなことを考えてたら頭がおかしいだろ。

だが彼は気まずそうにふいと視線を逸らした。

「酒場で冒険者が俺にニヤついた視線を向けながら言っていた。俺のような男ほどぐちゃぐちゃにしてやりたい、所詮エルフも抱いたら雌と変わらない、と。人間の冒険者は皆、そう思っているんじゃないのか」

そんなわけあるか。
それはその冒険者が下衆なだけだ。そいつのせいで俺や他の真っ当な冒険者まで同じように思われては困る。

彼はどうやら人間の冒険者に対して偏った認識をお持ちらしい。それもドのつくシモという、ズレた方向にだ。
完全に参考にする冒険者を間違えている、と口から今日何度目になるかわからないため息が溢れた。

「そんな人間はごく少数じゃないかな。少なくとも俺は違う」
「……」

キッパリと否定すれば、またどことなく不服そうな顔をされた。
…なんで?俺がそのごく少数じゃなかったら嫌なの?


「俺は同族エルフからも爪弾きにされている。このなりだ、汚い人間の血でも混ざっているんだろう、と。だから俺を精神的にも肉体的にも屈服させ、『わからせたい』と思う者がいてもそう珍しい事じゃない」
「え、このなりってどの部分が?」

謎にアピールしてくる後半の話は華麗に聞き流した。
そんな事より気になったのである。人間とのハーフだと思われて同族に爪弾きにされている、とは?

聞けば、オーガに捕まってしまったのも彼の仲間である筈の冒険者エルフたちの裏切りがあったかららしい。人間とのハーフなのだろうと勝手に決めつけられた彼は、味方の手で転移魔法を発動され最下層へ落とされたのだと。
それも、彼の攻撃手段である魔術の使用を一時的に封印する『呪い』を掛けられた上で。

なるほど。俺が嵌ったあの転移トラップは彼のお仲間による『やり残し』が原因だったわけか、理解した。

しかし。
彼がそうなった理由はいまいちわからない。

この男はエルフの特徴とも言える銀の髪に碧い瞳、尖った耳先と、それらを備えた姿をしている。
俺が一目見てエルフだと分かったくらいには、彼はどこをどう見てもエルフなのだ。
それなのに見た目が原因で仲間に邪険にされるなんて、どういう事なんだろう。

うーんと唸るように首を傾げていれば、驚いた顔をしたまま固まっていた彼の瞳がふるりと揺らいだ気がした。

「俺を見ればわかるだろう。エルフの特徴である肌がまず透き通るような白ではないし、髪も長くない。細身でもない上に、何よりこの顔じゃないか」
「え、顔?顔が何?」
「どう見たって美しくない」
「はあ?」

思わず間抜けた声が出てしまった。
何を言ってるんだ?このエルフ。

そもそも色白じゃないと曰う肌は俺からすれば充分白いし、髪の長さなんてエルフだろうが人間だろうが本人の自由では?
体つきに関しては確かに儚さ漂う線の細さはないものの、しなやかさがあって素直に美しいと思える。
さっきまでのぶっ飛んだやり取りだって己の身体に対するある種の自信の現れではなかったのか。

俺はそんな事を思いながら改めて彼の全身を上から下までじっくりと見つめた。
うん、やっぱりどう見ても綺麗なエルフだ。

すると俺の視線が気になったのか、彼は何故か頬を赤らめて自分の身体を掻き抱くように身を捩った。
あ、見すぎた?

「そうか、お前は子供だからエルフを見慣れていないんだな」
「いや…エルフは知ってますし、俺は子供と言うほどの年齢じゃ…」

いや、まあいいかこの話は。

「エルフは皆、美しいんだ。俺のように精悍な顔つきはしていない」
「確かに女性と見紛うなんて事はないけど……でもその分、かなり男前じゃないかな」

タイプは違えど美形は美形。彼の顔をもってして美しくないと言うのなら、この国の殆どの人間──それも冒険者なんて俺も含め、見れたものじゃなくなるぞ。
かく言う俺も、艶のないボサついた黒い髪に日に焼けた傷だらけの肌をしているし、歳の割に童顔な顔は冒険者に於いては舐められるだけで何の得もない。もっと言えば特徴は童顔という部分なだけで、影の薄い平凡顔をしている。

そうした思いを込めて言えば、彼は窺うように上目遣いで俺を見つめた。
彼の方が背は高いのに自然な上目遣いで、それがわざとらしくないのだから不思議だ。

「…男前?俺が?」
「はい」
「抱きたいくらいに?」

いや何でそうなる?というか「いいえ」とも答え辛いだろそれ!
別に彼を抱きたいなんて思わないが、そう思う人間がいても不思議ではないくらいには男前なのだから!

「なあ、抱きたいくらいに俺は男前か?」
「ええ……うーん…はい…」
「つまり俺を見下しているから抱くのではなく、魅力的だから抱くんだな?」

抱きませんけど!?なんで抱く前提の話になってんの!?

これは妙な流れになった、と俺が慌てて否定しても彼は「ふうん。そうか、ふーん」とか何とか繰り返しながら、じろじろと俺の顔を覗き込んでくる。
何だよぉ…。


「じゃあ俺の事を抱いてもいいんだぞ?」


さっきまでの不服そうな顔から一転、彼は酷く嬉しそうに笑った。
あ、その顔はちょっと可愛い。
男前の人が無邪気に笑うとこんな感じなんだ。童顔とか可愛い顔立ちの人が笑うのとはちょっと違った可愛いさがあるのは何でだろう。

「ん」

僅かの間、思考の海に溺れていればいつの間にか彼の顔が眼前にあった。
俺が男前と称した顔。遠目から見ても目を引くだろうけど、近付いたら尚のこと顔の良さが際立つ。

不躾にぼーっと眺めていたら、恥ずかしがるみたいに唇を甘噛みされて目の前の彼の碧い瞳がきゅうと細まった。
そのまま首に腕を回されてぎゅうと抱きつかれたと思ったら、ゆるゆると上下に揺すりながら腰を押し付けられる。
手を使わず擦るような動きが艶かしい。合わさる唇からも「ん、ん…っ」と色っぽい声が漏れ、堪らないと言いたげに眉尻が下がっていた。

ヒールをかけた時もやたらと喘いでいたけれど、何だろう今はちょっと大人しいというか控えめというか。
もしかしたらやっぱりあれは演技わざとだったのかもしれない。
思えば彼は人間の冒険者が自分を抱きたがっていると勘違いしていたからああいう言い回しをしていたんだもんな。
どうせ俺を抱くのだろうと半ばヤケクソになって自分の気持ちをわざとそっちに持っていっていたのかもしれない。そうでなければあんな大袈裟な喘ぎ声ではなくて、今みたいにもっと自然な声が出ていたはずだ。

ピクリとも動かないで棒立ちになっている俺に焦れたのか、彼の眉間に僅かに皺が寄って、またあの不服そうな瞳で俺を見てくる。
顰め面で、こちらを責めるような目つきをしている筈なのに妙にいじらしい。
構ってくれない事に拗ねている様にも見えるのは果たして俺の気のせいだろうか。
気のせいではなかったら…うん、やっぱり可愛いのかもしれない、この男は。


あれ、そういえば彼と何の会話をしていたんだっけ。

気が付けば俺は地面に寝かされ、俺の身体に彼が跨ぐように馬乗りになっていた。彼の指がいそいそと俺のベルトに掛かり、そしてやがて熱を持つであろうそこにそっと触れ────…







「いや、ヤらないけど!?!!?」


いい雰囲気風におっ始めようとするエルフに対し、俺の渾身のツッコミが魔窟内に響いたのだった。
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