ヘイの物語

玉露

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第一章 新たな場所

出会い

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テハは自分のことをヘイを拾ったときのことを語り始めた。




テハには夫と子供がいた。



夫は温厚な薬師で近衛からは頼りにされ、急患の患者をいつでも受け入れる仕事熱心な彼にテハ惚れ、結婚した。


そんな二人は子どもを授かり、熱心に育てた。



テハも魔法使いとして切磋琢磨し、前線での戦いも恐れず、戦った。



そして、黒魔導師内での権威を持つことができた。



そんな中、悲劇が起きた。



それはテハが老師として任命され、前線から引き、後世を指導、導く役割に就いてすぐに夫と子どもを毒殺された。



しかもそれを殺ったのは自分が信頼していた側使えだった。


テハからの差し入れと称し、夫と子供に毒入りのお菓子を差し入れたそうだ。


側使えの娘はテハが老師になったことに納得していなかったのだ。


その娘が捕まった時、まだ貴女は前線に立つべきだ、まだ戦えると騒いでいた。



テハはそれから塞ぎこんだ。



他の老師からも励まされたが、どうにも納得がいかなかった。



ある日テハは何処か遠くへと思い、夜中にパラメを出た。




そして、身分がバレない誰でも自由には入れる街ヘチカへ行くことにした。



ヘチカはパラメから南西に300㎞で海に面した綺麗に海が見える。


夫と子どもを思いながら祈り、死ぬのは悪くないと思った。



そんな中でのヘチカに向かう道のりの海岸線で赤子の声が聞こえた。



消え入りそうな、波に打ち消されそうとしている命の叫びにテハは我に帰った。



辺りを見回すが、声がどうも小さくわからなかった。



波打ち際に近いところに真っ赤な何かが落ちていることに気がついた。



それはモゾモゾと動き、赤子の泣き声がする。



テハはそれを拾い上げると赤子の顔が見え、驚いた。



親がいないか周りを見渡すが、親らしき人物どころか人っ子一人いない。



テハはその赤子を連れて、目と鼻の先のヘチカへと向かった。



ヘチカへ着くとその時は盗賊が街にいたらしく、出入口の門番がいなかった。



それを良いことにヘチカへと楽にテハは入れた。


絹製のハンカチとミルクを交換した。




わき水でミルクを少し薄め、飲ませると赤子は力を振り絞って飲み始める。



テハはそれを見て安心する。



それからというものヘチカを見て回るが、出入口から手前の街並みで赤子を育てられる家を探したが、どうやら空きのあばら屋は存在していないようでテハは街の奥へと進んだ。



「お困りかい?」



医者らしき白衣の老人が曲がった腰を支えながらやって来た。



テハは信用していいかわからず、その白衣の老人を見る。




「心配すんな赤子を盗るほど餓えちゃいない」



老医者はそう言うと鼻で笑った。



「まぁとりあえず、赤子を見よう。」



老医者はそう言うとテハを自分の診察所に案内した。




「この子は強いな。骨がしっかりしてる。しかし、早く関節を伸ばしてやらないと色々と不調をきたす。」



老医者はブツブツ言いながら赤子を診ている。



「まぁお前さん拾った子だろ?  ミルクやって吐き戻したらまた来な。それより住むところは?」



老医者に言われ、テハは首を横に振る。



「ここから右に2件目は確実に空いてるからそこに住むと良い。」




そう言われ、テハはそこに住むことになった。




その後、赤子をくるんでいた汚い布を剥ぎ取り自分の来ていたケープで包み、布を洗った。



しかし、その布はただの布切れではなかった。



「これは…」



テハはヘイを抱え、老医者の元へ向かった。



「これは…ミアータの旗ですか?」



老医者にテハはヘイをくるんでいた布を見せた。


それはミアータ共和国の旗だった。



ミアータ共和国とは幻の国として口伝しか伝わっていない。


記録さえない幻の国だ。



とある国が湿地帯を開発しようとしたときに多くの兵がその湿地帯を守るようにその国を追い出したという逸話もある。



しかし、その話ですら本当かわからない。


そもそもその湿地帯がどこかすらわからないのだ。


そのミアータの旗はテハと老医者は頭を悩ませた。


老医者はため息をつく。


「この旗を見せに来たということはあなたは軍関係者ですか?」




「はい、つい最近まで。」



テハは老医者の言葉に頷く。


「そうですか。」


「私も元軍医です。」



老医者はそういうと薄い頭を撫でる。



「この子はミアータの子でしょうか?」



「わかりません。」 


そう呟くと老医者はどうしたものかと考える。



「この子を育てなさい。」


老医者はそうテハに呟いた。



「わかっています。」



テハは力強く頷いた。



これがテハとヘイの出会いだった。




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