雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

文字の大きさ
317 / 423
エピソード13 魔王様のいない最終戦

祭壇と肖像画と棺

しおりを挟む
 「ふわあぁ……」

 サリア・ギャレマス――の身体に宿ったツカサは、眠い目を擦りながらむくりと起き上がった。
 大きく伸びをしながらぼんやりと周囲を見回した彼女は、自分が寝ていたのがいつも見慣れた自身の寝室ではない事に一瞬戸惑いの表情を浮かべたが、すぐに事情を思い出した。

「そっか。いよいよ今日が……」

 ――そう。今日こそは、先日非業の崩御を遂げた真誓魔王国国王の魂を死者の世界へ送る“大喪の儀”と、魔王の娘であるサリア・ギャレマスが、彼の跡を継いで新しい魔王に就く“即位の礼”が行われる日である。

「ウチがサリアと入れ替わってから七ヶ月ちょい……ようやく、この日が来たって訳かい……」

 そう、感慨深げに呟いたツカサは、寝ていた簡易式の天蓋ベッドからおもむろに立ち上がった。
 そして、枕元に置いてあった小さな小箱を手に取ると、四方から垂れ下がったレースのカーテンの一端を持ち上げて外に出る。
 簡易式天蓋ベッドが置かれていたのは、魔王城の呪祭拝堂ナームの中央に設けられた、魔王イラ・ギャレマスの魂を弔う巨大な祭壇の横だった。
 彼女は“大喪の儀”で定められた決まりに従って、昨日の夕刻から今までの間、イラ・ギャレマスの祭壇の横で夜を通して寄り添い、亡き父親の魂と最後の時間を過ごしたのだ。

「……結局、オヤジが化けて出てくるどころか、気配すら感じる事も無かったねぇ」

 そう、どこか寂しげな顔をしながら呟いたツカサは、巨大な祭壇を下から見上げた。
 至る所に金象嵌があしらわれた荘厳な祭壇には、色鮮やかな花々と様々な供物で飾り付けられ、その真ん中には、人の背よりも大きな肖像画が掲げられている。
 写実的なタッチの肖像画に描かれているのは、黒髪黒髭で、側頭部から天に衝き立つ純白の角を生やした壮年の魔族の男――真誓魔王国国王イラ・ギャレマスの姿だった。

「ふ……」

 祭壇の前でギャレマスの肖像画を見上げたツカサは、思わず口元を綻ばせる。

「……薄々思ってたけど、実物よりもだいぶ美化して描いてるよな、コレ」

 口を堅く引き結び、鋭い眼光で遥か彼方を見つめている構図のギャレマスの肖像に、彼の娘であるツカサはおかしみを感じてしまう。

「本物のオヤジは、いっつもどこか困ったような顔をしてて、こんなに怖い目つきでも無かったよ。口元ももっと締まりが無かったし……」

 そう独り言ちながら、彼女は祭壇の花に埋もれるように安置された細長い棺の蓋にそっと掌を乗せる。
 そして、黒檀の棺の蓋を少しだけずらすと、彼女は「それに……」と目を細めた。

「角だって、そこまで立派じゃなかったよ……」

 寂しげな目で彼女が見下ろした棺の中には――何も入っていない。
 本来、被葬者の骸が入っているはずの虚ろな棺の中を一瞥したツカサは、手に持っていた小箱の蓋を開け、中に納めていたものを取り出した。
 ――この世に唯一残った、父の遺骸を。
 ツカサは、取り出した魔王の角を掲げ上げ、祭壇の肖像画と比べてみせる。

「……ほら。途中で折れてるけど、それを考えても、あの絵の角は実物よりも倍近く長いよ」

 まるで誰かに説明するように呟きながら、彼女はフッと苦笑した。
 そして、名残惜しげに角を一瞥すると、そっと棺の中に納める。

「……死んだ奴の一部なんて、大事に持ってたってしょうがないからね。――ちょうどいいや。少し嵩が足んないかもしれないけど、この中に捨てて、オヤジの亡骸として葬ってやる事にするよ。……うん、それがいいよね」

 そう、どこか自分に言い聞かせるように呟きながら、彼女はずらしていた棺の蓋を元に戻した。
 そして、もう一度黒檀の蓋の表面をそっと撫でる。

「……じゃあな、オヤ――」
「サリア姫! 御目覚めでしたかッ!」

 入り口の巨大な鉄扉が開く派手な軋み音と野太い男の大音声が、それまで厳かな静寂に包まれていた呪祭拝堂ナームの中に響き渡り、ツカサの声を掻き消した。

「――ッ……って、オマエかよッ!」

 一瞬驚いたツカサだったが、すぐに闖入者の正体に気が付くと、憤怒の形相で怒鳴りつけ、同時に掌を大きく打ち合わせる。

光球雷起呪術アサク・サメイブ・ツ――ッ!」
「ぎゃ、ぎゃあああああああ~ッ!」

 振り向きざまにツカサが投げつけた怒りの光球雷起呪術アサク・サメイブ・ツをまともに食らった轟炎将イータツは、情けない悲鳴を上げながらその場でひっくり返った。

「さ、サリア姫……い、いきなり何を……」
「うるせえ! せっかくの爽やかな朝を、オマエの汚いダミ声と騒音で台無しにするんじゃないよ!」
「あ……こ、これは、大変失礼いたしました!」

 ツカサに叱責されたイータツは、電撃でチリチリになった髭面を蒼白にして、慌てて深々と頭を下げる。
 そして、上目遣いでツカサの顔を見上げながら、おずおずと言った。

「で、ですが……そろそろ“儀式”の準備に取り掛かって頂く頃合いで御座いまして……」
「……分かってるよ、そんな事!」

 イータツの言葉を聞いたツカサは、背後の祭壇をチラリと一瞥しながら、不機嫌な声で吐き捨てる。
 そして、そのまま出口の扉へと歩を進めながら、ぞんざいな口調でイータツに尋ねた。

「で……ウチはまず何をすればいいんだいっ?」
「は、ハッ! まずは、沐浴で身を清めて頂き……」

 寝間着姿で出口へ向かうツカサの後を慌てて追いながら、イータツはこれからの予定を伝え始める。
 ツカサは、そんな彼の声を半ば聞き流しながら、呪祭拝堂ナームの鉄扉を乱暴に開け放つ。
 ――と、

「「「「「「「「おはようございます、サリア姫様!」」」」」」」」

 鉄扉の前には、王宮に仕える臣下や侍従、そして魔王国全土から集まった地方領主や魔呪祭院の司祭たちが列をなして控えており、彼女が姿を見せるや、一斉に頭を垂れて蹲った。
 そして、

「あ~ら、陛下ちゃん。おはよ~」

 その数百名にも及ぶ臣下たちの先頭に立ち、へらへらとした顔でプラプラと手を振ったのは、四天王のひとり、癒撥将マッツコーである。

「今日もいいお天気よぉ。絶好のお葬式日和って感じ~!」
「いや……絶好の葬式日和って何だよ」

 マッツコーの能天気な声と表情に、ツカサは辟易しながら白けた目を向けるのだった……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...