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エピソード13 魔王様のいない最終戦
祭壇と肖像画と棺
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「ふわあぁ……」
サリア・ギャレマス――の身体に宿ったツカサは、眠い目を擦りながらむくりと起き上がった。
大きく伸びをしながらぼんやりと周囲を見回した彼女は、自分が寝ていたのがいつも見慣れた自身の寝室ではない事に一瞬戸惑いの表情を浮かべたが、すぐに事情を思い出した。
「そっか。いよいよ今日が……」
――そう。今日こそは、先日非業の崩御を遂げた真誓魔王国国王の魂を死者の世界へ送る“大喪の儀”と、魔王の娘であるサリア・ギャレマスが、彼の跡を継いで新しい魔王に就く“即位の礼”が行われる日である。
「ウチがサリアと入れ替わってから七ヶ月ちょい……ようやく、この日が来たって訳かい……」
そう、感慨深げに呟いたツカサは、寝ていた簡易式の天蓋ベッドからおもむろに立ち上がった。
そして、枕元に置いてあった小さな小箱を手に取ると、四方から垂れ下がったレースのカーテンの一端を持ち上げて外に出る。
簡易式天蓋ベッドが置かれていたのは、魔王城の呪祭拝堂の中央に設けられた、魔王イラ・ギャレマスの魂を弔う巨大な祭壇の横だった。
彼女は“大喪の儀”で定められた決まりに従って、昨日の夕刻から今までの間、イラ・ギャレマスの祭壇の横で夜を通して寄り添い、亡き父親の魂と最後の時間を過ごしたのだ。
「……結局、オヤジが化けて出てくるどころか、気配すら感じる事も無かったねぇ」
そう、どこか寂しげな顔をしながら呟いたツカサは、巨大な祭壇を下から見上げた。
至る所に金象嵌があしらわれた荘厳な祭壇には、色鮮やかな花々と様々な供物で飾り付けられ、その真ん中には、人の背よりも大きな肖像画が掲げられている。
写実的なタッチの肖像画に描かれているのは、黒髪黒髭で、側頭部から天に衝き立つ純白の角を生やした壮年の魔族の男――真誓魔王国国王イラ・ギャレマスの姿だった。
「ふ……」
祭壇の前でギャレマスの肖像画を見上げたツカサは、思わず口元を綻ばせる。
「……薄々思ってたけど、実物よりもだいぶ美化して描いてるよな、コレ」
口を堅く引き結び、鋭い眼光で遥か彼方を見つめている構図のギャレマスの肖像に、彼の娘であるツカサはおかしみを感じてしまう。
「本物のオヤジは、いっつもどこか困ったような顔をしてて、こんなに怖い目つきでも無かったよ。口元ももっと締まりが無かったし……」
そう独り言ちながら、彼女は祭壇の花に埋もれるように安置された細長い棺の蓋にそっと掌を乗せる。
そして、黒檀の棺の蓋を少しだけずらすと、彼女は「それに……」と目を細めた。
「角だって、そこまで立派じゃなかったよ……」
寂しげな目で彼女が見下ろした棺の中には――何も入っていない。
本来、被葬者の骸が入っているはずの虚ろな棺の中を一瞥したツカサは、手に持っていた小箱の蓋を開け、中に納めていたものを取り出した。
――この世に唯一残った、父の遺骸を。
ツカサは、取り出した魔王の角を掲げ上げ、祭壇の肖像画と比べてみせる。
「……ほら。途中で折れてるけど、それを考えても、あの絵の角は実物よりも倍近く長いよ」
まるで誰かに説明するように呟きながら、彼女はフッと苦笑した。
そして、名残惜しげに角を一瞥すると、そっと棺の中に納める。
「……死んだ奴の一部なんて、大事に持ってたってしょうがないからね。――ちょうどいいや。少し嵩が足んないかもしれないけど、この中に捨てて、オヤジの亡骸として葬ってやる事にするよ。……うん、それがいいよね」
そう、どこか自分に言い聞かせるように呟きながら、彼女はずらしていた棺の蓋を元に戻した。
そして、もう一度黒檀の蓋の表面をそっと撫でる。
「……じゃあな、オヤ――」
「サリア姫! 御目覚めでしたかッ!」
入り口の巨大な鉄扉が開く派手な軋み音と野太い男の大音声が、それまで厳かな静寂に包まれていた呪祭拝堂の中に響き渡り、ツカサの声を掻き消した。
「――ッ……って、オマエかよッ!」
一瞬驚いたツカサだったが、すぐに闖入者の正体に気が付くと、憤怒の形相で怒鳴りつけ、同時に掌を大きく打ち合わせる。
「光球雷起呪術――ッ!」
「ぎゃ、ぎゃあああああああ~ッ!」
振り向きざまにツカサが投げつけた怒りの光球雷起呪術をまともに食らった轟炎将イータツは、情けない悲鳴を上げながらその場でひっくり返った。
「さ、サリア姫……い、いきなり何を……」
「うるせえ! せっかくの爽やかな朝を、オマエの汚いダミ声と騒音で台無しにするんじゃないよ!」
「あ……こ、これは、大変失礼いたしました!」
ツカサに叱責されたイータツは、電撃でチリチリになった髭面を蒼白にして、慌てて深々と頭を下げる。
そして、上目遣いでツカサの顔を見上げながら、おずおずと言った。
「で、ですが……そろそろ“儀式”の準備に取り掛かって頂く頃合いで御座いまして……」
「……分かってるよ、そんな事!」
イータツの言葉を聞いたツカサは、背後の祭壇をチラリと一瞥しながら、不機嫌な声で吐き捨てる。
そして、そのまま出口の扉へと歩を進めながら、ぞんざいな口調でイータツに尋ねた。
「で……ウチはまず何をすればいいんだいっ?」
「は、ハッ! まずは、沐浴で身を清めて頂き……」
寝間着姿で出口へ向かうツカサの後を慌てて追いながら、イータツはこれからの予定を伝え始める。
ツカサは、そんな彼の声を半ば聞き流しながら、呪祭拝堂の鉄扉を乱暴に開け放つ。
――と、
「「「「「「「「おはようございます、サリア姫様!」」」」」」」」
鉄扉の前には、王宮に仕える臣下や侍従、そして魔王国全土から集まった地方領主や魔呪祭院の司祭たちが列をなして控えており、彼女が姿を見せるや、一斉に頭を垂れて蹲った。
そして、
「あ~ら、陛下ちゃん。おはよ~」
その数百名にも及ぶ臣下たちの先頭に立ち、へらへらとした顔でプラプラと手を振ったのは、四天王のひとり、癒撥将マッツコーである。
「今日もいいお天気よぉ。絶好のお葬式日和って感じ~!」
「いや……絶好の葬式日和って何だよ」
マッツコーの能天気な声と表情に、ツカサは辟易しながら白けた目を向けるのだった……。
サリア・ギャレマス――の身体に宿ったツカサは、眠い目を擦りながらむくりと起き上がった。
大きく伸びをしながらぼんやりと周囲を見回した彼女は、自分が寝ていたのがいつも見慣れた自身の寝室ではない事に一瞬戸惑いの表情を浮かべたが、すぐに事情を思い出した。
「そっか。いよいよ今日が……」
――そう。今日こそは、先日非業の崩御を遂げた真誓魔王国国王の魂を死者の世界へ送る“大喪の儀”と、魔王の娘であるサリア・ギャレマスが、彼の跡を継いで新しい魔王に就く“即位の礼”が行われる日である。
「ウチがサリアと入れ替わってから七ヶ月ちょい……ようやく、この日が来たって訳かい……」
そう、感慨深げに呟いたツカサは、寝ていた簡易式の天蓋ベッドからおもむろに立ち上がった。
そして、枕元に置いてあった小さな小箱を手に取ると、四方から垂れ下がったレースのカーテンの一端を持ち上げて外に出る。
簡易式天蓋ベッドが置かれていたのは、魔王城の呪祭拝堂の中央に設けられた、魔王イラ・ギャレマスの魂を弔う巨大な祭壇の横だった。
彼女は“大喪の儀”で定められた決まりに従って、昨日の夕刻から今までの間、イラ・ギャレマスの祭壇の横で夜を通して寄り添い、亡き父親の魂と最後の時間を過ごしたのだ。
「……結局、オヤジが化けて出てくるどころか、気配すら感じる事も無かったねぇ」
そう、どこか寂しげな顔をしながら呟いたツカサは、巨大な祭壇を下から見上げた。
至る所に金象嵌があしらわれた荘厳な祭壇には、色鮮やかな花々と様々な供物で飾り付けられ、その真ん中には、人の背よりも大きな肖像画が掲げられている。
写実的なタッチの肖像画に描かれているのは、黒髪黒髭で、側頭部から天に衝き立つ純白の角を生やした壮年の魔族の男――真誓魔王国国王イラ・ギャレマスの姿だった。
「ふ……」
祭壇の前でギャレマスの肖像画を見上げたツカサは、思わず口元を綻ばせる。
「……薄々思ってたけど、実物よりもだいぶ美化して描いてるよな、コレ」
口を堅く引き結び、鋭い眼光で遥か彼方を見つめている構図のギャレマスの肖像に、彼の娘であるツカサはおかしみを感じてしまう。
「本物のオヤジは、いっつもどこか困ったような顔をしてて、こんなに怖い目つきでも無かったよ。口元ももっと締まりが無かったし……」
そう独り言ちながら、彼女は祭壇の花に埋もれるように安置された細長い棺の蓋にそっと掌を乗せる。
そして、黒檀の棺の蓋を少しだけずらすと、彼女は「それに……」と目を細めた。
「角だって、そこまで立派じゃなかったよ……」
寂しげな目で彼女が見下ろした棺の中には――何も入っていない。
本来、被葬者の骸が入っているはずの虚ろな棺の中を一瞥したツカサは、手に持っていた小箱の蓋を開け、中に納めていたものを取り出した。
――この世に唯一残った、父の遺骸を。
ツカサは、取り出した魔王の角を掲げ上げ、祭壇の肖像画と比べてみせる。
「……ほら。途中で折れてるけど、それを考えても、あの絵の角は実物よりも倍近く長いよ」
まるで誰かに説明するように呟きながら、彼女はフッと苦笑した。
そして、名残惜しげに角を一瞥すると、そっと棺の中に納める。
「……死んだ奴の一部なんて、大事に持ってたってしょうがないからね。――ちょうどいいや。少し嵩が足んないかもしれないけど、この中に捨てて、オヤジの亡骸として葬ってやる事にするよ。……うん、それがいいよね」
そう、どこか自分に言い聞かせるように呟きながら、彼女はずらしていた棺の蓋を元に戻した。
そして、もう一度黒檀の蓋の表面をそっと撫でる。
「……じゃあな、オヤ――」
「サリア姫! 御目覚めでしたかッ!」
入り口の巨大な鉄扉が開く派手な軋み音と野太い男の大音声が、それまで厳かな静寂に包まれていた呪祭拝堂の中に響き渡り、ツカサの声を掻き消した。
「――ッ……って、オマエかよッ!」
一瞬驚いたツカサだったが、すぐに闖入者の正体に気が付くと、憤怒の形相で怒鳴りつけ、同時に掌を大きく打ち合わせる。
「光球雷起呪術――ッ!」
「ぎゃ、ぎゃあああああああ~ッ!」
振り向きざまにツカサが投げつけた怒りの光球雷起呪術をまともに食らった轟炎将イータツは、情けない悲鳴を上げながらその場でひっくり返った。
「さ、サリア姫……い、いきなり何を……」
「うるせえ! せっかくの爽やかな朝を、オマエの汚いダミ声と騒音で台無しにするんじゃないよ!」
「あ……こ、これは、大変失礼いたしました!」
ツカサに叱責されたイータツは、電撃でチリチリになった髭面を蒼白にして、慌てて深々と頭を下げる。
そして、上目遣いでツカサの顔を見上げながら、おずおずと言った。
「で、ですが……そろそろ“儀式”の準備に取り掛かって頂く頃合いで御座いまして……」
「……分かってるよ、そんな事!」
イータツの言葉を聞いたツカサは、背後の祭壇をチラリと一瞥しながら、不機嫌な声で吐き捨てる。
そして、そのまま出口の扉へと歩を進めながら、ぞんざいな口調でイータツに尋ねた。
「で……ウチはまず何をすればいいんだいっ?」
「は、ハッ! まずは、沐浴で身を清めて頂き……」
寝間着姿で出口へ向かうツカサの後を慌てて追いながら、イータツはこれからの予定を伝え始める。
ツカサは、そんな彼の声を半ば聞き流しながら、呪祭拝堂の鉄扉を乱暴に開け放つ。
――と、
「「「「「「「「おはようございます、サリア姫様!」」」」」」」」
鉄扉の前には、王宮に仕える臣下や侍従、そして魔王国全土から集まった地方領主や魔呪祭院の司祭たちが列をなして控えており、彼女が姿を見せるや、一斉に頭を垂れて蹲った。
そして、
「あ~ら、陛下ちゃん。おはよ~」
その数百名にも及ぶ臣下たちの先頭に立ち、へらへらとした顔でプラプラと手を振ったのは、四天王のひとり、癒撥将マッツコーである。
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