雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

文字の大きさ
332 / 423
エピソード13 魔王様のいない最終戦

貸しと借りとチャラ

しおりを挟む
 「な……っ!」
「ひぃッ!」

 アルトゥーとエラルティスは、全く気配を感じさせる事無く、いつの間に自分たちの背後に現れた男の姿に驚愕した。
 ボロボロの葬衣を身に纏った男は、イキビト一号サトーシュよりも老年で、豊かな白髯を胸の下まで垂らしている。
 その皺だらけの顔立ちは、やはりイラ・ギャレマスとよく似ており、そんな死体人形ゾンビの顔を見たアルトゥーは、微かに顔を顰める。

「イキビト二号……という事は、この男も元魔王……なのか?」
「うふふ、その通りよぉん」

 呻くように紡がれたアルトゥーの呟きに、マッツコーは不敵な笑みを浮かべながら頷いた。

「彼も、一号ちゃんと同じく、元魔王。――生きてた頃は、“ガシオ・ギャレマス”ちゃんって呼ばれてたわん」
「ガシオ・ギャレマス……“霹靂へきれき王”か……!」

 マッツコーの言葉を聞いたアルトゥーは、思わず声を上ずらせる。

「ちょ、ちょっと! “霹靂王”って、一体何者ですの、ネクラ魔族?」

 そんな彼に、棒立ちのイキビト二号を怯えた目で見つめるエラルティスが、僅かに震える声で問い質した。
 その問いに対し、アルトゥーは、青ざめた顔に冷や汗を浮かべながら答える。

「“霹靂王”は、今から数えて七代前の真誓魔王国の王だ」
「もう少しで、になるけどねん」

 アルトゥーの言葉を、ニヤニヤ笑いを浮かべたマッツコーが遮った。

「ちなみに、二つ名の“霹靂王”は、と~っても強力な雷系呪術の遣い手だった事から名付けられたのん。その雷系呪術の威力は、あの雷王ちゃんイラ・ギャレマスのそれをも凌ぐほどだったとも伝えられているわ。ホントかどうかは知らないけど」
「あ……あのクソ雷王バケモノよりも……?」

 マッツコーの言葉に、エラルティスが青ざめる。一方、“霹靂王”の逸話を知っていたアルトゥーは、苦々しげに顔を顰めた。
 そんなふたりに苦笑を向けたマッツコーは、いたずらっ子のように瞳を輝かせる。

「……ちょうどいいわん。『百聞は一見に如かず』とも言うし。二号ちゃんが本当に雷王ちゃん以上なのか、今ここで試してみるのも面白いわねん。ちょうどここにいいが二匹もいる事だし」
「「……ッ!」」

 マッツコーの酷薄な言葉に、アルトゥーとエラルティスは表情を強張らせた。
 ――と、その時、

「おい、勝手におっ始めようとしてるんじゃないよ」
「「ッ!」」

 不意に上がった女の声に、三人はハッとした表情を浮かべる。
 マッツコーは、苦笑いを浮かべながら、声の主に向かって言った。

「ごめんなさいねぇ、陛下ちゃん。アナタの事をうっかり忘れてたわん。アタシたちの戦いに巻き込まれる前に、早く安全な所に退がっていらっ――」
「何寝ぼけた事を言ってんのさ」

 ツカサは、マッツコーの顔をジロリと睨む。

「逆だよ逆。ウチも混ぜろって言ってんの」

 そう言うと、彼女はニヤリと笑った。

「こんな楽しそうなケンカに、ウチひとりだけが爪弾きにされるなんて真っ平ゴメンだね。そもそも、コイツらがケンカを売って来たのはウチになんだから、ウチが買うのが筋だろうさ」
「ケンカって……どっちかというと、クーデターとか武力革命とか暗殺とかの方が近いと思うけどねぇん」

 ツカサの言葉に、マッツコーは思わず呆れ声を上げる。
 そんな彼の顔をジロリと睨んだツカサは、「それに……」と言葉を継ぎながら、エラルティスへ目を向けた。

「そこで突っ立ってる性悪聖女には、ひとつ大きな貸しがあるからね。キッチリ取り立ててやらないと気が済まないのさ」
「ひいぃっ!」

 ツカサの鋭い眼光に震え上がったエラルティスは、聖杖を体の前に盾のように掲げながら、必死で叫んだ。

「か、勘弁して下さいまし! あ、あの時は、確かにわらわにも行き過ぎた面が小指の爪の先くらいはあったかもしれませんが、もう過ぎた事じゃあありませんかッ! 人間族ヒューマーも魔族も、いつまでも過去に拘っていてはいけませんわよ!」
「ああ、そうだね。だから、過去の貸しは精算できる時に精算して、さっさと先に進めるようにしなきゃいけないよなぁ」
「いやいやいやいや、そうじゃなくってえ!」

 エラルティスは、ツカサの言葉を聞くや、首が千切れんばかりに激しく左右に振る。
 そして、聖礼装姿のツカサに指を突きつけながら、震え声で訴えた。

「っていうか! むしろ貴女はわらわに感謝するべきですのよッ!」
「はぁ? 感謝だって?」
「そうですわよっ!」

 訝しげな表情を浮かべたツカサに向かって、エラルティスは胸を張る。

「わらわが貴女……いえ、あのゆるふわ娘に対魔完滅法術をかけなければ、そもそも貴女の人格が表に出られるチャンスなんて無かったんですのよ! いわば、貴女が貴女ツカサとしてこの場に立っていられるのは、わらわのおかげなのですよ!」
「……い、いや。それはタダの結果論でしかないと思うが……」
「黙らっしゃいッ!」

 呆れ交じりのツッコミを入れたアルトゥーを一喝したエラルティスは、居丈高な態度で話を続けた。

「――であれば、わらわは貴女に借りどころか貸しを作っているとも言えるでしょう! まあ、金一封とまでは言いませんが、あの時の事を水に流して、この場を見逃してくれるくらいの価値はあると思いますわよ! 違いましてっ?」
「まあ……それは確かにそうだね……」

 意外な事に、ツカサはエラルティスの自己中心的な主張に同意を示す。
 その言葉を聞いたエラルティスの表情が、パッと輝いた。

「じゃ、じゃあ……!」
「ああ」

 声を弾ませるエラルティスに、ツカサはコクンと頷く。

「お前の言う通り、ウチがサリアの人格と入れ替われたのは、あのタイマン寒天ホージュツとかいうチンケな技のおかげなのは確かだ。お望み通り、七ヶ月前にお前がサリアにしやがった事に関してはチャラにしてやるよ」
「ですから、“対魔完滅法術”だと言うに……。ま、まあ、それはともかく、分かって頂けたのなら幸いですわ!」

 ツカサの言葉を聞いて、あからさまにホッとした顔をしたエラルティスは、アルトゥーとツカサに向けてヒラヒラと手を振ってみせた。

「では……わらわはこれでお暇いたしますわ。――ネクラ魔族、貴方はせいぜい頑張って戦って嬲り殺されて下さいまし」

 エラルティスは、呆然とするアルトゥーにそう告げてから、

「それでは皆様、ごきげんよう。貴方がた魔族の凶運と不幸を、心の底からお祈り申し上げますわ」

 と言い捨てると、ヒールの音を響かせながら、そそくさと呪祭拝堂ナームの出口に向かって歩き出す。
 ――と、その時、

「――光球雷起呪術アサク・サメイブ・ツ!」
「きゃ、キャアアアア――ッ! な、何をしますのッ!」

 唐突に飛んできた雷球をすんでのところで避けたエラルティスは、狼狽した表情を浮かべながら抗議の声を上げた。
 ツカサは、両掌から発する青白い雷光に照らし出された顔を彼女に向けながら、ゆっくりとかぶりを振ってみせる。

「いつ、誰が帰っていいなんて言ったよ?」
「え? だ、だって……」

 ツカサの問いかけに、エラルティスはキョトンとした表情を浮かべた。

「い、今……七ヶ月前の事をチャラにするって……」
「ああ、確かに言ったね。……でも」

 と、ツカサは、先ほどエラルティスが放った聖鎖で破壊された玉座の残骸を指さすと、ドスを利かせた声で叫ぶ。

「ついさっき、テメエがウチの命を狙って攻撃してきた事に対する貸しはまだ生きてるんだよなぁ、コレが!」

 ◆ ◆ ◆ ◆

 ――一方、
 その頃、ヴェルナ・ドーコ・ロザワの歓楽街の片隅に建つ逢引宿“女神の膝枕亭”の一室では……、

「……Zzz……むにゃ……ふ……ふわぁああ……」

 ――あ、魔王、やっと起きた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜

月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。 ※この作品は、カクヨムでも掲載しています。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

処理中です...