雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

文字の大きさ
341 / 423
エピソード13 魔王様のいない最終戦

老エルフとチート能力と筋肉

しおりを挟む
 「じ……ジジイ……ッ!」

 イータツは、悠然とした足取りで歩を進めるヴァートスの姿を睨みながら、上ずった声を上げる。

「い、一体何をしたのだ、その身体は……ッ?」
「ヒョッヒョッヒョッ!」

 驚愕を隠せぬ様子のイータツを見ながら、愉快げに馬鹿笑いしてみせる老エルフ。
 彼はおもむろにローブの袖を捲り、未だに膨張を続ける腕を曲げて大きな力こぶを拵えながら、得意げに答えた。

「今言うたじゃろ? これはいわゆるひとつの“チート能力”。ワシがこの世界に転生する時、妖精王が詫び料代わりに与えてくれた特殊能力じゃ」
「と、特殊能力……?」
「まあ、お主ら“現地産”の魂の一部が持っている“天啓ギフト”と似たようなモンよ。もっとも、チート能力コイツは神の能力そのものだけあって、“天啓ギフト”よりレア度も威力も上じゃがな。ヒョッヒョッヒョ!」

 そう言って高笑いする間にも、ヴァートスの体はみるみる膨張を続け、イータツに負けず劣らず筋肉質な体つきになっていき、彼のみすぼらしいローブの留めボタンが、胸筋の膨張に耐え切れず、バツンと音を立てて弾け飛ぶ。

「チート能力“濡れ場のクソ力アドレナリン・キッス”はのう、能力者であるワシがえちえちな目に遭うと自分の能力値ステータスが跳ね上がる能力なんじゃ。理力MPはもちろん、見ての通りの筋力STRスピードAGIもな」
「は……? え、えむぴー? えすていあある?」

 ヴァートスの口から出る単語の意味が解らず混乱するイータツ。
 そんな彼の困惑など知らん顔で、ヴァートスは得意げに説明を続ける。

「まあ、そこらへんは妖精王の受け売りで、ワシはステータスを確認する能力なんぞ持っとらんから、具体的な上がり幅とかは分からんのじゃがな。まあ、実際に能力が上がっとるっちゅう事は、今まさに証明したじゃろ」
「ぐ、グムー……」
「更に、能力値の上昇率は、体験のえちえち度が高ければ高い程、より顕著に上がるんじゃ。今ファミィさんにしてもろうた『ほっぺにチュー』程度じゃ、このくらいの上昇にしかならんがのう」
「こ、このくらい……だと?」

 ヴァートスの言葉を聞いたイータツは、顔を引き攣らせながら、上半身と下半身が泣き別れになった状態で床に斃れたイキビト一号と、その向こうの呪祭拝堂ナームの石壁に開いた大穴を見やった。

「い、今の火炎の巨矢は、ワシが全力を以て放つ冥炎沸波呪術ハ・バネーロと同等の威力――! で、では……あのジジイがもっとえちえちな目に遭ったとしたら……」
「ヒョッヒョッ。もしも、えちえち体験が『濃密なでぃーぷきす』じゃったら、お前さんどころか、あのギャレの字相手でも負ける気はせんぞい!」
「な……何と恐ろしく最低で最悪で下品な能力なんだ……」

 愕然とするイータツの顔に機嫌を良くして高笑いするヴァートス。その後ろで思わず呆れ声を上げたのは、取り出したハンカチで丹念に唇を拭っていたファミィである。
 そんな彼女のドン引きっぷりにも気付かぬ様子で、ヴァートスは更に馬鹿笑いした。

「ヒョッヒョッヒョッヒョッ!」

 その拍子に、彼が纏っているローブは、どんどんパンプアップしていく肉体によって延びる限界を超え、ビリビリビリィッ! っと音を立てながら、某世紀末救世主の革ジャンのようにビリビリに裂けてしまった。
 露わになったヴァートスの上半身は、エルフ族の神話に残る“力の精霊・イスケトリヴァ”もかくやという分厚い筋肉で覆われており、とても齢三百を超える老人のものとは思えない。
 と、彼はおもむろに腕を曲げ、大きく盛り上がった力こぶを指さすと、ドヤ顔で高笑いしながら高らかに叫んだ。

「ヒョッヒョッヒョッヒョッ! どうじゃあっ! カッチカチやぞ!」
「……?」
「……これならどうじゃ! ヤ――っ!」
「…………?」

 ヴァートス渾身の筋肉ギャグの連発に、イータツはピクリとも笑わず、ただ訝しげに首を傾げるだけだった。
 ……どうやら、この異世界では、平成日本のお笑いネタは通用しないらしい。
 ネタの不発に一瞬表情を凍りつかせたヴァートスだったが、彼はそれでもめげずに、今度は後ろのファミィに向けて、剥き出しになった上半身を誇示するように、両腕に力こぶを作って胸を張ってみせたり、指を組みながら斜めになって、胸筋を強調しながら足を軽く曲げるポーズを取ったりしてみせる。

「どうじゃどうじゃ、ファミィさん! カッコええじゃろ、ワシ? 惚れてまうやろ~?」
「……いや、普通にキモいんだが」

 だが、ファミィはこれ以上ない“虚無”を感じさせる無表情で、バッサリと首を横に振った。

「確かに、体つきは見違えるように若々しく変わったけど、首から上は全然変わってないんだもの。なんか、生まれてきてはいけなかった悍ましい合成獣キメラみたいで……キモいというか、シンプルに不気味。無理」
「……」

 ファミィの辛辣な評に、それまで浮かれていたヴァートスはスッと真顔に戻る。
 そして、無言のままイータツの方に向き直り、

「えー……ゴホン!」

 と、わざとらしく咳払いをひとつしてから、さっきまでのやり取りが無かったように叫んだ。

「……む、無駄話はここまでじゃあ! さあ、かかってこんかい、大道芸ハゲェ!」
「誰が大道芸だあっ! オヌシの方こそ、火遊びドーピングハゲではないかっ!」

 ヴァートスの挑発にまんまと乗ったイータツが、頭を茹でダコのように真っ赤にしながら怒声を上げ、大戦斧を肩に担ぎ上げる。
 そして、“濡れ場のクソ力アドレナリン・キッス”によってはちきれんばかりの体形になったヴァートスのサルのような顔を憎々しげに睨みつけながら、負けじと全身の筋肉に力を込めた。

「むうううううううんっ!」

 まるで神殿の石柱に絡まるツタのように血管を浮き立たせながら、彼の太い腕の筋肉はますます盛り上がり、それと同時に膨張した胸筋によって、纏う鎧の革紐がミシミシと悲鳴のような音を立てる。
 そして、ヴァートスに負けず劣らずのマッチョな体躯になったイータツが、大きな犬歯を口の端から覗かせながら、まるで地鳴りの如き大音声で叫んだ。

「さぁて、その“ちーとのうりょく”だか何だかで盛りに盛った偽りの体――ワシの筋肉と劫火を以て、元のしわくちゃな干物姿に戻してやるとしようぞっ!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...